【注力分野】相続(相続調査、相続放棄)、遺産分割(協議、調停・審判)、債務整理、自己破産、個人再生、法律相談
大阪府寝屋川市にある相続と借金の問題に力を入れている法律事務所です。
受付時間 | 10:00~18:00 |
---|
休業日 | 土曜日、日曜日、祝日 |
---|
<共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき>
1 要件
(1)共有者が他の共有者を知ることができない場合
又は
他の共有者の所在を知ることができない場合
(2)裁判
① 「所在等不明共有者」以外の共有者による変更・管理の裁判 新民法251条2項、新252条2項1号
② 「所在等不明共有者」の持分の取得の裁判 新民法262条の2
③ 「所在等不明共有者」の持分を譲渡する権限付与の裁判 新民法262条の3
2 共有者が他の共有者を知ることができない場合
「共有者」(裁判の請求をする共有者)において、「他の共有者」の氏名・名称等が不明であり、特定することができない場合
氏名等が不特定である共有者がいる場合であっても
その共有持分を管理する者(所有者不明土地・建物管理人)が選任されている場合は、その者との間で協議等することができるため、要件を満たさない。
3 他の共有者の所在を知ることができない場合
住所等を知ることができない共有者がいる場合であっても、
その共有持分を管理する者(所有者不明土地・建物管理人)が選任されている場合は、その者との間で協議等することができるため、要件を満たさない。
① 自然人
共有者において、他の共有者の住所・居所を知ることができない場合
② 法人
共有者において、
ⅰ 他の共有者の事務所の所在地を知ることができないこと
ⅱ 他の共有者の代表者の氏名等を知ることができないこと
(他の共有者の代表者がいない場合を含む。)
代表者がおり、その所在を知ることができるのであれば、代表者との間で協議等をすることができる。
4 必要な調査(共有物が不動産である場合)
(1)書類・資料関係
① 不動産登記簿の調査
②(共有者=法人)商業・法人登記簿
② 住民票
ⅰ 自然人
ⅱ(共有者=法人)商業・法人登記簿上の代表者の住民票
(2)共有物の利用状況の確認
(3)連絡等を取ることができる共有者に確認
裁判を請求しようとする共有者→共有者・・・→所在不明共有者
(4)その他
(村松・大谷Q24p69 )
〇 民法254条(共有物についての債権)
共有者の一人が共有物について他の共有者に対して有する債権は、その特定承継人に対しても行使することができる。
〇 民法256条(共有物の分割請求)
1項 各共有者は、いつでも共有物の分割を請求することができる。
ただし、5年を超えない期間内は分割をしない旨の契約をすることを妨げない。
2項 前項ただし書の契約は、更新することができる。
ただし、その期間は、更新の時から5年を超えることができない。
1 共有物分割の意義
民法249条以下の共有=団体的拘束がない
→ いつでも、共有関係を解消するため、
共有物を分割できる。
昭和62年4月22日最高裁判所大法廷判決(森林法違憲判決[共有森林について持分価格1/2以下の共有者に民法256条1項の共有物分割請求権を否定した森林法186条は、財産権を定めた憲法29条2項に違反するとした。]、判例タイムズ633号93頁)は、民法256条の立法趣旨を次のとおり判示した。
「共有とは、複数の者が目的物を共同して所有することをいい、共有者は各自、それ自体所有権の性質をもつ持分権を有しているにとどまり、共有関係にあるというだけでは、それ以上に相互に特定の目的の下に結合されているとはいえないものである。そして、共有の場合にあつては、持分権が共有の性質上互いに制約し合う関係に立つため、単独所有の場合に比し、物の利用又は改善等において十分配慮されない状態におかれることがあり、また、共有者間に共有物の管理、変更等をめぐつて、意見の対立、紛争が生じやすく、いつたんかかる意見の対立、紛争が生じたときは、共有物の管理、変更等に障害を来し、物の経済的価値が十分に実現されなくなるという事態となるので、同条は、かかる弊害を除去し、共有者に目的物を自由に支配させ、その経済的効用を十分に発揮させるため、各共有者はいつでも共有物の分割を請求することができるものとし、しかも共有者の締結する共有物の不分割契約について期間の制限を設け、不分割契約は右制限を超えては効力を有しないとして、共有者に共有物の分割請求権を保障しているのである。このように、共有物分割請求権は、各共有者に近代市民社会における原則的所有形態である単独所有への移行を可能ならしめ、右のような公益的目的をも果たすものとして発展した権利であり、共有の本質的属性として、持分権の処分の自由とともに、民法において認められるに至つたものである。」
2 不分割の合意(本条1項ただし書、2項)
特定承継人に対抗するには登記が必要である(不動産登記法59条5号)。
〇 民法257条
前条の規定は、第229条に規定する共有物については、適用しない。
〇 民法258条(裁判による共有物の分割)
1項 共有物の分割について共有者間に協議が調わないときは、その分割を裁判所に請求することができる。
2項 前項の場合において、共有者の現物を分割することができないとき、又は分割によってその価格を著しく減少させるおそれがあるときは、裁判所は、その競売を命ずることができる。
〇 民法258条[令和3年改正]
1項 共有物の分割について共有者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、その分割を裁判所に請求することができる。
2項 裁判所は、次に掲げる方法により、共有物の分割を命ずることができる。
一 共有物の現物を分割する方法
二 共有者に債務を負担させて、他の共有者の持分の全部又は一部を取得させる方法
3項 前項に規定する方法により共有物を分割することができないとき、又は分割によってその価格を著しく減少させるおそれがあるときは、裁判所は、その競売を命ずることができる。
4項 裁判所は、共有物の分割の裁判において、当事者に対して、金銭の支払、物の引渡し、登記義務の履行その他の給付を命ずることができる。
〇 民法258条の2[令和3年改正]
1項 共有物の全部又はその持分が相続財産に属する場合において、共同相続人間で当該共有物の全部又はその持分について遺産の分割をすべきときは、当該共有物又はその持分について前条の規定による分割をすることができない。
2項 共有物の持分が相続財産に属する場合において、相続開始の時から十年を経過したときは、前項の規定にかかわらず、相続財産に属する共有物の持分について前条の規定による分割をすることができる。ただし、当該共有物の持分について遺産の分割の請求があった場合において、相続人が当該共有物の持分について同条の規定による分割をすることに異議の申出をしたときは、この限りでない。
3項 相続人が前項ただし書の申出をする場合には、当該申出は、当該相続人が前条第一項の規定による請求を受けた裁判所から当該請求があった旨の通知を受けた日から二箇月以内に当該裁判所にしなければならない。
<共有物分割>
1 共有物分割の方法
(1)手続
協議による分割、裁判による分割
(2)具体的方法
① 現物分割、② 代金分割、③ 価格賠償
④ ①と③の組合せ
2 共有物分割分割の弾力化
(1)最高裁判所(大法廷)昭和62年4月22日判決
① 「民法二五八条による共有物分割の方法について考えるのに、現物分割をするに当たつては、当該共有物の性質・形状・位置又は分割後の管理・利用の便等を考慮すべきであるから、持分の価格に応じた分割をするとしても、なお共有者の取得する現物の価格に過不足を来す事態の生じることは避け難いところであり、このような場合には、持分の価格以上の現物を取得する共有者に当該超過分の対価を支払わせ、過不足の調整をすることも現物分割の一態様として許されるものというべきであ」る。
② 分割の対象となる共有物が多数の不動産である場合には、ⅰ これらの不動産が外形上一団とみられるときはもとより、ⅱ 数か所に分かれて存在するときでも、右不動産を一括して分割の対象とし、分割後のそれぞれの部分を各共有者の単独所有とすることも、現物分割の方法として許される。かかる場合においても、前示のような事態の生じるときは、右の過不足の調整をすることが許される。
(2)最高裁判所(第一小法廷)平成8年10月31日判決
全面的価格賠償による共有物分割を肯定した。
「民法二五八条二項は、共有物分割の方法として、現物分割を原則としつつも、共有物を現物で分割することが不可能であるか又は現物で分割することによって著しく価格を損じるおそれがあるときは、競売による分割をすることができる旨を規定している。ところで、この裁判所による共有物の分割は、民事訴訟上の訴えの手続により審理判断するものとされているが、その本質は非訟事件であって、法は、裁判所の適切な裁量権の行使により、共有者間の公平を保ちつつ、当該共有物の性質や共有状態の実状に合った妥当な分割が実現されることを期したものと考えられる。したがって、右の規定は、すべての場合にその分割方法を現物分割又は競売による分割のみに限定し、他の分割方法を一切否定した趣旨のものとは解されない。
そうすると、共有物分割の申立てを受けた裁判所としては、現物分割をするに当たって、持分の価格以上の現物を取得する共有者に当該超過分の対価を支払わせ、過不足の調整をすることができる(最高裁昭和五九年(オ)第八〇五号同六二年四月二二日大法廷判決・民集四一巻三号四〇八頁参照)のみならず、当該共有物の性質及び形状、共有関係の発生原因、共有者の数及び持分の割合、共有物の利用状況及び分割された場合の経済的価値、分割方法についての共有者の希望及びその合理性の有無等の事情を総合的に考慮し、当該共有物を共有者のうちの特定の者に取得させるのが相当であると認められ、かつ、その価格が適正に評価され、当該共有物を取得する者に支払能力があって、他の共有者にはその持分の価格を取得させることとしても共有者間の実質的公平を害しないと認められる特段の事情が存するときは、共有物を共有者のうちの一人の単独所有又は数人の共有とし、これらの者から他の共有者に対して持分の価格を賠償させる方法、すなわち全面的価格賠償の方法による分割をすることも許されるものというべきである。」
<遺産共有物件と共有物分割>
1 原則
遺産共有(共有物or持分)の分割
通常裁判所が共有物分割をすることはできない
民法258条の2 第1項
【遺産共有持分】←共有物分割手続→【他の共有持分】
【遺産共有持分】の共有関係の解消:遺産分割
潮見【CASE288~291】
2 例外
(1)下記①~②の要件を充足する場合には、遺産共有物件(遺産共有持分)を、通常裁判所における共有物分割手続をすることができる。民法258条の2第2項
① 共有物の持分が相続財産に属する場合
その財産が「数人の相続人」及び「相続人以外の者」の共有に属する場合
② 相続開始の時から十年を経過したとき
(2)留意事項等
① 請求者
相続人以外の共有者である場合 潮見【CASE292】
請求者が相続人の一人である場合
② 共有物の全部が遺産共有である場合
本条項は適用されない。潮見【CASE293】
③ 次の事案(通常の共有持分権者が死亡したことにより、持分権の相続が行われた結果として、全てが遺産共有持分になった場合)では、本条項は適用される。潮見【CASE296】
A・B 甲土地共有
A→(相続)→C,D
B→(相続)→E,F
上記各相続から10年を経過
C→(共有物分割訴訟)D,E,F
④ 相続開始10年を経過する前に共有物分割請求訴訟が提起され、訴訟係属中に10年を経過した場合
本条項は適用されない。潮見【CASE294~295】
⑤ 本条項の適用により、遺産共有部分が共有物分割手続により分割される場合、個々の相続人の共有持分は、法定相続分又は指定相続分によって定まる。民法898条2項
⑥ 改正法施行日(令和5年4月1日)前に生じた共有関係にも適用される。
(3)異議の申出
下記①~②の要件を満たす異議の申出がなされた場合には、当該持分について共有物分割の手続によることはできない。民法258条第2項ただし書
(趣旨)この場合は、遺産分割手続において適切な分割をすべきであり、それとは別に、遺産に属する個々の財産の持分についての共有物分割手続をすべきではない。
① 当該共有物の持分について、遺産分割の請求があること(遺産分割審判又は調停の申立て)
② 共有物分割請求を受けた裁判所から「当該請求があった旨の通知を受けた日」(訴状送達を受けた日)から2箇月以内に当該裁判所に対し、当該持分について共有物分割手続によることの異議の申出
潮見【CASE296】
〇 民法259条(共有に関する債権の弁済)
1項 共有者の一人が他の共有者に対して共有に関する債権を有するときは、分割に際し、債務者に帰属すべき共有物の部分をもって、その弁済に充てることができる。
2項 債権者は、前項の弁済を受けるため債務者に帰属すべき共有物の部分を売却する必要があるときは、その売却を請求することができる。
〇 民法260条(共有物の分割への参加)
1項 共有物について権利を有する者及び各共有者の債権者は、自己の費用で、分割に参加することができる。
2項 前項の規定による参加の請求があったにもかかわらず、その請求をした者を参加させないで分割をしたときは、その分割は、その請求をした者に対抗することができない。
〇 民法261条(分割における共有者の担保責任)
各共有者は、他の共有者が分割によって取得した物について、売主と同じく、その持分に応じて担保の責任を負う。
〇 民法262条(共有物に関する証書)
1項 分割が完了したときは、各分割者は、その取得した物に関する証書を保存しなければならない。
2項 共有者の全員又はそのうちの数人に分割した物に関する証書は、その物の最大の部分を取得した者が保存しなければならない。
3項 前項の場合において、最大の部分を取得した者がないときは、分割者間の協議で証書の保存者を定める。
協議が調わないときは、裁判所が、これを指定する。
4項 証書の保存者は、他の分割者の請求に応じて、その証書を使用させなければならない。
〇 民法262条の2[令和3年改正]
(所在等不明共有者の持分の取得)
1項 不動産が数人の共有に属する場合において、共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、その共有者に、当該他の共有者(以下この条において「所在等不明共有者」という。)の持分を取得させる旨の裁判をすることができる。この場合において、請求をした共有者が二人以上あるときは、請求をした各共有者に、所在等不明共有者の持分を、請求をした各共有者の持分の割合で按(あん)分してそれぞれ取得させる。
2項 前項の請求があった持分に係る不動産について第二百五十八条第一項の規定による請求又は遺産の分割の請求があり、かつ、所在等不明共有者以外の共有者が前項の請求を受けた裁判所に同項の裁判をすることについて異議がある旨の届出をしたときは、裁判所は、同項の裁判をすることができない。
3項 所在等不明共有者の持分が相続財産に属する場合(共同相続人間で遺産の分割をすべき場合に限る。)において、相続開始の時から十年を経過していないときは、裁判所は、第一項の裁判をすることができない。
4項 第一項の規定により共有者が所在等不明共有者の持分を取得したときは、所在等不明共有者は、当該共有者に対し、当該共有者が取得した持分の時価相当額の支払を請求することができる。
5項 前各項の規定は、不動産の使用又は収益をする権利(所有権を除く。)が数人の共有に属する場合について準用する。
〇 民法262条の2[令和3年改正]
(所在等不明共有者の持分の譲渡)
1項 不動産が数人の共有に属する場合において、共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、その共有者に、当該他の共有者(以下この条において「所在等不明共有者」という。)以外の共有者の全員が特定の者に対してその有する持分の全部を譲渡することを停止条件として所在等不明共有者の持分を当該特定の者に譲渡する権限を付与する旨の裁判をすることができる。
2項 所在等不明共有者の持分が相続財産に属する場合(共同相続人間で遺産の分割をすべき場合に限る。)において、相続開始の時から十年を経過していないときは、裁判所は、前項の裁判をすることができない。
3項 第一項の裁判により付与された権限に基づき共有者が所在等不明共有者の持分を第三者に譲渡したときは、所在等不明共有者は、当該譲渡をした共有者に対し、不動産の時価相当額を所在等不明共有者の持分に応じて按分して得た額の支払を請求することができる。
4項 前三項の規定は、不動産の使用又は収益をする権利(所有権を除く。)が数人の共有に属する場合について準用する。
【参考・参照文献】
以下の文献を参考・参照して、このページを作成しました。
①□ 安永正昭 講義物権・担保物権法(第3版)(2019年、有斐閣)163頁
②□ 鎌田薫・松岡久和・松尾弘編、新基本法コンメンタール物権(令和元年、日本評論社)117頁
③□ 我妻榮・有泉亨・清水誠・田山輝明 我妻・有泉コンメンタール民法総則・物権・債権(第6版)(2019年、日本評論社)467頁
④□ 村松秀樹・大谷太編著Q&A令和3年改正民法・改正不登法・相続土地国庫帰属法(2022年、きんざい)56頁、略称 村松・大谷
⑤□ 日本弁護士連合会 自由と正義2022年1月号
⑥□ 潮見佳男ほか編 Before/After 民法・不動産登記法改正(2023年、弘文堂)、略称:BA