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第三編 債権
第一章 総則
第五節 債務の引受け
☆ 視点
1 平成29年改正前の法(旧法)では、債務引受に関する規定は存在しなかったが、判例はこれを承認し、実務でも使用されていた。
平成29年改正法(新法)は、新たに規定を設け、旧法下で展開されたきた議論をおおむね引き継ぎ、債務引受を、引受後も債務者が残存する「併存的債務引受」(保証に近い意味合いを有する。)と、引受後は債務者が離脱する「免責的債務引引受」に区分し、それぞれ、要件・効果等を規定した。
2 債務引受の法的性質
我妻説 VS 於保説・奥田説
3 2の性質論はさておき、免責的債務引受は、債務者の免責及び既存担保の消滅という重大な効果を伴うため、いずれかであるか明かでない場合は、併存的債務引受と解すべきである。(文献④243頁)
第一款 併存的債務引受
〇 民法470条(併存的債務引受の要件及び効果)(平成29年改正により新設)
1項 併存的債務引受の引受人Cは、債務者Bと連帯して、債務者Bが債権者Aに対して負担する債務と同一の内容の債務を負担する。
2項 併存的債務引受は、債権者Aと引受人Cとなる者との契約によってすることができる。
3項 併存的債務引受は、債務者Bと引受人Cとなる者との契約によってもすることができる。この場合において、併存的債務引受は、債権者Aが引受人Cとなる者に対して承諾をした時に、その効力を生ずる。
4項 前項の規定によってする併存的債務引受は、第三者のためにする契約に関する規定に従う。
※ 債権者:A 債務者:B 引受人:C
1 実務上重要な役割を果たしていた債務引受は旧法では規定を欠いていたので、実務及び判例法理に従って明文化した。
2 併存的債務引受と免責的債務引受
(1)併存的債務引受
① before A → B
② after A → B&C
(2)免責的債務引受
① before A → B
② after A → C
3 併存的債務引受の要件
① 債権者(A)債務者(B)引受人(C)三者契約
② 債権者(A)引受人(C)契約(本条2項)
保証は主債務者の意思に反しても可能である
(民法462条2項)ことと平仄を合わせて、
債務者の意思に反する併存的債務引受も可能である。
③ 債務者(B)引受人(C)契約(本条3項)
第三者のためにする契約
→ 債権者が引受人に対し、承諾(受益の意思表示)が
必要
4 併存的債務引受の効果
① 引受人(C)が債務者(B)の負担する債務と同一内容
の債務を負担する。
② 債務者(B)引受人(C)の負担する債務の関係は
連帯債務となる。
〇 民法471条(併存的債務引受における引受人の抗弁等)(平成29年改正により新設)
1項 引受人Cは、併存的債務引受により負担した自己の債務について、その効力が生じた時に債務者Bが主張することができた抗弁をもって債権者Aに対抗することができる。
2項 債務者Bが債権者Aに対して取消権又は解除権を有するときは、引受人Cは、これらの権利の行使によって債務者Bがその債務を免れるべき限度において、債権者Aに対して債務の履行を拒むことができる。
※ 債権者:A 債務者:B 引受人:C
1 引受人(C)の債権者(A)に対する抗弁対抗
引受人は「債務者の債権者に対する債務」と同一内容の債務を負担 → 債務者の抗弁(引受の効力発生時)を債権者に対抗できる。
2 債務者が債権者に対し相殺権を有する場合
引受人は、債務者の負担部分の限度で、債権者に対し履行を拒絶できる(民法439条2項)。
3 債務者・引受人間の契約による併存的債務引受の場合
引受人は、債権者に対し、引受契約に基づく債務者に対する抗弁(C→B)を主張できる(民法539条)。
4 債務者が債務の発生原因たる契約取消権・解除権を有する場合(本条2項)
引受人は契約当事者でないため、取消権・解除権を有しない。
債務者が取消権・解除権行使によって債務を免れる限度で、債務の履行を拒絶できる。
第二款 免責的債務引受
〇 民法472条(免責的債務引受の要件及び効果)(平成29年改正により新設)
1項 免責的債務引受の引受人Cは債務者Bが債権者Aに対して負担する債務と同一の内容の債務を負担し、債務者Bは自己の債務を免れる。
2項 免責債務引受は、債権者Aと引受人Cとなる者との契約によってすることができる。
この場合において、免責的債務引受は、債権者Aが債務者Bに対してその契約をした旨を通知した時に、その効力を生ずる。
3項 免責的債務引受は、債務者Bと引受人Cとなる者が契約をし、債権者Aが引受人となる者Cに対して承諾をすることによってもすることができる。
※ 債権者:A 債務者:B 引受人又は引受人となる者:C
1 免責的債務引受の効果
① Cにおいて、BのAに対する債務と同一内容の債務を負担する。
② Bが、BのAに対する債務を免れる。
472条1項の文言にかかわらず、実体的には「債務を引き受ける」「債務の移転」とする観念が正しい。そうでないと、引受人において、債務者が有していた抗弁を債権者に対抗できることが理論的に説明できないからである。文献④245頁~246頁
2 免責的債務引受の成立要件
(1)A・B・C三者契約
(2)A・C間契約
AがBに対し契約をした旨通知
通知の主体=B
← Bが債務者の交替により影響を受けるため
Bの意思に反しないこと(旧法下の判例)は
要件とされていない。
(3)B・C間契約
AのCに対する承諾
←債権者に不足の損害を与えることがないようにする。
上記承諾があった時に効力が発生すると解される。
〇 民法472条の2(免責的債務引受における引受人の抗弁等)(平成29年改正により新設)
1項 引受人Cは、免責的債務引受により負担した自己の債務について、その効力が生じた時に債務者Bが主張することができた抗弁をもって債権者Aに対抗することができる。
2項 債務者Bが債権者Aに対して取消権又は解除権を有すときは、引受人Cは、免責的債務引受がなければこれらの権利の行使によって債務者Bがその債務を免れることができた限度において、債権者Aに対して債務の履行を拒むことができる。
※ 債権者:A 債務者:B 引受人:C
1 Cにおいて、BのAに対する抗弁(引受の効力発生時)を主張できる。
2 BがAに対し相殺権を有する場合
CはAに対し、履行を拒絶することができない。
← 免責的債務引受によって、Bは完全に免責される。よって、BのAに対する相殺権はCの債務の帰趨に影響を及ぼさない。
3 本条2項
471条2項と同旨
〇 民法472条の3(免責的債務引受における引受人の求償権)(平成29年改正により新設)
免責的債務引受の引受人Cは、債務者Bに対して求償権を取得しない。
※ 債権者:A 債務者:B 引受人:C
免責的債務引受は、引受人が他人の債務を自己の債務として履行するものであり、CB間で求償の問題は生じない。
BC間で引受契約について対価の支払いを合意することは妨げられない。
〇 民法472条の4(免責的債務引受における担保の移転)(平成29年改正により新設)
1項 債権者Aは、第472条第1項の規定により債務者Bが免れる債務の担保として設定された担保権を引受人Cが負担する債務に移すことができる。
ただし、引受人C以外の者がこれを設定した場合には、その承諾を得なければならない。
2項 前項の規定による担保権の移転は、あらかじめ又は同時に引受人Cに対する意思表示によってしなければならない。
3項 前二項の規定は、第472条第1項の規定により債務者Bが免れる債務の保証をした者があるときについて準用する。
4項 前項の場合において、同項において準用する第1項の承諾は、書面でしなければ、その効力を生じない。
5項 前項の承諾がその内容を記録した電磁的記録によってされたときは、その承諾は、書面によってされたものとみなして同項の規定を適用する。
※ 債権者:A 債務者:B 引受人:C
1 担保権の移転
① Aの意思表示
② 「移すことができる」→後順位担保権者の承諾 不要
③ 免責的債務引受前又は同時にCに対する意思表示
← 担保権の附従性
2 担保権設定者の承諾
① 設定者=C
Cの承諾不要
② 設定者=C以外
その者の承諾必要。たとえ設定者がBである場合でも同じ。
3 保証債務についても同様
① 移転について保証人の承諾が必要(本条3項)
② 要書面(本条4項)又は電磁的記録(本条5項)
【参考・参照文献】
このページは、下記文献を参考・参照して作成しました。
① 第一東京弁護士会司法制度調査委員会編・新旧対照でわかる改正債権法の逐条解説(平成29年、新日本法規)171頁
② 日本弁護士連合会編・実務解説改正債権法(第2版)(2020年、弘文堂)頁
③ 三枝健治 ケースで考える債権法改正第23回 債務引渡-併存的債務引受と免責的債務引受の関係を中心に 法学教室485号89頁
④ 近江幸治 民法講義Ⅳ債権総論(第4版)(令和2年、成文堂)242頁
⑤ 筒井健夫・村松秀樹編著 一問一答 民法(債権関係)改正(2018年、商事法務)183頁