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相続分の譲渡及び取戻し

第1 相続分譲渡の意義と機能

1 相続分譲渡の意義

 相続分譲渡とは、共同相続人が相続開始から遺産分割までの間に第三者に相続分を譲渡することをいう。民法905条は相続分の譲渡を前提とする規定である。相続分の譲渡にいう相続分とは、積極財産・消極財産を含めた包括的な相続財産全体に対して各共同相続人が有する持分又は法律上の地位(包括的持分説)をいうと解されている(判例※・通説)。

※ 最判平成26年2月14日 積極財産と消極財産とを包含した遺産全体に対する割合的な持分

2 相続分譲渡の機能

① 遺産を取得しない又は遺産争いに巻き込まれたくない相続人が、自己の相続分を譲渡することにより、相続人からの離脱を認める。

② 共同相続人の数が多い場合、遺産分割による最終解決まで手間も時間もかかる。そこで、例えば、相続分が僅少な相続人が他の相続人に相続分を有償譲渡することにより、譲渡した相続人にとっては早期に相続分に相当する価値を早期に取得できるメリットがあり、譲り受けた相続人にとっては相続人の数が減るので、遺産分割をスムーズに行うことができるメリットがある。

3 留意事項

① 譲渡対象となるのは、具体的相続分である。潮見【CASE272】

② 単に、遺産を構成する個々の財産についての共有持分権の移転ではない(最判平成13年7月10日)。(包括的持分説)

第2 相続分譲渡の方法及び効果

1 相続人譲渡の方法 潮見【CASE 274】

(1)通常は書面によることになるが、特別な方式は定められておらず、口頭でもよい。

(2)対抗要件

 相続分の譲渡を公示する方法はないため、対抗要件は不要である。よって、相続分が二重譲渡された場合、対抗問題とはならず、先の譲渡が有効であり、後の譲渡は無効となる(裁判例)。潮見【CASE274】

(3)他の相続人への通知が必要か。

   不要である。

(4)有償、無償は問わない。

(5)相続分譲渡の相手方

① 相続人以外の第三者に対し 905条1項

② 相続人に対し 潮見【CASE 275】

  実質的に、相続放棄や遺産分割に類似する機能を営む。

2 相続分譲渡の効果

 譲渡人の相続分は譲受人に移転する。遡及効があり、相続開始時に遡る。

3 譲渡人は相続債務を免れるか?

 相続分譲渡にいう相続分には消極財産(債務)も含まれるから理論的には譲渡人は債務を免れることになるが、譲渡人は債務を免れることはできず、譲受人と共に債務を負担すると解する見解(鈴木)が多い。

 潮見説:相続債権者との間消すでは、債務引受の問題である。(潮見279頁)

3 遺産分割手続について

(1)譲渡人は遺産分割手続の当事者適格を喪失し、譲受人が遺産分割手続の当事者となる(判例、通説)。

 最高裁判所(第二小法廷)平成26年2月14日判決(ジュリスト平成26年重要判例解説89頁)は、相続分を全部譲渡した共同相続人は、遺産確認の訴えの当事者適格を有しないと解すると判示した。

(2)遺産分割についての家事手続においては、相続分を譲渡した相続人は、手続から廃除される。審判:家手法43条、調停:258条1項

 

第3 相続分の一部譲渡

相続分の一部譲渡も認められる(争いあり)。

一部譲渡人は、譲渡後も相続人であり、譲渡後も遺産分割協議に参加する。

潮見【CASE273】 

 

第4 相続分譲渡の登記

   (遺産が不動産である場合)

1 共同相続登記が未了である間に、相続分譲渡がされた場合、被相続人名義の不動産について

① 共同相続人ABCDのうちABCが自己の相続分をDに譲渡した場合

 ABCの印鑑証明書付相続分譲渡証書を添付した上、Dから、D一人を相続人とする相続登記を申請できる(登記先例)。

② 共同相続人ABCDのうちABが相続分をDに譲渡し、CD間でDが不動産を取得する遺産分割協議が成立した場合

 ABの印鑑証明書付相続分譲渡証書とCD間の遺産分割協議書(印鑑証明書付)を添付して、D一人から、D一人を相続人とする相続登記をすることができる(登記先例)。 

2 共同相続登記がされた後に、相続分譲渡がされ(その旨の登記未了)、その後、遺産分割協議が成立した場合

 共同相続人ABCD(不動産について共同相続登記済み)のうちABが相続分をDに譲渡し、CD間でDが不動産を取得する遺産分割協議が成立した場合

 まず、ABからDに対し相続分譲渡の登記をし、次に、遺産分割を原因として、CからDに持分移転登記をすべき(松原)。

 

○ 民法905条(相続分の取戻権)

1項 共同相続人の一人が遺産の分割前にその相続分を第三者に譲り渡したときは、他の共同相続人は、その価額及び費用を償還して、その相続分を譲り受けることができる。

2項 前項の権利は、一箇月以内に行使しなければならない。

第5 相続分の取戻し

 潮見【CASE276】【CASE277】

1 趣旨

① 第三者が遺産分割に介入することを防ぐ。

② 家産の防衛、家族共同体の内部での遺産の分配を保障する。

2 留意点

① 形成権

② 趣旨 → 取戻しの相手方である第三者には共同相続人は含まない。

③ 趣旨 → 包括受遺者(民法900条)は、相続分の取戻権を有しない。

④ 相続放棄者、欠格者、被廃除者

  非 相続人 → 相続分の取戻権を有しない。

⑤ 趣旨を達成するためには、相続人の一部取消しは認められない。

3 償還すべき価格

 譲渡の対価ではなく、相続分取戻し時における評価額

4 取戻権の行使

 ① + ②

 相続分取戻しの意思表示

 各相続人が単独で。/相続人が共同して/相続分を譲渡した相続人

② 償還すべき価格及び費用を現実に提供する。

5 取戻しの効果

(1)基本

 相続分の取戻権=相続分の買取権

 相続分は取戻権を行使した相続人に移転する。

 取戻権行使のために当該相続人が償還した価格及び費用は、当該相続人の負担となる。

(2)バリエーション①

 譲渡人を除く共同相続人の全員が取戻権を行使して、価格・費用を償還した場合 潮見【CASE279

 共同相続人間に別段の合意がなければ、償還のために支出した金額の割合に応じて、取り戻された相続分は分割帰属する。(3)バリエーション②

 譲渡人を除く共同相続人の一部が取戻権を行使して、価格・費用を償還した場合 潮見【CASE280

 当該共同相続人(一部)間に別段の合意がなければ、償還のために支出した金額の割合に応じて、取り戻された相続分は分割帰属する。

6 取戻権の期間制限(民法905条2項)

 潮見【CASE281】

  法律関係の早期安定を図る。

→ 相続分譲渡時から1か月以内(除斥期間)

【参考・参照文献】

 下記文献を参考・参照して作成しました。

□ 松原正明・全訂第2版 判例先例相続法Ⅱ(日本加除出版)230頁 略称:松原

□ 千葉洋三「相続分の譲渡・放棄」(新日本法規出版新家族法実務体系第3巻相続[Ⅰ]-相続・遺産分割-、平成20年)192頁

□ 潮見佳男 詳解相続法第2版(2022年、弘文堂)277頁 略称:潮見 

 

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