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<共有総論>
1 共有の意義
「共有」(民法249条以下)とは、一つの物を複数の者で共同して所有することをいう。また、各共有者はその物に対し持分権を有するが、その実質は所有権である。
2 講学上、共有(広義)は、次の3種類に分類される。
① 共有(狭義)
団体的拘束が弱く、個人主義的が強い。
a 民法249以下の共有
b 遺産分割前の遺産共有(民法898条 ※)
※ 民法898条(共同相続の効力) 相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する。
② 合有
団体的拘束がある。
→ 共有者個人の権利行使が制限を受ける。
a 組合財産の共有(民法676条 ※)
※ 民法676条(組合員の持分の処分及び組合財産の分割)1項 組合員は、組合財産についてその持分を処分したときは、その処分をもって組合及び組合と取引をした第三者に対抗することができない。
2項 組合員は、組合財産である債権について、その持分についての権利を単独で行使することができない。
3項 組合員は、清算前に組合財産の分割を求めることができない。
③ 総有
団体的拘束力が最も強い。
→ 共有者は、持分権を持たず、したがって、持分譲渡や分割請求もできない。利用権を有するに止まる。
a 入会地の共有
b 権利能力なき社団
以下では、民法249条以下で定める共有(狭義)を取り扱う。
3 持分権、持分割合
(1)持分権の意義
各共有者は、各一個の所有権を有し、各所有権が一定の割合において制限し合って、その内容の総和が一個の所有権の内容と均しくなっている状態である(我妻榮著有泉亨補訂 新訂物権法(民法講義Ⅱ)1983年、岩波書店))320頁。
(2)民法は「持分」という用語を次の2つの意味で使用している。
① 上記(1)の状態をもった権利という意味
持分権
② 各共有者に権利が分属する割合という意味
持分割合 (例)民法249条
〇 民法249条(共有物の使用)
各共有物は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる。
〇 民法249条 (共有物の使用)[令和3年改正]
1項 各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる。
2項 共有物を使用する共有者は、別段の合意がある場合を除き、他の共有者に対し、自己の持分を超える使用の対価を償還する義務を負う。
3項 共有者は、善良な管理者の注意をもって、共有物の使用をしなければならない。
<令和3年改正法について>
令和3年改正前の法:旧法 令和3年改正法:新法
1 改正の趣旨
旧法は、共有物を使用する者が他の共有者に対してどのような義務を負うかについて明文規定を欠き、そのため、共有者間で紛争が生じるおそれがあった。
→ 下記2 使用対価償還義務 原則と例外
→ 下記3 善管理注意義務
2 使用対価償還義務(新法249条2項)
(1)使用対価償還義務の根拠
① 共有者(A)の使用によって権利行使が妨げられた他の共有者(B)がいる場合、AB間では、Aによる使用の対価を無償とする理由はない。
共有物は1個である。→ 複数の者が同時に共有物を使用することができない。
BUT
現実の使用と収益権は区別できる。
共有物を現実に使用している共有者は、それにより使用を妨げられている他の共有者との関係では、無償で使用する権利はない。
② 使用する共有者(A)以外の共有者(B)の収益権自体は否定されない。
③ 他の共有者の収益権は、共有持分の価格の過半数によっても、否定できない。
④ 旧法下の判例
最判平成12年4月7日
(2)「別段の合意」使用対価償還義務の例外
共有者間において、無償とする等別段の合意がある場合は、その合意に従う。
① 明示の合意
② 暗黙の合意
共有者間の暗黙の了解で共有者の一人に共有物の使用を認めているような場合
③ ある共有者間で別段の合意があるときといえども、合意をしていない他の共有者については、本項が適用される。BA【13】Case(1)後段
3 善管注意義務(新法249条3項)
使用する共有者(A)は、他の共有者(B)の持分との関係では、他人の物を管理している。
→ Aは、Bに対して、共有物の使用について善管注意義務を負う。
→ Aが過失により共有物を滅失・損傷させた場合、BはAに対し、善管注意義務の債務不履行や共有持分の侵害による不法行為に基づく損害賠償請求できる。
4 遺産共有との関係
(1)相続によって生ずる共有(遺産共有)は、通常の共有と性質は同じである(最判昭和30年5月31日)。
(2)熟慮期間(民法915条1項本文)中、民法918条本文が適用され、相続人は、その固有財産におけるのと同一の注意義務を負う。
(3)相続の承認をした共同相続人は、遺産を使用するに際して、善管理注意義務を負う。
(文献)村松・大谷56頁
〇 民法250条(共有持分の割合の推定)
各共有者の持分は、相等しいものと推定する。
〇 民法251条(共有物の変更)
各共有者は、他の共有物の同意を得なければ、共有物に変更を加えることができない。
〇 民法251条(共有物の変更)[令和3年改正]
1項 各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。次項において同じ。)を加えることができない。
2項 共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、当該他の共有者以外の他の共有者の同意を得て共有物に変更を加えることができる旨の裁判をすることができる。
1 共有物の変更
共有者全員の合意が必要である。
2 変更の例
・ 共有物の処分(売却、用益権や担保権の設定)
・ 建物の建替え
・ 農地を宅地に変更
・ 民法602条(短期賃貸借)の期間を超える賃貸借契約
・ 借地借家法の適用がある賃貸借契約の締結
<概念の整理・修正~令和3年改正~>
1 旧法
① 変更 共有者全員の同意 民法251条
② 管理 持分価格に従い過半数 民法252条本文
③ 保存 共有者各人が単独で可 民法252条ただし書
2 軽微変更(新251条1項)
旧法によると、共有者に与える影響が小さくても、一人でも反対であれば、変更を行うことができず、ひいては、共有物の円滑な利用・適正な管理が妨げられる。
変更のうち下記①②については、共有者全員の同意ではなく、共有者の持分価格に従い過半数で決することにした。新251条1項括弧書、新252条1項
① その形状の著しい変更を伴わないもの
外観、構造等を変更すること
② その効用の著しい変更を伴わないもの
機能や用途を変更すること
(例)砂利道をアスファルト舗装する行為、建物の外壁・屋上防水等の大規模修繕行為・・・基本的に軽微変更に当たる。
(松村・大谷59頁)
3 新251条2項
共有者A(持分1/4)、B(持分1/4)、C(持分2/4)
A、Bにとって、Cを知ることができない又はその所在を知ることができない場合
新法は、裁判所の非訟手続を利用して、ABのみで、共有物の変更や管理ができることとした。
みなし同意制度ではなく、共有物の変更・管理に関する意思決定の分母からCを除外する制度である。
<所在等不明共有者がいる場合の共有物の変更・管理>
1 制度趣旨
共有物の変更:共有者全員の同意(原則)
共有物の管理:共有者の持分価格の過半数
→ ① 共有者が、他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない場合には、共有物の変更ができず、また、管理ができない(可能性)。
② 不在者財産管理制度の限界:共有者が不特定の場合、利用不可
→ 共有物の使用が阻害される事態が生じるおそれ
(村松・大谷Q23p67)
<共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき>
1 要件
(1)共有者が他の共有者を知ることができない場合
又は
他の共有者の所在を知ることができない場合
(2)裁判
① 「所在等不明共有者」以外の共有者による変更・管理の裁判 新民法251条2項、新252条2項1号
② 「所在等不明共有者」の持分の取得の裁判 新民法262条の2
③ 「所在等不明共有者」の持分を譲渡する権限付与の裁判 新民法262条の3
2 共有者が他の共有者を知ることができない場合
「共有者」(裁判の請求をする共有者)において、「他の共有者」の氏名・名称等が不明であり、特定することができない場合
氏名等が不特定である共有者がいる場合であっても
その共有持分を管理する者(所有者不明土地・建物管理人)が選任されている場合は、その者との間で協議等することができるため、要件を満たさない。
3 他の共有者の所在を知ることができない場合
住所等を知ることができない共有者がいる場合であっても、
その共有持分を管理する者(所有者不明土地・建物管理人)が選任されている場合は、その者との間で協議等することができるため、要件を満たさない。
① 自然人
共有者において、他の共有者の住所・居所を知ることができない場合
② 法人
共有者において、
ⅰ 他の共有者の事務所の所在地を知ることができないこと
ⅱ 他の共有者の代表者の氏名等を知ることができないこと
(他の共有者の代表者がいない場合を含む。)
代表者がおり、その所在を知ることができるのであれば、代表者との間で協議等をすることができる。
4 必要な調査(共有物が不動産である場合)
(1)書類・資料関係
① 不動産登記簿の調査
②(共有者=法人)商業・法人登記簿
② 住民票
ⅰ 自然人
ⅱ(共有者=法人)商業・法人登記簿上の代表者の住民票
(2)共有物の利用状況の確認
(3)連絡等を取ることができる共有者に確認
裁判を請求しようとする共有者→共有者・・・→所在不明共有者
(4)その他
(村松・大谷Q24p69 )
〇 民法252条(共有物の管理)
共有物の管理に関する事項は、前条の場合を除き、各共有の持分の価格に従い、その過半数で決する。
ただし、保存行為は、各共有者がすることができる。
〇 民法252条(共有物の管理)(令和3年改正)
1項 共有物の管理に関する事項(次条第一項に規定する共有物の管理者の選任及び解任を含み、共有物に前条第一項に規定する変更を加えるものを除く。次項において同じ。)は、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。共有物を使用する共有者があるときも、同様とする。
2項 裁判所は、次の各号に掲げるときは、当該各号に規定する他の共有者以外の共有者の請求により、当該他の共有者以外の共有者の持分の価格に従い、その過半数で共有物の管理に関する事項を決することができる旨の裁判をすることができる。
一 共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき。
二 共有者が他の共有者に対し相当の期間を定めて共有物の管理に関する事項を決することについて賛否を明らかにすべき旨を催告した場合において、当該他の共有者がその期間内に賛否を明らかにしないとき。
3項 前二項の規定による決定が、共有者間の決定に基づいて共有物を使用する共有者に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない。
4項 共有者は、前三項の規定により、共有物に、次の各号に掲げる賃借権その他の使用及び収益を目的とする権利(以下この項において「賃借権等」という。)であって、当該各号に定める期間を超えないものを設定することができる。
一樹木の栽植又は伐採を目的とする山林の賃借権等10年
二前号に掲げる賃借権等以外の土地の賃借権等 5年
三 建物の賃借権等 3年
四 動産の賃借権等 6箇月
5項 各共有者は、前各項の規定にかかわらず、保存行為をすることができる。
1 共有物の管理(新252条1項)
(1)共有物を利用、改良する等の行為
各共有者の持分の過半数で決する(1項前段)。
(2)管理の例
・ 共有物の使用収益方法の決定
・ 共有物を目的とする賃貸借契約を解除すること(解除権の不可分性[民法544条1項]は適用されない。)
(3)共有物を使用する共有者がいる場合であっても、管理行為に関する規律(1項前段)が適用されるか。適用を肯定する場合、持分価格の過半数という要件を満たせば、その共有者の同意は不要となる。
令和3年改正法は、その共有者の同意を必要となると、① 共有物の利用方法が硬直化すること、② (共有者間の決定を得ずに共有物を使用している)共有者を保護する必要性が高いといえないこと、から、適用を肯定した(1項後段)。
☆ 最高裁昭和41年5月19日判決との関係
(事案)
甲乙丙が共有している不動産(持分は各1/3)について、甲が乙丙との協議を経ないで、単独で不動産を使用している場合、乙丙は、甲に不動産の明渡しを請求できるか。
(判旨)
① 甲は、協議を経ないで当然に共有物を単独で占有する権原を有するとはいえない。
② 乙丙は、共有持分の過半数を有するとしても、甲に対し明渡しを求めることはできない。← 甲は、自己の持分によって、共有物を使用収益する権限を有し、これに基づいて共有物を占有している。
この場合、乙丙は、甲に対し、不当利得返還請求権又は不行為による損害賠償請求権に基づき、不動産使用料相当額の支払いを請求できる(最高裁平成12年4月7日判決)。
新252条1項に基づいて、現在使用している共有者とは別の共有者に使用させる旨の決定がされた場合には、判例のいう明渡しを求める理由がある(村松・大谷p64)。
判例上問題となった共有者間の合意等は、共有物の使用利益に係る償還義務の有無を判断するためのものとして機能していたが、改正法によると、償還義務だけではなく、占有権原も共有者間の合意等の有無に左右される。
2 共有者間の持分価格の過半数による決定に基づいて共有者を使用する共有者の保護(新252条3項)
令和3年改正法は、新252条1項後段の規律を明記した。
それに伴い、既存使用共有者の利益保護のため、一定の場合、当該共有者の承諾を必要とすることとした。
「特別の影響」
① 対象となる共有物の性質に照らし、決定の変更等をする必要性と、その変更等によって共有物を使用する共有者(A)に生ずる不利益とを比較して、その共有者(A)に受忍すべき程度を超えて不利益を生じさせることをいう。
② その有無は、具体的事案に応じて判断する。
3 共有物の保存(新252条5項)
(1)各共有者が単独で出来る。
(2)保存の例
・ 共有物の修繕
・ 共有物を不法占拠する者に対する妨害排除請求
(村松・大谷Q22[p63])
<新252条4項関係~令和3年改正~>
1 問題の所在
共有物に対する賃借権その他の使用を目的とする権利(賃借権等)が、管理行為に当たれば、持分価格の過半数で決することができるが、共有者に与える影響が大きい賃借権等の設定は、共有者全員の同意が必要であると解される。
BUT
① 区別の基準が明確でない。
② ①のため、慎重を期して共有者全員の同意を求める運用がされ、その結果、共有物の利用が阻害される。
2 新法の内容
252条4項各号に定める賃借権等(短期賃借権等)の設定は、持分価格の過半数で決することができるとした。
3 252条4項各号に該当しない場合 → 共有者全員の同意が必要
① 各号所定の期間を超える賃借権等の設定
② 建物所有目的の土地賃借権等の設定
一時使用目的である場合(借地借家法25条)は除く。但し、所定の期間以内とする必要がある。
③ 建物賃借権の設定
定期建物賃貸借(借地借家法38条1項)、取壊し予定の建物賃貸借(同法39条1項)、一時使用目的の建物の賃貸借(同法40条)は除く。但し、所定の期間以内とする必要がある。
(松村・大谷59頁)
〇 民法252条の2(共有物の管理者)[令和3年改正]
1項 共有物の管理者は、共有物の管理に関する行為をすることができる。ただし、共有者の全員の同意を得なければ、共有物に変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。次項において同じ。)を加えることができない。
2項 共有物の管理者が共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有物の管理者の請求により、当該共有者以外の共有者の同意を得て共有物に変更を加えることができる旨の裁判をすることができる。
3項 共有物の管理者は、共有者が共有物の管理に関する事項を決した場合には、これに従ってその職務を行わなければならない。
4項 前項の規定に違反して行った共有物の管理者の行為は、共有者に対してその効力を生じない。ただし、共有者は、これをもって善意の第三者に対抗することができない。
〇 民法253条(共有物に関する負担)
1項 各共有者は、その持分に応じ、管理の費用を支払い、その他共有物に関する負担を負う。
2項 共有者が1年以内に前項の義務を履行しないときは、他の共有者は、相当の償金を支払ってその者の持分を取得することができる。
〇 民法254条(共有物についての債権)
共有者の一人が共有物について他の共有者に対して有する債権は、その特定承継人に対しても行使することができる。
〇 民法255条(持分の放棄及び共有者の死亡)
共有者の一人が、その持分を放棄したとき、又は死亡して相続人がないときは、その持分は、他の共有者に帰属する。
〇 民法263条(共有の性質を有する入会権)
共有の性質を有する入会権については、各地方の慣習に従うほか、この節の規定を適用する。
〇 民法264条(準共有)
この節の規定は、数人で所有権以外の財産権を有する場合について準用する。ただし、法令に特別の定めがあるときは、この限りでない。
〇 民法264条(準共有)[令和3年改正(未施行)]
この節(第二百六十二条の二及び第二百六十二条の三を除く。)の規定は、数人で所有権以外の財産権を有する場合について準用する。ただし、法令に特別の定めがあるときは、この限りでない。
【参考・参照文献】
以下の文献を参考・参照して、このページを作成しました。
□ 安永正昭 講義物権・担保物権法(第3版)(2019年、有斐閣)163頁
□ 鎌田薫・松岡久和・松尾弘編、新基本法コンメンタール物権(令和元年、日本評論社)117頁
□ 我妻榮・有泉亨・清水誠・田山輝明 我妻・有泉コンメンタール民法総則・物権・債権(第6版)(2019年、日本評論社)467頁
□ 村松秀樹・大谷太編著Q&A令和3年改正民法・改正不登法・相続土地国庫帰属法(2022年、きんざい)56頁、略称 村松・大谷
□ 日本弁護士連合会 自由と正義2022年1月号
□ 潮見佳男ほか編 Before/After 民法・不動産登記法改正(2023年、弘文堂)、略称:BA