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大審院第1民事部昭和10年4月25日判決
たいへん古い判例で、法学部の皆さんは、法学入門、民法総則、債権法の講義で学ぶことになる判例と思います。
【事案】
大阪市道頓堀にあった「カフェー丸玉」で女給として勤めていたXが、Xの馴染みの客であるYに対し、XY間で400円を贈与する契約があったと主張し、訴求した事件である。XYは遊興のうえ昭和8年1月頃より懇ろとなり、同年4月18日、XはYの歓心を買おうとして独立資金として400円を贈与する旨約束した。
第一審・第二審とも、Xの請求を認めたため、Yが上告した。上告理由は、おおむね、贈与契約は、その動機が情交目的であり、公序良俗に反するというものである。
【裁判所の判断】
<主文>
原判決を破毀し、本件を大阪地方裁判所に差し戻す。
<判決理由>
① XとYはカフェーにおいて比較的短期間遊興した関係に過ぎずして、他に深い縁故あるに非ず。
② Xの歓心を買うため相当多額の金員の供与を諾約することあるも、これって裁判上の請求権を付与する趣旨に出たのと即断するのは相当でない。Yが自ら進んで履行するときは債務の弁済に当たるが、Xにおいて履行を強要することを得ざる特殊の債務関係を生じると解するのが原審の事実に即する。
③ XY間で贈与が成立するというためには更に贈与意思の基本事情について更に首肯するに足りるべき特段の事由が必要であるのに、その点について原審は判示しておらず、審理不十分である。
【備考】
これを報じた、法律新聞3835号5頁は、「酒場の戯れ言」というタイトルで報じ、これで講額上所謂自然債務の代表的なものが出来たと紹介する。
【評釈等】
① 講額上、訴求(裁判上の請求をすることができる)力がなく任意弁済を有効とするだけの債務を「自然債務」という概念で理解する学説がある(我妻栄)。これに対し、自然債務という概念を極力認めない学説が対峙した(自然債務論争)。後者の見解によると、例えば、本件は、特殊の事情から訴求しえない債務と理解しておけば足りる(近江幸治・債権総論初版(1994年・成文堂)22頁)。
② 我妻・有泉コンメンタール民法第1版(2005年・日本評論社)691頁は、訴求力のない債務については、理論的には、訴えが却下されるべきとする。