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平成30年改正前の相続法を「旧法」、同改正に係る相続法を「新法」という。
1 遺留分制度の意義
兄弟姉妹以外の相続人について、その生活保障を図る等の観点から(※)、被相続人の意思にかかわらず、被相続人の財産から、その相続人の最低限の取り分を確保する制度である。(
※ 潮見636頁によると、遺留分侵害額請求権制度の目的は次のとおりである。
① 被相続人死亡後の近親者の生活保障
② 遺産の維持・形成への貢献を考慮した遺産の再配分
③ 実質的夫婦共有財産の清算
④ 共同相続人間の公平の確保
2 遺留分に関する権利の法的性質
(1)遺留分制度の変遷
① 旧法
形成権、現物返還原則→物権的効果
② 新法
形成権、金銭債権化
旧法では、遺留分に関する権利を行使した効果は、物権的効果とされていた。すなわち、遺留分権利者が遺留分に関する権利を行使することにより、遺贈・贈与等の一部が無効となり、遺産が遺留分権利者と受遺者等の共有となる。
そうすると、遺留分権者と受遺者等との間で遺産の共有関係の解消をめぐって紛争となる、また、遺贈等の目的が事業用財産である場合は、円滑な事業承継に支障が生ずるおそれがある。
遺留分権利者の生活保障や遺産形成に関する清算という遺留分制度の目的を達成するためには共有とすることまで必要でない。
そこで、新法は、物権的効果を否定し、遺留分権利者が遺留分に関する権利を行使することにより金銭債権が発生するという効果を採用した。これにあわせて、「減殺」という文言は使用しないで、「侵害」に改めた。
<経過措置>
2019年(令和元年)7月1日以後に開始した相続については新法が適用され、同日前に開始した相続については旧法が適用される。(附則1条、2条)
潮見【CASE684~688】
(2)遺留分に基づく権利主張の個別性・相対性
① 遺留分を有すること
② 遺留分侵害額請求権の行使
①と②は別物=遺留分権利者が権利行使するか否かはその者の自由に委ねられる。
潮見【CASE689】
(3)遺留分権利者の相続開始前の地位
相続開始前、遺留分権利者は、その権利を保全することはできない。
潮見【CASE690】
1 総体的遺留分の割合(本条1項)
① 直系尊属のみが相続人である場合(1号) 1/3 ※1
2 個別的遺留分の割合(本条2項)
総体的遺留分の割合 × 法定相続分(※)
※ 902条に言及せず
→相続分指定の有無は個別的遺留分の割合に影響しない。
個別的遺留分の割合の算定例
片岡・管野①【設例14-1】、【設例14-2】
片岡・管野②【設例22-2】、【設例22-3】
[新法・旧法の対応関係]
旧1028条/新1042条
1 遺留分を算定するための財産の価格(本条1項)
旧1029条1項から実質的な変更はない。
2 旧1029条2項=本条2項
3 遺留分=物権的効力の否定&金銭債権化→旧1032条の削除
4 遺産共有の場合における「みなし相続財産」「具体的相続分」の算定(903条・904条・904条の2)との相違点
(潮見 頁)。
① 「寄与分」が考慮されない。② 「相続債務」が控除される。③ 組み入れられる贈与財産に違いがある。④ 対象となる受贈者は、共同相続人に限定されない。
②については、次のとおりである(潮見 頁)。遺留分制度は、相続人が現実に取得する又は取得すべき価格を基礎として、遺留分権利者に一定割合を留保する制度であるから、積極財産から消極財産を控除するのが当然であるという理解でる。
被相続人が負う保証債務の取扱いについては、次のとおりである。
債務の履行が不確実であること、保証人が複数いる場合があること。
→ 全額が当然に「債務」(1項)に含まれると解する必然性はない。
→ 主債務者が無資力であり、求償権行使による填補の実効性がない場合に限り、被相続人の財産から控除する(東京高判平成8年11月7日)。
5 基礎財産の評価時期・評価方法(潮見716頁、片岡・管野①231頁)
① 原則
相続開始時、客観的価値
② 目的物が相続開始後に滅失・減価
相続開始時の原状で評価
③ 贈与財産
相続開始時点を基準に価格評価する。贈与された金銭は、相続開始時の貨幣価値に換算して、評価替えをする(最(一小)判昭和51年3月18日)。
1 本条1項=旧1030条
2 本条2項(新設)
内容は旧904条と同じであり、同条を準用していた旧1044条が削除されたことによる。
3 旧法下の判例との比較
(1)旧法下の判例(最判平成10年3月24日)
① 非相続人に対する贈与
旧1030条が適用される。
② 相続人に対する贈与
旧1044条→<準用>旧903条
ⅰ 相続開始日前〇年間という限定はない。
ⅱ 単なる贈与ではなく、特別受益に当たる贈与に限る。
(2)新法
① 非相続人に対する贈与
新1044条1項
相続開始前1年間
② 相続人に対する贈与
旧1044条削除、新1044条3項
ⅰ 相続開始前10年間に限定される。
受遺者・受贈者がその存在を知り得ない、相続開始よりかなり前の贈与であってもカウントされるとなると、減殺請求を受ける範囲が予想外に大きくなり、受遺者・受贈者が不測の損害を被る。
受遺者等の法的安定性と相続人間の実質的公平(平成10年判例が相続人の特別受益について旧1030条の適用を否定した実質的根拠)という相反する2つの要請を調和して、相続開始前10年間に限定した。(堂園・野口136頁、片岡・管野①227頁、片岡・管野②558頁)
ⅱ 単なる贈与ではなく、特別受益に当たる贈与に限る(限定説)。
相続開始前1年間の贈与であっても、単なる贈与ではなく、特別受益に当たる贈与のみがカウントされる。
これは、次の事情による(片岡・管野①227頁、片岡・管野②560頁)。人間関係が強い相続人間において、日常的な生活費の交付との区別が難しい場合が多いこと、単なる贈与を含むとすると、贈与の時期をめぐり紛争となり、遺留分に関する争点を増やし、いたづらに紛争を複雑化させることを考慮したためである。
4 共同相続人間における無償での相続分の譲渡と遺留分侵害となる特別受益に当たる贈与
最(二小)判平成30年10月19日
譲渡に係る相続分に含まれる積極財産と消極財産の価格等を考慮して算定した当該相続分に財産的価値があるといえない場合を除き、譲渡人を被相続人とする相続において、遺留分侵害となる特別受益に当たる贈与に当たる。
5 持戻し免除の意思表示がある場合においても、その贈与が遺留分算定の基礎となる財産に算入されるか。
(片岡・管野②561頁)
(結論)最(一小)決平成24年1月26日
算入される。
(理由)遺留分制度の趣旨
1 「負担付贈与」と「遺留分算定の基礎財産の参入」(民法1045条1項)
旧1038条は、負担付贈与を遺留分算定の基礎となる財産に参入するについて、贈与全額を算入する考え方(全部参入説)と負担を控除した後の一部を参入する考え方(一部参入説)があった。新法は、一部参入説を採用した。
2 「不相当対価による有償行為」と「遺留分算定の基礎財産の参入」(民法1045条2項)
当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知っていたもの
旧1039条 贈与+償還
新法 負担付贈与とみなす+償還せず
←遺留分=物権的効力の否定&金銭債権化であれば、新法の取扱いが合理的である。
片岡・管野①【設例14-3】、片岡・管野②【設例22-5】
〇 民法1046条(遺留分侵害額の請求)(平成30年改正により新設)
1項 遺留分権利者及びその承継人は、受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人を含む。以下この章において同じ。)又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。
2項 遺留分侵害額は、第1042条の規定による遺留分から第一号及び第二号に掲げる額を控除し、これに第三号に掲げる額を加算して算定する。
一 遺留分権利者が受けた遺贈又は第903条第1項に規定する贈与の価額
二 第900条から第902条まで、第903条及び第904条の規定により算定した相続分に応じて遺留分権利者が取得すべき遺産の価額
三 被相続人が相続開始の時において有した債務のうち、第899条の規定により遺留分権利者が承継する債務(次条第三項において「遺留分権利者承継債務」という。)の額
旧1031条(遺贈又は贈与の減殺請求)
遺留分権利者及びその承継人は、遺留分を保全するのに必要な限度で、遺贈及び前条に規定する贈与の減殺を請求することができる。(平成30年改正により削除)
旧1036条(受贈者による果実の返還)
受贈者は、その返還すべき財産のほか、減殺の請求があった日以後の果実を返還しなければならない。(平成30年改正により削除)※ 新1046条2項
1 遺留分侵害額の意義(片岡・管野①238頁)
遺留分権利者が被相続人の財産から遺留分に相当する財産を受領することができない場合の「不足額」
2 遺留分侵害額請求権行使の法的効果
物権的効力を否定し金銭債権化、遺留分侵害額の計算方法を規定した。これにより、遺留分権利者の侵害者に対する侵害額に相当する金銭債権が発生するだけであり(具体的な請求権は権利行使をして初めて発生すると考えられている。)、遺留分権利者が遺留分に係る権利を行使しても、遺産が共有状態とはならない。
3 請求権の相手方
① 受遺者
② ①には、特定財産承継遺言(民法1014条2項)により財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人も含まれる。
③ 受贈者
4 遺留分権利者の意思表示
理論的には、下記①②に区分される。
① 遺留分侵害額請求権(形成権)の行使
遺留分侵害額(金額)を具体的に示して意思表示をする必要はない(文献⑧235頁)
② ①により生ずる金銭債権の履行請求
②の請求権は、期限の定めのない債務(民法412条3項)であり、請求時点で履行遅滞となる。①と②をあわせて行う場合は、その時点から金銭債務は履行遅滞となる。
5 遺留分侵害額の計算方法(本条2項)
→ 後記【遺留分侵害額の計算方法】
6 遺留分に係る権利行使の物権的効力を前提とした旧法の規定が削除等整備された。
【遺産分割協議申入れと遺留分侵害額請求権行使の意思表示】
遺産分割の申入れは、遺留分侵害額請求権行使の意思表示が含まれていると解することができるか?
片岡・管野【設例15-1】
A 全遺産を養子Dに相続させる旨公正証書遺言
A 死亡 相続開始
相続人B・C → A 遺産分割協議の申入れ
最(一小)判平成10年6月11日
① 遺産分割と遺留分減殺 要件・効果を異にする。
→ 遺産分割協議の申入れに、当然、遺留分減殺の意思が含まれているということはできない。
② 被相続人Aの全財産が相続人の一部の者Dに遺贈された場合、遺贈を受けなかった相続人B・Cが遺産の配分を求めるためには、法律上、遺留分減殺によるほかない。
→ 遺留分減殺請求権を有する相続人が、遺贈の効力を争うことなく、遺産分割の申入れをしたとき、特段の事情がない限り、申入れには遺留分減殺の意思表示が含まれていると解するのが相当である。
※ 逆に、遺留分侵害額請求は、被相続人による遺贈、贈与等が有効であることを前提とした上で、受遺者・受贈者に対し金銭の給付を求めるもの
→ 遺贈の効力そのものを争っている場合は、遺留分侵害額請求の前提を欠く(潮見)。
【遺留分侵害額の計算方法】
(1)旧法
判例(最高裁平成8年11月26日等)は、次のとおりであった。※1,2
A 被相続人が相続開始時に有していた財産全体の価格
B 被相続人が贈与した財産の価格
C 債務の全額
D 個別的遺留分の割合
(総体的遺留分率×法定相続分率)
E 遺留分権利者が得た特別受益
F 遺留分権利者が相続によって得た財産
G 遺留分権利者が負担すべき相続債務
(A+B-C)×D-E-F+G
※1 遺留分額の計算
(A+B-C)×D-Eまで
※2 遺留分侵害額の計算
遺留分額-F+G
(2)新法
基本的には、旧法の判例の考え方を法文化したものである。
平成8年判例は、厳密には、遺留分権利者の特別受益の取扱が新法1046条2項の規律とは異なるが、・・・新法は、この特別受益の額についても、遺留分「侵害額」の算定の中で取り扱うこととした。(文献134頁)
① 遺留分を算定するための財産の価格
新法1043条1項
【A】被相続人が相続開始時に有した財産の価格
+ 【B】贈与した財産の価格 ※1
- 【C】債務の全額
※1 参入される贈与について(新1044条)
a 受贈者が相続人以外の者(1項)
相続開始前1年間(原則) 例外:1項後段
b 受贈者が相続人(2項)
相続開始前10年間にした婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与の価格(特別受益に当たるもの)
② 個別的遺留分の割合【D】
ⅰ 総体的遺留分率(割合) 新1042条1項
ⅱ 法定相続分率(割合) 新1042条2項
【計算式】ⅰ×ⅱ
③ 遺留分侵害額算出における控除(新1046条2項)
【E】遺留分権利者が受けた遺贈又は特別受益額(1号)
☆ ここでいう特別受益額は、相続開始前〇年間という時間的制限は設けられていない。
【F】遺留分権利者が相続により取得すべき遺産額(2号)
☆ 法定相続分に基づいて計算すべき(法定相続分説)か、具体的相続分に基づいて計算すべき(具体的相続分説)か。
旧法下では、上記二説に分かれていた。新法は、「第900条から第902条まで、第903条及び第904条の規定により算定した相続分」の文言から明らかなよに、具体的相続分説を採用した。
☆ 遺産分割が先行して行われた場合、旧法下では、現実に分割された内容を前提に控除すべきとする見解と、計算上算定される相続分を前提に控除すべきとする見解があった。
改正法は、後者の見解を採用した。これは、遺産分割が未了である場合と終了している場合とで、最終的な取得額が異なるのは相当でないためである。
☆ 寄与分(民法904条の2)を考慮していない。←遺留分額侵害請求の事物管轄と遺産分割の事物管轄が異なる/寄与分を定めることは家庭裁判所の専権に属する。(文献⑤455頁)
④ 遺留分侵害額算出における加算
【G】遺留分権利者が承継する債務額 (3号)
☆ 遺留分の額は、遺留分権利者が最終的に確保できる額を意味するため、遺留分権利者が被相続人の債務を相続により承継した場合には、その債務の額を加算する。
以上を踏まえて、次のとおりとなる。
<遺留分侵害額の計算式>
【遺留分額】
(①遺留分を算定するための財産の価格×②個別的遺留分の割合)
- ③遺留分侵害額算出における控除
【遺留分権利者が受けた特別受益の額 & 遺産分割の対象財産がある場合において遺留分権利者の具体的相続分に相当する額】
+ ④遺留分侵害額算出における加算
【遺留分権利者が負担する債務】
旧1033条(贈与と遺贈の減殺の順序)
贈与は、遺贈を減殺した後でなければ、減殺することができない。(平成30年改正により削除)※ 新1047条1項1号
旧1034条(遺贈の減殺の割合)
遺贈は、その目的の価格の割合に応じて減殺する。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。(平成30年改正により削除)※ 新1047条1項2号
旧1035条(贈与の減殺の順序)
贈与の減殺は、後の贈与から順次前の贈与に対してする。(平成30年改正により削除)※ 新1047条1項3号
旧1037条(受贈者の無資力による損失の負担)
減殺を受けるべき受贈者の無資力によって生じた損失は、遺留分権利者の負担に帰する。(平成30年改正により削除)※ 新1047条4項
1 遺留分侵害額請求の相手方(本条1項)
(1)複数の遺贈・贈与がある場合、遺留分侵害額の負担割合を定めものである。
【1号】遺贈(受遺者)=先 贈与(受贈者)=後
※旧1033条
贈与契約の効力として、贈与財産が相続開始前に既に相続財産から逸出していることが考慮された(潮見681頁)。
強行法規
潮見【CASE754】
<争点>死因贈与
潮見【CASE755】
◯ 遺贈説
(結論)相手方の順位
死因受贈者=受遺者:先、受贈者:後
(理由)死因贈与の効力は死亡時に生じ、この時点で相続財産から逸出する点で、遺贈と共通する。
◯ 最終贈与説
(結論)相手方の順位
受遺者>死因受贈者>受贈者
(理由)
死因贈与の契約性:契約締結により成立し、権利義務関係が生じる。→死因贈与を贈与として取り扱う。
死因贈与の効力は、遺言者の死亡により生じる。→死因贈与を遺贈に近い贈与として取り扱う。
【2号】
① 受遺者複数
目的の価格の割合に応じて負担 ※旧1034条本文
潮見【CASE757】
② 同時受贈者複数
目的の価格の割合に応じて負担 新設
潮見【CASE758】
③ ①②とも、遺言者が遺言に別段の意思を表示したときは、
その意思に従う。※旧1034ただし書(遺贈)
複数の遺贈、同時複数贈与が対等のレベルで遺留分を侵害していると評価された結果である(潮見)。
【3号】
異時受贈者複数
後の贈与>前の贈与 ※旧1035条
(2)遺贈
特定財産承継遺言(新1014条2項)による財産の承継又は相続分の指定による遺産の取得を含む(本条1項( )書)。これは、改正前の一般的な理解を明文化したものである。
(3)受遺者・受贈者も遺留分権利者である場合
A(遺留分権利者)→B(受遺者・受贈者&遺留分権利者)
目的の価格=遺贈・贈与の目的の価格-Bの遺留分
(本条1項( )記)
これは、判例(最判平成10年2月26日)の見解を明文化したものである。
2 民法904条の準用(本条2項)
第九百四条 前条に規定する贈与の価額は、受贈者の行為によって、その目的である財産が滅失し、又はその価格の増減があったときであっても、相続開始の時においてなお原状のままであるものとみなしてこれを定める。
同条を準用していた旧1044条が削除されたため、規定された。
① 本条2項による904条の準用
受贈者の負担額を算定するため
② 1044条2項による904条の準用
遺留分額を算定するため
3 1043条2項の準用(本条2項)
第千四十三条(遺留分を算定するための財産の価額)
1項 遺留分を算定するための財産の価額は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除した額とする。
2項 条件付きの権利又は存続期間の不確定な権利は、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従って、その価格を定める。
受遺者・受贈者の負担額を算定するについて、準用される。
4 1045条の準用(本条2項)
第千四十五条
負担付贈与がされた場合における第千四十三条第一項に規定する贈与した財産の価額は、その目的の価額から負担の価額を控除した額とする。
2 不相当な対価をもってした有償行為は、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってしたものに限り、当該対価を負担の価額とする負担付贈与とみなす。
受贈者の負担額を算定するについて、準用される。
5 遺留分権利者承継債務の消滅行為(本条3項)
遺留分権利者承継債務
「被相続人が相続開始の時において有した債務のうち、第八百九十九条の規定により遺留分権利者が承継する債務」(1046条2項3号)
A(遺留分権利者)→B(受遺者・受贈者)
α=遺留分権利者承継債務
Bがαを弁済等して消滅させる。
A→B 遺留分侵害請求権行使
B→A
αの限度において、消滅させる。(防御的機能)
(本条3項前段)
この場合、B→Aのαに関する求償権は消滅する。
(本条3項後段)
6 受遺者・受贈者の無資力の負担(本条4項)
旧1037条と趣旨は同じ。
潮見【CASE756】
同順位者・先順位者無資力のリスク
遺留分権利者の負担とする。遺留分侵害額の負担を課されないはずの者のリスクとするのは相当ではない。
7 裁判所の受遺者・受贈者に対する相当期限の許与
(本条5項)
(1)新法は、遺留分に係る権利を全て金銭債権化した。しかるに、例えば被相続人から承継した財産が換価困難な財産である場合、受遺者・受贈者が遺留分権利者に対し直ちに金銭を支払うことができない場合がある。最悪の場合、相続人の固有財産を売却して金銭を調達する必要に迫られるおそれも考えられる。
かかる状況にある受遺者・受贈者を保護するため、裁判所による期限許与の制度を新設した。
裁判所が期限を許与した場合、金銭債務の弁済期が遡及的に変更されたことになる。
(2)手続
① 遺留分権利者が遺留分相当額の支払いを求めて訴訟提起している場合
独立に訴訟(別訴、反訴)を提起する必要があるが、抗弁として主張すれば足りるかについて、解釈に委ねられている。
② 遺留分権利者が遺留分相当額の支払いを求めているが、訴訟提起までしていない場合
受遺者・受贈者が遺留分権利者を被告として訴えを提起して、期限の許与を求める(形成の訴え)。
潮見【CASE764】
潮見【CASE765】代物弁済の合意
〇 民法1048条(遺留分侵害額請求権の期間の制限)(平成30年改正)
遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。 相続開始の時から十年を経過したときも、同様とする。
〇 旧1042条(減殺請求権の期間の制限)
減殺の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から十年を経過したときも、同様とする。
1 遺留分侵害額請求権の構造
形成権 + 金銭債権(民法1046条)
本条は、形成権の行使期間を定めたものである。
形成権は、遺留分減殺請求権(旧法)と同じく、
行使上の一身専属権である。
「遺留分侵害額の請求権」=<相当>=「減殺の請求権」
2 遺留分侵害額請求権(形成権)行使によって生じた金銭債権は、
(1)期限の定めのない債権である。
遺留分権利者が受遺者等に対し具体的な金額を示して、その履行を請求した時点で、履行遅滞となる(民法412条3項)。
(2)通常の金銭債権と同様に消滅時効(旧166条1項・167条1項、新166条1項)にかかる。
① 2019年(令和元年)7月1日
改正相続法 施行日(原則)
② 2020年(令和2年)4月1日
改正債権法施行日
A 相続開始日
B 遺留分侵害学請求権(形成権)行使日
債権法改正附則10条4項「施行日前に債権が生じた場合におけるその債権の消滅時効の期間については、なお従前の例による。」
同10条1項により、上記「施行日前に債権が生じた場合」には、「施行日以後に債権が生じた場合であって、その原因である法律行為が施行日前にされたとき」を含む。
(事案1)
① → A → B → ②
5年間
(事案2)
① → ② → A → B
10年間
(事案3)
① → A → ② → B
5年間
Aの相続開始は「施行日以後に債権が生じた場合であって、その原因である法律行為が施行日前にされたとき」は該当せず。(堂薗・野口125頁)
〇 民法1049条(遺留分の放棄)
1項 相続の開始前における遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可を受けたときに限り、その効力を生ずる。
2項 共同相続人の一人のした遺留分の放棄は、他の各共同相続人の遺留分に影響を及ぼさない。
(片岡・管野②551頁)
1 趣旨
被相続人や他の共同相続人らの圧迫によって遺留分権利者が遺留分を予め放棄することを強要されないようにするため(潮見712頁)、相続開始前における遺留分の放棄を家庭裁判所の許可にかからしめた。
潮見【CASE691】
2 手続
3 遺留分放棄目的の贈与と特別受益
片岡・管野②【設例22-1】
4 相続開始後の遺留分の放棄
遺留分権利者が、遺留分や遺留分侵害額請求権を放棄することは自由である。
遺留分権利者が、遺留分を放棄して、遺産分割協議を成立させることもできる。
潮見【CASE692】
5 遺留分放棄の効果(1049条2項)
潮見【CASE693】
□ 家事事件手続法
第2編 家事審判に関する手続
第2章 家事審判事件
第十八節 遺留分に関する審判事件
○ 216条
1項 次の各号に掲げる審判事件は、当該各号に定める地を管轄する家庭裁判所の管轄に属する。
一 遺留分を算定するための財産の価額を定める場合における鑑定人の選任の審判事件(別表第一の百九の項の事項についての審判事件をいう。)
相続が開始した地
二 遺留分の放棄についての許可の審判事件
被相続人の住所地
2項 遺留分の放棄についての許可の申立てをした者は、申立てを却下する審判に対し、即時抗告をすることができる。
家事事件手続法 別表第1
遺留分
項:109
事項:遺留分を算定するための財産の価額を定める場合における鑑定人の選任
根拠となる法律の規定 民法1043条2項
項:110
事項:遺留分の放棄についての許可
根拠となる法律の規定 民法1049条1項
【参考・参照文献】
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□ 堂薗幹一郎・野口宣大編著一問一答・新しい相続法(第2版)(商事法務、2020年)122頁(略称:堂薗・野口)
□潮見佳男 詳解相続放棄第2版(2022年、弘文堂)634頁(略称:潮見)
□ 片岡武・管野眞一 改正相続法と家庭裁判所の実務(2019年、日本加除出版)23頁(略称:片岡・管野①)
□ 片岡武・管野眞一 第4版 家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務(2021年、日本加除出版)548頁(略称:片岡・管野②)