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債権法改正 弁済(その1)のページ

民法第3編 債権
第1章 総則
第6節 債権の消滅
第1款 弁済

       第1目 総則(473条~493条)

〇 民法473条(弁済)(平成29年改正により新設)

   債務者が債権者に対して債務の弁済をしたときは、その債権は、消滅する。

 弁済により、債権(債務者からすると債務)が消滅するという基本的効果を明記した。

〇 民法474条(第三者の弁済)

 1項 債務の弁済は、第三者もすることができる。

2項 弁済をするについて正当な利益を有する者でない第三者は、債務者の意思に反して弁済をすることができない。

 ただし、債務者の意思に反することを債権者が知らなかったときは、この限りでない。

3項 前項に規定する第三者は、債権者の意思に反して弁済をすることができない。

 ただし、その第三者が債務者の委託を受けて弁済をする場合において、そのことを債権者が知っていたときは、この限りでない。

4項 前三項の規定は、その債務の性質が第三者の弁済を許さないとき、又は当事者が第三者の弁済を禁止し、若しくは制限する旨の意思表示をしたときは、適用しない。

旧474条

1項 債務の弁済は、第三者もすることができる。

 ただし、その性質がこれを許さないとき、又は当事者が反対の意思を表示したときは、この限りでない。

2項 利害関係を有しない第三者は、債務者の意思に反して弁済をすることができない。

1 第三者弁済の有効又は無効

(1)新法1項

 旧法1項本文と同様、債務の弁済は第三者もできるのを原則とする。

(2)新法2項本文

  債務者の意思に反してでも第三者弁済できる者の範囲

「利害関係」→「正当な利益」

 文言を、当然代位できる第三者の範囲を定める基準である「正当な利益」に合わせた。

(3)新法2項ただし書

① 第三者弁済した者が弁済について正当な利益を有しない。

② 弁済が債務者の意思に反する 

→ 弁済=無効

BUT

 債権者が②を知らない場合

→ 債権者保護の要請

→ 弁済=有効

(4)まとめ(大弁会327頁)

① 正当な利益を有する第三者の弁済 有効

② 正当な利益を有しない第三者の弁済

ⅰ 債務者の意思に反しない 有効

ⅱ 債務者の意思に反する

a 債務者が債務者の意思を知らなかった 有効

 b 債務者が債務者の意思を知っていた 無効

2 債務者の受領拒絶権(新法3項)

 弁済について「正当な利益」(旧法:「利害関係」)を有しない第三者による弁済は、たとえ債務者の意思に反しない場合であっても、債権者は第三者弁済を拒否できる。

 ただし、第三者が債務者の委託を受けて弁済することを債権者が知っていた場合は、拒否できない。

 

 改正前、債権者は、債務者の意思を確認できない状況下で第三者弁済の受領を強いられる状況であったが、このことは、債権者が債権証書や担保を弁済者に交付した後、弁済が無効であることが判明する場合、そのリスクを債権者に負わせるものであったた。これへの対処である。

 

 反社会的勢力に属する第三者が弁済しようとしたときに、弁済を拒絶できるようにして欲しいとの経済界からの要請に応えるものである。内田貴・改正民法のはなし(2020年、一般財団法人民事法務研究会)115頁

 

 正当な利益を有しない第三者の弁済について、債務者の意思に反していなければ、債権者は受領を拒絶できないとすると、債務者の意思に反するか否かを債権者が判断しなければならなくなり、債権者にとって酷である(道垣内弘人 リーガルベイシス民法入門(第4版)247頁)。

 

3 第三者弁済が許されない場合(新法4項)

 そもそも第三者弁済が許されない債権

① 債務の性質が許さないとき

  旧法と同じ。(例)画家の絵画を作成する債務

② 当事者が禁止し若しくは制限する旨の意思表示をしたとき

  改正前の法の規定を具体化した。

4 弁済について正当な利益を有する者は、債務者及び債権者の意思に反してでも弁済できる。

5 弁済についての正当の利益

 法律上の利害関係(旧法)をいう。

① 弁済をしないと債権者から執行を受ける地位にある。○

② 弁済をしないと債務者に対する自分の権利が価値を失う地位にある。○

③ 債務者と単に親族関係・友人関係であること。×

【参考・参照文献】

① 丸山絵美子 ケースで考える債権法改正第22回弁済による代位 法学教室484号77頁

② 近江幸治・民法講義Ⅳ債権総論(第4版)(2020年、成文堂)258頁

〇 民法475条(弁済として引き渡した物の取戻し) 

 弁済をした者が弁済として他人の物を引き渡したときは、その弁済をした者は、更に有効な弁済をしなければ、その物を取り戻すことができない。

旧476条(平成29年改正により削除) 

 譲渡につき行為能力の制限を受けた所有者が弁済として物の引渡しをした場合において、その弁済を取り消したときは、その所有者は、更に有効な弁済をしなければ、その物を取り戻すことができない。

改正前

 弁済=事実行為、旧476条は代物弁済に限定

 

改正法(新482条)

 代物弁済 諾成契約

=代物弁済の合意 + 合意に基づく目的物の給付

→ 給付=事実行為

→ 旧476条が代物弁済に適用されることはなくなくる。

→ 削除

〇 民法476条(弁済として引き渡した物の消費又は譲渡がされた場合の弁済の効力等)(平成29年改正) 

 前条の場合において、債権者が弁済として受領した物を善意で消費し、又は譲り渡したときは、その弁済は、有効とする。

 この場合において、債権者が第三者から賠償の請求を受けたときは、弁済した者に対して求償をすることを妨げない。

旧477条(弁済として引き渡した物の消費又は譲渡がされた場合の弁済の効力等)

 前二条の場合において、債権者が弁済として受領した物を善意で消費し、又は譲り渡したときは、その弁済は、有効とする。

 この場合において、債権者が第三者から賠償の請求を受けたときは、弁済した者に対して求償をすることを妨げない。

〇 民法477条(預金又は貯金の口座に対する払込みによる弁済)(平成29年改正により新設)

 債権者の預金又は貯金の口座に対する振込みによってする弁済は、債権者がその預金又は貯金に係る債権の債務者に対してその払込みに係る金額の払戻しを請求する権利を取得した時に、その効力を生ずる。

1 弁済方法として振込みの方法による弁済がなされることが多いが、改正前の法では明文規定を欠いていたので、改正法による明文規定を設けた。

2 改正法は、振込みの方法による弁済について、弁済の効力が生ずる時期を定めた。

〇 民法478条(受領権者としての外観を有する者に対する弁済)(平成29年改正)

 受領権者(債権者及び法令の規定又は当事者の意思表示によって弁済を受領する権限を付与された第三者をいう。以下同じ。)以外の者であって取引上の社会通念に照らして受領権者としての外観を有するものに対してした弁済は、その弁済をした者が善意であり、かつ、過失がなかったときに限り、その効力を有する。

 

旧478条(債権の準占有者に対する弁済)

 債権の準占有者に対してした弁済は、その弁済をした者が善意であり、かつ過失がなかったときに限り、その効力を有する。

旧480条(受取証書の持参人に対する弁済)(平成29年改正により削除)

 受取証書の持参人は、弁済を受領する権限があるものとみなす。

 ただし、弁済をした者がその権限がないことを知っていたとき、又は過失によって知らなかったときは、この限りでない。

【平成29年改正】

(文献②316頁)

1 権利外観法理から改正前の法を統一するため、整備した。

① 債権者の代理人と称する者は、文言上は債権の準占有者(字義通りに解すると、「自らを債権者であると称する第三者」となる。)に含まれないが、判例はこれを含めていた(最判昭和37年8月21日)。

② 受取証書の持参人に対する弁済

  真正証書→改正前の法480条の適用問題

  偽造証書→改正前の法478条の適用問題

2 「債権者の準占有者」(旧法)→受領権者(新法)

ⅰ 受領権者の意義

 債権者及び法令の規定又は当事者の意思表示によって弁済を受領する権限を付与された第三者をいう。

ⅱ 外観 権利外観法理を採用したもの

ⅲ 判断基準

 取引上の社会通念に照らして

ⅳ 弁済者の主観的要件

  善意・無過失

3 民法480条は削除

【論点など】

(文献③356頁)

1 制度趣旨

 弁済の場面は、通常の取引と異なり、次のような特殊性があり、このため、弁済者保護が要請される。

・ 弁済=義務、簡易迅速さが求められる。

2 弁済者の保護が問題となる場面(文献③359頁)

① 債権者の帰属に関して、弁済者に誤認がある場合

(債権譲渡が無効である等の場合)

 A→<債権譲渡>→B が無効であるが、弁済者において、

これを有効と考えて、債権者をBと誤認した場合

② 債権の受領権限に関して、弁済者に誤認がある場合

(詐称代理人等の事例)

 Bは、AのBに対する弁済受領の委任状を偽造したが、弁済者において、これを偽造と見抜くことができず、Bに弁済受領権限があると誤認した場合

③ 債権者の同一性に関して、弁済者に誤認がある場合 

(詐称債権者等の事例)

 Bは、A(真の債権者)の運転免許証を偽造したが、弁済者において、これを偽造と見抜くことができず、Bを「A」と誤認した場合

 

3 外観作出について、(権利を喪失する)債権者の帰責事由の要否

 判例通説の考え方

(結論)不要

(理由)

① 文言にない。

② 全く考慮しないのではなく、弁済者の注意義務の程度を債権者の帰責事由の有無・程度に応じて操作し、無過失の認定に影響を及ぼすことはあり得る。

 

3 金融機関の注意義務

(1)印鑑の照合

   (東京高判平成12年11月9日等)

① 特段の事情がない限り、預貯金通帳が提出され、払戻請求書に届出印鑑が捺印されておれば、払戻しに応じることになる。

② 特段の事情がない限り、折り重ねによる商号や拡大鏡等による照合は不要であり、肉眼による平面照合で足りる。

② 銀行の照合事務担当者が社会通念上一般に期待される相当の注意を尽くしているか否か。かかる義務を尽くしていたならば、肉眼をもって発見できるような印鑑の相違が看過された場合は、銀行に過失責任がある。

(2)特段の事情がある場合、来店した者と預貯金の口座名義人が同一であるか否か等確認する義務がある。

(3)ATMの場合

 

   

  

 

〇 民法482条(代物弁済)(平成29年改正)

 弁済をすることができる者(以下「弁済者」という。)が、債権者との間で、債務者の負担した給付に代えて他の給付をすることにより債務を消滅させる旨の契約をした場合において、その弁済者が当該他の給付をしたときは、その弁済は、弁済と同一の効力を有する。

旧482条(代物弁済)

 債務者が、債権者の承諾を得て、その負担をした給付に代えて他の給付をしたときは、その給付は、弁済と同一の効力を有する。

1 代物弁済の意義

 本旨弁済に代えて、代物による弁済により債務消滅を認める債務消滅原因の一つである。本旨弁済を受ける債権者の利益を保護するため、代物弁済が成立するためには、少なくとも債権者の承諾が必要である。

2 代物弁済の法律構成

(1)平成29年改正前

 旧482条の規定ブリでは、債権者の承諾を必要とするも、代物弁済契約まで要求していなかった。実務では、明示又は黙示の代物弁済契約がされて、代物弁済が実行されるのが一般的であった。

(2)平成29年改正法

 代物弁済の債務消滅効について、改正前の法は要物契約的な規定であるが、判例は、物の所有権は代物弁済の意思表示によって移転するとして代物弁済の合意に一定の効力を認めていた。

 改正法は、判例を踏まえて、① 諾成契約とした上、② 合意に基づく代物の給付による債務消滅効を規定した。

3 代物弁済の機能(文献⑤)

① 弁済

② (抜け駆け的)債権回収

  不動産について、代物弁済予約や停止条件付代物弁済契約

→ 債権者にとって、簡易な方法により、担保物を丸取りするうまみ

→ 判例法によって清算法理が確立し、その後、仮登記担保法による規制がされる。

4 代物弁済の効果

(1)代物の所有権移転

(2)債務の消滅

 本来の給付に代えて、他の給付が現にされることが必要である。他の給付が不動産の所有権であれば、その移転登記が必要である。

5 論点 代物弁済契約が担保目的である場合、例えば、本来の債務=貸金、代物=不動産

① 債権者は債務者に対し、本来の給付(貸金返還)を請求できるか。

② 債務者は債権者に対し、本来の給付(貸金返還)をすることができるか。

6 代物の欠陥

 代物弁済契約で合意した種類・品質に適合していなかった場合

 代物弁済契約=有償契約

売主の担保責任の規定が準用される(民559)。

→ 債権者 追完請求 or 代物弁済契約を解除して本来の給付を請求できる。

 

〇 民法492条(平成29年改正)

 債務者は、弁済の提供の時から、債務を履行しないことによって生ずべき責任を免れる。

旧492条

 債務者は、弁済の提供の時から、債務を履行しないことによって生ずべき責任を免れる。

1 改正法により、弁済提供の効果と受領遅滞の効果とを区別した。

2 弁済提供の効果

  債務不履行責任の免責

→ 損害賠償責任が発生しない。解除権が発生しない。

 

【参考・参照文献】

 このページは、下記文献を参考・参照して作成しました。

□ 第一東京弁護士会司法制度調査委員会編・新旧対照でわかる改正債権法の逐条解説(平成29年、新日本法規)頁

□ 日本弁護士連合会編・実務解説改正債権法(第2版)(2020年、弘文堂)312頁

□ 平野裕之 債権総論(2017年、日本評論社)349頁

□ 道垣内弘人 リーガルベイシス民法入門(第4版)240頁

□ 内田貴 民法Ⅲ 債権総論・担保物権第4版(2020年、東京大学出版会)代物弁済 p227~ 略称:内田

□ 大阪弁護士会民法改正問題特別委員会編 実務家のための逐条解説新債権法(2021年、有斐閣)326頁 略称:大弁会

□ 丸山絵美子 ケースで考える債権法改正第22回弁済による代位 法学教室484号77頁

□ 近江幸治・民法講義Ⅳ債権総論(第4版)(2020年、成文堂)258頁

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