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民事再生法 第十三章 小規模個人再生及び給与所得者等再生に関する特則
第一節 小規模個人再生
<再生計画 総論>
1 再生計画の意義
再生債権者の権利の全部又は一部を変更する条項その他の民再法154条に規定する条項を定めた計画(民再法2条3号)
2 再生債権案
(1)場面
① 案を書面による決議に付する決定 民再法230条3項
② 案についての意見聴取決定 民再法240条1項
③ 再生計画認可の決定又は不認可の決定
民再法231条1項、241条1項
(2)再生計画案の提出権者
届出再生債権者に提出権を認めた民再法163条2項を除外 民再法238条、245条
個人再生手続においては、再生債務者に限られる。民再法163条1項
(3)再生計画案の提出期限等
① 提出期限
債権届出期間満了後、裁判所の定める期間内 民再法163条1項
② 提出期限の伸長 民再法163条3項
ⅰ 裁判所が定めた提出期間内に再生計画案を提出することができない場合
ⅱ 申立て 又は 職権で
③ 再生計画案を提出できない場合 民再法163条3項
ⅰ 裁判所に対する報告書の提出 民再規則84条2項
→ ②の提出期限の伸長手続
ⅱ 提出期限の徒過
再生手続の廃止
◯ 書記官研究203頁
<再生計画 総論>
1 再生計画の意義
再生債権者の権利の全部又は一部を変更する条項その他の民再法154条に規定する条項を定めた計画(民再法2条3号)
2 再生債権案
(1)場面
① 案を書面による決議に付する決定 民再法230条3項
② 案についての意見聴取決定 民再法240条1項
③ 再生計画認可の決定又は不認可の決定
民再法231条1項、241条1項
(2)再生計画案の提出権者
届出再生債権者に提出権を認めた民再法163条2項を除外 民再法238条、245条
個人再生手続においては、再生債務者に限られる。民再法163条1項
(3)再生計画案の提出期限等
① 提出期限
債権届出期間満了後、裁判所の定める期間内 民再法163条1項
② 提出期限の伸長 民再法163条3項
ⅰ 裁判所が定めた提出期間内に再生計画案を提出することができない場合
ⅱ 申立て 又は 職権で
③ 再生計画案を提出できない場合 民再法163条3項
ⅰ 裁判所に対する報告書の提出 民再規則84条2項
→ ②の提出期限の伸長手続
ⅱ 提出期限の徒過
再生手続の廃止
◯ 書記官研究203頁
<再生計画の内容>
1 権利変更に関する一般的基準
(1)原則
形式的平等
全ての再生債権者間で平等(一律の扱い)でなければならず)、特定の再生債権者を優遇したり、劣後させてはならない。
個人再生手続の簡便・迅速性を重視した(例題解説115頁)。
(2)例外
① 不利益を受ける再生債権者の同意がある場合
② 少額の再生債権の弁済の時期
③ 民事再生法84条2項に掲げる請求権(再生手続開始後の利息、再生手続開始後の不履行による損害賠償及び違約金、再生手続参加の費用)
(3)定め
① 再生債権に対する権利の変更
② 再生債権に対する弁済の方法
2 再生債務者による再生計画案の作成
(1)弁済金額
① 法定の最低弁済金額以上とすること
② 再生手続開始決定後の利息・損害金の例外 本条
(2)弁済期(本条2項)
① 弁済期が3か月に1回以上到来する分割払の方法によること。
②
ⅰ 最終の弁済期を再生計画認可の決定の確定の日から三年後の日が属する月中の日とすること。
債権カットする等の不利益を債権者に与える個人再生手続において、債務者には、将来の収入から3年間は精一杯の弁済を求めるのが相当である。→3年未満× 3年○ (一問一答209頁)
ⅱ 特別の事情がある場合には、再生計画認可の決定の確定の日から五年を超えない範囲内で、三年後の日が属する月の翌月の初日以降の日
特別の事情が認められる場合
・ 債務者の収入から、住宅ローン債権を住宅資金特別条項に基づき支払いながら、一般の再生債権を3年で支払うことが困難である場合(一問一答211頁)
・ 安定した収入はあるものの3年では最低弁済規準をクリアーする計画が立てられないという場合(条解916頁)
3 本条3項は、非免責債権の取扱いを定めたものである。
(1)平成16年(2004年)改正により、個人再生手続において、非免責債権が規定された。
租税等の請求権や雇用契約に基づいて生じた使用人の請求権等は、破産法では非免責債権と規定されている(同法253条1項1号5号)。これら請求権は、個人再生手続では、一般優先債権に該当し、再生計画によらない随時弁済の対象である(民事再生法122条)。
(2)非免責債権も、利用適格要件(5000万円要件)において考慮され、債権者一覧表に記載する必要もある。また、再生債権であるから、再生手続によらない弁済は禁止される(民事再生法85条)。これらの再生計画案認可決定に至るまでの手続においては、通常の再生債権と同じ取扱いである。
非免責債権が通常の再生債権と異なる特別の取扱いを受けるのは、次のとおりである。
非免責債権は、再生計画案における一般基準(民事再生法232条2項、156条)に従って弁済した後の残余について
免責されないため、弁済期間終了後、その残余を直ちに支払う必要がある(民事再生法232条4項)。
大阪再生189頁、はい6民です498頁
<再生計画案の例>
【条項例】大阪再生239頁掲載の再生計画案を参考にさせていただきました。確定すべき内容は赤字部分です。
1 再生債権に対する権利変更として、次の額について免除を受ける。免除額に1円未満の端数が生じたときは、切り捨てる。
(1)元本及び再生手続開始決定日の前日までの利息・損害金の33.33パーセント相当額
(2)再生手続開始決定日以降の利息・損害金の100 パーセント相当額
2 上記1による権利変更後の再生債権について、再生計画認可決定確定日の属する月の翌月以降、下記方法により分割弁済をする。ただし、これにより算出される100円未満の端数は切り上げ、最終回で調整する。
3か月ごとに支払う方法
上記確定日の属する月の翌月を第1回目として、以後3か月ごとに合計12回、各月の末日限り、各12分の1の割合による金額を支払う(通算期間3年)。
3 共益債権及び一般優先債権は,随時支払う。
4 住宅資金特別条項(民事再生法199条1項)
(1)住宅資金貸付債権を有する債権者の氏名又は名称(民事再生規則99条1号) アルファ銀行
(2)対象となる住宅資金貸付債権
令和元年6月1日付金銭消費貸借契約(以下「原契約書」という。)に基づき、上記債権者が再生債務者に対して有する貸金債権
(3)住宅及び住宅の敷地の表示(同規則99条2号)
別紙 物件目録記載のとおり
(4)抵当権の表示(同規則99条3号)
別紙 抵当権目録記載のとおり
(5)住宅資金特別条項の内容
上記(2)の住宅資金貸付債権の弁済については、再生計画認可決定の確定した日以降、原契約書の各条項に従い支払うものとする
【再生計画案作成上の留意事項】
○ 民事再生法230条(再生計画案の決議)
1項 裁判所は、一般異議申述期間(特別異議申述期間が定められた場合には、当該特別異議申述期間を含む。)が経過し、かつ、第百二十五条第一項の報告書(財産状況報告書)の提出がされた後でなければ、再生計画案を決議に付することができない。当該一般異議申述期間内に第二百二十六条第一項本文の規定による異議が述べられた場合(特別異議申述期間が定められた場合には、当該特別異議申述期間内に同条第三項の規定による異議が述べられた場合を含む。)には、第二百二十七条第一項本文の不変期間を経過するまでの間(当該不変期間内に再生債権の評価の申立てがあったときは、再生債権の評価がされるまでの間)も、同様とする。
2項 裁判所は、再生計画案について第百七十四条第二項各号(第三号を除く。住宅資金特別条項を定めた再生計画案については、第二百二条第二項第一号から第三号まで)又は次条第二項各号のいずれかに該当する事由があると認める場合には、その再生計画案を決議に付することができない。
3項 再生計画案の提出があったときは、裁判所は、前二項の場合を除き、議決権行使の方法としての第百六十九条第二項第二号に掲げる方法(書面による決議)及び第百七十二条第二項(同条第三項において準用する場合を含む。)の規定により議決権の不統一行使をする場合における裁判所に対する通知の期限を定めて、再生計画案を決議に付する旨の決定をする。
4項 前項の決定をした場合には、その旨を公告するとともに、議決権者に対して、同項に規定する期限、再生計画案の内容又はその要旨及び再生計画案に同意しない者は裁判所の定める期間内に同項の規定により定められた方法によりその旨を回答すべき旨を通知しなければならない。
5項 第三項の決定があった場合における第百七十二条第二項(同条第三項において準用する場合を含む。)の規定の適用については、同条第二項中「第百六十九条第二項前段」とあるのは、「第二百三十条第三項」とする。
6項 第四項の期間内に再生計画案に同意しない旨を同項の方法により回答した議決権者が議決権者総数の半数に満たず、かつ、その議決権の額が議決権者の議決権の総額の二分の一を超えないときは、再生計画案の可決があったものとみなす。
7項 再生計画案に同意しない旨を第四項の方法により回答した議決権者のうち第百七十二条第二項(同条第三項において準用する場合を含む。)の規定によりその有する議決権の一部のみを行使したものがあるときの前項の規定の適用については、当該議決権者一人につき、議決権者総数に一を、再生計画案に同意しない旨を第四項の方法により回答した議決権者の数に二分の一を、それぞれ加算するものとする。
8項 届出再生債権者は、一般異議申述期間又は特別異議申述期間を経過するまでに異議が述べられなかった届出再生債権(第二百二十六条第五項に規定するものを除く。以下「無異議債権」という。)については届出があった再生債権の額又は担保不足見込額に応じて、第二百二十七条第七項の規定により裁判所が債権の額又は担保不足見込額を定めた再生債権(以下「評価済債権」という。)についてはその額に応じて、それぞれ議決権を行使することができる。
※ 給与所得者等再生に準用される。
1
2 裁判所による再生計画案を決議に付する決定 本条3項
① 時期について、本条1項
② 再生計画案に不認可事由がある場合は決議に付する決定はできない。本条2項
不認可事由
ⅰ 民事再生法174条2項各号(3号を除く)
ⅱ 住宅資金特別条項を定めた場合 民事再生法202条2項1号~3号
3 再生計画案の可決
消極的同意(本条6項)で足りる。
1 再生計画における最低弁済額
(1)小規模個人再生手続の場合
① 負債総額基準による算出額、② 清算配当率基準による算出金額のうち高い金額
① 負債総額基準
再生債権の総額(住宅ローン等を除く)により、次のとおり区分される。
100万円未満の人・・・・・・総額全部
100万円以上500万円以下の人・・・・・・100万円
500万円を超え1500万円以下の人・・・・・・総額の5分の1
1500万円を超え3000万円以下の人・・・・・・300万円
3000万円を超え5000万円以下の人・・・・・・総額の10分の1
② 清算配当率基準
破産した場合の配当(民事再生法230条2項、174条2項4号)
(2)給与所得者等再生手続の場合
① 負債総額基準による算出金額、② 清算配当率基準による算出金額、③ 可処分所得2年分基準による算出金額のうち、最も高い金額
① 負債総額基準(1)①と同じ。
② 清算配当率基準(1)②と同じ。
民事再生法241条2項2号
③ 可処分所得2年分基準
民事再生法241条2項7号 後記
<非減免(免責)債権(本条4項)>
1 取扱い(書記官実務261頁)
(1)原則
① 非減免(免責)債権
民再法229条3項各号、244条
② 要保護性 → (再生計画に当該再生債権者の同意がない限り)債務の減免の定めその他権利の影響を及ぼす定めをすることはできず、認可決定確定による権利変更の効力も及ばない。民再法232条2項括弧書、244条
(2)例外
当該再生債権者による随時の権利行使を認めると、再生計画の遂行に支障を来すおそれがある。再生計画の遂行可能性を考慮する必要がある。
→ 当該債権について期限の利益を付与する。具体的には、下記①②
① 民再法232条4項、244条
② 民再法232条5項ただし書、244条
2 再生計画案の定め(書記官実務219頁)
非減免(免責)債権は、再生計画で定められた弁済期間満了時に、弁済額を控除した残額について一括で弁済することを要する。
○ 民事再生法233条(再生手続の終結)
小規模個人再生においては、再生手続は、再生計画認可の決定の確定によって当然に終結する。
○ 民事再生法236条(再生計画の取消し)
小規模個人再生において再生計画認可の決定が確定した場合には、計画弁済総額が、再生計画認可の決定があった時点で再生債務者につき破産手続が行われた場合における基準債権に対する配当の総額を下回ることが明らかになったときも、裁判所は、再生債権者の申立てにより、再生計画取消しの決定をすることができる。この場合においては、第百八十九条第二項の規定を準用する。
民事再生法 第十三章 小規模個人再生及び給与所得者等再生に関する特則
第二節 給与所得者等再生
◯民事再生法240条(再生計画案についての意見聴取)
1項 給与所得者等再生において再生計画案の提出があった場合には、裁判所は、次に掲げる場合を除き、再生計画案を認可すべきかどうかについての届出再生債権者の意見を聴く旨の決定をしなければならない。
一 再生計画案について次条第二項各号のいずれかに該当する事由があると認めるとき。
二 一般異議申述期間が経過していないか、又は当該一般異議申述期間内に第二百四十四条において準用する第二百二十六条第一項本文の規定による異議が述べられた場合において第二百四十四条において準用する第二百二十七条第一項本文の不変期間が経過していないとき(当該不変期間内に再生債権の評価の申立てがあったときは、再生債権の評価がされていないとき)。
三 特別異議申述期間が定められた場合において、当該特別異議申述期間が経過していないか、又は当該特別異議申述期間内に第二百四十四条において準用する第二百二十六条第三項の規定による異議が述べられたときであって第二百四十四条において準用する第二百二十七条第一項本文の不変期間が経過していないとき(当該不変期間内に再生債権の評価の申立てがあったときは、再生債権の評価がされていないとき)。
四 第百二十五条第一項の報告書の提出がされていないとき。
2項 前項の決定をした場合には、その旨を公告し、かつ、届出再生債権者に対して、再生計画案の内容又はその要旨を通知するとともに、再生計画案について次条第二項各号のいずれかに該当する事由がある旨の意見がある者は裁判所の定める期間内にその旨及び当該事由を具体的に記載した書面を提出すべき旨を通知しなければならない。
3項 給与所得者等再生における第九十五条第四項及び第百六十七条ただし書の規定の適用については、これらの規定中「再生計画案を決議に付する旨の決定」とあるのは、「再生計画案を認可すべきかどうかについての届出再生債権者の意見を聴く旨の決定」とする。
1 可処分所得2年分基準(本条2項7号、3項)が、小規模個人再生と異なり給与所得者等再生において設けられた趣旨
再生債権者の決議を省略することにより、小規模個人再生より手続を簡素化したが、可処分所得2年分基準は、再生債権者の議決権を奪う代償として、再生債務者において、できる限りの弁済をさせる必要があり、この観点から設けられた(始関正光編著 一問一答個人再生手続291頁(平成13年、商事法務研究会))。
2 計算式
可処分所得=再生債務者の収入-(税金等+再生債務者・被扶養者の最低生活費
可処分所得 × 2年
可処分所得算出シートを使用して算出する。
→ 大阪再生74頁、はい6民559頁
○ 民事再生法243条(再生手続の廃止)
給与所得者等再生において、次の各号のいずれかに該当する場合には、裁判所は、職権で、再生手続廃止の決定をしなければならない。
一 第二百四十一条第二項各号のいずれにも該当しない再生計画案の作成の見込みがないことが明らかになったとき。
二 裁判所の定めた期間若しくはその伸長した期間内に再生計画案の提出がないとき、又はその期間内に提出された再生計画案に第二百四十一条第二項各号のいずれかに該当する事由があるとき。
【事案】
再生債務者が、実際には存在しない貸付債権を意図的に債権者一覧表に記載する等の信義則に違反する行為により再生計画案を可決させた疑いが存する事案
【決定要旨】
1 「再生計画の決議が不正の方法によって成立するに至ったとき」の不認可事由(民事再生法202条2)
① 議決権を行使した再生債権者が詐欺、強迫又は不正な利益の供与等を受けたことにより再生計画案が可決された場合はもとより、
② 再生計画案の可決が信義則に反する行為に基づいてされた場合も含まれる。
2 1②の信義則に反する行為該当性の判断
再生債権の届け出がされ(法225条による場合を含む)、法定の期間内に異議が述べられなかったとしても、当該再生債権の存否を含め、当該再生債権の届出等に係る諸般の事情を考慮することができる。
3 本件では、
再生債務者の行為【事案】は、再生債務者として債権者に対し公平かつ誠実に再生手続を追行する義務を負う立場にあることに照らすと(法38条2項参照)、本件再生計画案の可決が信義則に反する行為に基づいてされた疑いが存する。
【参照・参考文献】
杉本和士・判例セレクトMonthly(法学教室451号(2018年)142頁)
【参考・参照文献】
下記文献を参考・参照して作成しました。
① 大阪地方裁判所・大阪弁護士会個人再生手続運用研究会 改正法対応 事例解説 個人再生 ~大阪再生物語~ (平成18年、新日本法規)略称:大阪再生
② 川畑正文ほか編 はい6民です お答えします 倒産実務Q&A p453~ (2018年10月第2版、大阪弁護士会協同組合)略称:はい6民
③ 例題解説 個人再生手続(令和元年、法曹会)略称:例題解説
④ 始関正光編著 一問一答 個人再生手続(平成13年、商事法務研究会)略称:一問一答
⑤ 園尾隆司・小林秀之編 条解民事再生法(平成15年、弘文堂) 略称:条解
⑥ 木内道祥監修 全国倒産処理弁護士ネットワーク編 個人再生の実務Q&A120問 略称:Q&A
(2018年、金融財政事情研究会)
⑦ 個人再生事件における書記官事務の実証的研究(令和6年、司法協会) 略称:書記官実務