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以下の分類は、土田道夫・労働法概説(第4版)118頁に依拠しております。
労働基準法第四章 労働時間、休憩、休日及び年次有給休暇
1 定型的労働時間法制(原則)
32条 労働時間の原則
1週40時間、1日8時間
34条 休憩時間の原則
35条 休日の原則
1週1日の休日付与義務(週休制)
39条 年次有給休暇
2 例外
33条 臨時の必要がある場合の時間外・休日労働
36条 労使協定に基づく時間外・休日労働
37条 時間外・休日・深夜労働に対する割増賃金
3 弾力的労働時間法制
1の定型的労働時間法制を実情に応じて弾力化したもの
32条の2 1か月以内の期間の変形労働時間制
32条の4 1年以内の期間の変形労働時間制
32条の5 1週間以内の期間の変形労働時間制
32条の3 フレックスタイム制
38条の3、38条の4 裁量労働のみなし制
38条の2
〇 労働基準法32条(労働時間)
1項 使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。
2項 使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。
※ 特例:労働基準法施行規則25条の2・1項
始業時間~就業時間:拘束時間
拘束時間-休憩時間=労働時間
【参考参照文献】
菅野和夫・労働法第11版補正版160頁、西谷敏・野田進・和田肇編・新基本法コンメンタール労働基準法・労働契約法(2012年・日本評論社)103頁
1 労働時間の意義
労働時間であるか否かは、労働契約、就業規則、労働協約等の定めによって判断されるのではなく、客観的に決まる。つまり、労働契約上は始業前の準備又は終業後の後片付けが労働時間に含まれていないとしても、行為の性質上、労働時間に当たる場合がある。問題は、行為の性質上、労働時間に当たるか否かをどのような基準によって判断すべきかである。
(1)指揮命令下説(従来の見解)
労働者が使用者の指揮監督(命令)のもとにある時間をいう。
(2)二要件説(有力説)
以下の理由から、指揮命令とは別に、問題となる行為の客観的性質(業務性、職務性)を労働時間の要件として重視する見解
① 労働時間についての判断は、休憩時間との区別をめぐって生じるのみならず、労働者の私的活動との区別をめぐっても生じる(菅野478頁)。
② 使用者の業務への従事が必ずしも使用者の作業上の指揮監督下になされるとは限らない。
③ 労働義務を基本要件とする労働契約の性質や労働させる時間を規制する労働基準法の性格を考慮する。→ 指揮命令説を純粋に貫くと、一定の時刻以降の出社を義務付けつつ、実労働開始までの時間を自由時間としていたとしても、その時間は労働時間に当たる。(土田312頁)
例えば、菅野説は、次のとおりであり、判例の判断枠組みは自説と変わらないとする。
→ 業務性を指揮監督を補充する重要な基準となる。
→ ①使用者の作業上の指揮監督下にある時間
又は
②使用者の明示又は黙示の指示により、その業務に従事 する時間
土田説は、判例の見解について、指揮命令下説の枠組みに立ちつつ、対象となる行為の客観的性質(業務性・職務性)を摂取するものであり(※)、修正指揮命令下説ともいうべき判断を示しているとする。また、労働時間に関する「指揮命令下」とは、具体的な業務指示や命令ではなく、包括的な指揮命令(拘束性・関与性)と解すべきとする(土田315頁※18)
※ 指揮命令下=業務の準備行為等+使用者の関与(拘束)(使用者からの義務付け、or 余儀なくされる状態)
2 実労働時間であり、手待時間も含まれる。
【参考参照文献】
菅野和夫・労働法第11版補正版160頁、土田道夫・労働契約法第2版311頁、西谷敏・野田進・和田肇編・新基本法コンメンタール労働基準法・労働契約法(2012年・日本評論社)103頁
【事案】
労働者Xが勤務していた三菱重工業長崎造船所Yでは、就業規則上、労働時間が午前8時から正午まで、午後1時から午後5時まで、正午から午後1時までが休憩時間と定められていた。午前8時の始業前の、XがYの更衣所等で作業服・保護具・工具等を装着する行為、更衣所から作業場まで歩行する行為、午前8時及び午後1時の始業時間前の、材料庫等から副資材・消耗品等の受出しを受ける行為、
終業時間後の、作業器具を格納し、作業場から更衣所等まで歩行する行為、更衣所等で作業服・保護具などを脱着する行為など
に要する時間が労働時間に当たるか否かが争われた。
【裁判所の判断】
1 労基法32条1項の「労働時間」とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、「労働時間」に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれていたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めの如何により決定されるべきものではない。
2 労働者が、就業を命じられた業務の準備行為等を事業所内において行うことを使用者から義務付けられ、又はこれを余儀なくされたときは、当該行為を所定労働時間外において行うものとされている場合であっても、当該行為は、特段の事情のない限り、使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができ、当該行為に要した時間は、それが社会通念上必要と認められるものである限り、「労働時間」に該当する。
3 XはYから、実作業に当たり、作業服及び保護具等の装着を義務付けられ、また、装着を事業所内の更衣所等において行うものとされていた。→ ・ 作業服及び保護具等の装着 ・ 更衣所等から準備体操場までの移動 は、Yの指揮命令下に置かれたものと評価できる。
・ 副資材等の受出し・(粉じん防止のための始業開始前の)散水も同様である。
・ 実作業終了後の、更衣所等における作業服及び保護具等の脱離等は、Yの指揮命令下に置かれていると評価できる。
【評価等】
① 「使用者からの義務付け」「余儀なくされる状態」とは、明示又は黙示の指揮命令と言い換えてもよい。(土田313頁)。
② 「労働時間」(労基法32条1項)該当性は、業務性(労働義務との不可分性)及び使用者による拘束(義務付け又は事実上の拘束)の両面から判断される。業務性の強い活動(準備、後始末、ミーティング、更衣等)は、制度上の拘束(就業規則上の義務付け)があればもちろん、それがなくても事実上、当該活動への従事を余儀なくされていれば、「労働時間」に当たる。(土田314頁)
③ 指揮命令説をとった上、労働者が当該行為を義務付けられたか否か(義務付けの要件)、そうすることを余儀なくされたか否か(状況の要件)を基準に判断すべきのとしたものであり、職務遂行との客観的関連性を考慮する有力説とほぼ同趣旨の見解といえる。(渡辺上386頁)
【参考参照文献】
渡辺章・労働法講義上384頁、土田道夫・労働契約法第2版(2016年・有斐閣)311頁
【事案】
ビル管理会社Yに勤務するXは、ビル管理人として稼働し、変形労働時間制の下、一昼夜24時間勤務に当たっていた。そこでは、2時間の休憩時間のほか、連続8時間の仮眠時間があった。
仮眠時間中、Xは、警報が作動する等した場合は対応しなければならないが、そのような事が発生しない限り、睡眠が許されていた。
Yは、仮眠時間を非労働時間として取り扱い、2,300円の泊り勤務手当を支払ったものの、時間外手当・深夜手当の対象外としていた。ただ、仮眠時間中にXが実作業に従事した場合は、Xの申請に従い割増賃金を支払っていた。
Xは、仮眠時間全体が労働時間に当たるとして、上記Yの取扱いを争った。
【裁判所の判断】
1 「労働時間」(労基法32条)とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいう。
2 実作業に従事していない仮眠時間(「不活動仮眠時間」)が「労働時間」に該当するか否かは、
労働者が不活動仮眠時間において使用者の指揮命令下に置かれていたものと評価できるか否かにより客観的に定まる。
3 不活動仮眠時間において、労働者が実作業に従事していないというだけでは、使用者の指揮命令下から離脱しているということはできず、当該時間に労働者が労働から離れることを保障されて初めて、労働者が使用者の指揮命令下に置かれていないものと評価できる。
→ 不活動仮眠時間であっても労働からの解放が保障されていない場合には「労働時間」に当たる。そして、当該時間において労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価される場合には、労働からの解放が保障されているとはいえず、労働者は使用者の指揮命令下に置かれているというのが相当であるる。
4 本件では、Xは、仮眠時間中、労働契約に基づく義務として、仮眠室における待機と警報や電話等に対して直ちに相当の対応をすることを義務付けられている。このような実作業への従事の必要が生じることが皆無に等しい等実質的に義務付けがされていないと認めることができるような事情も存しない。
→ 本件の仮眠時間は全体として労働からの解放が保障されているといえず、労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価できる。
→ 本件の仮眠時間は「労働時間」に当たる。
【評価等】
1 土田道夫・労働契約法第2版(2016年・有斐閣)316頁より、
事案によっては、労働からの解放の「有無」という観点だけではなく、労働からの解放の「程度」を考慮する必要がある。
本件判決のいう「実作業への従事の必要が生じることが皆無に等しい等実質的に義務付けがされていないと認めることができるような事情」を考慮する方法は「程度」をも考慮に入れる見解につながる(この部分は、炭竈の私見で、文献の裏付けけは確認未了です。)。
土田教授の評価等
① 最近の裁判例は、当該時間帯に他の従業員が業務に従事し、本人が実作業に従事する必要が生じることが皆無に等しい等、実質的に実作業への従事が義務付けられていないと認められる事情がある場合は、指揮命令下および「労働時間」該当性を否定する例があり、妥当な判断である。
② マンション・ビルの住み込み管理人についても、居室滞留時間は自由に利用できる時間に当たるとして「労働時間」該当性を否定しつつ、その時間中に従事した個々の業務に要する時間について「労働時間」該当性を判断する裁判例が増えている。
【参考参照文献】
渡辺章・労働法講義(上)(平成21年・信山社)387頁