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標記について、東京地方裁判所平成28年10月27日判決(D1-Law.com判例体系判例ID29021292)を紹介します。
【事案】
貸金会社X(株式会社を組織変更した合同会社)が借主Y(78歳)に対し、貸金残元本及び損害金の支払いを求めた。Yは消滅時効による債務消滅を主張し、Xは、消滅時効完成後一部弁済し時効援用権を喪失したので債務は消滅していないと主張した。
平成13年6月12日 XY間に継続的金銭消費貸借契約が成立
平成14年3月31日 Y→X 9,000円弁済
平成15年11月1日経過 Y 期限の利益喪失
平成16年4月15日 Y →X 1万円弁済(①の弁済)
その後 消滅時効が完成(但し、Xの時効援用はされていない)
平成23年1月27日 X→Y 電話をし、同月31日に5,000円を弁済すること、それ以後はXのYに対する通知書に記載されている条件での弁済を求めた。通知書は、XがYに対し、同月28日に送付した。この時、XはYに対し、請求額384,301円ではなく、Xが計算した残元本及び損害金669,558円(利息制限法の制限利率により計算された金額を上回る)の請求もあり得ると伝えた。
平成23年1月28日 Y→X 5万円弁済(①の弁済後初めての弁済。それ以降弁済はない。なお、ATMで5千円送金しようとしたが、謝って5万円送金した。)
平成23年2月4日 Y→X 当初の契約の記憶がない旨伝える。
【裁判所の判断】
債務者が、自己の負担する債務について時効が完成した後に、債権者に対し債務の承認をした以上、時効完成の事実を知らなかったときでも、その後その債務について完成した消滅時効の援用をすることは許されないとするのが判例(最高裁判所昭和41年4月20日大法廷判決)の立場であり、その理由は、時効完成後であっても、債務者が債務の承認をするということは、時効による債務消滅の主張と相容れない行為であり、相手方においては債務者にもはや時効を援用しない趣旨であると考えるであろうから、その後においては債務者に時効の援用を認めないと解するのが、信義則に照らして相当であるとするところにある。
そうすると、時効が完成した後に、債務者が債権者に対して債務の承認をしたとしても承認前後の具体的事情等を考慮して、債権者において、債務者がした債務の承認が時効の援用をしない趣旨であると信頼することが相当とはいえない特段の事情があると認められる場合には、債務者において、消滅時効を援用することが信義則に反するとはいえないから、消滅時効の援用権を喪失するものではないと解するのが相当である。
本件では、Yによる時効援用を認め、Xの請求を認めなかった。
【コメント】
妥当な判断である。なお、仮に、Yが時効援用が認められない場合(時効援用権を「喪失」したいいわれることもある)でも、その債務承認の時から再び時効期間が経過すれば消滅時効を援用できる(最高裁判所昭和45年5月21日判決)。
【事案】
① 借主Xと貸主A社(後にY社に吸収合併される)との間には、昭和62年から平成14年4月1日まで継続的金銭消費貸借取引があり、後記特定調停成立後の判明したことだが、平成14年6月14日現在で、当該取引について約234万円の過払金等が発生していた。
② Xは、A社を相手方とし、XA間の平成10年3月11日から平成14年3月20日までの金銭消費貸借契約に基づく借受けについて債務額の確定及び債務支払方法の協定を求める特定調停を新潟簡易裁判所に申し立てた。
③ ②の特定調停において、XがA社に対し、残債務44万円余りを負うことを確認し(以下、「本件確認条項」という。)これを分割弁済する調停が成立し、成立した調停条項には、「本件に関し、本件調停条項で定めるもののほか、互いに債権債務を有しない旨を確認する」条項(以下、「本件清算条項」という。)が含まれていた。
④ その後、XはAに対し、③の残債務44万円余りを弁済した。
⑤ その後、①の過払金の存在がが判明したため、X・Y間で過払金返還について係争となった。係争の中で、③の特定調停の合意が、過払金が存在するにもかかわらず債務分割弁済を内容とするため公序良俗に違反するか、本件清算条項の範囲等が争点となった。なお、XはB社に対しても過払金30万円余りの返還請求権等を有していたとのことであるが、この点については省略する。
【最高裁判所第三小法廷平成27年9月15日判決】
1 下記理由より、本件特定調停は、公序良俗に違反するものではない。
① 特定調停手続は、支払不能に陥るおそれのある債務者等の経済的再生に資するため、債務者が負っている金銭債務に係る利害関係の調整を促進することを目的とするものであり、特定債務者の有する金銭債権の有無やその内容を確定等することを当然には予定していない。
② 本件特定調停では、XA間の取引全体が対象ではなく、その一部が対象であることが明確であり、したがって、本件確認条項も本件清算条項もそれを前提としており、XのA社に対する過払金返還請求権は目的(対象)に含まれない。よって、XのA社に対する過払金返還請求権は消滅等しない。
③ 以上によれば、本件確認条項及び本件清算条項を含む本件調停は、全体として公序良俗に反するものということはできない。
2 【事案】④のXのA社に対する約44万円の弁済は有効である。
3 Y社に対し、平成14年4月1日までの取引によって発生した過払金約234万円及び過払金利息の支払いを命じた。
【コメント】
本判決の直接の射程は、特定調停、債務弁済調停、これらに代わる17条決定にとどまるものであり、裁判外の紛争解決一般に及ぶものではない(後記文献)。特に、弁護士が介入し、過払金の発生可能性を認識した上での裁判外の合意には本判決の射程が及ばないことは明らかである(後記文献)。これらの点については注意が必要である。和解又は調停条項で清算的合意をする際には、その前提を確認すると共に、清算的合意が及ばない事態を想定し明記しておくことが肝要である。
【参考・参照・引用文献】最高裁判所調査官高原知明・最高裁時の判例(ジュリスト1489号93頁)、判例タイムズ1418号96頁