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<建物賃貸借契約における賃借物の修繕と賃料>
1 建物賃貸借契約において、目的物件が使用収益を妨げる状態となった場合、賃借人は賃貸人に対し、目的物件が賃貸人により修繕されない限り、賃料を支払わないことができるか。
下記(例)で検討する。
甲:賃貸人、乙:賃借人、目的物件:アパートの一室
賃料:5万円(当月分の家賃は前月末日までに支払う特約付き)
契約締結後の6月1日以後、雨が降る度に、天井から雨漏りがするようになった。甲は修繕しようとしない場合
① 乙が甲に5月31日に6月分の家賃5万円を支払っていたとして、6月分の家賃は減額されるか。
② 乙は、6月末までに、7月分の家賃5万円の支払いを拒絶することはできるか。拒絶した場合、契約を解除されないか。
平成29年改正民法が適用される前提で検討する。
2 目的物件が一部使用することができない程度の場合
判例(最判昭和43年11月21日、最判昭和38年11月28日)の考え方は、次のとおりであると考えられている。
賃借人は、使用することができない程度に応じて賃料の支払いを拒絶することができる。
しかし、全額について支払いを拒絶することは許されない。
賃料は、賃借物が賃借人による使用収益の可能な状態に置かれたことの対価として日々発生する。一部の使用収益が不可能となった場合、賃料は、その一部の割合に応じて発生しない(不発生)。→平成29年改正611条
3 目的物件が全面的に使用することができない程度の場合
判例(大判大正4年12月11日、大判大正10年9月26日)の考え方は、次のとおりであると考えられている。
双務契約の性質上、賃借人は、賃料支払と修繕との同時履行を主張でき、支払いを拒絶できる。賃貸人の解除の主張は無効である。※
※ 大判大正4年12月11日は、賃料支払義務がなくなるとした。大判大正5年5月22日(一部について使用不能)は、賃料の減額を請求できるとした。
4 修繕義務は賃料支払いとの引換給付に適さず、修繕を先履行とし、修繕を先履行とする履行拒絶権であるとする見解もある(平野)。
5 同時履行による支払拒絶の抗弁と賃料不発生との関係
賃料が先払いの場合、賃借人が同時履行の抗弁権を行使しつつ当該賃料に対応する賃貸期間が経過すれば賃料が(一部又は全部)消滅すると考える(石田穣)。
賃貸借契約の債務不履行解除
1 信頼関係法理
賃貸借契約
① 継続的契約
② 賃貸借・賃借人の信頼関係の上に成立する。
→ 契約の債務不履行解除において、信頼関係が破壊されたか、どの程度破壊されたかを軸に考える。
① 債務不履行があっても、解除するには、当事者間の信頼関係の破壊を要する。
② 当事者間の信頼関係の程度が著しい場合は、催告を要することなく、即時に解除することができる。
最判昭和27年4月25日
2 建物賃貸借契約について1か月分賃料の支払いを遅滞すれば、無催告にて契約を解除できる旨の特約条項の効力
最判昭和43年11月21日
本件では、賃借人が建物の使用に不具合があることを理由として、家賃(月額1万5000円)を継続して4か月支払わなかった。
① 賃貸借契約が当事者間の信頼関係を基礎とする継続的債権関係であることに鑑みれば、無催告解除も不合理とは認められないような事情が存在する場合には、無催告での解除権行使を許される旨定めた約定であると解される。
② 賃借人の居住にある程度の支障ないし妨害があったことは否定できないが、使用収益が不能もしくは著しく困難にする程の支障はなかった。
③ 結論として、無催告解除を有効と認めた原審の判断は正当である。
1項 賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。
ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない。(平成29年改正)
2項 賃貸人が賃貸物の保存に必要な行為をしようとするときは、賃借人は、これを拒むことができない。
<賃借人が負う債務についての保証人>
1 問題の所在
① 賃貸人甲・賃借人乙 令和2年1月1日 建物賃貸借契約
② 賃貸人甲・保証人丙 同日 ①契約の乙の債務について保証契約
令和4年1月1日 ①契約更新
その後、乙賃料不払
丙は、更新後の契約から生じた債務(契約更新後の債務)について保証人として責任を負うか。
2 判例(最判平成9年11月13日)
(1)結論
① 契約更新後の債務について保証責任は発生しないとする合意があれば、それに従う。
② ①の合意をうかがわせる特段の事情がない限り、保証人は契約更新後の債務についても保証責任を負う。
③ ②にかかわらず、賃借人が賃料を不払いにしているにもかかわらず、保証人に連絡をしないで、契約を更新した場合等、賃貸人の保証人に対する保証債務履行請求が信義則に反する場合は、保証責任は発生しない。
(2)理由
① 建物賃貸借は、賃借人が望む限り、更新され継続するのが通常である。
② 保証対象の主債務は、定期かつ確定の賃料債務を中心であり、保証人の予期に反しない。
③ ①②より、契約更新後の債務についても保証責任を負うというのが、当事者の通常の合理的意思に合致する。
【参考・参照文献】
このページは、下記文献を参考・参照して作成しました。
□ 平野裕之・債権各論Ⅰ契約法p285(2018年、日本評論社)
□ 能見善久・加藤新太郎編 論点体系判例民法6契約Ⅰ(第3版)375頁、393頁(2019年、第一法規)
□ 石田穣・民法Ⅴ契約法(昭和57年、青林書院)p48
□ 潮見佳男・基本講義債権各論Ⅰ契約法・事務管理・不当利得(第3版)p157(2017年、新世社)