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(意思表示に関する経過措置)
附則6条 施行日前にされた意思表示については、新法第九十三条、第九十五条、第九十六条第二項及び第三項並びに第九十八条の二の規定にかかわらず、なお従前の例による。
2 施行日前に通知が発せられた意思表示については、新法第九十七条の規定にかかわらず、なお従前の例による。
〇 民法93条(心裡留保)(平成29年改正)
1項 意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。
ただし、相手方がその意思表示が表意者の真意でないことを知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。
2項 前項ただし書の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。
旧93条(心裡留保)
意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方が表意者の真意を知り、又は知ることができたときは、その意思表示は無効とする
1 心裡留保とは、真意と異なる意思表示をいい、例えば、ある物の所有者であるAが、物を売るつもりはないのに、Bに対し「売る」という場合である。意思表示を無効にしてAを保護する理由はないから、原則として意思表示は有効である。
しかし、BがAが物を売るつもりがないことを知っていた(悪意)か、知らない場合でも過失がある(善意・有過失)場合には、利益衡量上、BよりもAを保護すべきである。
文献③は、立法の沿革により、心裡留保を、非真意表示(冗談等)と詐欺的心裡留保(協議の心裡留保)に区分し、後者については相手方に悪意がなければ有効とすべきとする。
2 新法1項ただし書
意思表示が無効となる場合
【旧法】相手方が表意者の真意を知り、又は知ることができたとき
【新法】相手方がその意思表示が表意者の真意でないことを知り、又は知ることができたとき
上記例でいうと、AのBに対する「売る」という意思表示について、
【旧法】では、Aの「売らない」という真意について、Bが悪意又は善意・有過失の場合、Aの意思表示は無効となる。【新法】では、Aの「売る」という意思表示が真意でないことについて、Bが悪意又は善意・有過失の場合、Aの意思表示は無効となる。
Aの意思表示を無効とする基準となる基準を、心裡にある真意について悪意又は善意・有過失と考えるのではなく、表明された内容が真意でないことについて悪意又は善意・有過失であることに変更することである。実質的な変更ではなく、理論に合わせ、基準を明確にするための改正である。
3 新法2項
旧法は善意の第三者を保護する規定を設けていなかったが、民法94条2項の類推適用より、善意の第三者を保護すると解するのが通説であつた。
上記例でいうと、ABの売買の対象となった物をBがCに転売した場合で、CがAの売らないという真意について知らない場合、AはCに意思表示が無効であると主張することはできない。
改正法は、この解釈を採用したものである。
〇 民法94条(虚偽表示)
1項 相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする。
2項 前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。
〇 民法97条(意思表示の効力発生時期等)(平成29年改正)
1項 意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる。
2項 相手方が正当な理由なく 意思表示の通知が到達することを妨げたときは、その通知は、通常到達すべきであった時に到達したものとみなす。
3項 意思表示は、表意者が通知を発した後に死亡し、意思能力を喪失し、又は行為能力の制限を受けたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。
旧97条
1項 隔地者に対する意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる。
2項 隔地者に対する意思表示は、表意者が通知を発した後に死亡し、又は行為能力を喪失したときであっても、そのためにその効力を妨げられない。
1 意思表示の効力発生時期(1項)
表白 → 発信 → 到達 → 了知
意思表示の効力発生時期について、新法は、旧法と同様、
「到達」とした。
表意者の利益 と 相手方の利益 との調和
→ 発信では不十分だが、了知まで不要
→ 到達主義の採用
到達の概念として、相手方にとって了知可能な状態に置か
れたこと、すなわち意思表示を記載した書面が相手方の支配
権内におかれたことをもって足りるとの解釈(判例)は維持
された。
また、隔地者(発信と到達との間に時間的な隔たりがある
者)間のみならず対話者間においても意思表示の効力発生
時期が観念できるので、
新法は、「隔地者」の文言を削除した。
【論点】表意者が、相手方において了知について支障があることを知っている場合でも、到達を認めるか(文献③242頁)。例えば、AがBに対し、契約解除の意思表示を記載した手紙を送付し、その手紙はBの自宅に配達されたが、その当時、Bは行方不明であり、そのことをAも知っていた場合、到達を認めてよいか。
判例・通説は、到達を認める。
平野243頁は、表意者の了知(可能性)に対する正当な信頼が必要であるとし、表意者が相手方の了知障害事実を知っていた場合は、到達は認められるべきではないとする。
2 相手方が、意思表示の通知が到達することを妨げたとき(2項)=みなし到達
相手方が、正当な理由がなく、意思表示の通知が到達することを妨げたとき、すなわち意思表示が了知可能な状態に置かれることを相手方が妨げたとき、通知が通常到達すべきであった時に到達したものとみなした。
(判例)
□最判昭和36年4月20日
□最判平成10年6月11日
内容証明郵便の内容である遺留分減殺の意思表示は、社会通念上、被上告人の了知可能な状態に置かれ、遅くとも留置期間が満了した時点で被上告人に到達したものと認めるのが相当である。
① 内容の推知可能性
受取人が郵便物の内容を推知し得ること
② 郵便物の受領可能性
郵便物が容易に受領可能であること
3 表意者の通知発信後、表意者に下記事情が生じた場合
においても、意思表示の効力は妨げられない(3項)。
① 死亡
② 意思能力の喪失
旧法で規定を欠いていたところ、追加した。
③ 行為能力の制限
行為能力の喪失(旧法)→行為能力の制限(新法)
〇 民法98条の2(意思表示の受領能力)(平成29年改正)
意思表示の相手方(B)がその意思表示を受けた時に意思能力を有しなかったとき又は未成年者若しくは成年被後見人であったときは、その意思表示をもってその相手方(B)に対抗することができない。
ただし、次に掲げる者がその意思表示を知った後は、この限りでない。
一 相手方の法定代理人
二 意思能力を回復し、又は行為能力者となった相手方
旧98条の2(意思表示の受領能力)
意思表示の相手方がその意思表示を受けた時に未成年者又は成年被後見人であったときは、その意思表示をもってその相手方に対抗することができない。
ただし、その法定代理人がその意思表示を知った後は、この限りでない。
1 A→Bの意思表示で、相手方Bが意思表示を理解する能力に十分でない場合(下記)、相手方を保護する(本文)。
① 意思能力を有していない場合
旧法で規定を欠いていたが、新法は追加した。
② 未成年者
③ 成年被後見人
2 相手方Bを保護する保護する必要がない場合、Aは、意思表示を対抗できる(ただし書)。
【参考・参照文献】
このページは、下記文献を参考・参照して作成しました。
□ 日本弁護士連合会編・実務解説改正債権法(第2版)(令和2年、弘文堂)6頁、20頁
□ 第一東京弁護士会司法制度調査委員会編・新旧対照でわかる改正債権法の逐条解説3頁
□ 平野裕之 民法総則(2017年、日本評論社)146頁、241頁