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平成29年改正法(民法466条~469条)の経過措置
施行日前に債権譲渡の原因である法律行為がされた場合には、改正前の法(規定)が適用される。附則22条
〇 民法466条(債権の譲渡性)(平成29年改正)
1項 債権は、譲り渡すことができる。
ただし、その性質がこれを許さないときは、この限りでない。
2項 当事者が債権の譲渡を禁止し、又は制限する旨の意思表示(以下「譲渡制限の意思表示」という。)をしたときであっても、債権の譲渡は、その効力を妨げられない。
3項 前項に規定する場合は、
譲渡制限の意思表示がされたことを知り、又は重大な過失によって知らなかった譲受人その他の第三者に対しては、債務者は、
その債務の履行を拒むことができ、かつ、譲渡人に対する弁済その他の債務を消滅させる事由をもってその第三者に対抗することができる。
4項 前項の規定は、債務者が債務を履行しない場合において、同項に規定する第三者が相当の期間を定めて譲渡人への履行を催告し、その期間内に履行がないときは、その債務者については、適用しない。
旧466条
1項 新1項と同じ。
2項 前項の規定は、当事者が反対の意思を表示した場合には、適用しない。
ただし、その意思表示は、善意の第三者に対抗することができない。
1 債権の自由譲渡の原則
旧法(1項)、新法(1項)とも同じ。
2 譲渡禁止・制限特約の意思表示
(1)文言の補正
旧法 譲渡禁止
新法 譲渡禁止・制限(「譲渡制限の意思表示」という)
(2)悪意・重過失者に対する譲渡
旧法(判例) 譲渡は無効
新法 譲渡は有効
BUT 債務者の弁済先固定の利益(※)
に配慮
→ 債務者に、譲受人に対する抗弁権を付与
① 弁済拒絶権
② 譲渡人に対する債務消滅行為による免責
主張
※ 譲渡禁止特約が債務者にとって利益であるポイント
① 譲渡に伴う事務の煩雑化を避ける。
② 過誤払いの危険を避ける。
③ 相殺の利益を確保する。
悪意・重過失の立証責任が債務者にあることについては、旧法、新法とも同じ。
(3)新法4項
悪意・重過失者に対する債権譲渡で、債務者が、譲渡人に対しては権利喪失を理由に弁済を拒み、譲受人に対しては弁済拒絶の抗弁権を行使した場合における、デッドロック状態を解消するための措置
3 改正の視点
不動産を有しない中小企業が、債権及び動産(将来取得する分を含む)を用いてする資金調達(資産担保融資ABL)を活用するために、改正前の債権譲渡制度は支障があった。(第三)債務者である大企業、国、地方公共団体は、譲渡禁止特約を設けており、そのことは知れ渡っていたからである。
→ 資金調達のために、譲渡禁止特約の効力を制限する。
4 本条3項
譲受人が債権譲渡制限特約について悪意・有過失であり、債務者が譲渡人に弁済した場合、譲受人は譲渡人に対し弁済金を引き渡すよう請求できる。これは、譲渡制限特約にもかかわらず、譲渡人・譲受人間の債権譲渡は有効であるからである。請求の法律構成は、譲渡人は弁済金を受領する権限は有するがこれを保持する権限まで有しないことから、法律の原因を欠くといえ、不当利得と考えることができる。白石大「債権譲渡制限特約を譲受人に対抗しうる場合の法律関係」(法学教室478号19頁)
5 本条4項
法律構成として、次のとおり考えればよい。
① 譲受人が約定によって譲渡人に取立権限を付与した。
② 弁済先の固定という債務者の利益は守られるので、債務者の履行拒絶の抗弁は経たない。
このように考えることにより、集合債権譲渡担保等債権譲渡を利用した金融手法において、平時では、譲受人(譲渡制限特約について悪意・有過失である場合を含む)から譲渡人に対し譲渡対象債権の取立権限が付与されていることを説明できる。
白石大「債権譲渡制限特約を譲受人に対抗しうる場合の法律関係」(法学教室478号21頁)
〇 民法466条の2(平成29年改正により新設)
1項 債務者は、譲渡制限の意思表示がされた金銭の給付を目的とする債権が譲渡されたときは、
その債権の全額に相当する金銭を
債務の履行地(債務の履行地が債権者の現在の住所により定まる場合にあっては、譲渡人の現在の住所を含む。次条において同じ。)の供託所に供託することができる。
2項 前項の規定により供託をした債務者は、遅滞なく、譲渡人及び譲受人に供託の通知をしなければなない。
3項 第1項の規定により供託をした金銭は、譲受人に限り、還付を請求することができる。
1 改正法では、譲受人が悪意・重過失であっても債権譲渡は有効であるから、債務者は、(従来認められていた)債権者不確知であることを理由として供託できない。
そこで、譲渡禁止特約の付された金銭債権が譲渡された場合において、債務者が供託により債務を免れることができるようにするため、供託原因を新設した。
2 債務者のおかれた状況
① 債務者は、譲受人が悪意・重過失であっても、譲受人に弁済できる。
② 善意・無重過失の譲受人に対しては弁済を拒絶できない。
③ 悪意・重過失の譲受人に対しては弁済を拒絶できる。
債務者は、譲渡人に弁済しようとしたが、譲受人が悪意・重過失あることの立証責任を負うため、債務者が弁済の相手方の判断に迷う。
このような債務者を保護するため、改正前と同様、供託により債務を免れることを認めた。
3 譲受人が悪意・重過失であっても債権譲渡は有効
→ 譲受人のみが還付請求権を有する(3項)
〇 民法466条の3(平成29年改正により新設)
前条第1項に規定する場合において、譲渡人について破産手続開始の決定があったときは、譲受人(同項の債権の全額を譲り受けた者であって、その債権の譲渡を債務者その他の第三者に対抗することができるものに限る。)は、
譲渡制限の意思表示がされたことを知り、又は重大な過失により知らなかったときであっても、
債務者にその債権の全額に相当する金銭を債務の履行地の供託所に供託させることができる。
この場合においては、同条第2項及び第3項の規定を準用する。
1 譲渡禁止特約の付された金銭債権が譲渡され、譲受人が悪意・重過失の場合、債務者は、譲受人に対し、弁済を拒絶して、譲渡人への弁済を対抗できる。
譲渡人について破産手続が開始された場合、債権者(譲受人)は破産管財人に対し財団債権者として弁済金の引渡請求権を有するが、財団不足の場合は保護されない。
債権者(譲受人)を保護するため、債務者に対する供託請求権を認めた。譲受人から供託請求を受けた債務者は、破産管財人に対し、弁済してはいけない。
2 供託がされた場合、債権者(譲受人)のみが還付請求権を有する(466条の2第3項の準用)。
〇 民法466条の4(譲渡制限の意思表示がされた債権の差押え)(平成29年改正により新設)
1 債務者は、強制執行をした差押債権者に対し、その者が譲渡制限特約について悪意・重過失であっても、特約を主張して、譲渡人へ弁済することができない旨の判例を明文化した。
2 2項 「その債権者」=譲受人に対する債権者
差押債権者に、譲受人が有する以上の権利を認めないという考えに基づく。従来の解釈で明らかでなかった部分を規定を設けて明確にした。
〇 民法466条の5(預金債権又は貯金債権に係る譲渡制限の意思表示の効力)(平成29年改正により新設)
1項 預金口座又は貯金口座に係る預金又は貯金に係る債権(以下「預貯金債権」という。)について当事者がした譲渡制限の意思表示は、第466条2項の規定にかかわらず、その譲渡制限の意思表示がされたことを知り、又は重大な過失によって知らなかった譲受人その他の第三者に対抗することができる。
2項 前項の規定は、譲渡制限の意思表示がされた預貯金債権に対する強制執行をした差押債権者に対しては、適用しない。
1 1項
譲渡禁止特約付き債権 特約について悪意・重過失の譲受人に対する譲渡
旧法:無効 → 新法:有効
→ 下記①~③の預貯金債権の特殊性
① 譲渡禁止特約が付されていることが周知の事実である。
② 上記変更にあわせて銀行のシステムを構築するのはコストがかかり、円滑な払戻しに支障が生じるおそれがある。
③ 預貯金債権=現金の発想→債権流動化をそれ程考慮する必要がない。
→ 旧法と同様、無効とした。
2 2項
① 差押えは非取引行為
② 合意により差押禁止財産を作出を認めない。
→ 債務者は、譲渡禁止特約について悪意・重過失の差押債権者に対し、特約を対抗できない。
〇 民法466条の6(将来債権の譲渡性)(平成29年改正により新設)
1項 債権の譲渡は、その意思表示の時に債権が現に発生していることを要しない。
2項 債権が譲渡された場合において、その意思表示の時に債権が現に発生していないときは、譲受人は、発生した債権を当然に取得する。
3項 前項に規定する場合において、
譲渡人が次条の規定による通知をし、又は債務者が同条の規定による承諾をした時(以下「対抗要件具備時」という。)までに譲渡制限の意思表示がされたときは、
譲受人その他の第三者がそのことを知っていたものとみなして、
第466条3項(譲渡制限の意思表示がされた債権が預貯金債権の場合にあっては、前条第1項)の規定を適用する。
1 1項 旧法下の判例法理(最判平成11年1月29日)を踏まえて、将来債権の譲渡が可能であることを明記した。
2 2項 旧法下の判例法理(最判平成19年2月15日)を踏まえたものである。
3 3項
債権者(譲渡人)・債務者間の譲渡制限特約による「債権者を固定する債務者の利益」と、
債権者(譲渡人)・新債権者(譲受人)間の将来債権の譲渡による「新債権者による債権取得の利益」
との調整を図った。
① 債務者対抗要件具備:先 譲渡制限特約:後
債務者は、譲渡制限特約をもって譲受人に対抗することができない。
② 譲渡制限特約:先 債務者対抗要件具備:後
債務者は、譲渡制限特約をもって譲受人に対抗することができる(悪意擬制)
※ 預貯金債権の場合は説明省略
〇 民法467条(債権の譲渡の対抗要件)(平成29年改正)
1項 債権の譲渡(現に発生していない債権の譲渡を含む。)は、譲渡人が債務者に通知をし、又は債務者が承諾をしなければ、債務者その他の第三者に対抗することができない。
2項 前項の通知又は承諾は、確定日付のある証書によってしなければ、債務者以外の第三者に対抗することができない。
旧467条(指名債権の譲渡の対抗要件)
1項 指名債権の譲渡は、譲渡人が債務者に通知をし、又は債務者が承諾をしなければ、債務者その他の第三者に対抗することができない。
2項 前項の通知又は承諾は、確定日付のある証書によってしなければ、債務者以外の第三者に対抗することができない。
1 債務者対抗要件、第三者対抗要件共に、旧法の規律を維持した。
2 旧法下の判例法理(最判平成13年11月22日)を踏まえて、将来債権の場合、債権発生前の段階で債務者対抗要件・第三者対抗要件を具備できることを明記した。
3 用語の整備
改正法 証券的債権に関する規定を削除
指名債権 → 債権
【債務者対抗要件】
(事案)
A=旧債権者・譲渡人 →債権譲渡→ B=新債権者・譲受人
甲=債務者
1 意義
債権譲渡=AB間 債務者甲は知らない。
Aは、二重払いの危険、抗弁主張の利益
Bが甲に権利主張するために、Aの通知又は甲の承諾を要するとした。
通知は、<A→B>の譲渡を甲に知らせる観念の通知である。
承諾は、<A→B>の譲渡を認識した旨の表明である。
2 効果
(1)債務者は、対抗要件具備までに譲渡人に対して生じた事由をもって、譲受人に対抗できる。
債権譲渡後に生じた事由であっても、対抗要件が具備された時までに生じたものであればよい、また、抗弁事由それ自体が発生している必要はなく、その基礎が存在していれば十分である(潮見佳男(法律学の森)新債権総論Ⅱ(平成29年、信山社)432頁)。
(2)通知が譲渡後に行われた場合、遡及効はなく、対抗力は通知の時から生じる。
その間(譲渡時・通知到達時)に譲渡された債権の消滅時効が完成すれば、その後に通知があっても時効中断の効力は生じない。
我妻榮 新訂債権総論(民法講義Ⅳ)(昭和39年、岩波書店)534頁
大審院大正3年5月21日判決
大審院大正8年10月15日判決
民法468条(債権の譲渡における債務者の抗弁)
1項 債務者は、対抗要件具備時までに譲渡人に対して生じた事由をもって譲受人に対抗することができる。
2項 第466条第4項の場合における前項の規定の適用については、同項中「対抗要件具備時」とあるのは、「第466条第4項の相当の期間を経過した時」とし、
第466条の3の場合における同項の規定の適用については、同項中「対抗要件具備時時」とあるのは、「第466条の3の規定により同条の譲受人から供託の請求を受けた時」とする。
旧468条(指名債権の譲渡における債務者の抗弁)
1項 債務者が異議をとどめないで前条の承諾をしたときは、譲渡人に対抗することができた事由であっても、これをもって譲受人に対抗することができない。
この場合において、債務者がその債務を消滅させるために譲渡人に払い渡したものがあるときはこれを取り戻し、譲渡人に対して負担した債務があるときはこれを成立しないものとみなすことができる。
2項 譲渡人が譲渡の通知をしたにとどまるときは、債務者は、その通知を受けるまでに譲渡人に対して生じた事由をもって譲受人に対抗することができる。
1 改正法は、債務者の異議をとどめない承諾による抗弁切断効(悪意の譲受人に対しては認めない[判例])は、債務者に過酷であることから、これを廃止し、抗弁の切断については、意思表示一般の規律に委ねた。
2 改正法は、債務者が譲受人に対抗できる事由についての規律について、改正前の法による規律を維持した。但し、上記1を踏まえて、文言を次のとおり修正した。
旧・本条2項:通知 → 新・本条1項:対抗要件具備
3 基準時の変更
債務者は、いつまでに譲渡人に対して生じた事由を
譲受人に対抗することができるか。
① 原則
対抗要件具備時(新・本条1項)
② 例外1:第466条第4項の場合(新・本条2項)
履行の催告から相当期間が経過した時まで
③ 例外2:第466条の3の場合(新・本条2項)
供託請求を受けた時まで
〇 民法469条(債権の譲渡における相殺権)(平成29年改正により新設)
1項 債務者は、対抗要件具備時より前に取得した譲渡人に対する債権による相殺をもって譲受人に対抗することができる。
2項 債務者が対抗要件具備時より後に取得した譲渡人に対する債権であっても、その債権が次に掲げるものであるときは、前項と同様とする。
ただし、債務者が対抗要件具備時より後に他人の債権を取得したときは、この限りでない。
一 対抗要件具備時よりも前の原因に基づいて生じた債権
二 前号に掲げるもののほか、譲受人の取得した債権の発生原因である契約に基づいて生じた債権
3項 第466条第4項の場合における前二項の規定の適用については、これらの規定中「対抗要件具備時」とあるのは、「第466条第4項の相当の期間を経過した時」とし、
第466条の3の場合におけるこれらの規定の適用については、これらの規定中「対抗要件具備時」とあるのは、「第466条の3の規定により同条の譲受人から供託の請求を受けた時」とする。
1 改正法は、債務者が債権譲受人に対し、相殺の抗弁を主張できる場合について、明文規定を設けた。
2 譲受人の対抗要件具備時より前に、債務者が取得した債権(1項)
無制限説を採用
3 譲受人の対抗要件具備より後に、債務者が取得した債権
① 原則 不可
② 例外1
譲受人の対抗要件具備時より「前の原因」に基づいて債務者が取得した債権(本条2項1号)
譲渡債権の発生原因である契約と同一のものであることを要しない。契約である必要はなく、不法行為に基づく損害賠償請求権、不当利得返還請求権でもよい。
但し、他人の債権を取得した場合は不可(本条2項ただし書)。
③ 例外2
譲受人の取得した債権の「発生原因である契約」に基づいた生じた債権(本条2項2号)
但し、他人の債権を取得した場合は不可(本条2項ただし書)。
4 相殺ができる反対債権の取得時に関する基準時の変更
新468条2項と同趣旨
【参考・参照文献】
このページは、下記文献を参考・参照して作成しました。
□① 第一東京弁護士会司法制度調査委員会編・新旧対照でわかる改正債権法の逐条解説(平成29年、新日本法規)157頁
□② 日本弁護士連合会編・実務解説改正債権法(第2版)(2020年、弘文堂)261頁
□③ 内田貴・改正民法のはなし(2020年、一般財団法人民事法務協会)57頁
□ 近江幸治 民法講義Ⅳ債権総論(第4版)(令和2年、成文堂)215頁
□ 大阪弁護士会民法改正問題特別委員会編 実務家のための逐条解説新債権法(2021年、有斐閣)291頁