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1 時効完成を妨げる事由として、改正前の法は、「中断」と「停止」を定めていた。しかし、その法的効果とネーミングがマッチングしておらず、また、複雑な解釈に委ねられていた部分もあり、分かりにくかった。
改正法は、これを、「更新」と「完成猶予」とした上、規定を整備した。更新事由が生じると、それまで進行してきた時効期間はリセットされ、無に帰する。
① ネーミングの変更
中断 → 更新 停止 → 完成猶予
② 完成猶予と更新の振分け基準
権利行使者の権利行使意思の表れといえる事由
→ 完成猶予事由
権利の存在が確証が得られたといえる事由
→ 更新事由
2 新法の整理
(丸山絵美子・法学教室480号70頁)
(1)権利行使による完成猶予
① 更新に至る事由 147条、148条
② 完成猶予だけとなる事由 149条、150条
(2)権利行使困難による完成猶予 158条~161条
(3)更新だけとなる事由 承認 152条
2 改正法147条
(1)1項
① 完成猶予事由
② ()内 裁判上の催告法理(裁判手続上の主張に「催告」(旧153条)の限度で、裁判手続中は継続して認め、裁判手続終了後6か月経過まで時効が完成しないものとする判例法理)を採用した。
(2)2項
更新事由
〇 民法147条(裁判上の請求等による時効の完成猶予及び更新)(平成29年改正)
1項 次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了する(確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定することなくその事由が終了した場合にあっては、その終了の時から6箇月を経過する)までの間は、時効は完成しない。
一 裁判上の請求
二 支払督促
三 民事訴訟法第275条第1項の和解又は民事調停法若しくは家事事件手続法による調停
四 破産手続参加、再生手続参加又は更生手続参加
2項 前項の場合において、確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定したときは、時効は、同項各号に掲げる事由が終了した時から新たにその進行を始める。
旧147条(時効の中断事由)
時効は、次に掲げる事由によって中断する。
一 請求
二 差押え、仮差押え又は仮処分
三 承認
旧147条(時効の中断事由)
時効は、次に掲げる事由によって中断する。
一 請求
二 差押え、仮差押え又は仮処分
三 承認
旧148条(時効の中断の効力が及ぶ者の範囲)
前条の規定による時効の中断は、その中断の事由が生じた当事者及びその承継人の間においてのみ、その効力を有する。
旧149条(裁判上の請求)
裁判上の請求は、訴えの却下又は取下げの場合には、時効の中断の効力を生じない。
旧150条(支払督促)
支払督促は、債務者が民事訴訟法第392条に規定する期間内に仮執行の宣言の申立てをしないことによりその効力を失うときは、時効の中断の効力を生じない。
旧151条(和解及び調停の申立て)
和解の申立て又は民事調停法若しくは家事事件手続法による調停の申立ては、相手方が出頭せず、又は和解若しくは調停が調わないときは、1箇月以内に訴えを提起しなければ、時効の中断の効力を生じない。
旧152条(破産手続参加)
破産手続参加、再生手続参加又は更生手続参加は、債権者がその届出を取り下げ又はその届出が却下されたときは、時効の中断の効力を生じない。
旧157条(中断後の時効の進行)
1項 中断した時効は、その中断の事由が終了した時から、新たにその進行を始める。
2項 裁判所上の請求によって中断した時効は、裁判が確定した時から、新たにその進行を始める。
〇 民法148条(強制執行等による時効の完成猶予及び更新)
1項 次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了する(申立ての取下げ又は法律の規定に従わないことによる取消しによってその事由が終了した場合にあっては、その終了の時から六箇月を経過する)までの間は、時効は、完成しない。
一 強制執行
二 担保権の実行
三 民事執行法(昭和五十四年法律第四号)第百九十五条に規定する担保権の実行としての競売の例による競売
四 民事執行法第百九十六条に規定する財産開示手続又は同法第二百四条に規定する第三者からの情報取得手続
2項 前項の場合には、時効は、同項各号に掲げる事由が終了した時から新たにその進行を始める。
ただし、申立ての取下げ又は法律の規定に従わないことによる取消しによってその事由が終了した場合は、この限りでない。
改正法147条
(1)1項
① 完成猶予事由
② ()内 裁判上の催告法理(裁判手続上の主張に「催告」(旧153条)の限度で、裁判手続中は継続して認め、裁判手続終了後6か月経過まで時効が完成しないものとする判例法理)を採用した。
(2)2項
更新事由
【判例】最高裁判所第三小法廷令和2年12月15日
[争点]
同一の当事者間に複数の金銭消費貸借契約に基づく貸金返還債務元本が存在する場合において、借主が充当を指定しないで貸主に一部弁済したとき、時効更新(旧法:中断)が生ずる範囲
(例)なお、判例の事案とは異なる。
☆ 時系列1
債務甲 X(貸主) → Y(借主) 100万円
債務乙 X(貸主) → Y(借主) 100万円
☆ 時系列2
YはXに対し、充当を指定しないで、10万円を弁済した(一部弁済)。
☆ 時系列3
(時系列2の一部弁済によって、時効が更新(旧法:中断)していないならば)、債務甲について時効期間が経過
☆ 時系列4
XはYを被告として、債務甲債務乙双方の貸金の返還を求めて訴え提起した。
Yは、債務甲について消滅時効を援用した。
[判旨]
借主は、各元本債務の存在を認識しているのが通常であり、弁済の際、充当すべき債務を指定することができるのであって、特段の事情のない限り、各元本の全てについて、その存在を知っている旨を表示するもの解されるから、当該一部弁済は、特段の事情のない限り、各元本債務の承認(民法152条1項、旧法147条3号)に当たる。
→ (例)では、債務甲についても、時系列2の時点で時効が更新されたといえ、借主の消滅時効の主張は認められない。
[評価](文献①による。)
1 大審院判例(大判昭和13年6月25日)を確認したものである。
2 債務者が現にその存在を認識していない元本債務の場合(例 相続した元本債務)には、判例のいう特段の事情が認められるのではないか。
3 発生原因の異なる複数の債務(貸金返還債務/売買代金債務)では当然に、判例の法理が妥当するとはいえないと思われる。
[参考・参照文献]
① 田中洋・法学教室487号153頁