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1 体系
民法第5編 相続
第8章 配偶者の居住の権利(平成30年新設)
第1節 配偶者居住権
1028条~1036条
第2節 配偶者短期居住権
1037条~1041条
2 視点
配偶者の居住権を保護
&配偶者の将来の生活のために一定の財産を確保させる必要性
→ 配偶者死亡後の居住建物における生存配偶者の保護を相続法の枠組みの中で図る。(文献⑤392頁 )
○ 民法1028条(配偶者居住権)(平成30年改正により新設)
1項 被相続人の配偶者(以下この章において単に「配偶者」という。)は、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に居住していた場合において、次の各号のいずれかに該当するときは、その居住していた建物(以下この節において「居住建物」という。)の全部について無償で使用及び収益をする権利(以下この章において「配偶者居住権」という。)を取得する。
ただし、被相続人が相続開始の時に居住建物を配偶者以外の者と共有していた場合にあっては、この限りでない。
一 遺産の分割によって配偶者居住権を取得するものとされたとき。
二 配偶者居住権が遺贈の目的とされたとき。
2項 居住建物が配偶者の財産に属することとなった場合であっても、他の者がその共有持分を有するときは、配偶者居住権は、消滅しない。
第3項 第903条第4項の規定(特別受益者の相続分)は、配偶者居住権の遺贈について準用する。
1 配偶者居住権の意義及び制度趣旨
(1)被相続人の配偶者が、相続開始前どおりの住み慣れた居住環境を維持して、居住建物を、無償で、終身、使用・収益することを可能とするため、賃貸借類似の法定債権を創設した。
(2)配偶者(妻を想定)が、被相続人(夫を想定)所有の居住建物に従前どおり、無償で居住を継続するために、居住建物の所有権を取得すると、建物の価格によっては遺産に占める価格の割合が高くなり、預貯金や株式等の他の遺産を取得できない事態も考えられる。
そこで、① 所有権の価格>配偶者居住権の価格、② 配偶者が配偶者居住権を取得した場合、遺産分割において配偶者居住権の財産評価額を取得したものとして取り扱われることを前提として、配偶者が従前どおり、無償で居住を継続することができる制度を創設した。
2 配偶者居住権の成立要件
① 被相続人の配偶者
法律上婚姻している配偶者に限られる。内縁の配偶者は含まれない。
② 被相続人の財産に属した建物(被相続人の単独所有又は被相続人・配偶者の共有)に
③ 相続開始の時に居住していたこと
「居住していた」とは、配偶者が建物を生活の本拠として使用していたことを意味する(立案担当者)。
④ 取得原因(本条1項)
ⅰ 遺産分割 協議、調停、審判
ⅱ 遺贈
遺産分割方法の指定、特定財産承継遺言(相続させる遺言、民法1014条2項)は、除外されている。
配偶者居住権の取得を欲しない配偶者が、相続を放棄することなく、他の遺産を取得することができるようにするため、遺産分割方法の指定、特定財産承継遺言(相続させる遺言、民法1014条2項)は、除外されている。
ⅲ 死因贈与
民法554条、遺贈に関する規定が準用
3 1項ただし書きの場合、配偶者居住権を認めると、配偶者以外の共有者に、被相続人ですら共有物持分に応じた利用権しか有していなかったにもかかわらず、配偶者による無償の居住を受忍せよというのは酷であるからである。
4 2項の場合、配偶者居住権の存続の必要性があるため、配偶者居住権は消滅しないものとした。
5 3項による民法903条4項による準用
婚姻期間20年以上の夫婦の一方である被相続人が、配偶者に対し、配偶者居住権を遺贈又は死因贈与した場合、持戻免除の意思表示があったものと推定される。
6 居住建物の全部について配偶者居住権が成立し、配偶者が居住建物全体について無償で使用、収益することができる権利を取得する。なお、配偶者は、居住建物の使用、収益に必要な限度で敷地を利用することができる。
7 居住建物の収益
① 配偶者居住権は、配偶者短期居住権と異なり、配偶者に、居住建物について使用権限のみならず、収益権限を認めている。
② 収益
主に、居住建物を賃貸して利益を上げることをいう。但し、配偶者は、居住建物の所有者の承諾を得なければ、居住建物を第三者に賃貸することはできない(民法1032条2項3項)。
○ 第1029条(審判による配偶者居住権の取得)(平成30年改正により新設)
遺産の分割の請求を受けた家庭裁判所は、次に掲げる場合に限り、配偶者が配偶者居住権を取得する旨を定めることができる。
一 共同相続人間に配偶者が配偶者居住権を取得することについて合意が成立しているとき。
二 配偶者が家庭裁判所に対して配偶者居住権の取得を希望する旨を申し出た場合において、居住建物の所有者の受ける不利益の程度を考慮してもなお配偶者の生活を維持するために特に必要があると認めるとき(前号に掲げる場合を除く。)。
本条は、遺贈(死因贈与を含む)、家庭裁判所における遺産分割協議・調停は関係がなく、家庭裁判所が審判で配偶者居住権を定めるための要件を定めたものである。
2 まず、1号が検討される。
3 次に、共同相続人の一部が反対している場合等において、2号が検討される。
○ 第1030条(配偶者居住権の存続期間)(平成30年改正により新設)
配偶者居住権の存続期間は、配偶者の終身の間とする。
ただし、遺産の分割の協議若しくは遺言に別段の定めがあるとき、又は家庭裁判所が遺産の分割の審判において別段の定めをしたときは、その定めるところによる。
1 配偶者居住権の存続期間
(1)原則
配偶者の終身
配偶者居住権は、遺言、遺産分割協議において存続期間の定めがない場合、終身の間のものと推定される。
配偶者居住権の財産評価額が高額になることから、配偶者居住権が取得する流動資産等が少なくなるおそれがある。
(2)別段の定め
① 遺産分割協議、調停、審判
② 配偶者の終身より短い存続期間
2 配偶者居住権の延長・更新
上記1(2)②の場合、期間の延長や更新ができるか。
(結論)不可
(理由)定められた期間を前提として、配偶者居住権の財産評価がなされているところ、期間の延長や更新を認めると、適切な財産評価ができなくなるからである。
○ 民法1031条(配偶者居住権の登記等)(平成30年改正により新設)
1項 居住建物の所有者は、配偶者(配偶者居住権を取得した配偶者に限る。以下この節において同じ。)に対し、配偶者居住権の設定の登記を備えさせる義務を負う。
2項 第605条の規定(不動産賃貸借の対抗力)は配偶者居住権について、第605条の4の規定(不動産の賃借人による妨害の停止の請求等)は配偶者居住権の設定の登記を備えた場合について準用する。
1 配偶者居住権は、配偶者短期居住権と比べて、期間が長期に亘ることが予想されるので、居住建物の取得者等に対し対抗することができるようにしておく必要がある。
まず、1項は、配偶者居住権を取得した配偶者が居住建物の所有者に対し配偶者居住権の設定に係る登記請求権を有することを規定した。
次に、2項は、配偶者居住権の登記(不動産登記法3条9号)により、配偶者居住権を取得した配偶者は、居住建物の所有権を取得した者等に対し、配偶者居住権を対抗できることを規定した(民法605条の準用)。また、居住建物の占有を妨害する者に対し妨害の停止を請求でき、居住建物を占有する者に対し返還を請求できる(民法605条の4)。
2 配偶者居住権の設定を命じる遺産分割の審判において、登記手続を命ずることが想定されている。
3 設定登記の登記事項
原則「存続期間 配偶者の死亡時まで」
別段の定め(民法1030条ただし書)
(例)令和2年10月1日から令和12年9月30日まで又は配偶者の死亡時までのうち、いずれか短い期間
4 対抗できる範囲
① 居住建物について物権を取得した物その他の第三者
対抗可
② 居住建物の敷地の所有権を取得した者
対抗不可
居住建物及び敷地の所有権を取得した者が譲渡の際に建物のための敷地利用権を設定していないことが原因であり、この場合、配偶者居住権は、敷地譲受人からの建物明渡し請求に対し、権利濫用を主張するほかない(文献⑥344頁)。
○ 民法1032条(配偶者による使用及び収益)(平成30年改正により新設)
1項 配偶者は、従前の用法に従い、善良な管理者の注意をもって、居住建物の使用及び収益をしなければならない。
ただし、従前居住の用に供していなかった部分について、これを居住の用に供することを妨げない。
2項 配偶者居住権は、譲渡することができない。
3項 配偶者は、居住建物の所有者の承諾を得なければ、居住建物の改築若しくは増築をし、又は第三者に居住建物の使用若しくは収益をさせることができない。
4項 配偶者が第1項又は前項の規定に違反した場合において、居住建物の所有者が相当の期間を定めてその是正の催告をし、その期間内に是正がされないときは、居住建物の所有者は、当該配偶者に対する意思表示によって配偶者居住権を消滅させることができる。
1 居住建物の使用及び収益
民法1028条1項、本条1項本文
2 用法遵守義務及び善管注意義務
本条1項本文
居住建物=配偶者居住権を取得した配偶者以外の者の所有物 → 配偶者は、
① 従前の用法に従い
② 善良な管理者の注意義務
①は、現状維持的な内容であれば基本的にはよいとする趣旨
本条1項ただし書
例えば、配偶者が建物の一部を店舗として使用していたが、店舗の営業を止めた場合、配偶者は、居住建物全体について配偶者居住権を有するため、全部について使用できる。
3 配偶者居住権の譲渡禁止
配偶者居住権は、譲渡不可(本条2項)。
4 居住建物の改築・増築禁止及び第三者に居住建物を使用収益させることの禁止
居住建物所有物の承諾がなければ、改築・増築、第三者に使用収益させることは、不可(本条3項)。
5 1項・3項に違反した場合、居住建物の所有者は、原則として、義務違反状態を是正する旨の催告を経た上、相当期間内に是正されない場合に解除できる(本条4項)。
民法1033条(居住建物の修繕等)(平成30年改正により新設)
1項 配偶者は、居住建物の使用及び収益に必要な修繕をすることができる。
2項 居住建物の修繕が必要である場合において、配偶者が相当の期間内に必要な修繕をしないときは、居住建物の所有者は、その修繕をすることができる。
3項 居住建物が修繕を要するとき(第1項の規定により配偶者が自らその修繕をするときを除く。)、又は居住建物について権利を主張する者があるときは、配偶者は、居住建物の所有者に対し、遅滞なくその旨を通知しなければならない。
ただし、居住建物の所有者が既にこれを知っているときは、この限りでない。
1 居住建物の修繕及び費用負担
居住建物の所有者:配偶者が配偶者居住権による建物の使用・収益を受忍すべき義務を負うが、修繕義務を負わない。
配偶者:居住建物の必要費を負担すべき(原則)。
2 居住建物の所有者が修繕できる場合
配偶者=第1次的修繕権(1項)
所有者=第2次的修繕権(2項)
要修繕状態 but 配偶者が修繕しない場合
3 配偶者の居住建物所有者に対する通知
配偶者 → 所有者 通知(3項)
○ 民法1034条(居住建物の費用の負担)(平成30年改正により新設)
1項 配偶者は、居住建物の通常の必要費を負担する。
2項 第583条第2項の規定(買戻目的物についての費用償還)は、前項の通常の必要費以外の費用について準用する。
1 通常の必要費
① 配偶者負担
② 居住建物の修繕費のほか、居住建物及び敷地に課される固定資産税等も含まれる。
2 特別の必要費及び有益費
居住建物の所有者負担
○ 民法1035条(居住建物の返還等)(平成30年改正により新設)
1項 配偶者は、配偶者居住権が消滅したときは、居住建物の返還をしなければならない。
ただし、配偶者が居住建物について共有持分を有する場合は、居住建物について共有持分を有する場合は、居住建物の所有者は、配偶者居住権が消滅したことを理由としては、居住建物の返還を求めることができない。
2項 第599条第1項及び第2項(借主による収去)並びに第621条(賃借人の原状回復義務)の規定は、前項本文の規定により配偶者が相続の開始後に附属させた物がある居住建物又は相続の開始後に生じた損傷がある居住建物の返還をする場合について準用する。
○ 民法1036条(使用貸借及び賃貸借の規定の準用)(平成30年改正により新設)
第597条第1項及び第3項(期間の満了等による使用貸借の終了)、第600条(損害賠償及び費用の償還の請求権についての期間の制限)、第613条(転貸の効果)並びに第616条の2(賃借物の全部滅失等による賃貸借の終了)の規定は、配偶者居住権について準用する。
配偶者配偶者居住権の消滅事由
① 配偶者の死亡 民法1036条・597条3項
制度趣旨からして、配偶者居住権は相続の対象とはならない。
② 存続期間の満了 民法1036条・597条1項
③ 居住建物の全部滅失等 民法1036条・616条の2
④ 居住建物所有者による消滅請求 民法1032条4項
⑤ 配偶者が居住建物の単独所有者となった場合
混同により消滅 民法1028条2項は、配偶者が居住建物の所有者となったときであっても、他の者が共有持分を有する場合は、消滅しないと規定する(前記)。
⑥ 配偶者が配偶者居住権を放棄した場合
債権放棄により消滅する。
居住不動産の財産評価
○ 簡易な算定方法
配偶者居住権の価格=
建物・敷地の現在価格-配偶者居住権付所有権(負担付き建物所有権+負担付土地所有権等)の価格
[参考]潮見佳男 詳解相続法(平成30年、弘文堂)対応関係
1 1号配偶者短期居住権の成立及び内容
① 遺産分割すべき場合
【CASE 327】(318頁)
② 建物持分につき遺産分割すべき場合
【CASE 328】(318頁)
【参考・参照文献】
このページは、以下の文献を参考・参照して作成しました。
① 日本弁護士連合会編 Q&A 改正相続法のポイント-改正経緯を踏まえた実務の視点-(平成30年、新日本法規)136頁
② 中込一洋著 実務解説 改正相続法(令和元年、弘文堂)94頁
③ 片岡武・管野眞一著 改正相続法と家庭裁判所の実務(2019年、日本加除出版)107頁
④ 東京家庭裁判所家事第5部編著・東京家庭裁判所家事第5部(遺産分割部)における相続法改正を踏まえた新たな実務運用(2019年、日本加除出版)62頁
⑥ 潮見佳男 詳解相続法第2版(2022年、弘文堂)391頁