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160条 ~ 176条
○ (破産債権者を害する行為の否認)
破産法160条
1項 次に掲げる行為(担保の供与又は債務の消滅に関する行為を除く。)は、破産手続開始後、破産財団のために否認することができる。
一 破産者が破産債権者を害することを知ってした行為。ただし、これによって利益を受けた者が、その行為の当時、破産債権者を害することを知らなかったときは、この限りでない。【詐害行為原則型】
二 破産者が支払の停止又は破産手続開始の申立て(以下この節において「支払の停止等」という。)があった後にした破産債権者を害する行為。ただし、これによって利益を受けた者が、その行為の当時、支払の停止等があったこと及び破産債権者を害することを知らなかったときは、この限りでない。【支払停止又は破産手続開始申立て後の詐害行為】
2項 破産者がした債務の消滅に関する行為であって、債権者の受けた給付の価額が当該行為によって消滅した債務の額より過大であるものは、前項各号に掲げる要件のいずれかに該当するときは、破産手続開始後、その消滅した債務の額に相当する部分以外の部分に限り、破産財団のために否認することができる。
3項 破産者が支払の停止等があった後又はその前六月以内にした無償行為及びこれと同視すべき有償行為は、破産手続開始後、破産財団のために否認することができる。【無償行為の否認】
1 否認権の意義
破産財団から逸出した財産を破産財産に回復し、破産財団を増殖させる。これにより、債権者に平等に配当する準備をする。
2 否認権の分類
① 詐害行為
債務者・破産者の責任財産を絶対的に減少させる行為
② 偏頗行為
債務者・破産者の一部債権者に対する弁済・担保提供で、前後で、債務者・破産者の資産負債の金額に変化はないものの、実質的には、債務者間の平等を害する行為
3 詐害行為否認
(1)本条1項1号:原則類型
① 詐害行為
債務消滅行為・担保提供を除く。
証明責任:破産管財人
② 破産者の詐害意思
証明責任:破産管財人
③ 受益者の悪意
受益者に善意の立証責任
(2)本条1項2号
支払停止又は破産手続開始申立て後の詐害行為
① 詐害行為
② 支払停止又は破産手続開始申立て後
③ 受益者の悪意
4 過大な債務消滅行為(本条2項)
本条1項1号 + 2項
本条1項2号 + 2項
例:代物弁済の目的物の価格>債務額
否認の効果は、消滅した債務の額に相当する部分以外の部分に限られる。
5 無償行為の否認(本条3項)
(1)要件
① 内容
無償行為 & 無償行為と同視すべき有償行為
② 時期
支払停止等の後 or その前6か月以内
○ (相当の対価を得てした財産の処分行為の否認)
破産法161条
1項 破産者が、その有する財産を処分する行為をした場合において、その行為の相手方から相当の対価を取得しているときは、その行為は、次に掲げる要件のいずれにも該当する場合に限り、破産手続開始後、破産財団のために否認することができる。
一 当該行為が、不動産の金銭への換価その他の当該処分による財産の種類の変更により、破産者において隠匿、無償の供与その他の破産債権者を害することとなる処分(以下「隠匿等の処分」という。)をするおそれを現に生じさせるものであること。
二 破産者が、当該行為の当時、対価として取得した金銭その他の財産について、隠匿等の処分をする意思を有していたこと。
三 相手方が、当該行為の当時、破産者が前号の隠匿等の処分をする意思を有していたことを知っていたこと。
2項 前項の規定の適用については、当該行為の相手方が次に掲げる者のいずれかであるときは、その相手方は、当該行為の当時、破産者が同項第二号の隠匿等の処分をする意思を有していたことを知っていたものと推定する。
一 破産者が法人である場合のその理事、取締役、執行役、監事、監査役、清算人又はこれらに準ずる者
二 破産者が法人である場合にその破産者について次のイからハまでに掲げる者のいずれかに該当する者
イ 破産者である株式会社の総株主の議決権の過半数を有する者
ロ 破産者である株式会社の総株主の議決権の過半数を子株式会社又は親法人及び子株式会社が有する場合における当該親法人
ハ 株式会社以外の法人が破産者である場合におけるイ又はロに掲げる者に準ずる者
三 破産者の親族又は同居者
1 本条の意義
破産者が相当の対価を得てなした処分行為(適正価格による財産の売却)について、一定の場合に限って、否認することができるものとした。
処分行為により破産者が得た相当の対価等が破産財団に適正に移転していない場合を想定しているので、詐害行為否認(160条1項)の特殊型といえる(文献①297頁)。
2 要件
① 破産者が相当対価を取得した上する財産処分行為
② ①の行為が、不動産の金銭への換価その他の当該処分による財産の種類の変更により、破産者において隠匿、無償の供与その他の破産債権者を害することとなる処分をするおそれを現に生じさせるものであること(1項1号)
【例】不動産を売却して換金すること
③ 破産者が①の対価等について、隠匿等の処分をする意思
(1項2号)
④ 相手方が③の意思を知っていたこと(1項3号)
3 相手方が破産者の内部者である場合、1項3号の悪意を推認する(2項)。
○ (特定の債権者に対する担保の供与等の否認)
破産法162条
1項 次に掲げる行為(既存の債務についてされた担保の供与又は債務の消滅に関する行為に限る。)は、破産手続開始後、破産財団のために否認することができる。
一 破産者が支払不能になった後又は破産手続開始の申立てがあった後にした行為。ただし、債権者が、その行為の当時、次のイ又はロに掲げる区分に応じ、それぞれ当該イ又はロに定める事実を知っていた場合に限る。
イ 当該行為が支払不能になった後にされたものである場合 支払不能であったこと又は支払の停止があったこと。
ロ 当該行為が破産手続開始の申立てがあった後にされたものである場合 破産手続開始の申立てがあったこと。
二 破産者の義務に属せず、又はその時期が破産者の義務に属しない行為であって、支払不能になる前三十日以内にされたもの。ただし、債権者がその行為の当時他の破産債権者を害することを知らなかったときは、この限りでない。
2項 前項第一号の規定の適用については、次に掲げる場合には、債権者は、同号に掲げる行為の当時、同号イ又はロに掲げる場合の区分に応じ、それぞれ当該イ又はロに定める事実(同号イに掲げる場合にあっては、支払不能であったこと及び支払の停止があったこと)を知っていたものと推定する。
一 債権者が前条第二項各号に掲げる者のいずれかである場合
二 前項第一号に掲げる行為が破産者の義務に属せず、又はその方法若しくは時期が破産者の義務に属しないものである場合
3項 第一項各号の規定の適用については、支払の停止(破産手続開始の申立て前一年以内のものに限る。)があった後は、支払不能であったものと推定する。
1 偏頗行為の否認の意義
(1)現行法は、「詐害行為の否認」と「偏頗行為の否認」とを明確に区別した。
(2)偏頗行為とは、次のような場合である。債務者はAとBに対し各100万円の債務を負うが、債務者は100万円の資産以外に資産を有しない。この場合、債務者はAに対し、100万円を弁済した。この場合、計算上は、次のとおりである。
債務者の資産
弁済前100万円、弁済後0円
債務者の負債
弁済前200万円、弁済後100万円
債務者の債務超過額
弁済前 100万円-200万円=▲100万円
弁済後 0円-100万円=▲100万円
このように債務者の債務超過の金額は弁済前後で不変である。
しかし、このような弁済を有効とすると、Aは100万円の弁済を受けることができたが(回収率100%)、Bは弁済を受けることができない(回収率0%)。このような結果は実質的に債権者平等に反するので、否認対象行為とした。
2 要件【1】<支払不能後の義務行為>
① 既存の債務についての担保の供与又は債務の消滅に関する行為
② 支払不能後又は破産手続開始の申立て後にした
③ 債権者の悪意
以下のⅰ、ⅱの悪意について、破産管財人に証明責任がある。
ⅰ 支払不能後の行為
債権者が「支払不能であったこと又は支払の停止があったこと」を知っていたこと。
ⅱ 破産手続開始の申立てがあった後の行為
債権者が「破産手続開始の申立てがあった」を知っていたこと。
3 要件【2】<支払不能前30日以内の非義務行為>
① 既存の債務についての担保の供与又は債務の消滅に関する行為
② 破産者の義務に属せず、又はその時期が破産者の義務に属しない行為
前者の例:新たな担保の提供、後者の例:期限前弁済
③ 支払不能になる前30日以内にされた
③ 債権者の「他の破産債権者を害すること」についての悪意
債権者に善意の証明責任がある。
4 推定規定
(1)本条2項1号
内部者である債権者の悪意を推定する。
(2)本条2項2号
非義務行為(行為自体、方法、時期が義務に属しないもの)の場合、債権者の悪意を推定する。
○ (手形債務支払の場合等の例外)
破産法163条
1項 前条第一項第一号の規定は、破産者から手形の支払を受けた者がその支払を受けなければ手形上の債務者の一人又は数人に対する手形上の権利を失う場合には、適用しない。
2項 前項の場合において、最終の償還義務者又は手形の振出しを委託した者が振出しの当時支払の停止等があったことを知り、又は過失によって知らなかったときは、破産管財人は、これらの者に破産者が支払った金額を償還させることができる。
3項 前条第一項の規定は、破産者が租税等の請求権(共助対象外国租税の請求権を除く。)又は罰金等の請求権につき、その徴収の権限を有する者に対してした担保の供与又は債務の消滅に関する行為には、適用しない。
○ 破産法164条(権利変動の対抗要件の否認)
1項 支払の停止等があった後権利の設定、移転又は変更をもって第三者に対抗するために必要な行為(仮登記又は仮登録を含む。)をした場合において、その行為が権利の設定、移転又は変更があった日から十五日を経過した後支払の停止等のあったことを知ってしたものであるときは、破産手続開始後、破産財団のためにこれを否認することができる。ただし、当該仮登記又は仮登録以外の仮登記又は仮登録があった後にこれらに基づいて本登記又は本登録をした場合は、この限りでない。
2項 前項の規定は、権利取得の効力を生ずる登録について準用する。
1 対抗要件充足行為の否認の意義
原因行為が否認できない場合でも、所定の要件を充足する場合に対抗要件充足行為を否認すれば、受益者は所有権の取得や担保権の設定を受けたことを破産管財人に対抗できないため、原因行為を否認したのと同じ効果が生じる。
対抗要件は権利変動行為を完成する行為であることから、対抗要件充足行為は権利変動行為(原因行為)と実質的に異ならないこと、及び権利変動行為後できる限り早く対抗要件を充足すべきことを前提としている。
2 要件
① 対抗要件充足行為
権利の設定、移転又は変更をもって第三者に対抗するために必要な行為(仮登記又は仮登録を含む。)
② ①の行為が支払停止等(支払の停止又は破産手続開始の申立て)があった後であること
③ ①の行為が権利の設定、移転又は変更があった日から十五日を経過した後であること
④ 受益者が支払停止等について悪意であること
○ 破産法165条(執行行為の否認)
否認権は、否認しようとする行為について執行力のある債務名義があるとき、又はその行為が執行行為に基づくものであるときでも、行使することを妨げない。
○ (支払の停止を要件とする否認の制限)
破産法166条
破産手続開始の申立ての日から一年以上前にした行為(第百六十条第三項に規定する行為を除く。)は、支払の停止があった後にされたものであること又は支払の停止の事実を知っていたことを理由として否認することができない。
1 無償行為は、破産手続開始の申立日から1年以上前にした行為であっても、否認の対象となる。
(理由)破産財団に対する有害性が顕著であること、受益者を保護する必要性が乏しい。
○ (否認権行使の効果)
破産法167条
1項 否認権の行使は、破産財団を原状に復させる。
2項 第百六十条第三項に規定する行為が否認された場合において、相手方は、当該行為の当時、支払の停止等があったこと及び破産債権者を害することを知らなかったときは、その現に受けている利益を償還すれば足りる。
○ (破産者の受けた反対給付に関する相手方の権利等)
破産法168条
1項 第百六十条第一項若しくは第三項又は第百六十一条第一項に規定する行為が否認されたときは、相手方は、次の各号に掲げる区分に応じ、それぞれ当該各号に定める権利を行使することができる。
一 破産者の受けた反対給付が破産財団中に現存する場合 当該反対給付の返還を請求する権利
二 破産者の受けた反対給付が破産財団中に現存しない場合 財団債権者として反対給付の価額の償還を請求する権利
2項 前項第二号の規定にかかわらず、同号に掲げる場合において、当該行為の当時、破産者が対価として取得した財産について隠匿等の処分をする意思を有し、かつ、相手方が破産者がその意思を有していたことを知っていたときは、相手方は、次の各号に掲げる区分に応じ、それぞれ当該各号に定める権利を行使することができる。
一 破産者の受けた反対給付によって生じた利益の全部が破産財団中に現存する場合 財団債権者としてその現存利益の返還を請求する権利
二 破産者の受けた反対給付によって生じた利益が破産財団中に現存しない場合 破産債権者として反対給付の価額の償還を請求する権利
三 破産者の受けた反対給付によって生じた利益の一部が破産財団中に現存する場合 財団債権者としてその現存利益の返還を請求する権利及び破産債権者として反対給付と現存利益との差額の償還を請求する権利
3項 前項の規定の適用については、当該行為の相手方が第百六十一条第二項各号に掲げる者のいずれかであるときは、その相手方は、当該行為の当時、破産者が前項の隠匿等の処分をする意思を有していたことを知っていたものと推定する。
4項 破産管財人は、第百六十条第一項若しくは第三項又は第百六十一条第一項に規定する行為を否認しようとするときは、前条第一項の規定により破産財団に復すべき財産の返還に代えて、相手方に対し、当該財産の価額から前三項の規定により財団債権となる額(第一項第一号に掲げる場合にあっては、破産者の受けた反対給付の価額)を控除した額の償還を請求することができる。
○ (相手方の債権の回復)
破産法169条
第百六十二条第一項に規定する行為が否認された場合において、相手方がその受けた給付を返還し、又はその価額を償還したときは、相手方の債権は、これによって原状に復する。
○ (転得者に対する否認権)
破産法170条
1項 次の各号に掲げる場合において、否認しようとする行為の相手方に対して否認の原因があるときは、否認権は、当該各号に規定する転得者に対しても、行使することができる。ただし、当該転得者が他の転得者から転得した者である場合においては、当該転得者の前に転得した全ての転得者に対しても否認の原因があるときに限る。
一 転得者が転得の当時、破産者がした行為が破産債権者を害することを知っていたとき。
二 転得者が第百六十一条第二項各号に掲げる者のいずれかであるとき。ただし、転得の当時、破産者がした行為が破産債権者を害することを知らなかったときは、この限りでない。
三 転得者が無償行為又はこれと同視すべき有償行為によって転得した者であるとき。
2項 第百六十七条第二項の規定は、前項第三号の規定により否認権の行使があった場合について準用する。
○ (保全処分に係る手続の続行と担保の取扱い)
破産法172条
1項 前条第一項(同条第七項において準用する場合を含む。)の規定による保全処分が命じられた場合において、破産手続開始の決定があったときは、破産管財人は、当該保全処分に係る手続を続行することができる。
2項 破産管財人が破産手続開始の決定後一月以内に前項の規定により同項の保全処分に係る手続を続行しないときは、当該保全処分は、その効力を失う。
3項 破産管財人は、第一項の規定により同項の保全処分に係る手続を続行しようとする場合において、前条第二項(同条第七項において準用する場合を含む。)に規定する担保の全部又は一部が破産財団に属する財産でないときは、その担保の全部又は一部を破産財団に属する財産による担保に変換しなければならない。
4項 民事保全法(平成元年法律第九十一号)第十八条並びに第二章第四節(第三十七条第五項から第七項までを除く。)及び第五節の規定は、第一項の規定により破産管財人が続行する手続に係る保全処分について準用する。
○ (否認の請求を認容する決定に対する異議の訴え)
破産法175条
1項 否認の請求を認容する決定に不服がある者は、その送達を受けた日から一月の不変期間内に、異議の訴えを提起することができる。
2項 前項の訴えは、破産裁判所が管轄する。
3項 第一項の訴えについての判決においては、訴えを不適法として却下する場合を除き、同項の決定を認可し、変更し、又は取り消す。
4項 第一項の決定を認可する判決が確定したときは、その決定は、確定判決と同一の効力を有する。同項の訴えが、同項に規定する期間内に提起されなかったとき、又は却下されたときも、同様とする。
5項 第一項の決定を認可し、又は変更する判決については、受訴裁判所は、民事訴訟法第二百五十九条第一項の定めるところにより、仮執行の宣言をすることができる。
6項 第一項の訴えに係る訴訟手続は、破産手続が終了したときは、第四十四条第四項の規定にかかわらず、終了する。
【参考・参照文献】
下記文献を参考・参照して作成しました。
① 森純子ほか編・はい6民です お答えします(倒産実務Q&A)(2015年 大阪弁護士協同組合)頁
② 川畑正文ほか編「はい6民です お答えします 倒産実務Q&A」(2018年、大阪弁護士協同組合)頁
③ 川畑正文ほか編・(第3版)破産管財手続の運用と書式(2020年、新日本法規)頁
④ 全国倒産処理弁護士ネットワーク編・破産実務Q&A220問(2019年、金融財政事情研究会)頁
⑤ 加藤哲夫 破産法(第5版)(平成21年、弘文堂)