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○ 民法第896条(相続の一般的効力)
相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。
ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。
1 相続財産の包括承継
本条は、相続財産の包括承継すなわち被相続人のもとで形成されてきた財産関係が一体として相続人に承継される原則を定めたものである(潮見136頁)。
2 承継されるもの
(1)被相続人の財産に属した一切の権利義務(本条本文)
(2)個別検討
① 生命侵害における不法行為による損害賠償請求権(ⅰ財産上の損害、ⅱ精神的損害=慰謝料)
ⅰ 大判大正15年2月16日
受傷と死亡との間に観念上時間の間隔がある。
→ 受傷の瞬間、被害者に損害賠償請求権が発生する。
→ 被害者の死亡により、損害賠償請求権が相続人に承継される。
ⅱ 最大判昭和42年11月1日
被害者が生前に請求の意思を表明することは不要であり、当然に相続される。
3 承継されないもの
(1)被相続人の一身に専属したもの(本条ただし書)
被相続人個人の人格・才能や個人としての法的地位と密接不可分の関係にあるために、他人による権利行使・義務の履行を認めるのが不適当な権利義務をいう(文献①312頁)。
(2)個別検討
① プロの画家として債権者の肖像画を制作する債務
② 公営住宅を使用する権利(最判平成2年10月18日)
③ 雇用契約に基づく被用者の債務
④ 民法各規定(いずれも任意規定)
文献②266頁
ⅰ 使用貸借の借主の地位 民法597条3項
ⅱ 代理における本人・代理人の地位 民法111条
ⅲ 委任者・受任者の地位 民法653条
ⅳ 組合員の地位 民法679条
⑤ 身分関係に強く結びついた権利義務(文献②267頁)
扶養の権利義務 民法877条
親権 民法820条
⑥ 身元保証契約上の責任(責任具体化前)(大判昭和18年9月10日)
⑦ 離婚の際の財産分与請求権 潮見【CASE121】
(参考・参照文献)
① 二宮周平 家族法(第4版)(2013年、新世社)311頁
② 前田陽一・本山敦・浦野由紀子 民法Ⅳ親族・相続(第5版)(2019年、有斐閣)266頁
<占有権の相続>
1 判例・通説
(結論)占有権の相続を認める。
(考え方)被相続人の事実的支配下にあった物 相続開始と同時に相続人の支配に承継される。→相続人は所持を承継取得する。→相続人は占有権も承継する。
潮見【CASE122】
2 留意点
① 占有権の相続 法律が相続開始の事実に対し直接に付与した効力
② 相続人において現実の所持を要しないもの(観念的占有権)
3 占有の二面性
被相続人A、相続人X
① 観念的占有権
XがAの占有を相続により承継した。
② 通常の占有権
X自身の占有
4 相続と新権(民法185条)
潮見【CASE123】
(1)判例(最判昭和46年11月30日、最判平成8年11月12日)
① 被相続人の占有していた不動産につき、相続人が、被相続人の死亡により同人の占有を相続により承継しただけでなく、新たに当該不動産を事実上支配することによって占有を開始した場合において、その占有が所有の意思に基づくものであるときは、被相続人の占有が所有の意思のないものであったとしても、相続人は、独自の占有に基づく取得時効の成立を主張することができる。
② 相続人の占有に所有の意思があるとみられる場合においては、相続人が「新権」により自主占有するに至ったものと解する。
(2)留意事項
① 相続=包括承継
→ 相続は、自主占有を基礎づける新権ではあり得ない。
② 権原の客観的性質から自主占有を判定するのではない。
③ 相続人の固有の占有が所有の意思に基づくものとみることができる場合には、相続を新権原とした自主占有が認められるという逆転した判断構造
(安永正昭 講義物権・担保物権法第4版(2021年、有斐閣)254頁)
○ 民法897条(祭祀に関する権利の承継)
1項 系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。
ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する。
2項 前項本文の場合において慣習が明らかでないときは、同項の権利を承継すべき者は、家庭裁判所が定める。
○ 民法897条の2 (相続財産の保存)[令和3年改正(施行日:令和5年4月1日)]
1項 家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、いつでも、相続財産の管理人の選任その他の相続財産の保存に必要な処分を命ずることができる。
ただし、相続人が一人である場合においてその相続人が相続の単純承認をしたとき、相続人が数人ある場合において遺産の全部の分割がされたとき、又は第九百五十二条第一項の規定により相続財産の清算人が選任されているときは、この限りでない。
2項 第二十七条から第二十九条までの規定は、前項の規定により家庭裁判所が相続財産の管理人を選任した場合について準用する。
1 令和3年改正前の相続財産に関する管理制度
(1)相続財産管理制度(民法951条~)
問題点:相続財産の清算を目的としており、手続が大変で、コスト(予納金の額)がかかっていた。
(2)相続財産の清算を目的としない相続財産管理制度
① 相続の各段階
相続開始時~相続の承認・放棄 民法918条2項
限定承認後 民法926条2項
相続放棄後~次順位者の管理開始時 民法940条2項
問題点:利害関係人からすると、現状が上記どの段階にあるか不明であり、そうすると、これを利用することは期待しがたい。
② 相続の承認~遺産分割
問題点:暫定的な遺産共有状態であるが、共同相続人が相続財産を適切に管理しない場合、これに対応する管理制度が設けられていない。
2 令和3年改正
① 相続人のあることが明かでない場合における、相続財産の清算を目的としない相続財産管理制度を新設する。
② 相続人が数人ある場合における、相続承認後遺産分割前の相続財産管理制度を新設し、この管理制度と現行の管理制度(上記1(2))とを統合する。
3 897条の2が定めている相続財産管理制度は、相続開始時から遺産分割までの暫定的な帰属状態を通しての、統一的な相続財産管理制度である(潮見160頁)
潮見【CASE 148】共同相続人が相続財産の管理に関心がなく、その管理をしようとしない場合
潮見【CASE 149】相続財産の「清算」を目的とせず、専ら、その管理をする目的で相続財産管理人を選任できる。
4「相続財産の保存に必要な処分」(897条の2第1項本文)
(1)主に、相続財産管理人の選任 家事事件手続法別表第1[89]項
(2)下記の場合は、命ずることができない(897条の2第1項ただし書)
① 相続人が1人である場合(単独相続)において、その相続人が単純承認(920条)した場合 潮見【CASE 150】
② 相続人が数人ある場合(共同相続)において、遺産の全部が分割された場合
③ 相続財産管理人(952条1項)が選任された場合
5 相続財産管理人の権利義務など
(1)相続財産管理人の職務、権限、担保提供、報酬
① 不在者財産管理人の職務、権限、担保提供、報酬に関する条項(27~29)が準用される。897条の2第2項
② 相続財産管理人は、相続財産管理人の法定代理人である。28条
(2)善良な管理者の注意義務
家事事件手続法190条2項→〔準用〕→同法125条6項→〔準用〕→民法644条・647条・650条
(3)供託
家事事件手続法190条2項→〔準用〕→同法146条の2
① 相続財産管理人は、相続財産の管理、処分その他の事由により金銭が生じた場合、相続人or相続財産法人のために、当該金銭を供託できる。
② 供託の場合、公告
(4)「相続財産の保存に必要な処分」の取消しの審判
家事事件手続法190条2項→〔準用〕→同法147条
家庭裁判所は、以下の場合、相続人、相続財産管理人、利害関係人の申立てにより、または、職権で、処分の取消しの審判をしなければならない。
① 相続人が財産を管理することができるようになったとき。
② 管理すべき財産がなくなったとき。(3)供託の場合を含む。
③ その他、管理を継続することが相当でなくなったとき。[例]単独相続で、相続人が単純承認した。共同相続で、遺産の全部が分割された。相続財産清算人が選任された。
☆ 法改正については、文献④Q47・167頁
旧918条2項の相続財産管理事件については、文献④Q44・155頁
○ 民法898条(共同相続の効力)
相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する。
○ 民法898条(共同相続の効力)[令和3年改正(施行日:令和5年4月1日)]
1項 相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する。
2項 相続財産について共有に関する規定を適用するときは、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分をもって各相続人の共有持分とする。
① 「共有」は、民法249条の「共有」と同じ性質である。
② 共有の解消のため、遺産分割が必要である。
○ 民法899条
各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継する。
1 「相続分」指定相続分
2 金銭債権(損害賠償請求権、貸金返還請求権、不動産賃料債権)
可分債権であり、法律上当然に相続分に従って分割され、各相続人に帰属する。
相続分の指定がある場合は、民法427条が分割基準について私的自治を認めていること(「別段の意思表示」)から、少なくとも共同相続人内部の関係では、指定相続分である。(文献③p158)
3 可分債権として扱われる金銭債権も、遺産分割協議・調停の際、遺産分割の対象財産として取り扱うことは差し支えない。
4 被相続人の第三者に対する、可分債権である 金銭債権について、共同相続人の一人が自己の相続分を超えた金員を受領した場合には、他の共同相続人の財産に対する侵害となる。
侵害を受けた相続人は、侵害した相続人に対し、不法行為による損害賠償請求権又は不当利息返還請求権に基づき、侵害に係る金員の支払い(返還)を求めることができる(最判平成16年4月20日)。
<相続分の意義>
「相続分」は多義的であり、例えば、次のように整理することができる。
① 相続人が有する相続財産についての権利そのもの
(例)相続分の譲渡
② 相続人が有する相続財産についての権利の割合
(例)Aさんの相続分は1/3
これは、ⅰ 「本来的(抽象的)相続分(法定相続分)」と、ⅱ ⅰに特別受益や寄与分の調整を経た「具体的(終局的)相続分」に分けることができる。
③ 相続人が有する相続財産についての権利の価格
(例)Aさんの相続分は500万円である。
④
(参考・参照文献)鈴木禄弥 相続法講義改訂版(1996年、創文社)8頁、内田貴 民法Ⅳ(補訂版)親族・相続(2004年、東京大学出版会)382頁
○ 民法899条の2(平成30年改正により新設)
1項 相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第901条の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。
2項 前項の権利が債権である場合において、次条及び第901条の規定により算定した相続分を超えて当該債権を承継した共同相続人が当該債権に係る遺言の内容(遺産の分割により当該債権を承継した場合にあっては、当該債権に係る遺産の分割の内容)を明らかにして債務者にその承継の通知をしたときは、共同相続人全員が債務者に通知をしたものとみなして、同項の規定を適用する。
1 法定相続分を超える部分の承継についての対抗要件主義の採用
これまでの判例法理は、次のとおりである。相続分の指定や相続させる遺言(「特定財産承継遺言」といわれるようになった。)による不動産の権利取得は、相続を原因とする包括承継であることから、登記なしに第三者に対抗できる。他方、遺贈は、特定承継であるから、対抗要件(民法177条)による。
例えば、被相続人A、相続人甲(法定相続分1/2)、相続人乙(法定相続分1/2)で、Aが甲に全財産に当たる土地を相続させる遺言。相続開始後、乙の債権者が土地の1/2の持分を差し押さえた。という事案では、差押えは無効となる。
しかし、遺言の有無及び内容を知り得ず、法定相続分による権利の承継があったと信頼した第三者(上記例では、乙の債権者)が不足の損害を被る。
他方、遺産分割については、法定相続分を超える権利を取得した者は、登記等なしに、遺産分割後の第三者に権利取得を対抗できないというのが判例法理であった。
これらを踏まえて、遺産分割のみならず、相続分の指定、特定財産承継遺言による、法定相続分を超える権利の取得について対抗要件主義を採用した。
本条の趣旨は、法定相続分の取得に対抗要件の具備を求めない判例法理を明文化する(「・・・相続分を超える部分については」)と共に、
遺言による相続分の指定、特定財産承継遺言(相続させる旨の遺言)により法定相続分を超える部分の取得について、遺言の有無及び内容を知り得ない相続債権者等の利益を保護しあわせて相続登記を促進するため、対抗要件を採用したものといえる。
2 改正前の判例法理
① 最判昭和38年2月22日
共同相続人は、相続による法定相続分に当たる不動産持分の取得を登記なしに第三取得者に対抗できる。
その者の持分に関する限り無権利の登記(無権利法理)+登記に公信力がない。
② 最判平成5年7月19日
指定相続分による不動産の権利取得は、登記なしに第三者に対抗できる。
← ①と同じく、無権利法理+登記に公信力がない
③ 最判平成14年6月10日
相続させる旨の遺言による不動産の権利取得は、登記なしに第三者に対抗できる。
← 相続させる旨の遺言による権利の移転は、法定相続分又は指定相続分の相続と本質において異なるところはない。
④ 最判昭和42年1月20日
相続放棄の効果は絶対的であり、登記なしに何人に対しても対抗できる。
← 相続放棄の遡及効
⑤ 最判昭和39年3月6日
遺贈による不動産の権利取得は、登記なしに第三者に対抗できない。
← 民法177条は広く物件の得喪変更について対抗要件主義を採用する。遺贈は、意思表示により物権変動の効果が生ずる点において贈与と同じ。
⑥ 最判昭和46年11月16日
不動産について、生前贈与による物権変動と特定遺贈による物権変動の優劣を対抗要件たる登記の具備の有無をもって決する。
⑦ 最判昭和46年1月26日
遺産分割により相続分と異なる権利を取得した相続人は、その旨の登記を経なければ、分割後に不動産の権利を取得した第三者に対し、自己の権利の取得を対抗できない。
← 遺産分割に共同相続の外観を信じて、相続人の持分について第三者が権利を取得することは、相続放棄の場合と比較して多い。分割により新たな物件変動が生じたと解する。
3 本条は「権利」を対象とするから、不動産、動産のほか債権も含まれる。
5 相続人への遺贈に899条の2第1項が適用されるか争いがある。
6 民法177条と899条の2第1項との関係は諸説がある。
7 対象が債権である場合における対抗要件具備の方法
(1)1項の原則によると、債務者の承諾がある場合のほかは、共同相続人全員の通知によらないと、対抗要件を具備できないことになるが、共同相続人全員の通知は期待できない場合もある。そこで、(受益)相続人単独による通知を対抗要件として認めた。もちろん、(原則に戻り)共同相続人の全員が債務者に対し通知してもよい(文献③159頁)。
(2)① 当該債権に係る遺言の内容(遺産の分割により当該債権を承継した場合にあっては、当該債権に係る遺産の分割の内容)を明らかにすること、②債務者にその承継の通知
①について、例えば、遺言の原本を提示し、債務者の求めに応じて、債権の承継に関する部分のコピーを交付する。
<まとめ>
法定相続分を超える債権を承継取得した場合、その超過分についての対抗要件具備
1 相続分の指定、特定財産承継遺言による場合
(1)債務者対抗要件
① 共同相続人の全員が債務者に対し通知すること
② 超過分を取得した相続人又は遺言執行者が899条の2第2項所定の通知すること
③ 債務者が承諾すること
(2)第三者対抗要件
①②③を確定日付のある証書(例 配達証明書付き内容証明郵便)によって行うこと。899条の2第1項
2 遺産分割による場合
(1)債務者対抗要件
① 共同相続人の全員が債務者に対し通知すること
② 超過分を取得した相続人又は遺言執行者が899条の2第2項所定の通知すること
③ 債務者が承諾すること
(2)第三者対抗要件
①②③を確定日付のある証書(例 配達証明書付き内容証明郵便)によって行うこと。899条の2第1項
[参考]潮見佳男 詳解相続法(平成30年、弘文堂)対応関係
1 遺産分割により法定相続分を超える不動産所有権を取得した場合
【CASE 313】(307頁)
2 相続分の指定により法定相続分を超える不動産所有権を取得した場合
【CASE 314】(309頁)
3 特定財産承継遺言により法定相続分を超える不動産所有権を取得した場合
【CASE 315】(309頁)
4 遺贈により法定相続分を超える不動産所有権を取得した場合
【CASE 316】(309頁)
5 遺贈により法定相続分を超える債権を取得した場合
①債務者対抗要件【CASE 317】(309頁)
同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、次の各号の定めるところによる。1号~3号は下記表のとおり。
4号
① 子、直系尊属、兄弟姉妹が数人あるとき
各自の相続分 均等
② 相続人が兄弟姉妹であるとき
全血兄弟姉妹:被相続人と父母を同じくする兄弟姉妹
半血兄弟姉妹:被相続人と父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹
半血兄弟姉妹の相続分は全血兄弟姉妹の相続分の1/2
号 | 相続人の組み合わせ | 配偶者 | 配偶者以外 |
1号 | 配偶者、子 | 1/2 | 1/2 |
2号 | 配偶者、直系尊属 | 2/3 | 1/3 |
3号 | 配偶者、兄弟姉妹 | 3/4 | 1/4 |
【非嫡出子の相続分】
1 平成25年改正前、非嫡出子の相続分は、嫡出子の相続分の1/2とされていた(民法900条4号ただし書)。最高裁大法廷平成25年9月4日決定は、当該規定を合憲とした最高裁大法廷平成7年7月5日決定を変更し、違憲とした。すなわち、法律婚制度の下で父母が婚姻関係にはなかったという、子にとっては自ら選択ないし修正する余地のない事柄を理由としてその子に不利益を及ぼすことは許されず、子を個人として尊重し、その権利を保障すべきであるという考え方が確立されてきているとし、嫡出子と非嫡出子の相続分につき差を設けることは、遅くとも平成13年7月当時において、法の下の平等を規定する憲法14条1項に反し、違憲であるとした。
上記最高裁決定を受けて、平成25年改正において、民法900条4号のうち非嫡出子の相続分を嫡出子の相続分の1/2とする部分は削除された。
この改正法は、平成25年9月5日以降に開始した相続について適用するというものであり、同年12月11日から施行された。
平成13年7月以降平成25年9月4日までに開始された相続に関して、平成25年最高裁決定は、次のとおりとする。
① 決定の先例としての事実上の拘束性により、非嫡出子の相続分を嫡出子の相続分の1/2とする規定に基づく裁判や合意の効力等は否定されることなる。
→当該規定を排除した上で、法律関係を確定させることが相当である。
② 既に関係者間において、裁判、合意等によりとなった法律関係を覆すことは相当ではないとした。
○ 民法901条(代襲相続人の相続分)
1項 第八百八十七条第二項又は第三項の規定により相続人となる直系卑属の相続分は、その直系尊属が受けるべきであったものと同じとする。ただし、直系卑属が数人あるときは、その各自の直系尊属が受けるべきであった部分について、前条の規定に従ってその相続分を定める。
2項 前項の規定は、第八百八十九条第二項の規定により兄弟姉妹の子が相続人となる場合について準用する。
○ 民法902条(遺言による相続分の指定)(平成30年改正)
1項 被相続人は、前二条の規定にかかわらず、遺言で、共同相続人の相続分を定め、又はこれを定めることを第三者に委託することができる。
2項 被相続人が、共同相続人中の一人若しくは数人の相続分のみを定め、又はこれを第三者に定めさせたときは、他の共同相続人の相続分は、前二条の規定により定める。
○ 民法902条の2(相続分の指定がある場合の債権者の権利の行使)(平成30年改正により新設)
被相続人が相続開始の時において有した債務の債権者は、前条の規定による相続分の指定がされた場合であっても、各共同相続人に対し、第900条及び第901条の規定により算定した相続分に応じてその権利を行使することができる。
ただし、その債権者が共同相続人の一人に対してその指定された相続分に応じた債務の承継を承認したときは、この限りでない。
1 被相続人が第三者に対し負う、可分債務である金銭債務
(文献③178頁)
当然に相続分に従い分割される。(最判昭和34年6月19日)*潮見相続法【CASE201】
(実質的論拠)共同相続人全員に分割されずに承継されると考えると、相続人の数だけ責任財産が増加することになり、相続債権者に、相続をきっかけとして、過大な保護を与えてしまう。
2 債務承継の割合
法定相続分に割合に従って、各相続人は承継する。
具体的相続分ではない。
被相続人は、積極財産と異なる割合で消極財産の相続分を指定することはできない。
3 第三者(相続債権者)に対する効力
本条は、旧法下の判例法理(最高裁平成21年3月24日)を明文化したものである。
① 相続債権者は各共同相続人に対し、
法定相続分の割合で分割された金銭債権を行使できる。
* 潮見相続法【CASE203】(a)
② 相続債権者は共同相続人の一人に対し、
指定相続分の割合での承継を承認した場合、
指定相続分の割合で分割された金銭債権を行使できる。
* 潮見相続法【CASE203】(b)
③ 相続債権者が共同相続人の一人に対し、
法定相続分の割合で分割された金銭債権を行使しよう
としたが実現しなかった場合、
相続債権者は共同相続人の一人に対し、
指定相続分の割合での承継を承認して、
指定相続分の割合で分割された金銭債権を行使できる。
【例】被相続人A、相続人甲(法定相続分1/2)、相続人乙(法定相続分1/2)
Aは、相続分を甲2/2、乙0/2と指定した。
Aには、Bに対する100万円の負債があった。
Aについて相続開始後、
① Bは、甲に対し、100万円×1/2=50万円、乙に対し、100万円×1/2=50万円をそれぞれ請求できる。
乙は、これを拒絶できない。
② Bは、相続分指定を認めて、甲に対し、100万円×2/2=100万円を請求できる。
この場合、甲は、自己が支払義務を負うのは、50万円だと主張することはできない。
③ Bは、乙に対し、100万円×1/2=50万円を請求したが、乙に資力はないので回収できなったので、次に、甲に対し、100万円×2/2=100万円を請求できる。
最(三小)判 平成21年3月24日
(事案[分かりやすいように適宜修正しております]・争点)
平成15年7月
被相続人A 全財産を二人いる子(甲と乙)のうち一人(甲)に相続させる遺言を作成した(本件遺言)
平成15年11月
A死亡
相続開始時の資産負債
資産1億円 負債8000万円(本件債務)
相続人は甲と乙である。
平成16年4月
乙が甲に対し、遺留分減殺請求権(平成30年改正により遺留分侵害額請求権)を行使する。
遺留分侵害額の算出に当たり、本件負債の取扱いが争点となる。具体的には、次のとおりである。
甲の主張
① 本件遺言により本件債務は全額甲が負担することになる。
② (1億-8000万円)X1/4[個別的遺留分率]
→ 500万円
乙の主張
① 本件債務のうち、乙は、その1/2に当たる4000万円を負担する。
② (1億-8000万円)X1/4[個別的遺留分率]+4000万円 → 4500万円
(裁判所の判断)
結論として、甲の主張を認めた。判旨は次のとおり。
<相続人のうちの一人(甲)に対して財産全部を相続させる旨の遺言がされた場合>
① 遺言の趣旨等から相続債務については当該相続人(甲)にすべてを相続させる意思のないことが明らかであるなどの特段の事情のない限り、相続人(甲・乙)間においては、当該相続人(甲)が相続債務(本件債務)もすべて承継したと解される。
② 遺留分の侵害額の算定に当たり、遺留分権利者(乙)の法定相続分に応じた相続債務の額を遺留分の額に加算することは許されない。
③ 相続債務の債権者(相続債権者)との関係
a 遺言による相続分の指定は、相続債権者は関与していないため、相続人債権者に対しては、その効力が及ばない。
b 乙は、相続債務(本件債務)の債権者から法定相続分に従った債務の履行を求められたときは、これに応じなければならない。
c 相続債権者の方から相続債務(本件債務)についての相続分の指定の効力を承認し、各相続人(甲、乙)に対し、指定相続分に応じた相続債務の履行を請求することは、妨げられない。
④ 遺留分侵害額の算定との関係
遺留分侵害額は、相続人間において、遺留分権利者の手元に最終的に取り戻すべき遺産の数額を算出するもの
a ①と解するため、②と解することになる。
b ③bの場合は、遺留分権利者(乙)が相続債務を全て承継した相続人(甲)に対し求償できる。
(判例解説、参考・参照文献)
① 髙橋譲 時の判例(有斐閣ジュリスト1421号98頁)
② 川淳一 相続分の指定がある場合の債権者の権利の行使
(改正902条の2)
加藤新太郎・前田陽一・本山敦編集 実務精選120
離婚・親子・相続事件判例解説172頁
【参考・参照文献】
このページは、以下の文献を参考・参照して作成しました。
□ 中込一洋・実務解説改正相続法(2019年、弘文堂)7頁
□ 石田剛「相続による権利承継の対抗要件」法学教室478号6頁
□ 潮見佳男 詳解相続法第2版(令和4年、弘文堂)218頁 略称:潮見
□ 大阪財産管理研究会編著 家庭裁判所の財産管理実務(2022年、大阪弁護士協同組合)