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遺産分割(その1)遺産分割の基準、遺産分割前に遺産が処分された場合の遺産の範囲、遺産の一部分割、遺産分割方法の指定・遺産分割の禁止、遺産分割の効力

民法 第5編 相続
第3章 相続の効力
第3節 遺産の分割
(906条~914)

[遺産分割の意義]

□ 潮見【CASE285】

○ 民法906条(遺産分割の基準)

 遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする。

【遺産分割の基準】

1 法律行為自由の原則に基づき、遺産分割の合意があれば、相続分(法定・指定・具体的)に合致しない、又は被相続人の指定する遺産分割方法に反する遺産分割も、有効である

2 本条の基準は、協議分割・調停分割において当事者の協議の指針となり得るとしても、裁判規範とはいえず、その意味で、強行法規ではない。これに対し、審判分割においては法的に意味を有する基準となり、基準違反の分割は高等裁判所に対する抗告事由となる。

3 基準の例

 被相続人が営業をしていた場合、営業用資産は、営業を承継する者が取得する方向で働く。

【遺産分割の対象財産】

1 原則

① 相続開始時に存在 + ② 遺産分割時に存在

2 例外等

(1)みなし遺産

(2)(論点)代償財産

 

○ 民法906条の2(遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合の違反の範囲)【平成30年新設】

1項 遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合であっても、共同相続人は、その全員の同意により、当該処分された財産が遺産の分割時に遺産として存在するものとみなすことができる。

2項 前項の規定にかかわらず、共同相続人の一人又は数人により同項の財産が処分されたときは、当該共同相続人については、同項の同意を得ることを要しない。

1 制度趣旨

  例えば、被相続人A、相続人甲(法定相続分1/2)、相続人乙(法定相続分1/2)、遺産は不動産(評価1000万円)で、甲が遺産分割前に不動産持分1/2を処分した。遺産分割の対象となる不動産持分1/2を、法定相続分に従って分割すると、甲に有利に過ぎ、乙に不利に過ぎ、甲乙間が不公平である。

 

原則:遺産分割の対象財産の要件

① 相続開始時に存在 + ② 遺産分割時に存在

例外

②の要件を満たさない場合でも、当事者が遺産分割の対象とすることに合意した場合は遺産分割の対象となる(例えば、代償財産について合意する場合)。

 

 遺産分割前に相続人の一人が遺産を処分した場合において公平を保つするため、上記原則②の要件を欠くが、共同相続人の全員(処分した者を除く)の同意を要件として、遺産分割の対象とすることを認めた。

2 処分の意義

(1)遺産共有となった預貯金の払戻し、不動産の共有持分の譲渡、遺産の動産を壊す行為

(2)被相続人の預貯金が相続開始前(被相続人の生前)が払い戻された場合は、本条の対象外である。

 この場合は、相続人全員の合意により、① 払戻しをした相続人が払戻額相当金員を取得したものとして取り扱う、② 払戻しをした相続人が被相続人から贈与を受け、これが特別受益に当たるものとして取り扱う。ことが考えられるが、相続人全員(払戻しをした相続人を含む)の要件を満たされなければ(払戻しをした相続人が払戻しを否認した場合等)、訴訟で解決するほかない。

(3)第三者による処分

 処分した者が相続人以外の第三者である場合を含む。これにより、第三者に対する損害賠償請求権や処分された財産に関する保険金請求権を遺産分割の対象することができる。

 

潮見【CASE326~329】

 

(経過措置)令和元年7月1日から施行される。同日前に開始した相続にいては、なお従前の例による(附則2条)。

 

○ 民法907条(遺産の分割の協議又は審判)[令和3年改正]

項 共同相続人は、次条第一項の規定により被相続人が遺言で禁じた場合又は同条第二項の規定により分割をしない旨の契約をした場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の全部又は一部の分割をすることができる。   

2項 遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その全部又は一部の分割を家庭裁判所に請求することができる。ただし、遺産の一部を分割することにより他の共同相続人の利益を害するおそれがある場合におけるその一部の分割については、この限りでない。

○ 民法907条(遺産の分割の協議または審判等)[令和3年改正前]

1項 共同相続人は、次条の規定により被相続人が遺言で禁じた場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の全部又は一部の分割をすることができる。

2項 遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その全部又は一部の分割を家庭裁判所に請求することができる。

 ただし、遺産の一部を分割することにより他の共同相続人の利益を害するおそれがある場合におけるその一部の分割については、この限りでない。

3項 前項本文の場合において特別の事由があるときは、家庭裁判所は、期間を定めて、遺産の全部又は一部について、その分割を禁ずることができる。

【遺産分割の時期】

1 遺産分割請求の自由

 共同相続人は、他の共同相続人の一人が遺産分割を拒否しても、原則として、遺産分割を請求でき、協議の結果(協議分割)、遺産分割を成立させることができる(本条1項)。

 そして、協議が調わない場合及び協議ができない場合は、通常の場合、家庭裁判所の調停を経て、調停により遺産分割が成立(調停分割)しない場合において、家庭裁判所の審判により遺産分割することができる(審判分割)。(本条2項)

2 相続開始が長時間経った場合においても、遺産が存在する限り、遺産分割できる。その意味で、遺産分割請求権は消滅時効にかからない。そうはいっても、遺産に属する不動産を第三者が所有の意思をもって占有している場合に当該不動産について取得時効が成立する場合等、個々の遺産について取得時効が成立し、遺産であった物が遺産でなくなり、遺産分割の対象から外れることはある。

 

【一部分割】

1 遺産の一部分割の明文化

 平成30年改正により、改正前の実務においても認められていた、遺産の一部分割ができる場合があることを明文化した。本条は、令和元年7月1日から施行され、同日より前に発生した相続については、適用されない(附則2条)。

 遺産分割は、全部の遺産を確定させた上で、民法906条に基準に基づき分割するのが原則である。

 しかし、相続人は遺産について処分権限があることから、一部の分割も認められる。例えば、相続人間において遺産分割方法に争いのある遺産(例えば、不動産)の分割については解決を先送りにし、分割方法に争いがない遺産(例えば、預貯金)についてまず解決する事案で一部分割の実益がある。審判、調停、協議いずれにおいても、一部分割ができる。

 但し、民法906条に定める基準に基づき最終的に遺産の全部について公平な分配を実現できる場合でなければならない。

潮見【CASE342】【CASE343】

 

2 本条が適用される場面

  [一部分割の類型]

① 家事事件手続法73条2項(※)に規定する一部審判として行われる一部分割

※ 家庭裁判所は、家事審判事件の一部が裁判をするのに熟したときは、その一部について審判をすることができる。手続の併合を命じた数個の家事審判事件中その一が裁判をするのに熟したときも、同様とする。

 この場合、残余遺産について審判事件が係属する。

② 全部審判として行われる一部分割

 この場合、事件は審判により終了する。

 次の2類型に区分できる。

a 分割対象となる残余遺産が存在しない場合

  or 裁判所・当事者にとって残余遺産が判明していない

  → 裁判所・当事者の認識が事実と相違するため、

    結果として、一部分割となる場合

b 裁判所・当事者にとって残余遺産が判明しているが、

  当事者が残余遺産の分割を希望していない場合

 

 本条は、②bを規定するものである。

 審判の申立ての趣旨は、単に遺産分割を求めるというのではなく、例えば「別紙遺産全体目録中、○番及び△番の遺産の分割を求める。」という記載になる。

 

2 一部分割の許容性(2項ただし書)

潮見【CASE344】

(1)一部分割によって、最終的に、遺産全体について適正な分割を達成することが阻害されることがあってはならない。2項ただし書は、家庭裁判所の後見的な役割を考慮して、当事者間の公平を図るため、当事者の処分権を制限して、一部分割を認めないものとした。

 特別受益の有無等を検討し、代償金、換価等の分割方法も検討して、最終的に、適正な分割を達成できる明確な見通しが得られた場合には、一部分割が許容される。許容されない場合は、その一部分割の申立ては却下される。

 一部分割において具体的相続分を超過する遺産を取得されることとなるおそれがある場合であっても、(残余遺産の分割の際に)当該遺産を取得する相続人が代償金を支払うことが確実視できる場合、かかる一部分割も可能であると考えられている。逆にいうと、代償金の支払いが確実とはいえない場合、ある相続人の無資力の危険を他の相続人に負わせることになり、一部分割はできない。

 最終的に遺産の全部について公平な分配を実現できる場合(前記)とは、将来において残余遺産を分割する際、先行する一部分割の結果と合わせて、民法906条の基準や具体的相続分の充足をいう。

 協議や調停による分割については、法定又は具体的相続分に従わない分割も可能であることも可能であるから、将来における残余遺産の分割において具体的相続分を充足しない結果となる一部分割も、当事者がそのことを認識している限り、有効である。調停分割において、当事者がそのことを認識していない場合は、成立した合意が相当でないとして、不成立とすべき(家事事件手続法272条1項※)。

 

※ 調停委員会は、当事者間に合意(第二百七十七条第一項第一号の合意を含む。)が成立する見込みがない場合又は成立した合意が相当でないと認める場合には、調停が成立しないものとして、家事調停事件を終了させることができる。ただし、家庭裁判所が第二百八十四条第一項の規定による調停に代わる審判をしたときは、この限りでない。

 

(2)下記事案で、裁判所は、一部分割をすることができるか?

  被相続人Aの遺産

   預金1000万円、不動産1000万円

  相続人甲(相続分1/2)

   特別受益に当たる生前贈与1000万円  

  相続人乙(相続分1/2)

 

  → 甲の具体的相続分

    (預金1000万円+不動産1000万円+

     特別受益1000万円)×1/2-1000万円=

    500万円

 

   甲が不動産について一部分割を申し立てた場合、

   甲が、代償金500万円を乙に支払い、

   不動産を取得する分割は可能であると考えられる。

  

3 一部分割と残余遺産の分割との関係

 一部分割の場合は、遺産分割協議書や調停調書に、① 一部分割であること、② 残余遺産の分割に対する影響の有無、を明記すべきである。

(例)

①について

 当事者双方は、別紙遺産目録記載の被相続人の遺産のうち、目録1記載の不動産を次のとおり分割する。

②について

<影響を及ぼさない場合>

 当事者双方は、目録〇の預金について、上記の分割とは別個独立にその相続分に従って分割することとし、上記遺産の一部分割が、その余の遺産の分割に影響を及ぼさないことを確認する。

<影響を及ぼす場合>

 当事者双方は、目録〇の遺産分割(※ 一部分割の対象外となった残余遺産)について、第〇項により分割された遺産(※ 一部分割の対象遺産)を含めて、遺産の総額を評価し、その総額に各共同相続人の法定相続分を乗じて算出された具体的相続分(特別受益、寄与分による修正を含む。)から第〇項により取得した遺産額(※ 一部分割の対象遺産を控除して、各共同相続人の残余の遺産に対する具体的相続分率を算出し、残余遺産(に当たる目録〇)の分割を協議する。

4 裁判所に対する申立て

 裁判所に一部分割の申立てがなされた後に、申立人以外の相続人が全部分割の申立てをした場合、遺産分割の対象は全部となる。

 分割をしたくない又はより小さい範囲で分割で分割をしたいという当事者の希望は保障されるものではない。

5 一部分割の効果

 一部分割の対象遺産について、残余遺産から分離独立させて、確定的に分割すること。

【文献】堂薗・野口87頁、潮見343頁 

○ 民法908条(遺産の分割の方法の指定及び遺産の分割の禁止)[令和3年改正前]

 被相続人は、遺言で、遺産の分割の方法を定め、若しくはこれを定めることを第三者に委託し、

又は相続開始の時から5年を超えない期間を定めて、遺産の分割を禁ずることができる。

○ 民法908条 (遺産の分割の方法の指定及び遺産の分割の禁止)[令和3年改正] 

1項 被相続人は、遺言で、遺産の分割の方法を定め、若しくはこれを定めることを第三者に委託し、又は相続開始の時から五年を超えない期間を定めて、遺産の分割を禁ずることができる。 

2項 共同相続人は、五年以内の期間を定めて、遺産の全部又は一部について、その分割をしない旨の契約をすることができる。ただし、その期間の終期は、相続開始の時から十年を超えることができない。 

 3項 前項の契約は、五年以内の期間を定めて更新することができる。ただし、その期間の終期は、相続開始の時から十年を超えることができない。

4項 前条第二項本文の場合において特別の事由があるときは、家庭裁判所は、五年以内の期間を定めて、遺産の全部又は一部について、その分割を禁ずることができる。ただし、その期間の終期は、相続開始の時から十年を超えることができない。 

5項 家庭裁判所は、五年以内の期間を定めて前項の期間を更新することができる。ただし、その期間の終期は、相続開始の時から十年を超えることができない。

【遺産分割の自由と禁止】

1 分割請求の自由

  潮見【CASE298,299】

(1)遺産分割請求の自由

   請求期間に制限はない。

(2)相続開始時から10年を経過した後

① 具体的相続分の主張の制限 民法904条の3本文

② 共有物分割 民法258条の2第2項本文

 

2 遺産分割の禁止

(1)平成30年改正前(旧法)

① 遺言による場合 上限相続開始から5年(民法908条)

② 共同相続人間の合意 上限相続開始時から5年(解釈)

③ 家庭裁判所の審判

 家庭裁判所は、特別の事由がある場合、期間を定めて、遺産の全部又は一部について分割を禁止することができる(平成30年改正法前908条3項)。

→ 法文上は期間の上限について定めはなかったが、解釈上、民法256条や民法908条と平仄を合わせて、上限は5年と解されていた。

(2)平成30年改正法(新法)

  遺産分割を促進する観点から次のとおりに規制された。

① 遺言による場合 (1)から変更はない。

  潮見【CASE301】

 <論点>分割禁止の遺言があるにもかかわらず、協議分割がされた場合の効力 

② 共同相続人間の合意(調停による場合を含む)

  潮見【CASE302】

ⅰ 上限は5年 新908条2項本文

ⅱ 更新可も、上限は更新時から5年 新908条3項本文

ⅲ ⅰⅱいずれも、期間の終期は、相続開始時から10年以内

  新908条2項ただし書、同3項ただし書

ⅳ 協議・調停による分割禁止の効力は、共同相続人のみならず、その者の特定承継人に及ぶ(民法254条)。(潮見298頁)

③ 家庭裁判所の審判

ⅰ 特別の事由がある場合で

  上限は5年 新908条4項本文

 「特別の事由」

 遺産分割を禁止することが全相続人に共通の利益とにる客観的事情が存在すること。

① 遺言による廃除、親子関係不存在確認の訴え、認知無効の訴え等により、相続人として資格が問題とされている場合

② 遺産の範囲をめぐって争いが生じている場合であって、これらの前提問題についての訴訟の進捗・解決を待つのが全相続人にとっての共通の利益になる場合

③ 即時の分割が遺産の価値に著しい損害を与える場合

ⅱ 更新可も、上限は更新時から5年 新908条5項本文

ⅲ ⅰⅱいずれも、期間の終期は、相続開始時から10年以内

  新908条4項ただし書、同5項ただし書

○ 民法909条(遺産の分割の効力)

 遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる。

 ただし、第三者の権利を害することはできない。

1 本条本文は、遺産分割に関する宣言主義※を定めたものである。すなわち、共同相続人が遺産分割により個別財産を取得した場合、遡及効を認め、被相続人から当該相続人に対し権利が移転したものと取り扱われる。

※ 宣言主義

① 共同相続人が被相続人から遺産に属する個別財産を直接に取得した。

② ①より、「最初から遺産共有はなかった」と宣言した。

2 「第三者」(本条ただし書)の意義

 遺産分割前、共同相続人が遺産に属する個別財産の持分の処分は認められる、また、共同相続人の債権者が遺産に属する個別財産の持分に対する差押えは認められる。

→ 遺産分割の結果、当該共同相続人が当該個別財産を取得しなかった場合、第三者の法的地位(買主、差押え債権者)が覆滅されると、第三者の利益が害される。

→ このような遺産分割前に法的利害関係を有するに至った第三者を保護する。

 第三者の善意・悪意は問わないが、権利保護資格要件としての登記は必要である。

潮見【CASE287】  

【参考・参照文献】

 以下の文献を参考・参照して作成しました。

□ 堂園幹一郎・野口宣大編著 一問一答新しい相続法(第2版)(2020年、商事法務)略称:堂薗・野口

□ 日本弁護士連合会編Q&A改正相続法のポイント-改正経緯をふまえた実務の視点(平成30年、新日本法規)63頁

□ 東京家庭裁判所家事第5部編著・東京家庭裁判所家事第5部(遺産分割部)における相続法改正を踏まえた新たな実務運(2019年、日本加除出版)

□ 潮見佳男 詳解相続法第2版(2022年、弘文堂)288頁  略称:潮見

□ 片岡武・管野眞一 改正相続法と家庭裁判所の実務(2019年、日本加除出版)頁(略称:片岡・管野①)

□ 片岡武・管野眞一 第4版 家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務(2021年、日本加除出版)頁(略称:片岡・管野②)

 

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