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債権法改正 債務不履行(1)履行遅滞・受領遅滞

民法第3編 債権
第1章 総則
 第2節 債権の効力 

         第1款 債務不履行の責任等

〇 民法412条(履行期と履行遅滞)(平成29年改正)

1項 債務の履行について確定期限があるときは、債務者は、その期限が到来した時から遅滞の責任を負う。

2項 債務の履行について不確定期限があるときは、債務者は、

その期限の到来した後に履行の請求を受けた時

又は

その期限の到来したことを知った時

のいずれか早い時から遅滞の責任を負う。

3項 債務の履行について期限を定めなかったときは、債務者は、履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う。

 

旧412条

1項・3項は、改正法412条1項・3項とそれぞれ同じ。

2項は、不確定期限について、「債務者が期限の到来したことを知った時」のみを履行遅滞の責任発生時期としていた。

1 不確定期限について、「債務者が期限の到来したことを知った時」に、「期限の到来した後に履行の請求を受けた時」を加えた。

 「(期限の到来した後に)履行の請求を受けた時」は、期限の定めのない債務について履行遅滞の責任発生時期とされており、これとのバランスから、不確定期限の債務についても、これを履行遅滞の責任発生時期とすることには異論がないところであった。

2 法律の規定によって発生する債務は、原則として、期限の定めのない債務である。そうすると、本条3項が適用されるが、次のものは例外である。

① 消費貸借 相当期間を定めての返還の催告を要する

  民法591条1項

② 不法行為による損害賠償請求権

  被害者保護 → 発生と同時に遅滞

〇 民法412条の2(履行不能)(平成29年改正)

1項 債務の履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして不能であるときは、債権者は、その債務の履行を請求することができない。

2項 契約に基づく債務の履行がその契約の成立の時に不能であったことは、第四百十五条の規定によりその履行の不能によって生じた損害の賠償を請求することを妨げない。

〇 民法413条の2(履行遅滞中又は受領遅滞中の履行不能と帰責事由)(平成29年改正により新設)

1項 債務者がその債務について遅滞の責任を負っている間に当事者双方の責めに帰することができない事由によってその債務の履行が不能となったときは、

その履行の不能は、債務者の責めに帰すべき事由によるものとみなす。

2項 債権者が債務の履行を受けることを拒み、又は受けることができない場合において、履行の提供があった時以後に当事者双方の責めに帰することができない事由によってその債務の履行が不能となったときは、

その履行の不能は、債権者の責めに帰すべき事由によるものとみなす。

 履行遅滞中の履行不能、受領遅滞中の履行不能における帰責事由について、実務見解を採用して条項を新設したものである。

1 履行遅滞中の履行不能

(1)例を挙げて説明する。一点物の絵画(特定物)の売主Aが期限を過ぎても目的物を引き渡すことができない状態(履行遅滞中)で、目的物を保管していた倉庫が類焼によって全焼し目的物が滅失し、Aの買主Bに対する目的物引渡債務が履行不能となった場合、履行不能は、債務者Aの帰責事由によるものとみなされ、415条1項ただし書により責任を負わないというAの主張は認められない。

(2)当事者双方の責めに帰することができない事由

  不可抗力その他の偶発的事故が想定されている(潮見)。

(3)履行不能が債権者の責めに帰すべき事由によるものであった場合

 債権者Bは、債務者Aに対し、履行に代わる損害賠償請求権は認められない。

 (4)履行遅滞のある無しにかかわらず履行不能となった場合は、履行遅滞と履行不能との因果関係がないと扱われる。

 例でいうと、「Aより引き渡された目的物」が保管される買主Bの自宅が倉庫の隣で、倉庫のみならずBの自宅も類焼で全焼した場合(潮見)。

 

2 受領遅滞中の履行不能

 受領遅滞の間、当事者双方の責めに帰することができない事由により債務の履行が不能となった場合

(1)例を挙げて説明する。一点物の絵画(特定物)の買主Bが、売主Aが弁済を提供したにもかかわらず目的物を受領しない状態(受領遅滞中)で、目的物を保管していた倉庫が類焼によって全焼し目的物が滅失し、売主Aの買主Bに対する目的物引渡債務が履行不能となった場合、履行不能は、買主Bの帰責事由によるものとみなされる。

(2)その結果、

① 債務者Aは、履行不能による損害賠償責任を負わない(415条1項)。←履行不能は債権者Bの帰責事由

② 債権者Bは、反対債務(本件では代金支払債務)の履行を拒否できない(536条2項)。

③ 債権者Bは、売買契約を解除できない(543条)。

(3)本条2項と民法567条2項との関係(文献③)

 ②567条2項も①本条2項と同趣旨であるが、両条項の関係について、②を売買契約における①の特則とする考え方、②を売買契約において①の考えを確認するものとする考え方がある。②の独自の意義は、①にはない損傷(一部滅失)が規定されているところである。

 損傷(一部滅失)の場合、①は適用されないが、②が適用されることにより、BはAに対し、追完請求、代金減額請求をすることができない。

〇 民法413条(受領遅滞)(平成29年改正)

1項 債権者が債務の履行を受けることを拒み、又は受けることができない場合において、その債務の目的が特定物の引渡しであるときは、債務者は、履行の提供をした時からその引渡しをするまで、自己の財産に対するのと同一の注意をもって、その物を保存すれば足りる。

2項 債権者が債務の履行を受けることを拒み、又は受けることができないことによって、その履行の費用が増加したときは、その増加額は、債権者の負担とする。

〇 旧413条(受領遅滞)

債権者が債務の履行を受けることを拒み、又は受けることができないときは、その債権者は、履行の提供のあった時から遅滞の責任を負う。

1 受領遅滞
(1)要件
 ① 債務者の債権者に対する弁済の提供
 ②ⅰ 債権者が債務者の弁済の提供を拒んだ(受領拒絶)
  又は
  ⅱ 債権者が債務者の弁済の提供を受けることができない
(受領拒絶)
 
(2)効果
 実務上一般的に認められている受領遅滞の効果が旧法では明確ではなかったため、平成29年改正法により明確化した。

① 保存義務の軽減(本条1項)

  善管注意義務(通常)

→ 自己の財産に対するのと同一の注意義務(軽減)

②受領遅滞により増加した履行費用の債権者負担(本条2項)

 弁済の費用は、当事者間に別段の意思表示がない限り、債務者の負担である(民法485条)。

③ 受領遅滞中の履行不能が生じた場合の危険の移転

                 (412条の3第2項)

2 債権者の受領義務論

    新法においても、旧法と同様、債権者が受領義務を負うかについて、規定が設けられず、この点については、旧法下と同様、解釈に委ねられている。例えば、債務者(売買契約・売主)が受領拒絶した債権者(売買契約・買主)に対し、① 受領遅滞がなければ、他に労力を用いることにより得られた利益、② 目的物の保管を継続しなければならなくなったた被った営業上の損害について、賠償請求できるか?、契約を解除できるか?問題となる。(文献③)

[A]法定責任説

① 受領義務否定、② 受領遅滞はそれにより生じる不利益を公平の観点から債権者に負わせる法定責任

[B]債務不履行責任説

① 受領義務肯定

 

 中間的な考え方として、特約がある場合のほか、事案により信義則の引取義務を認める考え方がある(最判昭和46年12月16日)。

 

 

【参考・参照文献】

 このページは、下記文献を参考・参照して作成しました。

① 第一東京弁護士会司法制度調査委員会編・新旧対照でわかる改正債権法の逐条解説(平成29年、新日本法規)60頁

② 日本弁護士連合会編・実務解説改正債権法(第2版)(2020年、弘文堂)頁

③ 伊藤栄寿「受領遅滞」法学教室482号87頁

④ 内田貴 民法Ⅲ債権総論・担保物権(第4版)(2020年、東京大学出版会)140頁

 

 

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