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遺産分割(その2)遺産分割前における預貯金債権の行使、遺産の仮分割の仮処分

民法 第5編 相続
第3章 相続の効力
第3節 遺産の分割
(906条~914)

◇ 遺産分割前における預貯金債権の行使

○ 民法909条の2(遺産の分割前における預貯金債権の行使)【平成30年新設】

 各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち相続開始の時の債権額の3分の1に第900条及び第901条の規定により算定した当該共同相続人の相続分を乗じた額

(標準的な当面の必要生計費、平均的な葬式の費用の額その他の事情を勘案して預貯金債権の債務者ごとに法務省令で定める額を限度とする。)については、

単独でその権利を行使することができる。

 この場合において、当該権利の行使をした預貯金債権については、当該共同相続人が遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなす。

1 預貯金債権を遺産分割の対象とする旨の判例変更(最高裁(大法廷)平成28年12月19日決定)

→ 被相続人の債務の弁済、(被相続人から扶養を受けていた)相続人の生活費等、遺産分割前に、被相続人の預貯金を払い戻す必要性

→ 保全処分(家事事件手続法200条)によらなければ、遺産分割前に、被相続人の預貯金を払い戻すことができないとなると、手続的に負担である。

→ 家庭裁判所の判断を経ないで、遺産分割前に、被相続人の預貯金の一部を払い戻すことができることを認めた。

2 本条により払い戻すことができる金額

 下記①②の金額のうち、いずれか小さい額

① <遺産に属する預貯金債権の相続開始時の債権額>

 × 3分の1

 × 共同相続人各人の法定相続分

② 標準的な当面の必要生計費、平均的な葬式の費用の額その他の事情を勘案して預貯金債権の債務者(金融機関)ごとに法務省令で定める額

 上記金額は、150万円である(法務省令第29号)。

3 計算方法

(1)個々の預貯金債権毎に算出する。

 被相続人の預貯金債権が、普通預金48万円、定期預金96万円、相続人が子2人の場合は、次のとおり。

普通預金 50万円×1/3×1/2=8万円

定期預金 96万円×1/3×1/2=16万円

4 効果

 払戻しを受けた相続人が遺産の一部分割によりこれを取得したものとみなされる。

① みなすの意味

 民法906条の2の要件の充足を問題とすることなく、遺産分割において遺産として存在するものとみなす。

 「当該権利の行使をした預貯金債権」(本条後段)

 本条前段に従って払い戻された金額(潮見)

 

潮見【CASE331】

◇ 遺産の仮分割の仮処分

○ 家事事件手続法200条 (遺産の分割の審判事件を本案とする保全処分)

1項 家庭裁判所(第百五条第二項の場合にあっては、高等裁判所。次項及び第三項において同じ。)は、遺産の分割の審判又は調停の申立てがあった場合において、財産の管理のため必要があるときは、申立てにより又は職権で、担保を立てさせないで、遺産の分割の申立てについての審判が効力を生ずるまでの間、財産の管理者を選任し、又は事件の関係人に対し、財産の管理に関する事項を指示することができる。

2項 家庭裁判所は、遺産の分割の審判又は調停の申立てがあった場合において、強制執行を保全し、又は事件の関係人の急迫の危険を防止するため必要があるときは、当該申立てをした者又は相手方の申立てにより、遺産の分割の審判を本案とする仮差押え、仮処分その他の必要な保全処分を命ずることができる。

3項 前項に規定するもののほか、家庭裁判所は、遺産の分割の審判又は調停の申立てがあった場合において、相続財産に属する債務の弁済、相続人の生活費の支弁その他の事情により遺産に属する預貯金債権(民法第四百六十六条の五第一項に規定する預貯金債権をいう。以下この項において同じ。)を当該申立てをした者又は相手方が行使する必要があると認めるときは、その申立てにより、遺産に属する特定の預貯金債権の全部又は一部をその者に仮に取得させることができる。ただし、他の共同相続人の利益を害するときは、この限りでない。

4 第百二十五条第一項から第六項までの規定及び民法第二十七条から第二十九条まで(同法第二十七条第二項を除く。)の規定は、第一項の財産の管理者について準用する。この場合において、第百二十五条第三項中「成年被後見人の財産」とあるのは、「遺産」と読み替えるものとする。

1 平成30年の相続法改正にあわせて、家事事件手続法200条3項が新設され、遺産に属する預貯金債権の仮分割の仮処分について、保全処分の要件が緩和された。

 遺産の分割前における預貯金債権の行使(民法909条の2)は限定額があり、比較的大口の資金需要がある場合、仮分割の仮処分(家事事件手続法200条2項)を利用することが考えられる。しかるに、「強制執行を保全し、又は事件の関係人の急迫の危険を防止するため必要があるとき」が保全処分の要件であるため、発令が厳しいため、保全処分の要件が緩和された。

2 要件

(1)本案係属要件

 遺産の分割の審判又は調停の申立てがあった場合

(2)権利行使の必要性

 相続財産に属する債務の弁済、相続人の生活費の支弁その他の事情

 遺産に属する預貯金債権を当該申立てをした者又は相手方が行使する必要がある

 と認めるとき

 

 必要性の判断は、家庭裁判所の裁量に委ねられる。

 

(3)他の共同相続人の利益を害しないこと

 他の共同相続人の利益(3項ただし書)を害しないこと

 文献①82頁は、次の3つの視点を示している。

① 「預貯金債権額 × 申立人の法定相続分」の範囲内

 ← 預貯金債権は、取得を希望する共同相続人が多い。

② 申立人に多額の特別受益がある場合

  ①より、さらにその額を限定すべき。

 ←他の共同相続人を害することがないようにする。

③ 他の共同相続人が特に預貯金債権の取得を希望していない場合

ⅰ 「遺産の総額 × 申立人の法定相続分」の範囲内

(相手方から特別受益の主張がある場合、具体的相続分の範囲内)

ⅱ 被相続人の債務の弁済を行う等事後的な清算も含めると、相続人間の公平が担保され得る場合

 申立人が相続債務を現に弁済する蓋然性が認められる場合、ⅰより増額する。

 

 保全処分という性質上、申立人の具体的相続分を法定相続分よりも増加させる方向での申立人の主張、すなわち相手方が特別受益者であるという主張又は申立人の寄与分の主張は、取り上げる必要はないと思われる。文献③50頁

 

3 仮処分の手続(文献④49頁)

(1)管轄

 本案の審判又は調停事件が係属する家庭裁判所/本案の審判事件が高等裁判所に係属する場合は、その高等裁判所

 家事事件手続法105条

(2)当事者

① 相続分を譲渡等した共同相続人を除き、共同相続人全員が当事者になる必要がある。

② 申立人:遺産を仮に取得することを求める相続人

  相手方:申立人以外の相続人

(3)手続書類

① 申立書

ⅰ ○ 家事事件手続法106条(審判前の保全処分の申立て等)

1項 審判前の保全処分(前条第一項の審判及び同条第二項の審判に代わる裁判をいう。以下同じ。)の申立ては、その趣旨及び保全処分を求める事由を明らかにしてしなければならない。

2項 審判前の保全処分の申立人は、保全処分を求める事由を疎明しなければならない。

ⅱ 目録

a 当事者目録

b 遺産目録

家事事件手続規則1条1項1号

② 添付書類

ⅰ 戸籍関係書類

ⅱ 住所関係書類

ⅲ 遺産関係書類

・ 預貯金通帳の写し、残高証明書

・ 不動産登記事項証明書

・ 固定資産評価証明書等

ⅳ 保全処分を求める事由を疎明する資料

~権利行使の必要性~

[類型1]

 扶養を受けていた共同相続人等の生活費や施設入所費等の支払いのため

[類型2]

 被相続人の債務(例:医療費)の支払いのため

[類型3]

 相続に伴う費用(例:葬儀費用、相続税)の支払いのため

 

申立人及び同人の同居家族の収入に関する資料(例:源泉徴収票、給与明細、確定申告書)

報告書(陳述書)

のほか、上記各類型に応じた疎明資料、例えば[類型1]では、申立人及び同人の同居家族の支出に関する資料(例:家計収支表)

③ 申立費用

 収入印紙 1,000円

 民事訴訟費用等に関する法律3条1項別表第1の16項イ

(4)審理

① 陳述聴取

○ 家事事件手続法107条(陳述の聴取)

 審判前の保全処分のうち仮の地位を定める仮処分を命ずるものは、審判を受ける者となるべき者の陳述を聴かなければ、することができない。ただし、その陳述を聴く手続を経ることにより保全処分の目的を達することができない事情があるときは、この限りでない。

② 審問

(5)担保

 家事事件手続法115条による民事保全法4条の準用

(6)主文例(文献①86頁、文献③51頁)

1 被相続人A(令和3年1月5日死亡)の遺産である別紙債権目録記載1の預金債権を、同目録記載2の申立人の取得額のとおり申立人に仮に取得させる。

2 申立人は、別紙債権目録記載1の金融機関から前項の取得額の払戻しを受けることができる。

3 手続費用は、○○の負担とする。

           債権目録

1 預金債権

  りそな銀行寝屋川支店 普通預金 

  口座番号○○○○○○○

  口座名義人 A

2 申立人の取得額

  上記1の預金債権のうち100万円

(7)告知

○ 家事事件手続法109条(審判)

1項 審判前の保全処分は、疎明に基づいてする。

2項 審判前の保全処分については、第七十四条第二項ただし書の規定は、適用しない。

 

○ 家事事件手続法74条(審判の告知及び効力の発生等)

1項 審判は、特別の定めがある場合を除き、当事者及び利害関係参加人並びにこれらの者以外の審判を受ける者に対し、相当と認める方法で告知しなければならない。

2項 審判(申立てを却下する審判を除く。)は、特別の定めがある場合を除き、審判を受ける者(審判を受ける者が数人あるときは、そのうちの一人)に告知することによってその効力を生ずる。ただし、即時抗告をすることができる審判は、確定しなければその効力を生じない。

3項 申立てを却下する審判は、申立人に告知することによってその効力を生ずる。

4項 審判は、即時抗告の期間の満了前には確定しないものとする。

5項 審判の確定は、前項の期間内にした即時抗告の提起により、遮断される。

(8)不服申立て

 

 

4 本案との関係

 仮分割の仮処分と遺産分割審判等(本分割)との関係は、民事事件における保全処分(仮地位仮処分)と本案訴訟との関係と同じ。

 

 本分割においては、仮分割の仮処分の結果にかかわらず、仮分割された預貯金債権を含めて遺産分割の調停又は審判をすべきである。

 

 

 

 

 

【参考・参照文献】

 以下の文献を参考・参照して作成しました。

□ 堂園幹一郎・野口宣大編著 一問一答新しい相続法(第2版)(2020年、商事法務)68頁 略称:堂薗・野口

②□ 日本弁護士連合会編Q&A改正相続法のポイント-改正経緯をふまえた実務の視点(平成30年、新日本法規)63頁

□ 東京家庭裁判所家事第5部編著・東京家庭裁判所家事第5部(遺産分割部)における相続法改正を踏まえた新たな実務運(2019年、日本加除出版)40頁

④□潮見佳男 詳解相続法第2版(令和4年、弘文堂)209頁 略称:潮見

□ 片岡武・管野眞一 改正相続法と家庭裁判所の実務(2019年、日本加除出版 略称:片岡・管野①

□ 片岡武・管野眞一 第4版 家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務(2021年、日本加除出版) 略称:片岡・管野②

 

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