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1 担保責任について契約責任説を採用
平成29年改正法は、売主の瑕疵担保責任を始めとする担保責任について、法定責任説を否定し、契約責任説を採用した。
契約責任説によると、売主は、目的物が特定物、不特定物いずれを問わず、契約内容に適合した物を買主に引き渡す義務を負い、契約に適合しない物の引渡しは債務不履行に当たる。
この場合、① 買主は売主に対し履行追完(具体的には、目的物の修補、代替物の引渡し、不足分の引渡し)請求権、代金減額請求権を有する。
また、② 債務不履行による損害賠償請求(415条)、解除(514条)も、一般準則にしたがって可能である。
2 「瑕疵」概念から「契約不適合」概念に
国民に分かりやすい民法の理念より、「瑕疵」概念を止め、た上、「契約不適合」概念を採用した。
3 経過措置 附則34条
売買契約の締結日:施行日前 → 旧法
売買契約の締結日:施行日後 → 新法
〇 民法565条(移転した権利が契約の内容に適合しない場合における売主の担保責任)
前3条の規定は、売主が買主に移転した権利が契約の内容に適合しないものである場合(権利の一部が他人に属する場合においてその権利の一部を移転しないときを含む。)について準用する。
【解説】
1 改正法は、売主の担保責任を契約責任説に拠って法律構成した。これによると、売主は、買主に対し、契約内容に適合した権利を移転する義務を負う。この観点から改正前の法を見直し、新562条(買主の追完請求権)、新563条(買主の代金減額請求権)、新564条(買主の損害賠償請求権及び解除権)を準用することにした。
2 改正前の法との違い
(1)追完請求権を明文化した。
(2)代金減額請求権
① 改正前の法
旧563条(権利の一部が他人に属する場合における売主の担保責任)、旧565条(数量の不足・物の一部滅失の場合における売主の担保責任)
② 改正法
売買一般について規定を設けた。→新563条
(3)損害賠償請求における善意
① 改正前の法
旧561条ただし書き:他人物売買における買主の売主に対する損害賠償請求は「善意」の買主に限定されていた。
旧563条3項:権利の一部が他人に属する場合における買主の売主に対する損害賠償請求は「善意」の買主に限定されていた。
旧566条1項後段:売買の目的物が地上権等の目的である場合における買主の売主に対する損害賠償請求は「善意」の買主に限定されていた。
② 改正法
①の善意の要件を撤廃した。
(4)解除における善意
① 改正前の法
旧563条2項:権利の一部が他人に属する場合における買主の売主に対する解除は「善意」の買主に限定されていた。
旧566条1項前段:売買の目的物が地上権等の目的である場合における買主の売主に対する解除は「善意」の買主に限定されていた。
② 改正法
①の善意の要件を撤廃した。
〇 民法566条(目的物の種類又は品質に関する担保責任の期間の制限)(平成29年改正)
売主が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない目的物を買主に引き渡した場合において、買主がその不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知しないときは、買主は、その不適合を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。
ただし、売主が引渡しの時にその不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかったときは、この限りでない。
【解説】
1 改正前の法
旧570条 売主の瑕疵担保責任 旧566条を準用により、1年の期間制限(除斥期間)に服する。
2 改正法
売買の目的物の契約内容不適合のうち
(1)種類及び品質に関する不適合の場合
① 原則
不適合を知った時から1年以内に売主にその旨を通知
(趣旨)契約不適合(瑕疵)に関する紛争を早期に解決
する。引渡しにより履行が終了したとの売主の期待を保護する。
② 例外
売主が、引渡し時、目的物の契約内容不適合について悪意又は善意・重過失の場合
①は適用されない(新566条ただし書き)。
一般の消滅時効の規定が適用される。
(趣旨)売主の期待を保護する必要はない。
旧法(旧570条・566条3項)が、買主は契約解除及び損害賠償請求を事実を知ったときから1年以内にしなければならないとしていたのと比べると、買主の負担は軽減されたといえるが、瑕疵担保による損害賠償請求権は、買主が売主から目的物の引渡しを受けた時から消滅時効に服すること(最判平成13年11月27日)は旧法と変わらない。改正により、権利保存と消滅時効との区分が明確になったといえる(丸山絵美子・法学教室480号69頁)。
(2)目的物の数量、権利移転義務の契約内容不適合
外形的に不適合が明らかである。
→ 新566条は適用されない。
3 種類物の契約内容不適合(瑕疵)について、改正前は10年間の消滅時効に服していたが、改正法適用事案では、権利行使が短くなるので注意が必要である。
〇 民法567条(目的物の滅失等についての危険の移転)
1項 売主が買主に目的物(売買の目的として特定したものに限る。以下この条において同じ。)を引き渡した場合において、その引渡しがあった時以後にその目的物が当事者双方の責めに帰することができない事由によって滅失し、又は損傷したときは、買主は、その滅失又は損傷を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。
この場合において、買主は、代金の支払を拒むことができない。
2項 売主が契約の内容に適合する目的物をもって、その引渡しの債務の履行を提供したにもかかわらず、買主がその履行を受けることを拒み、又は受けることができない場合において、その履行の提供があった時以後に当事者双方の責めに帰することができない事由によってその目的物が滅失し、又は損傷したときも、前項と同様とする。
1 引渡しによる目的物の滅失・損傷の危険の移転
改正前、特定物売買契約当事者双方の帰責事由によらないで目的物が滅失・損傷した場合、目的物で引き渡された時に目的物の滅失・損傷の危険は買主に移転するとされてきた。
改正によって、この解釈を明文化するため、本条1項が設けられた。→履行の追完請求、代金減額請求、損害賠償請求、契約解除不可
また、この場合、買主は、代金の支払いを拒絶することはできない(注意的に明らかにした)。
不動産売買契約において引渡しに先行して所有権移転登記がされた場合、これを目的物の支配の移転として本条1項の「引渡し」に当たるかは、明文規定がなく、解釈に委ねられる。
2 受領遅滞による目的物の滅失・損傷の危険の移転
改正前、買主が売主による瑕疵なき物の弁済提供について受領拒絶している間に、売買契約当事者双方の帰責事由によらないで目的物が滅失・損傷した場合、「受領遅滞の効果」として、目的物の滅失・損傷の危険は買主に移転するとされてきた。この考えを明文化した。
種類物にも適用されるが、受領遅滞後に目的物の滅失・損傷が生じた時点でも特定されていることが必要である。
3 改正により、旧534条が削除され、新536条は反対給付の履行拒絶権と構成された。この状況を踏まえて、明文規定を設ける必要から規定されたといえる。
[補足]給付危険と対価危険
1 双務契約における危険負担の意味
次の2つの危険に区分して考える。
① 対価危険の負担(移転)
給付を受けていない(目的物を受領していない)のであるから、反対給付をする(代金を支払う)必要がない(原則)。
② 所有者危険(給付危険(潮見))の移転
所有者として負担すべき危険が、売買契約において、いつ移転するか。移転すれば、売主として債務不履行責任を免れる。
改正前は、所有者危険も対価危険とまとめて規定していたが(旧534条、旧535条)、改正法は、所有者危険を売買契約に規定し(新567条)、有償契約に準用する(新559条)こととした。
戸建て住宅の売買契約で買主に危険が移転する前の不可抗力による建物の崩壊は、売主はその所有者危険を負担し、代金の支払いを受けることができない(対価危険は売主から買主に移転せず、買主は対価危険を負わない)。
<参考・参照文献>
〇 平野裕之・債権各論Ⅰ契約法(2018年、日本評論社)65頁、196頁
〇 潮見佳男・新債権総論Ⅰ(2017年、信山社)202頁、214頁
2 給付危険と対価危険
北居功 再確認・民法の基本①Ⅵ給付危険と対価危険 法学教室454号32頁
売買契約を例にとると、売主[債務者]・買主[債権者]の双方の責めに帰することができない事由(偶発的事由)によって、目的物が滅失・毀損した場合の話である。
給付危険は、債務者が給付義務を負い続けるのが妥当かという観点から考える。
対価危険は、目的物に対する支配の移転=引渡しを基準に、その前は債務者が負い、その後は債権者が負う(536条1項)。
① 給付危険
当該債務(目的物の引渡債務)の取扱い
② 対価危険
反対債務(代金支払債務)の取扱い
(1)特定物売買
① 滅失
ⅰ 給付危険
売主[債務者]の引渡義務は消滅する。
→ 契約締結時から買主[債権者]が負う。
ⅱ 対価危険
a 引渡し前に滅失
売主→<代金請求>→買主
←履行拒絶権(536条1項)
→ 売主[債務者]が負担する。
b 引渡し後に滅失
売主→<代金請求>→買主(567条1項後段)
→引渡しにより、対価危険が買主[債権者]に移転した。
② 損傷
ⅰ 給付危険
a 引渡し前に損傷発生
売主←<追完請求(562条1項)>←買主
買主の引渡請求権は追完により価値を維持している。
→ 売主[債務者]が負う。
b 引渡し後に損傷発生
売主←<追完請求(562条1項)>←買主
できない(567条1項前段)。
→ 引渡しにより、給付危険が買主[債権者]に移転した。
ⅱ 対価危険
a 引渡し前に損傷発生
売主←<追完請求(562条1項)>←買主
追完に係る費用は売主負担であり、売主は買主に同費用
を請求できない。
→ 売主[債務者]が負担する。
b 引渡し後に損傷発生
売主←<追完請求(562条1項)>←買主
できない(567条1項前段)
追完に係る費用は買主負担となる。
売主→<代金請求(567条1項後段)>→買主
→ 引渡しにより、対価危険が買主[債権者]に移転した。
(2)種類売買
① 給付危険
特定に目的物調達義務からの解放を認める見解によると、
特定前 売主[債務者]が負う。
特定後 買主[債権者]が負う。
② 対価危険
引渡し前 売主[債務者]の負担
引渡し後 買主[債権者]の負担
引渡しにより対価危険が移転する。567条1項後段
〇 民法568条(競売における担保責任等)
1項 民事執行法その他の法律の規定に基づく競売(以下この条において単に「競売」という。)における買受人は、第541条(催告による解除)及び第542条(催告によらない解除)の規定並びに第563条(買主の代金減額請求権)(第565条(移転した権利が契約の内容に適合しない場合における売主の担保責任)において準用する場合を含む。)の規定により、債務者に対し、契約の解除をし、又は代金の減額を請求することができる。
2項 前項の場合において、債務者が無資力であるときは、買受人は、代金の配当を受けた債権者に対し、その代金の全部又は一部の返還を請求することができる。
3項 前2項の場合において、債務者が物若しくは権利の不存在を知りながら申し出なかったとき、又は債権者がこれを知りながら競売を請求したときは、買受人は、これらの者に対し、損害賠償の請求をすることができる。
4項 前3項の規定は、競売の目的物の種類又は品質に関する不適合については、適用しない。
[改正前の法]
旧568条
1項 強制競売における買受人は、第561条から前条までの規定により、債務者に対し、契約の解除をし、又は代金の減額を請求することができる。
旧570条
売買の目的物に隠れた瑕疵があったときは、第566条の規定を準用する。ただし、強制競売の場合は、この限りでない。
【解説】
1 改正法は、競売における担保責任等の規定が、強制競売に限らず、民事執行法その他の規定に基づく競売全体に適用されることを明らかにした。
2 競売において目的物に種類・品質に関する不適合がある場合
担保責任等に関する規定(本条1項~3項)が適用されない。
3 競売において目的物に種類・品質以外の不適合が場合(数量不足の場合(※)等)
改正法541条・542条による解除、563条による代金減額請求権が適用される。
4 法律的瑕疵
目的物に関する不適合と解するか、権利に関する不適合と解するか、従前どおり、解釈に委ねられる。
※ 数量指示売買の要件に該当する場合に限られない。
〇 民法570条(抵当権等がある場合の買主による費用の償還請求)
〇 民法572条 (担保責任を負わない旨の特約)
売主は、第562条第1項本文又は第565条に規定する場合における担保の責任を負わない旨の特約をしたときであっても、
知りながら告げなかった事実及び自ら第三者のために設定し又は第三者に譲り渡した権利については、その責任を免れることはできない。
改正により引用条文が変更されたことに伴い、改正された。
【参考・参照文献】
以下の文献を参考・参照して、このページを作成しました。
① 日本弁護士連合会編・実務解説改正債権法(第2版)(令和2年、弘文堂)402頁
② 第一東京弁護士会司法制度調査会編・新旧対照でわかる改正債権法の逐条解説268頁