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遺産分割(その4)遺産分割に関する論点(その1)

<遺産分割の対象該当性(1)>

潮見【CASE189】

1 総論

① 金銭債権

 相続分に応じて共同相続人間で当然分割される。

→遺産分割の対象とならない。

② 金銭債権 

+ 金銭給付に還元されないその余の権限等もまたその権利の本質的な要素を成している場合(潮見200頁)

→ 当該権利は、(相続開始時に当然に相続分に応じて分割されることなく)、遺産共有の対象となる。

2 株式

◯ 最大判昭和45年7月15日、最判平成2年12月4日

 株主たる地位において会社に対して有する法律上の地位(自益権+共益権)→遺産共有の対象となる。

3 投資信託

◯ 最判平成26年2月25日

◯ 最判平成26年12月12日

4 個人向け国債

 ◯ 最判平成26年2月25日

金銭の給付を内容とする債権

 BUT 債権の分割に対して法令上の制限が課せられている場合 

① 相続開始と同時に、相続分に応じて、当然に相続分に応じて分割されることない。

② 遺産共有の対象となり、遺産分割を経て、最終的な帰属先が決定される。

5 預貯金債権

◯ 最大決平成28年12月19日

 遺産共有の対象となり、遺産分割を経て各相続人に承継される。 

視点(潮見202頁)

① 遺産としてみた場合の金銭と預貯金との同質性

② 預貯金契約上の地位の承継としての側面

③ 個々の預貯金債権の内容・属性  

<最大決平成28年12月19日等による判例変更>

 従来、被相続人の金融機関に対する預貯金債権は、可分債権であり、相続開始と同時に当然相続分に応じて分割され、共同相続人全員の合意があれば遺産分割の対象となる取扱いが実務においてされてきた。

 最高裁判所平成28年12月19日大法廷判決は、判例変更し、共同相続された普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権は、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることなく、遺産分割の対象となると判示した。

 最高裁は、その理由として、預貯金債権を遺産分割の対象とすることの実務的な要請(お金なので他の遺産と異なり調整し易い)、残高の変動はあっても一個の債権として同一性を保持しているという普通預金・通常貯金の性質、契約上分割払戻しが制限されているゆうちょ銀行定期預貯金債権(※)の性質を理由としている。

【コメント等】

① 最高裁調査官斉藤毅氏の解説(ジュリスト1503号81頁)によると、この考え方は、ゆうちょ銀行以外の金融機関の定期預金・定額預金にも及ぶものと考えられる。

② 可分債権当然分割論(判例法理)を変更したものではなく、預貯金債権を可分債権とする判断を変更したものである。

(遺言・相続実務問題研究会代表藤井伸介弁護士「審判では解決しがたい遺産分割の付随問題への対応-使途不明金・葬儀費用・祭祀承継・遺産収益分配等-」新日本法規平成29年298頁)

 

 従来より、遺産分割において共同相続人全員が合意して預貯金債権も遺産分割の対象とされることが多かったといえるが、この判例変更により、預貯金債権は共同相続人全員の合意がなくても遺産分割の対象となり、個々の相続人は、自己の相続分のみを金融期間に対し払戻し請求することができなくなった(正確にいうと、金融機関はそのような請求に応じる義務がなくなった)。

<遺産分割前の預貯金の払戻し>

1 預貯金債権が、共同相続人の準共有であり遺産分割の対象となる場合、遺産分割前の払戻し

2 原則

(1)結論

 共同相続人は、単独で権利行使できる余地はなく、全員が共同して払戻しを求めざるを得ない。

(2)理由

① 預貯金の払戻しを受ける行為=準共有債権の処分行為

→ 準共有者債権者である共同相続人全員による共同行使が必要である。

3 例外

 共同相続人の単独による一分払戻請求の許容

① 預貯金債権の仮分割の仮処分 家事事件手続法200条3項

② 預貯金の一分払戻し 民法909条の2

 

▽ 詳細は、下記のページをご覧ください。

【論点】

 相続開始前、被相続人所有の家屋に被相続人と同居していた相続人は、遺産分割により家屋の所有権が確定するまで、無償で家屋に居住することができるのか。

例)被相続人の相続人はAとBであり、Aは被相続人と被相続人所有の家屋に同居し被相続人の家業を手伝った。被相続人の死亡後もAは被相続人が所有していた家屋に同居していた。その後の為されたAB間の遺産分割協議において、Bは、Aに対し、遺産分割成立までの家賃として、Bの持分2分の1に相当するお金を支払うべきと主張した。

 

 この問題について、最高裁判所は、要旨次のとおり判示しました(最高裁第三小法廷平成8年12月17日判決)。

 共同相続人の1人が相続開始前から被相続人の許諾を得て遺産である建物において被相続人と同居してきたときは、特段の事情のない限り、被相続人とその同居相続人との間において、被相続人が死亡し相続が開始した後も、遺産分割によりその建物の所有関係が最終敵に確定するまでの間は、引き続きその同居相続人にこれを無償で使用させる旨の合意があったものと推認されるものであって、被相続人が死亡した場合は、この時から少なくとも遺産分割終了までの間は、被相続人の地位を承継した他の相続人等が貸主となり、その同居相続人を借主とするその建物の使用貸借契約関係が尊属することとなるものというべきである。そのように考えるのが、被相続人及び同居相続人の通常の意思に合致するといえるからである。

 

 この最高裁判決を踏まえると、特段の事情がない限り、Bの主張は認められません。

 

共同相続した賃貸不動産の賃料債権の帰属と遺産分割
最高裁判所(第一小法廷)平成17年9月8日判決

【事案】

1 当事者等

 A=被相続人(平成8年10月死亡) X=Aの後妻

 Y1~5=AとAの前妻との間の子

2 紛争に至る経緯 

 Aの遺産には賃貸不動産(本件不動産)があり、相続人間では、本件不動産から生じる賃料等は、新たに開設された専用の口座で管理し(賃借人が同口座に振り込む)、遺産分割により本件不動産の帰属が確定した時点で清算することが話し合われていた。

 大阪高等裁判所は、平成12年2年、本件不動産つにいて遺産分割する旨決定し、同決定は確定した。この時点で、本件不動産の賃料等を原資とする上記専用口座の残高は約2億円である。

 このお金の分配をめぐり、XとYとの間で争いとなった。

Xの主張

 遺産分割の遡及効(民法909条)→遺産分割により不動産を取得した相続人は、相続開始時から所有者である。→その不動産から生じる賃料等は、その相続人が取得する。

Yの主張

① 相続開始~遺産分割確定日の期間に生じる賃料等

  法定相続分に従って、各相続人に帰属する。

② 遺産分割決定確定日の翌日~

  不動産を取得した相続人に帰属する。

 

上記約2億円のうち、Xの主張ではXの取得額が約1億9千万円となり、Yの主張ではXの取得額が約1億円となる。

 

XがYに対し、保管金(争いのある金額をYが保管)の返還を求めて提訴した。

 

【裁判所の判断】

遺産は、相続人が数人あるときは、相続開始から遺産分割までの間、共同相続人の共有に属するものであるから、この間に遺産である賃貸不動産を使用管理した結果生じる金銭債権たる賃料債権は、遺産とは別個の財産というべきであって、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得するものと解するのが相当である。

 遺産分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずるものであるが、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得した上記賃料債権の帰属は、後にされた遺産分割の影響は受けないものというべきである。

 したがって、相続開始から本件遺産分割決定が確定するまでの間に本件各不動産から生じた賃料債権は、X及びY1らがその相続分に応じて分割単独債権として取得したものであり、本件口座の残金は、これを前提として清算されるべきである。

 

【コメント】

① 家庭裁判所においては、相続人全員が合意すれば、遺産として取り扱い、遺産分割の対象とすることは可能とされている。遺産から生じた果実・収益は、紛争の一体的解決の観点、遺産の総合的・合目的的分割という遺産分割制度の趣旨から、遺産として遺産分割手続で採りあげることが相当な場合があるからである。(片岡武=管野眞一「家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務(新版)」63頁・160頁)

② ①のような指摘もあるので、遺産分割とあわせて解決するか、遺産分割と別途に解決するはケース・バイ・ケースである。相続人の1人が物件を管理したうえ収益を独占している場合においても、他の相続人は法定相続人に見合った収益があるとして所得税を課税される(可能性が高い)ので、相続開始後、長期間、遺産分割協議がなされない状態が継続すれば、遺産とは別途に解決することが望ましいといえる。

【文献】

判例タイムズ1195号100頁、平成17年重要判例解説(有斐閣)90頁

共同相続した不動産の売却代金は遺産であるか?
 

 

1  問題の所在

 不動産を共同相続した者が全員の合意により不動産を売却した場合、売却代金は遺産といえるか。

 甲・乙・丙は、全員の合意により、共同相続した不動産を第三者に売却し、売却代金(900万円)は甲が保管することになった。その後、様々な事情が重なって、遺産分割が進まなかった。

(1)売却から1年が経過したが、遺産分割が未了である場合、乙は甲に対し、自己の法定相続分に相当する300万円の支払いを請求できるか。

(2)売却から10年が経過したが、遺産分割が未了である場合、乙は甲に対し、自己の相続分に相当する300万円の支払いを請求できるか。

 

2 判例の立場

○ 最高裁昭和52年9月19日

 当該不動産は、遺産分割の対象から逸失し、各相続人は第三者に対し持分に応じた代金債権を取得し、これを個々に請求することができる。

○ 最高裁昭和54年2月22日(判例タイムズ395号56頁)

 当該不動産は、遺産分割の対象から逸失する。売却代金は、これを一括して共同相続人の一人に保管させて遺産分割の対象に含める合意をするなどの特別の事情がない限り、遺産に含まれない

 

 昭和54年判例(判例タイムズ395号56頁)は、昭和52年判例を踏襲したものであり、上記合意はいわば当然のことを判示したに過ぎない。

 なお、本件では、そのような合意は認定されず、売却代金を受領していない委任者に当たる相続人から売却代金を預かっている受任者に当たる相続人に対する代金の交付請求(民法646条の受取物の引渡請求権)が認められた。

  判例によると、昭和54年判例のいう合意(売却代金を新たに遺産分割の対象とする合意[加藤])が認められる場合は、売却代金は遺産となり、(1)(2)とも、乙の甲に対する個別的な権利行使は許されず、遺産分割手続による。

 上記合意が認められない場合は、乙の甲に対する預かり金の返還請求となると思われるが、(2)の場合、時効が完成しており、返還請求権が時効消滅したといわれるおそれがある。

 

 上記合意について、遺産に当たらない代償財産を遺産分割の対象とすることは実体法の観点から考えると無理があるが、紛争の一回的解決に対する当事者の期待(遺産分割協議・調停による解決を企図し、代償財産の清算のため訴訟的解決に期待せず)から説明することになろう(潮見佳男 詳解相続法(2018年、弘文堂)254頁)。  

 

3 遺産分割の対象を定める基準時<前提となる議論>

 相続開始から遺産分割までの間に、遺産が滅失等して変動することがある。遺産分割の対象を定める基準時はいつか。

[A]説 相続開始説

 対象の物件が滅失し第三者が滅失について損害賠償責任を負う場合、当該遺産を遺産分割により取得した相続人は、第三者に対する損害賠償請求権を取得する。代償財産の遺産該当性の生じない。

[B]説 遺産分割時説(判例、多数説)

 対象の物件が滅失すれば、物件は遺産分割の対象ではない。物件の代償財産といえる第三者に対する損害賠償請求権は遺産であるかという論点が生じる。

 

4 物件の滅失等による損害賠償請求権又は保険金請求権は遺産といえるか<応用問題>

 これらは遺産の代償財産といえるが、遺産として取り扱うべきか。可分債権であり、相続人が相続分に応じて分割取得するのか。

 まず、代償財産を遺産として取り扱うかという論点については、積極説、消極説、折衷説(代償財産の形態によって考える)に分かれるが、裁判例の傾向としては積極説が優勢である。 

 代償財産の帰属・分配について争いがある場合、それについても別個の手続ではなく遺産分割手続によって取り扱うことができれば、紛争解決の全面性、一回性の観点から妥当である(松原)から、基本的には、積極説が妥当である。

 この場合、2の判例との関係は次のとおり考える。

 判例は、遺産の共有持分の自由譲渡性(※)を背景するものであり、相続人による遺産の処分行為以外の原因によって代償財産が生じる場合には及ばないと解すべき(松原)。潮見佳男 詳解相続法(2018年、弘文堂)255頁も、松原説

支持するものと思われる。

 また、可分債権との関係は次のとおり考える。

 もともと遺産である財産が変形したものてあるから、可分債権を遺産分割の対象とする点についても合意は不要と解する(加藤)。

 

※ 最高裁昭和50年11月7日

① 共同相続人による遺産共有は、民法249条の共有の性質を有する。

② 共同相続人の一人が遺産共有の不動産を譲渡した場合、当該部分は遺産分割の対象から逸出する。

 

【参照・参考文献】

○ 松原正明「遺産の代償財産」(判例タイムズ1100号137頁)

○ 加藤祐司「遺産分割の対象となる財産の範囲」(新家族法実務体系第3巻相続[Ⅰ]-相続・遺産分割-)225頁

【参考・参照文献】

 以下の文献を参考・参照して作成しました。

□ 堂園幹一郎・野口宣大編著 一問一答新しい相続法(第2版)(2020年、商事法務)略称:堂薗・野口

□ 日本弁護士連合会編Q&A改正相続法のポイント-改正経緯をふまえた実務の視点(平成30年、新日本法規)63頁

□ 東京家庭裁判所家事第5部編著・東京家庭裁判所家事第5部(遺産分割部)における相続法改正を踏まえた新たな実務運(2019年、日本加除出版)

□ 潮見佳男 詳解相続法第2版(2022年、弘文堂)288頁  略称:潮見

□ 片岡武・管野眞一 改正相続法と家庭裁判所の実務(2019年、日本加除出版)頁(略称:片岡・管野①)

□ 片岡武・管野眞一 第4版 家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務(2021年、日本加除出版)頁(略称:片岡・管野②)

 

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