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【事案】
北海道猿払村に勤務する郵便局員が、労働組合の地区協議会の決定に従い、昭和42年の衆議院議員の選挙用ポスター(同人が支持する日本社会党の公認候補者のポスター)を公営掲示場に掲示したり、他に配布した行為(同ポスターを貼るよう依頼するため交付した行為)が、国家公務員法(※)に違反することを理由に起訴された刑事事件である。
※ 国家公務員法102条1項、人事院規則14-7の5項3号(特定の政党を支持する目的)、6項13号(政治的目的を有する文書を掲示・配布する行為)
【裁判所の判断】
<旭川地方裁判所昭和43年3月25日判決(第一審)>
無罪判決
非管理者である現業の国家公務員でその職務内容が機械的労務の提供に止まるものが勤務時間外に国の施設を利用することなく、かつ職務を利用し、若しくはその公正を害する意図なしで上記人事院規則に該当する行為を行う場合、その弊害は著しく小さいものと考えられるのであり、国家公務員法82条の懲戒処分ができる旨の規定に加え、刑事罰(3年以下の懲役又は10万円以下の罰金[当時])を加えることができる旨を法定することは、行為に対する制裁としては相当性を欠き、合理的にして必要最小限の域を超えている。
本件被告人の所為に、国家公務員法110条1項19号(罰則規定)が適用される限度において、同号が憲法21条及び31条に違反するので、これを被告人に適用することができない。
<最高裁判所大法廷昭和49年11月6日判決>
① 行政の中立的運営とこれに対する国民の信頼の確保という規制目的は正当である。
② その目的のために政治的行為を禁止することは目的との間に合理的関連性がある。
禁止が職種、権限、行為の時間、行為の場所を区別していなくても、合理的関連性は失われない。禁止は意見表明自体の禁止を目的としていない。行為の禁止に伴い、付随的・間接的に意見表明も制約されるに過ぎない。
③ 禁止によって得られる利益と失われる利益との均衡がとれている
→ 合憲
【評釈等】
① 学説は、LRAの基準(若しくはそれに類する基準)及び適用違憲の手法(若しくはそれに類する方法)をとった第一審判決を高く評価し、最高裁判所判決を批判する傾向にある。最高裁判決は、昭和40年~昭和50年にかけての司法の反動という背景で理解する必要がある。
② 行政の中立的運営及びこれに対する国民の信頼の確保という意味について、抽象的に考えるのではなく、公務員の職務の性質に即して(職務性質説)、具体的に考える必要がある。「選挙で選出されるわけでない一般の公務員に対して、議会制民主主義のもとで要請される政治的中立性とは、政権交代があった場合にも、選挙で選ばれた公職の政策決定を助け、その新政策を粛々と実行することである。したがって、政策決定にかかわりをもつ公務員であればあるほど中立性の要請も強くなり、反対に政策決定に関与しない公務員の勤務時間外の政治活動は、中立の要請と抵触する可能性が低くなると考えるべき」(赤坂正浩・憲法講義(人権)36頁(2011年・信山社))。
③ 最高裁判例は、<判決>①②③の観点から規制の合理性を審査したといえるが、①の目的(行政の中立的運営及びこれに対する国民の信頼の確保)を抽象的広汎に捉えると、それだけで合憲となってしまい、②③の観点が意味を持たなくなる。
④ その後、平成24年12月、公務員の政治的文書配布行為が国家公務員法違反に問われた事件で、猿払事件最高裁判決の問題点を踏まえてか、公務員の職務執行の政治的中立性を損なう場合を当該公務員の職務の性質に即して実質的に考える立場から、管理職的地位にある者の事件については有罪とし(宇治橋事件・最高裁平成24年12月7日)、管理職的地位にない者の事件については無罪とした(堀越事件・最高裁平成24年12月7日判決)。
【参考・参照文献】
芦部・憲法初版(1993年・岩波書店)211頁、佐藤幸治・日本国憲法論(2011年・成文堂)、渋谷秀樹・憲法第2版(2013年・有斐閣)154頁