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【使用貸借 総論】
1 使用貸借契約の法的性質
① 無償契約
② 諾成契約
③ 不要式の契約
2 使用貸借の認定
(1)判例は、借り手がする何らの給付・負担を賃料とみることには慎重である傾向(山野目156頁)。
最判昭和41年10月27日(公租公課)
(2)使用貸借法理
最判平成8年12月17日
共同相続人の一人が相続開始前から被相続人の許諾を得て遺産である建物において被相続人と同居してきたときは、特段の事情のない限り、被相続人と右同居の相続人との間において、被相続人が死亡し相続が開始した後も、遺産分割により右建物の所有関係が最終的に確定するまでの間は、引き続き右同居の相続人にこれを無償で使用させる旨の合意があったものと推認されるのであって、被相続人が死亡した場合は、この時から少なくとも遺産分割終了までの間は、被相続人の地位を承継した他の相続人等が貸主となり、右同居の相続人を借主とする右建物の使用貸借契約関係が存続することになるものというべきである。
593条~600条
〇 民法593条(使用貸借)(平成29年改正法)
使用貸借は、当事者の一方がある物を引き渡すことを約し、相手方がその受け取った物について無償で使用及び収益をして契約が終了したときに返還をすることを約することによって、その効力を生ずる。
旧593条
使用貸借は、当事者の一方が無償で使用及び収益をした後に返還をすることを約して相手方からある物を受け取ることによって、その効力を生ずる。
1 要物契約(旧法) → 諾成契約(新法)
(背景)
制定当時における契約観
親族間における情誼・恩恵的関係に基づく取引
現代における契約観
経済的取引の一環
諾成契約とした理由(筒井=松村Q162)
① 旧法
要物契約→確実に目的物を無償で借りたい借主にとって不利益
諾成的使用貸借は認められていた。
② 新法
諾成契約
→ 安易な口約束でも契約が成立するおそれ
→ 贈与の贈与者と同様、使用貸借の貸主についても、原則として、契約の拘束力を緩和し、解除を認める。
2 借主の目的物返還義務を明記
〇 民法593条の2(借用物受取り前の貸主による使用貸借の解除)(平成29年改正法)
貸主は、借主が借用物を受け取るまで、契約の解除をすることができる。ただし、書面による使用貸借については、この限りでない。
1 使用貸借が諾成契約化 → 無償である使用貸借が軽率に行われる → 契約の拘束力を緩和 → 借主による目的物受領前、貸主は解除可
2 書面契約による場合は、上記規律を適用しない。
〇 民法594条(借主による使用及び収益)
1項 借主は、契約又はその目的物の性質によって定まった用法に従い、その物の使用及び収益をしなければならない。
2項 借主は、貸主の承諾を得なければ、第三者に借用物の使用又は収益をさせることができない。
3項 借主が前二項の規定に違反して使用又は収益をしたときは、貸主は、契約の解除をすることができる。
【使用貸借の権利・義務】
1 貸主の義務
借主の使用収益を認容する義務
2 借主の義務
(1)用法遵守義務等
① 用法遵守義務 594条1項
② 第三者に借用物の使用収益 貸主の承諾要
594条2項
③ 貸主の解除権 594条3項
(2)返還義務
〇 民法595条(借用物の費用の負担)
1項 借主は、借用物の通常の必要費を負担する。
2項 第五百八十三条第二項の規定は、前項の通常の必要費以外の費用について準用する。
〇 民法596条(貸主の引渡義務等)(平成29年改正法)
第551条の規定は、使用貸借について準用する。
1 使用貸借の担保責任
① 旧法
同じ無償契約である贈与契約の贈与者の担保責任に関する規定(旧551条)を準用 → 使用貸借の貸主は原則として責任を負わない。
② 新法
贈与契約の規定の準用という形式は不変
BUT
贈与者の担保責任規定が改正
使用貸借の貸主は、種類・品質・数量に関して契約内容に適合した目的物を引き渡す債務を負う。
+ 無償契約 → 貸主の責任を軽減
→ 使用貸借の目的として特定した時の状態で目的物を引き渡すことを合意していたと推定
→ 当事者間でこれと異なる合意等がされていることが立証されない限り、貸主は、上記特定した時の状態で目的物を引き渡せば足りる。
(筒井=松村Q163)
〇 民法597条(期間満了等による使用貸借の終了)(平成29年改正法)
1項 当事者が使用貸借の期間を定めたときは、使用貸借は、その期間が満了することによって終了する。
2項 当事者が使用貸借の期間を定めなかった場合において、使用及び収益の目的を定めたときは、使用貸借は、借主がその目的に従い使用及び収益を終えることによって終了する。
3項 使用貸借は、借主の死亡によって終了する。
旧597条(借用物の返還の時期)
1項 借主は、契約に定めた時期に、借用物の返還をしなければならない。
2項 当事者が返還の時期を定めなかったときは、借主は、契約に定めた目的に従い使用及び収益を終わった時に、返還をしなければならない。
ただし、その使用及び収益を終わる前であっても、使用及び収益をするのに足りる期間を経過したときは、貸主は、直ちに返還を請求することができる。
3項 当事者が返還の時期並びに使用及び収益の目的を定めなかったときは、貸主は、いつでも返還を請求することができる。
旧599条(借主の死亡による使用貸借の終了)
使用貸借は、借主の死亡によって、その効力を失う。
1 平成29年改正法(筒井=松村Q164)
(1)概念の整理1
契約の終了原因 → 契約の終了 → 借主の貸主への目的物の返還
しかし、旧法の規定は、この点に関して明確ではない規定であった。そこで、新法は、上記理論に基づいて、明文化した。「再構成」といわれる。
(2)概念の整理2
① 事由発生により当然に契約が終了するもの
新597条
② 事由の発生+当事者の意思表示
「解除」と位置づけ、新598条
2 契約の終了原因
(1)契約期間の満了(1項)
(2)期間定めなし + 使用収益目的の定め(2項)
目的に従い使用収益の終了
(3)借主の死亡(2項)
(4)契約の解除(新598条)
〇 民法598条(使用貸借の解除)(平成29年改正法)
1項 貸主は、前条第二項に規定する場合において、同項の目的に従い借主が使用及び収益をするのに足りる期間を経過したときは、契約の解除をすることができる。
2項 当事者が使用貸借の期間並びに使用及び収益の目的を定めなかったときは、貸主は、いつでも契約の解除をすることができる。
3項 借主は、いつでも契約の解除をすることができる。
(1)1項
期間定めなし + 使用収益目的の定め
目的に従い使用収益終了せず
BUT
使用収益するに足りる期間の経過
→旧法の規律を実質的に維持した上、貸主に解除権を付与
(2)2項
期間定めなし + 使用収益目的の定めなし
→旧法の規律を実質的に維持した上、貸主に解除権(いつでも可)を付与
(3)3項
借主の解除権(旧法下の解釈)を明文化した。
(筒井=松村Q164(306頁))
〇 民法599条(借主による収去等)(平成29年改正法)
1項 借主は、借用物を受け取った後にこれに附属させた物がある場合において、使用貸借が終了したときは、その附属させた物を収去する義務を負う。ただし、借用物から分離することができない物又は分離するのに過分の費用を要する物については、この限りでない。
2項 借主は、借用物を受け取った後にこれに附属させた物を収去することができる。
3項 借主は、借用物を受け取った後にこれに生じた損傷がある場合において、使用貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が借主の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
使用貸借終了時における借主の原状回復と附属物の収去について、旧法は借主の収去権を規定していたが、借主の収去義務を規定しておらず、また、原状回復義務の範囲・限界について規定していなかった。新法は、これらを整備した。
1項及び2項は、賃貸借契約に準用されている(新622条)。
1 収去義務(本条1項)
① 本文
旧法下の解釈を明文化した。
貸主の借主に対する行為請求権(山野目161頁)
② ただし書き
履行不能の場合
③ 第三者が附属させた物
解釈に委ねられる。筒井=松村308頁注1
④ 借主が附属させた物が付合により貸主の所有に属するに至った場合 借主は収去義務を負う(解釈)。筒井=松村308頁注2
2 収去権(本条2項)
借主が貸主に対する認容請求権、収去に要する費用は借主が負担する(山野目161頁)。
3 原状回復義務(本条3項)
賃貸借契約と異なり、「通常損耗」及び「経年変化」を除外していない。
賃貸借契約が通常損耗及び経年変化を原状回復義務の範囲外とするデフォルトルールを置いている(新法621条かっこ書)のは、通常損耗及び経年変化による目的物の減価は賃料によりカバーされる問題であるところ、使用貸借契約には、これが当てはまらないこと、使用貸借は多種多様で、何がデフォルトルールとすべきか確定できないことを理由とする。
本項ただし書 旧法下の解釈により、借主に帰責事由がない場合は借主は原状回復義務を負わないと解されていたが、新法は、これを明文化した(本項ただし書)
具体的には、個別の使用貸借の趣旨、個別の事案に即して、判断される(筒井=松村308頁注5)。
(筒井=松村Q165)
〇 民法600条(損害賠償及び費用の償還の請求権についての期間の制限)(平成29年改正法)
1項 契約の本旨に反する使用又は収益によって生じた損害の賠償及び借主が支出した費用の償還は、貸主が返還を受けた時から一年以内に請求しなければならない。
2項 前項の損害賠償の請求権については、貸主が返還を受けた時から一年を経過するまでの間は、時効は、完成しない。
1 旧法
新法600条1項と同じ。
2 新法
旧法の規律によると、使用貸借期間が長期に亘る場合、貸主の借主に対する損害賠償請求権が契約期間中に消滅時効期間が経過する場合があり得るが、契約期間内は目的物は借主が占有しているため賃貸人は損害について気が付かない場合も多い。
借主が用法違反した時から10年(旧法167条1項)以上経過しても使用貸借が存続する場合、貸主が目的物の状況を把握することができないうちに消滅時効が完成してしまう。
→ 目的物返還から1年間は、消滅時効は完成しないとする時効完成猶予の規定を設けた。
3 本条は、賃貸借契約に準用される(新622条)。
筒井=松村Q166
【参考・参照文献】
このページは、下記文献を参考・参照して作成しました。第□ 筒井健夫・村松秀樹 一問一答 民法(債権関係)改正(2018年、商事法務)301頁
□ 東京弁護士会司法制度調査委員会編・新旧対照でわかる改正債権法の逐条解説(平成29年、新日本法規)頁
□ 日本弁護士連合会編・実務解説改正債権法(第2版)(2020年、弘文堂)頁
□ 大阪弁護士会民法改正問題特別委員会編 実務家のための逐条解説新債権法(2021年、有斐閣)574頁
□ 潮見佳男 基本講義債権各論Ⅰ 契約法・事務管理・不当利得第4版(2022年、新世社)頁
□ 中田裕康 契約法新版(2021年、有斐閣)頁
□ 近江幸治 民法講義Ⅴ契約法(第4版)(2022年、成文堂)172頁
□ 山野目章夫 民法概論4債権各論(2020年、有斐閣)155頁