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1 根抵当権の意義
同一の債権者・債務者間で被担保債権が発生する取引が継続する等の場合、債権が発生する時に抵当権を設定し抵当権設定の登記をし、債権が消滅する時に抵当権抹消登記をすることを繰り返すことは、煩瑣であり、また、諸費用もかかる。その上、日本では、順位昇進の原則が採用されているため、登記手続上、ある取引時、第1順位の抵当権を設定することができたとしても、次の取引時、同順位の抵当権を設定することができるとは限らず、取引当事者が想定した担保設定ができない場合も考えられる。
→ 昭和46年改正により、根抵当権の規定が新設された。
根抵当権とは、「設定行為で定めるところにより、一定の範囲に属する不特定の債権を極度額の限度において担保するために」設定された抵当権をいう。
2 根抵当権の範囲を画する要素
① 担保すべき不特定の債権
被担保債権から画する。
② 極度額 金額から画する。
③ 元本の確定 時から画する。
3 被担保債権の範囲
(1)債権者債務者間の下記①②の取引により生ずる債権
① 特定の継続的取引
② 一定の種類の取引
(2)(1)以外
① 特定の原因に基づいて債務者との間に継続して生ずる債権
② 手形上若しくは小切手上の請求権
③ 電子記録債権(電子記録債権法(平成十九年法律第百二号)第二条第一項に規定する電子記録債権をいう。)
4 元本確定の意義
被担保債権が元本確定時点で存在する債権に確定する。
このことから、元本確定の意義は次のとおり(文献②366頁)。
① 根抵当権者側
優先弁済権を行使する準備
② 設定者側
担保の負担から解放される。
1 極度額
確定した元本、利息、損害金等・・・極度額を限度として担保
極度額内であれば、利息・損害金は2年分という制限(抵当権)はない。
極度額は、根抵当権の要素の一つである。
抵当物件の所有者の使用収益権や後順位抵当権者を保護するためといえる。
2 元本確定により、被担保債権が確定する。
極度額の限度で優先弁済権が認められるのであり、普通抵当権のように利息等の満期となった最後の2年分(民法375条)という制限がない。
1 債権者・債務者(根抵当設定権者)間の合意で、元本確定前、被担保債権の範囲、債務者を変更する場合である(本条1項)。
2 極度額は不変であり後順位抵当権者に影響を与えないため、後順位抵当権者の承諾は不要である(本条2項)。
3 登記は、対抗要件ではなく、効力要件である(本条3項)。
1 極度額は、根抵当権の交換価値支配を決する枠である。極度額の変更(増・減)は、第三者の利益に影響を与えるので、第三者の承諾がないと、効力が生じない。当該第三者が複数あれば、全員の承諾が必要である。
2 極度額の増額
後順位抵当権者に不利益を与える。
→後順位抵当権者の承諾が必要である。
3 極度額の減額
① 転抵当権者がいない場合
不利益を受ける第三者はいない。
② 転抵当権者がいる場合
転抵当権者の承諾が必要である。
1 元本確定期日の定め
当事者(債権者・抵当権設定者[債務者or物上保証人])間において
① 定めがある場合(本条1項)
設定日又は変更日から5年以内(本条3項)
抵当権設定者の使用収益権を過度に制限しないよう5年が限度とされた。
② 定めがない場合
2 変更について後順位抵当権者等第三者の承諾は不要である。(本条2項)
3 変更は、登記が効力要件である。(本条4項)
1 根抵当権の特徴
① 極度額を限度とする交換価値支配権
② 元本確定期日までは、根抵当権と個々の被担保債権との結び付きは希薄である。
2 本条1項
元本確定前、債権者の変更(下記①②③)
but随伴性の否定
① 債権譲渡(債権の売買や贈与)
② 弁済者代位
③ 更改(民法515条[債権者の交替による更改])
※ 民法518条
3 本条2項
元本確定前、債務者の変更(下記①②)
but 新債務者の債務を担保しない。
① 免責的債務引受
※ 民法472条の4第1項
② 更改(民法514条[債務者の交替による更改])
1 元本確定前における、根抵当権者について相続開始
(1)合意による根抵当権の存続
① 根抵当権者の相続人・根抵当権設定者間
(本条1項)
相続開始時の債権
+ 根抵当権者の相続人が相続開始後に取得する債権
② 相続開始後6箇月以内の登記(効力要件)
(本条1項3項)
(2)(1)の合意がない場合
被担保債権(元本)は、相続開始時に確定する。
(本条4項)
2 元本確定前における、債務者について相続開始
(1)合意による根抵当権の存続
① 根抵当権者・根抵当権設定者間
(本条1項)
相続開始時の債務
+ 債務者の相続人が相続開始後に負担する債務
② 相続開始後6箇月以内の登記(効力要件)
(本条1項3項)
(2)(1)の合意がない場合
被担保債権(元本)は、相続開始時に確定する。
(本条4項)
1(1),2(1)の合意は、根抵当権者の相続人が被相続人の事業を承継する場合、債務者の相続人が被相続人の事業を承継する場合になされることがんが得られる。
1 本条1項
根抵当権者が会社等法人である場合
+ 元本確定前、根抵当権者について合併
① 元本は確定しない(原則)(本条1項)
② 合併時の債権
+ 合併後に存続する法人or合併により設立された法人
が合併後に取得する債権債権
2 本条2項
債務者が会社等法人である場合
+ 元本確定前、債務者について合併
① 元本は確定しない(原則)(本条1項)
② 合併時の債権
+ 合併後に存続する法人or合併により設立された法人
が合併後に負担する債務
3 根抵当権設定者&[非]債務者による元本確定請求
(1)要件(本条5項)
① 合併を知った時から2週間以内
② 合併日から1か月
(2)効果
元本が、合併時に確定(本条4項)
1 本条は、元本確定前に、根抵当権者又は債務者について会社分割がある場合の規律を定めるが、基本的には、前条の合併の場合の規律と同じである。
1 本条1項
(1)被担保債権から独立しているという根抵当権の性質
「極度額」という担保としての価値支配の枠
この性質より、(2)~(4)
(2)普通抵当で認められるが、根抵当権で認められない。
抵当権の順位の譲渡・放棄、抵当権の譲渡・放棄(民法376条1項)は認められない(本条1項本文)。
これらの制度は、処分者が配当時に受ける配当額が受益者に帰属するものであるが、処分者が配当前に弁済を受けた場合、処分者の抵当権もその限度で消滅するところ、民法377条1項は、この消滅を認めない意義を有する。
ところが、根抵当権は、元本確定前は、被担保債権は弁済により消滅するという性質を有し、上記規律と相容れない。
(高橋眞・担保物権法(2007年・成文堂)254頁)
(3)普通抵当と同じく、根抵当権でも認められる。
転(根)抵当(民法376条1項)は認められる(本条1項ただし書)。
(4)根抵当権独自の処分
民法398条の12、民法398条の13
2 本条2項
転根抵当の場合、元本確定前、被担保債権が弁済されたとしても、根抵当権及び転根抵当権は消滅させず、被担保債権の弁済の効果を認める。
1 根抵当権の全部譲渡(本条1項)
① 担保としての価値支配権を全部譲渡することである。
担保不動産に対する極度額までの担保的価値支配権を「被担保債権とは独立して」譲渡できる(安永414頁)。
② 被担保債権の範囲の変更、債務者の変更を要する。
民法398条の4
③ 根抵当権設定者の承諾が必要(本条3項)。
根抵当権設定者は、自己所有不動産でいかなる債権を担保するかについて利害を有する(安永414頁)。
2 根抵当権の分割譲渡(本条2項)
① 担保としての価値支配権を分割(甲→乙・丙)したうえ譲渡(丙)することである。
② 被担保債権の範囲の変更、債務者の変更を要する。
民法398条の4
③ 転根抵当権は丙について消滅(本条2項後段)。
③ 根抵当権設定者の承諾が必要(本条3項)。
1 根抵当権の一部譲渡
根抵当権を分割しないで、譲渡人・譲受人で根抵当権を共有することである。
2 元本確定前の譲渡人・譲受人間の合意がなければ、譲渡人の債権額・譲受人の債権額の割合に応じて弁済を受ける(民法398条の13)。
1 根抵当権の共有(正確には、準共有)
極度額を限度とした担保的価値支配権を共有している関係にある。
2 元本確定後における弁済の割合
(事例)
第1順位の根抵当権 極度額900万円
共有者甲 被担保債権800万円
共有者乙 被担保債権400万円
乙-乙根抵当権
① 元本確定前、共有者が合意した割合
(例1)甲が優先、乙が劣後
甲 800万円、乙100万円
(例2)甲1 対 乙1 の割合
甲 450万円、乙450万円
② ①の合意がない場合
債権額の割合に応じて → (事例)では、甲2 対 乙1
甲 600万円、乙300万円
3 甲は、自己の共有持分を、乙の同意を譲渡(全部譲渡に限定)できる。
1 根抵当権は、先順位の抵当権者から順位の譲渡又は順位の放棄を受けることができる。
(事例)
第1順位 甲抵当権 被担保債権額1000万円
第2順位 乙根抵当
(極度額1000万円、確定被担保債権額500万円)
甲と乙に配当される合計額900万円
甲→乙 順位の譲渡
甲(②)400万円 乙(①)500万円
甲→乙 順位の放棄
甲(①-②)600万円 乙(①-②)300万円
2 順位の譲渡・放棄を受けた乙が根抵当権の全部又は一部を譲渡した場合、その譲受人は乙が受けた受益の効果を享受することができる。
1 根抵当権設定者の元本確定請求(本条1項)
① 元本確定期日の定めがないこと
② 設定時から3年を経過したこと
③ 元本確定請求
→ 請求から2週間経過時に確定
2 根抵当権者の元本確定請求(本条2項)
① 元本確定期日の定めがないこと
② いつでも元本確定請求
→ 請求(到達)時に確定
根抵当権者の元本確定請求は、平成15年(2003年)改正により新設された。例えば、企業再編や不良債権処理の場面で、甲会社が乙会社に対し、根抵当権の被担保債権に属する債権を譲渡する場合、元本確定前においては、根抵当権の随伴性が否定されるため、乙会社は、譲り受けた債権について根抵当権を行使することができない(民法398条の7第1項)。
このような事態に備えて、根抵当権者の元本確定請求が新設された。(文献②367頁)
1 本条1項各号の元本確定事由
根抵当権者が優先弁済権を行使すべき場面
2 本条1項各号以外にも元本が確定する場合がある。
① 元本確定期日の到来(民法398条の6第1項)
② 根抵当権者又は債務者について一定の事由が生じた場合
相続(398の8)、合併(398の9)、会社分割(398の10)③ 根抵当権設定者又は根抵当権による元本確定請求
398条の19
1 元本確定後も、利息・損害金等は増加し、極度額の限度まで担保される。
これにより、根抵当権者が権利を行使せず、かつ、債務者も弁済をしない場合、被担保債権額が増大し、根抵当権の担保価値が減ずる。
そこで、根抵当権設定者の極度額減額請求権(形成権)により、「現に存する債務の額と以後二年間に生ずべき利息その他の定期金及び債務の不履行による損害賠償の額とを加えた額」に極度額を減額することを認めた。
○ 民法398条の22(根抵当権の消滅請求)
1項 元本の確定後において現に存する債務の額が根抵当権の極度額を超えるときは、他人の債務を担保するためその根抵当権を設定した者又は抵当不動産について所有権、地上権、永小作権若しくは第三者に対抗することができる賃借権を取得した第三者は、その極度額に相当する金額を払い渡し又は供託して、その根抵当権の消滅請求をすることができる。この場合において、その払渡し又は供託は、弁済の効力を有する。
2項 第三百九十八条の十六の登記がされている根抵当権は、一個の不動産について前項の消滅請求があったときは、消滅する。
3項 第三百八十条及び第三百八十一条の規定は、第一項の消滅請求について準用する。
1 根抵当権の消滅請求(本条1項)
① 元本確定後
② 現存債務額>根抵当権の極度額
③ 請求権者
【請求できる】
〇 物上保証人
〇 抵当不動産について所有権を取得した者(第三取得者)、地上権、永小作権者、対抗力ある賃借権を取得した者
【請求できない】(本条3項)
× 主債務者、保証人、これらの者の承継人 民法380条
× 抵当不動産の停止条件付第三者取得者
& 条件成否未定である場合 民法381条
④ 極度額相当金額を払い渡し又は供託する。
【参考・参照文献】
以下の文献を参考・参照して、このページを作成しました。
□ 鎌田薫・松岡久和・松尾弘編、新基本法コンメンタール物権(令和元年、日本評論社)略称:新基本法コンメ
□ 安永正昭 講義物権・担保物権法(第4版)(2021年、有斐閣)404頁 略称:安永