【注力分野】相続(相続調査、相続放棄)、遺産分割(協議、調停・審判)、債務整理、自己破産、個人再生、法律相談
大阪府寝屋川市にある相続と借金の問題に力を入れている法律事務所です。
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第1 相続放棄の手続
1 相続放棄のメリットとリスク
① メリット
被相続人が多額の負債(借入金、保証債務、クレジット債務等)を抱えて死亡した場合、相続人は、相続放棄の手続をとることによって、被相続人の負債を承継しないで済む。
② リスク
相続放棄により、相続人は、被相続人の負債を承継しないのみならず、資産(不動産、預貯金、株式、自動車等)も承継しない。
よって、被相続人について、「資産<負債」と思い、相続放棄したが、後になって、資産が発見され、その発見された資産を加算すると、「資産>負債」であることが判明したとしても、先にした相続放棄は撤回することができず、相続はできない。
2 手続
(1)被相続人の死亡日の確認
(2)被相続人の資産及び負債の調査
① 相続人の調査権限 民法915条2項
② 相続人放棄ができる期間(「自己のために相続の開始があったことを知った時から3箇月以内」[民法915条1項本文])内に、調査ができず、又は、相続を承認するか放棄するか判断・決断できない場合は、家庭裁判所に対し期間の伸長を申し立て、裁判所から期間伸長の決定を得ておく必要がある。
なお、裁判所は、申立てにかかわらず、期間伸長の決定をしない場合もあるので、注意が必要である。
第2 裁判所の手続
1 管轄の家庭裁判所
被相続人の最後の住所地の家庭裁判所
2 申立て費用
(1)収入印紙
800円分(申述人 1人につき)
(2)郵券
大阪家庭裁判所の場合
470円(84円切手5枚、10円切手5枚)
3 申述に必要な書類
(1)相続放棄の申述書
(2)戸籍全部事項証明書等
① 被相続人の住民票除票又は戸籍附票
どこの家庭裁判所が管轄権があるか判断する為
② 申述人の戸籍事項証明書
③ 被相続人の死亡が記載された戸籍(除籍)事項証明書
④ その他の戸籍事項証明書等
(ⅰ)申述人が被相続人の子【第1順位相続人】の代襲者(孫、ひ孫等)の場合
被代襲者(本来の相続人である子)の死亡が記載された戸籍(除籍)事項証明書
(ⅱ)申述人が被相続人の父母・祖父母等(直系尊属)【第2順位相続人】の場合
a 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍事項証明書
第1順位の相続人がいないことを確認する為
b 被相続人の子(及びその代襲者)で死亡している者がいる場合、その子(及びその代襲者)の出生時から死亡時までのすべての戸籍事項証明書等
第1順位の相続人の代襲者(代襲相続人)がいないことを確認する為
c 被相続人の直系尊属で死亡している者(相続人より下の代の直系尊属に限る)、その直系尊属の死亡の記載のある戸籍事項証明書等
(例)被相続人の祖父が相続人に当たり相続放棄を申述する場合、被相続人の父及び母の死亡が記載された戸籍事項証明書等
(ⅲ)申述人が被相続人の兄弟姉妹及びその代襲者(おいめい)【第三順位相続人】の場合
a(ⅱ)aと同じ。
b(ⅱ)bと同じ。
c 被相続人の直系尊属の死亡が記載されている戸籍事項証明書等
d 申述人が代襲相続人(おい,めい)の場合は、更に、
被代襲者(本来の相続人)の死亡が記載されている戸籍事項証明書
第3 相続放棄手続完了前の注意事項
(1)熟慮期間(民法915条1項本文)の遵守
(2)被相続人の財産を一部でも処分すると単純承認したとみなされ(民法921条一号)、相続放棄ができなくなる。
第4 相続放棄手続後の手続
(1)被相続人の債権者に対する、相続放棄したことの連絡(必要があれば)
(2)次の順位の相続人に対し、自己が相続放棄したことを知らせる。義務ではないが、下記①②より、そのようにした方が望ましい。
① 債権者が、次の順位の相続人に対し請求すると、次の順位の相続人は、被相続人が死亡したことや(先順位の相続人が相続放棄したことにより)自己が相続人となったことを知らない場合もあり、混乱するため。
② 相続放棄した者も管理義務(民法940条)が残るため。
〇 民法939条(相続の放棄の効力)
相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。
〇 民法940条(相続の放棄をした者による管理)
相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。
〇 民法940条(相続の放棄をした者による管理)[令和3年改正(令和5年4月1日施行)]
1項 相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。
2項 第六百四十五条、第六百四十六条、第六百五十条第一項及び第二項並びに第九百十八条第二項及び第三項の規定は、前項の場合について準用する。 2 第六百四十五条、第六百四十六条並びに第六百五十条第一項及び第二項の規定は、前項の場合について準用する。
相続放棄をしても、その者には相続財産についての管理継続義務がありますが、管理義務の内容及び終了時期等が規定上明らかでなく、解釈の内容によっては、義務が重く捉えられることもありました。令和3年の民法改正は、この点について、改善したものといえます。
1 令和3年改正前
相続放棄者による相続財産の管理継続義務
次順位の相続人が相続財産の管理を始めることができるまで
(問題点)
① 法定相続人全員が相続放棄し、次順位の相続人がいない場合に、誰が管理継続義務を負うか?
② 相続放棄者が相続財産を占有していない場合にまで管理継続義務を負うか?
等について規定上明確でなく、また、解職如何によっては、相続放棄者が過剰な負担を強いられる。
2 令和3年改正法
① 義務を負う場合を限定
放棄の申述時に、相続財産を現に占有している場合に限定した。
② 義務の内容
相続財産の保存にとどまり、それを超えた管理義務を負うことはない。
③ 義務の終期
相続人又は相続財産清算人(民法952条1項)に対し相続財産を引き渡すまで
※ 相続財産の引渡しを受けるべき者が相続財産の受領を拒否した場合、又は受領不能の場合(法定相続人全員が相続放棄したが、相続財産清算人が選任されていない場合)文献①235頁(注)
① 相続放棄者は、相続財産を供託(民法494条1項1号2号)することによって、管理義務を終了させる。
② 相続財産が供託に適さない場合等は、相続放棄者は、裁判所の許可を得て、競売に付し、代金を供託(民法497条)によって、管理義務を終了させる。
【参考・参照文献】
このページは、以下の文献を参考・参照して作成しました。
□ 松原正明・全訂判例先例相続法Ⅲ(平成20年・日本加除出版)3頁
□ 松田亨「相続放棄・限定承認をめぐる諸問題」(新家族法体系第3巻 相続[Ⅰ]-相続・遺産分割-(平成20年・新日本法規出版)389頁
□ 常岡史子・家族法(令和2年・新世社)410頁
□ 村松秀樹・大谷太編著 Q&A令和3年改正民法・改正不登法・相続土地国庫帰属法(2022年、きんざい)234頁