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債権法改正 賃貸借契約(その2)のページ

民法第3編 債権
第2章 契約
第7節 賃貸借

         第2款 賃貸借の効力

○ 民法605条(不動産賃貸借の対抗力)(平成29年改正)

 不動産の賃貸借は、これを登記したときは、その不動産につて物権を取得した者その他の第三者に対抗することができる。

旧605条(不動産賃貸借の対抗力)

 不動産の賃貸借は、これを登記したときは、その後その不動産について物権を取得した者に対しても、その効力を生じる。

<不動産賃借権の対抗力>
1 不動産賃借権の物権化を踏まえて、不動産賃借権と対抗する権利との関係を対抗関係とする趣旨である。

2 平成29年改正法は、判例法理を踏まえて、次の3点を改正した。

① 旧法「その後」の文言削除

 登記前から存在する第三者との関係も対抗関係とする趣旨

 

[事案ⅰ]

 A(土地所有者・賃貸人)B(賃借人) 土地賃貸借契約

 AC 土地売買契約

 B 賃借権の登記

 A→C 所有権移転登記

[事案ⅱ]

 AC 土地売買契約

 A(土地所有者・賃貸人)B(賃借人) 土地賃貸借契約

 B 賃借権の登記

 A→C 所有権移転登記

 

 旧法では、厳密には、賃借権の登記による対抗力が[事案ⅱ]は適用されないが、新法では、[事例ⅰ]でも[事例ⅱ]でも、BはCに対し、賃借権を主張・対抗できる。

(藤村和夫・新民法基本講義契約法(2018年3月、信山社)213頁)

 

 対抗関係は、対抗要件具備の先後により決められるのであり、時系列により決められるものではない(潮見佳男 民法(債権関係)改正法の概要(平成29年、金融財政事情研究会)294頁)。

 

② 新法「その他の第三者」の例

 不動産の二重賃借人、物権を差し押さえた者

③ 「効力を生ずる」→「対抗することができる」

3 対抗要件の意味(文献③)

(1)通常の場合(177条、178条、467条)

 1つの権利をめぐって、相容れない者同士が争う場合

(2)賃借権の場合

 本来的効力 債権者である賃貸人に対してのみ主張可

 拡張的効力 第三者である新所有者に対しても主張可

4 賃借権登記が対抗要件として有する機能の限界

 登記申請が賃貸人・賃借人の共同申請であるところ、賃貸人は通常の場合これに協力しない。また、賃借人の賃貸人に対する賃借権の登記請求権は特約がない限り否定される(判例)。

→ 賃借権のと登記がされることは少ない。

→ 日ロ戦争後の地震売買

→ 特別法の制定

 借地:建物保護法(1909年)、借家:借家法(1921年)

 これらは、借地借家法に引き継がれた。

<賃借権の二重設定>

1 問題の所在

① 不動産所有者A→[賃貸]→賃借人B

② 不動産所有者A→[賃貸]→賃借人C

 

 Bの賃借権とCの賃借権いずれが優先するか。

2 考え方

[A]賃借権の対抗要件を先に具備した者が優先する。

 平成29年改正前民法下の判例(最判昭和28年12月18日)・通説(星野ほか)

 賃借権の対抗要件を二重賃借権間の優劣判定基準として用いるのが適切である。

 不動産賃借権について対抗要件を具備した者>不動産の新所有者>不動産の占有を取得したが不動産賃借権について対抗要件を具備していない者

 対抗要件には、民法上の対抗要件のほか、借地借家法上の対抗要件を含む。

[B]不動産の占有を先に取得した者が優先する。

 Bの賃借権とCの賃借権は、債権の性質上、いずれが優先するという関係はなく、両者は平等である。Bが引渡しを受けると、Cの賃借権は履行不能となる。

 

3 平成29年改正民法

 二重賃借人は「その他の第三者」(民法605条)に含まれるとし、[A]を採用した。

 

(中田456頁)

 

○ 民法605条の2(平成29年改正により新設)

1項 前条、借地借家法(平成3年法律第90号)第10条又は第31条その他の法令の規定による賃貸借の対抗要件を備えた場合において、その不動産が譲渡されたときは、その不動産の賃貸人たる地位は、その譲受人に移転する。

2項 前項の規定にかかわらず、

不動産の譲渡人及び譲受人が、

賃貸人たる地位を譲渡人に留保する旨及び

その不動産を譲受人が譲渡人に賃貸する旨の

合意をしたときは、

賃貸人たる地位は、譲受人に移転しない。

 この場合において、譲渡人と譲受人又はその承継人との間の賃貸借が終了したときは、

 譲渡人に留保されていた賃貸人たる地位は、

譲受人又はその承継人に移転する。

3項 第1項又は前項後段の規定による賃貸人たる地位の移転、賃貸物である不動産について所有権の移転の登記をしなければ、賃借人に対抗することができない。

4項 第1項又は第2項後段の規定により賃貸人たる地位が譲受人又はその承継人に移転したときは、第608条の規定による費用の償還に係る債務及び第622条の2第1項の規定による同項に規定する敷金の返還に係る債務は、譲受人又はその承継人が承継する。

 

<不動産賃貸人たる地位の移転>

1 対抗要件を備えた不動産賃借権について、不動産所有権が移転した場合に所有権譲受人に賃貸人たる地位を当然に移転させるものである。第1項、第3項及び第4項は、旧法下の判例法理を基本的に踏襲し、これを明文化した。

2 第2項は、譲渡人に賃貸人たる地位を留保する場合の要件及び譲受人に賃貸人たる地位が移転する場合の要件を規定した。

□ 賃貸人=旧所有者(A)、賃借人(B)

      新所有者(C)

□ 賃借人たる地位の留保

 ① AC間の留保合意 ② C→A 賃貸借

 → 物件は、C→A→B の転貸借関係

□ 第2項後段の賃貸人たる地位の移転

  ② C → A 賃貸借 が終了した場合

3 2項前段による賃貸人たる地位の留保の場合、賃貸不動産の譲受人<賃貸関係>賃貸不動産の譲渡人<転貸関係>不動産の賃借人という関係となる。民法613条が適用されるかは、解釈問題である。

4 敷金返還債務の承継

下記判例法理①②のうち①を規定した。②について取引実務に定着していると評価できるか疑義があるので、規定されず、解釈に委ねられた。

① 敷金返還債務が譲受人に当然に承継される。

② 旧所有者のもとで延滞賃料債務などがあれば、当然に敷金からこれに充当される。 

○ 民法605条の3(合意による不動産の賃貸人たる地位の移転)(平成29年改正により新設)

 不動産の譲渡人が賃貸人であるときは、その賃貸人たる地位は、賃借人の承諾を要しないで、譲渡人と譲受人との合意により、譲受人に移転させることができる。

 この場合においては、前条第3項及び第4項の規定を準用する。

<合意による不動産賃貸人たる地位の移転>

1 不動産の所有権の譲渡(A→C)に伴い、賃貸人たる地位を、賃借人(B)の承諾を要しないで、譲渡人(A)・譲受人(C)間の合意で、譲渡人(A)から譲受人(C)に移転させることができる。

 賃借人の承諾を要しない点は、判例法理であり、契約上の地位を移転させることには契約の相手方の承諾を要すること(民法539条の2)の例外となる。

□ 賃貸人=旧所有者(A)、賃借人(B)

     新所有者(C)

2 対抗力ある不動産賃借権については、次のとおり。

① 譲渡人(A)・譲受人(C)間の合意がある場合

  本条が適用され、賃貸人たる地位がAからCに移転する。

② 譲渡人(A)・譲受人(C)間の合意がない場合

  605条の2が適用され、

  賃貸人たる地位がAからCに移転する。

3 「対抗力ない賃借権が設定されている」不動産が譲渡された場合(例:駐車場の賃貸借契約、自販機の設定契約)、活用が期待される。

○ 民法605条の4(平成29年改正により新設)

 不動産の賃借人は、第605条2第1項に規定する対抗要件を備えた場合において、次の各号に掲げるときは、それぞれ当該各号に定める請求をすることができる。

一 その不動産の占有を第三者が妨害しているとき

   その第三者に対する妨害の停止の請求

二 その不動産を第三者が占有しているとき

   その第三者に対する返還の請求

1 旧法では明文規定を欠いた、対抗要件を具備した不動産賃借権について、第三者に対する妨害停止請求権及び返還請求権を認めた。

2 内容

一号 妨害停止請求権

 占有訴権における占有保持の訴え(民法198条)に相応

二号 返還請求権

 占有訴権における占有回収の訴え(民法200条)に相応 

 

 占有訴権における占有保全の訴え(民法199条)に相応する、妨害予防請求権は認められていない。← 賃借権が債権であるため。

3 経過規定

 施行日前に不動産の賃貸借契約が締結された場合において施行日以後にその不動産の占有を第三者が妨害し、又はその不動産を第三者が占有しているときにも適用される(附則34条3項)。

○ 民法606条(賃貸人による修繕等)

1項 賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。

 ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない。(平成29年改正)

2項 賃貸人が賃貸物の保存に必要な行為をしようとするときは、賃借人は、これを拒むことができない。

1 平成29年改正前の旧法では、賃借人の帰責事由により要修繕状態となった場合において、賃貸人が修繕義務を負うか明確に規定されていなかった。平成29年改正により、1項ただし書を加えて、この場合、賃貸人は修繕義務を負わないことを明確にした。

2 本条は任意規定である。

○ 民法607条(賃借人の意思に反する保存行為)

 賃貸人が賃借人の意思に反して保存行為をしようとする場合において、そのために賃借人が賃借をした目的を達することができなくなるときは、賃借人は、契約の解除をすることができる。

○ 第607条の2(賃借人による修繕)(平成29年改正により新設)

 賃借物の修繕が必要である場合において、次に掲げるときは、賃借人は、その修繕をすることができる。

一 賃借人が賃貸人に修繕が必要である旨を通知し、又は賃貸人がその旨を知ったにもかかわらず、賃貸人が相当の期間内に必要な修繕をしないとき。

二 急迫の事情があるとき。

1 平成29年改正前の旧法では、賃貸人が必要な修繕をしない場合において、賃借人が修繕する権限を有するかについて、明文規定を欠いていたが、可能であると解釈されていた。

2 平成29年改正法は、所有権を有する賃貸人の利益保護及び賃借人の保護の必要性を考慮して、賃借人が修繕する権限を有する場合を限定した。本条は任意規定である。

○ 民法608条(賃借人による費用の償還請求)

1項 賃借人は、賃借物について賃貸人の負担に属する必要費を支出したときは、賃貸人に対し、直ちにその償還を請求することができる。

2項 賃借人が賃借物について有益費を支出したときは、賃貸人は、賃貸借の終了の時に、第百九十六条第二項の規定に従い、その償還をしなければならない。ただし、裁判所は、賃貸人の請求により、その償還について相当の期限を許与することができる。

<費用償還請求権>

1 必要費

① 賃貸人の負担

② 賃借人が支出した場合、賃貸人に対する費用償還請求権(本条1項)

 「賃貸人の負担に属する」

個別の契約の内容によって定まる。

(視点)賃貸借においては目的物を使用収益させることが賃貸人の義務である。賃貸人が目的物を使用収益できる状態におくために必要な費用は、反対の特約のない限り、賃貸人の負担に属すると解すべき(中田398頁)

 

2 有益費

 有益費の例:借用物の改良費

① 賃貸人の負担

② 賃借人が支出した場合、賃貸人に対する費用償還請求権(本条2項本文)

(内容)

賃貸借の終了時

価格の現存する場合に限り、

賃貸人の選択に従い、

賃借人の支出した金額or増加額

③ 償還について相当期限の許与(本条2項ただし書)

留置権を消滅させる意味がある。

 

〇 民法609条(減収による賃料の減額請求)(平成29年改正)

 耕作又は牧畜を目的とする土地の賃借人は、不可抗力によって賃料より少ない収益を得たときは、その収益の額に至るまで、賃料の減額を請求することができる。

609条(減収による賃料の減額請求)

 収益を目的とする土地の賃借人は、不可抗力によって賃料より少ない収益を得たときは、その収益の額に至るまで、賃料の減額を請求することができる。

 ただし、宅地の賃貸借については、この限りでない。

旧法は、収益を目的とする土地の賃貸借について減収のリスク負担を賃貸人に負わせるものであり、合理性に疑義があった。

耕作又は牧畜を目的とする土地の賃貸借に限定して、旧法の取扱いを認めた。

〇 民法610条(減収による解除)

 前条の場合において、同条の賃借人は、不可抗力によって引き続き二年以上賃料より少ない収益を得たときは、契約の解除をすることができる。

〇 民法611条(賃借物の一部滅失等による賃料の減額等)(平成29年改正)

1項 賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料は、その使用及び収益をすることができなくなつた部分の割合に応じて、減額される。

2 賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、残存する部分のみでは賃借人が賃借をした目的を達することができないときは、賃借人は、契約の解除をすることができる。

旧611条(賃借物の一部滅失による賃料の減額請求等)

1項 賃借物の一部が賃借人の過失によらないで滅失したときは、賃借人は、その滅失した部分の割合に応じて、賃料の減額を請求することができる。

2 前項の場合において、残存する部分のみでは賃借人が賃借をした目的を達することができないときは、賃借人は、契約の解除をすることができる。

1 対象

  滅失 → 滅失 + その他の事由 ※

 

※ どのような場合がその他の事由に当たるかは、解釈に委ねられる。

2 内容

  賃借人の請求による減額 → 当然減額

(理由)

  賃貸借の本質:賃借物の使用収益と賃料の支払が対価関係

 → 一部の割合に応じて賃料は発生しないという考え方

3 賃料減額

 賃借人に過失がある場合は適用されない。

 この点は、旧法も新法も同じであるが、賃借人に過失がないことの立証責任を賃借人に負わせること(旧法でもそのように解釈されていた。)を明記した。

4 賃借人による契約解除権

(1)旧法 

 賃借人に過失がある場合は否定(「前項の場合において」はその意味)

(2)新法

 賃借人に過失がある場合も認める。

(理由)

① この場合も賃借人による契約解除を認めるのが相当である。

② 賃貸人の不利益は、賃貸人の賃借人に対する損害賠償請求権で調整する趣旨

【参考・参照文献】

 このページは、下記文献を参考・参照して作成しました。

① 第一東京弁護士会司法制度調査委員会編・新旧対照でわかる改正債権法の逐条解説(平成29年、新日本法規)307頁

② 日本弁護士連合会編・実務解説改正債権法(第2版)(2020年、弘文堂)頁

③ 中田裕康 契約法新版(2021年、有斐閣)446頁(略称:中田)

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