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平成29年改正法は、施行日以後に締結された売買契約及びこれに付随する特約について適用される。施行日前に締結された売買契約及びこれに付随する特約については、なお従前の例による(改正前の法が適用される)。附則34条1項
〇 民法第555条(売買)
売買は、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。
<売買契約当事者の義務>
1 売主の義務
(1)財産権移転義務
① 財産権=権利
契約内容に適合した権利を供与すべき義務
他人の権利の売買における売主の義務(民法561条)は、かかる義務を前提としている。
② 財産権=物の所有権
物の「種類」「品質」「数量」に関して契約内容に適合した物を引き渡すべき義務
買主の追完請求権(民法562条)、債務不履行の規定が準用されること(民法564条)は、かかる義務を前提としている。
(2)買主に対抗要件を具備させる義務(民法560条)
(3)担保責任
(4)その他
2 買主の義務
(1)代金支払義務
(2)その他
<財産権移転義務>
1 財産権移転義務の意義
売主は、買主が売買契約の目的である財産権の新たな完全な権利者になるようにする義務を負う。
→ 以下の2~5に分けて考えることができる。
2 権利を移転する義務
① 特定物の売買
ⅰ 売買契約があれば、それとは別の物権移転行為がなくても、その所有権が移転する(物権行為独自性否定)。
ⅱ ⅰにかかわらず、権利移転時期について特約があれば、それに従う。
ⅲ 売買の目的となる権利に従たる権利があれば、その権利も移転しなければならない。
(例)借地上の建物の売買 敷地権の借地権の譲渡も伴う。(最判昭和47年3月9日)
② 不特定物の売買
ⅰ 特定に必要な行為 401条2項 → 権利移転
ⅱ 調達する義務
③ 他人に属する権利の売買
売主権利を取得して、買主に移転する義務 561条
これができない場合 売主は買主に対し、債務履行責任を負う。415条、541条、542条
3 権利の移転に必要な行為をする義務
4 対抗要件を具備させる義務
5 引渡しをする義務
〇 民法第556条(売買の一方の予約)
1項 売買の一方の予約は、相手方が売買を完結する意思を表示した時から、売買の効力を生ずる。
2項 前項の意思表示について期間を定めなかったときは、予約者は、相手方に対し、相当の期間を定めて、その期間内に売買を完結するかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。
この場合において、相手方がその期間内に確答をしないときは、売買の予約は、その効力を失う。
〇 民法557条(手付)(平成29年改正)
1項 買主が売主に手付を交付したときは、買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を現実に提供して、契約の解除をすることができる。
ただし、その相手方が契約の履行に着手した後は、この限りでない。
2項 第545条第4項(解除権の行使は、損害賠償の請求を妨げない。)の規定は、前項の場合には、適用しない。
旧557条(手付)
1項 買主が売主に手付を交付したときは、当事者の一方が契約の履行に着手するまでは、買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を償還して、契約の解除をすることができる。
2項 第545条第3項(解除権の行使は、損害賠償の請求を妨げない。)の規定は、前項の場合には、適用しない。
1 新法は、旧法における判例法理を条文化したものである。
2 履行着手後の解除制限=履行に着手した者を保護
→ 相手方が履行に着手した場合
3 売主の解除権行使
償還まで不要で、倍額の現実の提供で足りる。
4 「履行に着手」についての立証責任の明確化(1項ただし書)
手付解除の有効性を争う者が、自己が履行に着手していることの立証責任を負う。
〇 民法558条(売買契約に関する費用)
売買契約に関する費用は、当事者双方が等しい割合で負担する。
〇 民法559条(有償契約への準用)
この節の規定は、売買以外の有償契約について準用する。
ただし、その有償契約の性質がこれを許されないときは、この限りでない。
〇 民法560条(権利移転の対抗要件に係る売主の義務)(平成29年改正により実質的新設)
売主は、買主に対し、登記、登録その他の売買の目的である権利の移転について対抗要件を備えさせる義務を負う。
〇 第561条(他人の権利の売買における売主の義務)
他人の権利(権利の一部が他人に属する場合におけるその権利の一部を含む。)を売買の目的としたときは、売主は、その権利を取得して買主に移転する義務を負う。
旧560条(他人の権利の売買における売主の義務)
他人の権利を売買の目的としたときは、売主は、その権利を取得して買主に移転する義務を負う。
旧561条(他人の権利の売買における売主の担保責任)
前条の場合において、売主がその売却した権利を取得して買主に移転することができないときは、買主は、契約の解除をすることができる。
この場合において、契約の時においてその権利が売主に属しないことを知っていたときは、損害賠償の請求をすることができない。
旧562条(他人の権利の売買における善意の売主の解除権)(平成29年改正により削除)
1項 売主が契約の時においてその売却した権利が自己に属しないことを知らなかった場合において、その権利を取得して買主に移転することができないときは、売主は、損害を賠償して、契約の解除をすることができる。
2項 前項の場合において、買主が契約の時においてその買い受けた権利が売主に属しないことを知っていたときは、売主は、買主に対し、単にその売却した権利を移転することができない旨を通知して、契約の解除をすることができる。
旧563条(権利の一部が他人に属する場合における売主の担保責任)
1項 売買の目的である権利の一部が他人に属することにより、売主がこれを買主に移転することができないときは、買主は、その不足する部分の割合に応じて代金の減額を請求することができる。
2項 前項の場合において、残存する部分のみであれば買主がこれを買い受けなかったときは、善意の買主は、契約の解除をすることができる。
3項 代金の減額の請求又は契約の解除は、善意の買主が損害賠償の請求をすることを妨げない。
1 新560条
売主が買主に対し、特段の合意がない限り、対抗要件(登記、登録等)を備えさせる義務を負うことを明記した。
2 新561条
旧560条+旧563条
契約責任説の立場から、上記条項を統合して、再構成した。
旧563条→一部他人物売買についても、売主は買主に対し権利移転義務を負う。
<売買・担保責任規定の位置づけ>
第1 旧法
一般の債務不履行規定とは独立して設けられ、場合毎に条項が設けられていた。
1 権利に関する担保責任
2 物に関する担保責任
570条:売主の瑕疵担保責任
第2 新法(平成29年改正法)
契約責任説の立場から、
① 解除・損害賠償請求については一般の債務不履行の規定が適用され、売買において、担保責任という位置づけで、追完請求権・代金減額請求権が設けられた。
② 「瑕疵」→「契約不適合」
第3 担保責任の体系
1 売主の義務
① 契約の内容に適合した権利を買主に移転する義務
契約の内容:他人の地上権、抵当権その他の権利の設定の有無を含む。
② 売買の目的が物であるときは
種類・品質・数量に関して、契約の内容に適合するものを買主に引き渡す義務
③ 他人の権利(権利の一部が他人に属する場合における当該権利の一部を含む。)を売買の目的としたときは
その権利を取得して買主に移転する義務
①②は、当該義務が正面から明記することまでされなかった。
2 引き渡した物又は移転した権利が契約の内容に適合していなかった場合、売主が買主に対し負う義務が完全には履行されていない「不完全履行」の状態である。
→ 担保責任は、債務不履行責任である。
3 民法の規定ぶり
(1)民法562条~564条
目的物の契約不適合について規定する。
① 買主の追完請求権 562条
② 買主の代金減額請求権 563条
③ 買主の損害賠償請求、解除 564条
(2)民法565条
(1)を権利の契約不適合に準用する。
4 「担保責任」の概念及び文言の要否
[A]説(潮見)
担保責任は、債務不履行責任に一元化されたため、「担保責任」というカテゴリーは特別の意味をもたなくなった。
[B]説(文献⑤300頁)
担保責任の規定は、各種の典型契約の性質に応じて、紛争が生じやすい類型の債務不履行について、その時代・社会の取引状況に適合したデフォルト・ルールを設定する意味がある。
(中田299頁)
〇 民法562条(買主の追完請求権)(平成29年改正により新設)
1項 引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。
ただし、売主は、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による
履行の追完をすることができる。
2項 前項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、
買主は、同項の規定による履行の追完を請求することができない。
1 新法(平成29年改正法)の考え方
① 売主には、物の種類・品質・数量について契約内容に適合した物を引き渡す義務があり、契約内容不適合物の引渡しは売主の債務不履行となり、売主は債務不履行責任を負う。この契約責任説が理論的前提である。
② 特定物売買において、性質は契約の内容にならないという特定物のドグマを否定した。
→ 契約内容不適合物の引渡し=不完全履行
→ 債権者が債務者に対し、履行請求権としての追完請求権を有する。
2 追完の方法 次の3種類
① 目的物の修補 ② 代替物の引渡し ③ 不足分の引渡し
3 追完の方法の選択
(1)原則 買主が選択する。
(2)例外
562条1項ただし書きの場合 売主が選択する。
4 買主が保護されない場合
562条2項
買主に契約内容不適合について帰責事由がある場合、買主を保護しない趣旨
5 「種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しない」(562条1項)
旧570条(瑕疵担保責任)と旧565条(数量不足・原始的一部滅失)の適用範囲をカバーしようとするもの。
6 「隠れた」(旧570条)であることを要しない。(中田302頁)
7 種類・品質の不適合(中田302頁)
「種類」:共通の特徴をもつものの分類
「品質」:種類のなかで、品質の良否がある。
品質には、性能も含まれる。(例)零下20度の冷却能力をもつ冷蔵庫の売買で、引き渡された冷蔵庫は零度10度までしか冷えない場合
〇 民法563条(買主の代金減額請求権)(平成29年改正により新設)
1項 前条(買主の追完請求権)第1項本文に規定する場合(引き渡された目的物が種類・品質・数量に関して契約の内容に適合しないものであるとき)において、買主が相当の期間を定めて履行の追完の催告をし、その期間内に履行の追完がないときは、買主は、その不適合の程度に応じて 代金の減額を請求することができる。
2項 前項の規定にかかわらず、次に掲げる場合には、買主は、同項の催告をすることなく、直ちに代金の減額を請求することができる。
1号 履行の追完が不能であるとき。
2号 売主が履行の追完を拒絶する意思を明確に表示したとき。
3号 契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、売主が履行の追完をしないでその時期を経過したとき。
4号 前三号に掲げる場合のほか、買主が前項の催告をしても履行の追完を受ける見込みがないことが明らかであるとき。
3項 第1項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、前二項の規定による代金の減額の請求をすることができない。
【改正前の法】
○ 563条 一部他人物売買についての担保責任
○ 565条 数量指示売買についての担保責任
【解説】
1 売主の担保責任について契約責任説の採用
2 担保責任としての代金減額請求権を、旧法(○ 563条 一部他人物売買についての担保責任 ○ 565条 数量指示売買についての担保責任)よりも拡大し、契約内容不適合である場合一般について認め、もって、売買契約における対価的均衡を維持し、買主を保護する。
3 有償契約一般に準用される(559条)。
4 形成権であることは、旧法も新法も同じ。
5 実質的には、契約の一部(契約不適合部分)の解除に等しい。
したがって、
① 売主の帰責事由の有無を問わない。
② 原則として、催告が必要-例外:2項の場合
③ 買主に帰責事由がある場合は認められない(3項)。
〇 民法564条(買主の損害賠償請求及び解除権の行使)
前二条の規定(買主の追完請求権、買主の代金減額請求権)は、
第415条の規定(債務不履行による損害賠償)による損害賠償の請求
並びに第541条(催告による解除)及び第542条(催告によらない解除)の規定による解除権の行使を妨げない。
〇 民法573条(代金の支払期限)
売買の目的物の引渡しについて期限があるときは、代金の支払についても同一の期限を付したものと推定する。
〇 民法574条(代金の支払場所)
売買の目的物の引渡しと同時に代金を支払うべきときは、その引渡しの場所において支払わなければならない。
1 任意規定である。
2 売買目的物の引渡しと代金の支払いが同時にされるべきでない場合の規律は、民法484条(任意規定)による。
〇 民法575条(果実の帰属及び代金の利息の支払)
1項 まだ引き渡されていない売買の目的物が果実を生じたときは、その果実は、売主に帰属する。
2項 買主は、引渡しの日から、代金の利息を支払う義務を負う。ただし、代金の支払について期限があるときは、その期限が到来するまでは、利息を支払うことを要しない。
1 任意規定である。
2 立法趣旨
①=<対価的均衡>=② を前提として、売主・買主間の果実・利息についての清算を簡易にする。
① 売主側「引渡しまでに目的物に生じた果実」
② 買主側「引渡しを受けるまでの代金の利息」
3 判例
① 売主が目的物の引渡しを遅滞している間の処理
売主は、引渡しまで、目的物に生じた果実を収取し得る。/買主は、引渡しを受けるまで、代金の利息を支払う必要がない。
(大連判大正13年9月24日)
② 売主が、買主から代金の支払いを受けた後、
引渡し前であっても、目的物から生じる果実を保持できない。
(大判昭和7年3月3日)
〇 民法576条(権利を取得することができない等のおそれがある場合の買主による代金の支払の拒絶)
売買の目的について権利を主張する者があることその他の事由により、買主がその買い受けた権利の全部若しくは一部を取得することができず、又は失うおそれがあるときは、買主は、その危険の程度に応じて、代金の全部又は一部の支払を拒むことができる。
ただし、売主が相当の担保を供したときは、この限りでない。
1 「その他の事由」
(例)目的物について用益権があると主張する第三者がいる場合
〇 民法577条(抵当権等の登記がある場合の買主による代金の支払の拒絶)
1項 買い受けた不動産について契約の内容に適合しない抵当権の登記があるときは、買主は、抵当権消滅請求の手続が終わるまで、その代金の支払を拒むことができる。この場合において、売主は、買主に対し、遅滞なく抵当権消滅請求をすべき旨を請求することができる。
2項 前項の規定は、買い受けた不動産について契約の内容に適合しない先取特権又は質権の登記がある場合について準用する。
1 抵当権消滅請求 → 民法379条~386条
〇 民法578条(売主による代金の供託の請求)
前二条の場合においては、売主は、買主に対して代金の供託を請求することができる。
【参考・参照文献】
このページは、下記文献を参考・参照して作成しました。
□① 第一東京弁護士会司法制度調査委員会編・新旧対照でわかる改正債権法の逐条解説(平成29年、新日本法規)267頁
□② 日本弁護士連合会編・実務解説改正債権法(第2版)(2020年、弘文堂)頁
□③ 潮見佳男 基本講義債権各論Ⅰ契約法・事務管理・不当利得(第3版)(2017年、新世社)83頁
□④ 大阪弁護士会民法改正問題特別委員会編 実務家のための逐条解説新債権法(2021年、有斐閣)485頁
□⑤ 中田裕康 契約法新版(2021年、有斐閣)287頁