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職場における優越的な関係を背景した言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等第1 パワハラ防止の法制
女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律(令和元年6月5日公布)
労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(労働施策総合推進法)
雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(男女雇用機会均等法)
育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(育児・介護休業法)
等が改正された。
労働施策総合推進法
1 国の施策
職場における労働者の就業環境を害する言動に起因する問題の解決の促進(ハラスメント対策)
○ 労働施策総合推進法4条
国は、第1条第1項の目的を達成するため、前条に規定する基本的理念に従って、次に掲げる事項について、総合的に取り組まなければならない。
14号
職場における労働者の就業環境を害する言動に起因する問題の解決を促進するために必要な施策を充実すること。
2 事業主
(1)パワハラ防止対策の強化
① 防止のための雇用管理上の措置義務
他の法律で定められているハラスメントの措置義務(※)と同様の義務を新設した。
第8章 職場における優越的な関係を背景した言動に起因する問題に関して事業主の講ずべき措置等 が新設された。
○ 労働施策総合推進法30条の2第1項
事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上の必要な措置を講じなければならない。
パワハラの定義
① 職場において行われる優越的な関係を背景とした言動
② 業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
③ その雇用する労働者の就業環境が害される
※ 他のハラスメントでは、
① セクハラ 男女雇用機会均等法11条1項
② マタハラ 男女雇用機会均等法11条の3第1項
③ 育ハラ・介ハラ 育児介護休業法25条
○ 労働施策総合推進法30条の2第3項
厚生労働大臣は、前二項の規定に基づき事業主が講ずべき措置等に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(以下この条において「指針」という。)を定めるものとする。
事業主が職場における優越的な関係を背景した言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(パワハラ防止指針)(令和2年1月15日厚生労働省告示第5号)
※ 他のハラスメントでは
① セクハラ 男女雇用機会均等法11条4項
② マタハラ 男女雇用機会均等法11条の3第3項
③ 育ハラ・介ハラ 育児介護休業法28条
措置義務の具体的内容は次のとおり(パワハラ防止指針)。
① 事業主のパワハラ防止方針等の明確化及びその周知・啓発
② 相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
③ 職場におけるパワハラに係る事後の迅速・適切な対応
④ その他
措置義務は、令和2年6月1日に施行されるが、中小事業主は、令和4年3月31日までは努力義務とされる。
事業主の措置義務等による規制は、行政的手法、公法的規制であり、これを私法的規制とし私法的効力をもたせるためには、安全配慮義務等の信義則上の義務を媒介する必要がある(大内伸哉・ビジネスガイド2020年8号73~75頁)。
(2)不利益取扱いの禁止
○ 労働施策総合推進法30条の2第2項
事業主は、労働者が前項の相談を行ったこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他の不利益な取扱いをしてはならない。
※ 他のハラスメントについても、同様に、不利益取扱いの禁止が法律で定められた。
① セクハラ 男女雇用機会均等法11条2項
② マタハラ 男女雇用機会均等法11条の3第2項
③ 育ハラ・介ハラ 育児介護休業法25条2項
3 パワハラに関する労使紛争について
個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律(個別労働紛争解決促進法)は適用しない(労働施策総合推進法30条の4)。それに代わる独自の紛争解決手続は、次のとおり。
① 都道府県労働局長による紛争解決援助
労働施策総合推進法30条の5
② 紛争調整委員会(個別労働紛争解決促進法6条1項)による調停
労働施策総合推進法30条の6
③ 措置義務等について履行確保(助言、指導、勧告等)
○ 労働施策総合推進法33条
1項 厚生労働大臣は、この法律の施行に関し必要があると認めるときは、事業主に対して、助言、指導又は勧告をすることができる。
2項 厚生労働大臣は、第三十条の二第一項及び第二項(第三十条の五第二項及び第三十条の六第二項において準用する場合を含む。第三十五条及び第三十六条第一項において同じ。)の規定に違反している事業主に対し、前項の規定による勧告をした場合において、その勧告を受けた者がこれに従わなかつたときは、その旨を公表することができる。
※ 他のハラスメントでは、
① セクハラ、マタハラ 男女雇用機会均等法29条・30条
② 育ハラ、介ハラ 育児介護休業法56条・56条の2
4 国、事業主、及び労働者の責務
○ 労働施策総合推進法30条の3
1項 国は、労働者の就業環境を害する前条第一項に規定する言動を行つてはならないことその他当該言動に起因する問題(以下この条において「優越的言動問題」という。)に対する事業主その他国民一般の関心と理解を深めるため、広報活動、啓発活動その他の措置を講ずるように努めなければならない。
2項 事業主は、優越的言動問題に対するその雇用する労働者の関心と理解を深めるとともに、当該労働者が他の労働者に対する言動に必要な注意を払うよう、研修の実施その他の必要な配慮をするほか、国の講ずる前項の措置に協力するように努めなければならない。
3項 事業主(その者が法人である場合にあつては、その役員)は、自らも、優越的言動問題に対する関心と理解を深め、労働者に対する言動に必要な注意を払うように努めなければならない。
4項 労働者は、優越的言動問題に対する関心と理解を深め、他の労働者に対する言動に必要な注意を払うとともに、事業主の講ずる前条第一項の措置に協力するように努めなければならない。
※ 他のハラスメントでは、
セクハラ 男女雇用機会均等法11条の2
マタハラ 男女雇用機会均等法11条の4
育ハラ・介ハラ:育児・介護休業法25条
第2 パワハラ防止指針
が職場における優越的な関係を背景した言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(パワハラ防止指針)(令和2年厚生労働省告示第5号)
職場におけるパワーハラスメントの内容
パワハラの三要素
職場において行われる
(1)優越的な関係を背景とした言動
抵抗又は拒絶することができない蓋然性が高い関係をいう。典型とされる上司・部下の関係に限らない。同僚・部下の言動・行為も該当し得る。
(2)業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動
業務上必要かつ相当な範囲を超えたか否かは、下記要素を総合考慮して判断される。
・ 当該言動の目的
・ 当該言動を受けた労働者の問題行動の有無や内容・程度を含む当該言動を行われた経緯・状況
・ 業務の種類・業態
・ 業務の内容・性質
・ 当該言動の態様・頻度・継続性
・ 労働者の属性・心身の状況
・ 行為者との関係性
など
(3)労働者の就業環境が害されるもの
平均的な労働者の感じ方を基準とする。
パワハラ:上記(1)(2)(3)の要素を全て満たすもの
3 パワハラの類型
(1)身体的な攻撃
暴行・傷害
(2)精神的な攻撃
脅迫、名誉毀損、侮辱、ひどい暴言
(3)人間関係からの切り離し
隔離、仲間外し、無視
(4)過大な要求
業務上明らかに不要なこと・遂行不可能なこと
の強制・仕事の妨害
(5)過小な要求
業務上の合理性なく能力・経験とかけ離れた程度の低い仕事を命ずること/仕事を与えないこと
(6)個の侵害
私的なことに過度に立ち入ること
第3 パワハラと裁判
〇 さいたま市環境センター事件
東京高等裁判所平成29年10月26日判決
安全配慮義務のひとつである職場環境調整義務として、
良好な職場環境を保持するため、職場におけるパワハラ、すなわち、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景として、業務の適正な範囲を超えて、精神的、身体的苦痛を与える行為又は職場環境を悪化させる行為を防止する義務を負い、パワハラの訴えがあったときは、その事実関係を調査し、調査の結果に基づき、加害者に対する指導、配置換え等を含む人事管理上の適切な措置を講じるべき義務を負う。
(評価)
① 労働施策総合推進法30条の2第1項に規定するパワハラに関する措置義務を、私法上の義務として具体化したもの。
② 職場環境配慮義務、職場環境調整義務を安全配慮義務の一つであると名言した。※
※ 福岡セクシュアル・ハラスメント訴訟に関する福岡地方裁判所平成4年4月16日判決は、安全配慮義務と職場環境配慮義務を分けていた。
【参考・参照文献】
下記文献を参考・参照して作成しました。
① 大内伸哉 キーワードからみた労働法第157回ハラスメント防止と安全配慮義務 ビジネスガイド2020年8月号・72頁