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【抵当権の処分】
内田
1 抵当権の処分
① 転抵当
② 抵当権の譲渡・放棄
③ 抵当権の順位の譲渡・放棄
④ 抵当権の順位の変更
2 視点1
(1)抵当権者の投下資本流動化の要請に応えるもの
①
(2)抵当権設定者の資金調達促進の要請に応えるもの
②③④
3 視点2
(1)担保物権法の原則の枠内で説明可能なもの
④
(2)付従性の例外を認めるもの
被担保債権と切り離して、順位に応じた競売代金の分配の仕方を当事者間の特約で変更するもの
②③
抵当権 →(付従性)→ 被担保債権
明文を設けて(376条)、被担保債権と切り離して、抵当権の処分を認めた。
〇 民法374条(抵当権の順位の変更)
1項 抵当権の順位は、各抵当権者の合意によって変更することができる。
ただし、利害関係を有する者があるときは、その承諾を得なければならない。
2項 前項の規定による順位の変更は、その登記をしなければ、その効力を生じない。
1 順位の譲渡・放棄と違い、絶対的効力を有する。
2 利害関係人(本条1項ただし書)
例:被担保債権の差押債権者、転抵当権者
3 登記が効力発生要件である(本条2項)。
1 立法趣旨
利息・定期金 時の経過により増大
→ 後順位担保権者・一般債権者の利害に関係する。
→ 現に設定されている抵当権の担保枠を公示する。
+ 抵当物件の残余価値の利用を容易にする。
2 適用範囲
(1)後順位抵当権者・一般債権者
本条によって、被担保債権の範囲は制限される。
(2)債務者・設定者
本条によって、被担保債権の範囲は制限されない。
元本のほか、利息・定期金の全額を弁済しなければ、抵当権は消滅しない。
【転抵当】
1 意義
民法376条1項 「抵当権を他の債権の担保とし」
(抵当権者・債務者間)
G:抵当権者
S:債務者&原抵当権設定者
G→S:抵当権の被担保債権=甲債権
(転抵当権設定者・転抵当権者)
G:転抵当権設定者
A:転抵当権者
A→G:転抵当権の被担保債権=乙債権
2 設定契約
① G・A間 Sの同意は不要
② 甲債権の弁済期、乙債権の弁済期の先後関係を問わない。
③ 甲債権の金額<乙債権の金額 でも設定可能
3 対抗要件
(1)物権変動
登記 不動産登記法90条
対 他に転抵当権設定を受けた者、原抵当権の譲受人
(2)債務者等
Sが甲債権を弁済 → 抵当権消滅 → 転抵当権消滅
SはG・A間の転抵当権設定について関与せず、知らない。
→ 転抵当権保護する(民法377条2項)ために、
民法467条の規定に従い、
G→S 通知 S→G 承諾 (民法377条1項)
対 債務者、保証人、抵当権設定者、これらの者の承継人
4 転抵当権の効果
① 転抵当権の実行
甲債権の弁済期の到来
② 転抵当権者Aが優先弁済を受ける範囲
抵当権が把握する目的物の交換価値の範囲=甲債権の範囲
【抵当権の譲渡・放棄】
1 抵当権の譲渡
同一の債務者に対する他の債権者(一般債権者)の利益のために、優先弁済権を譲渡すること
2 抵当権の放棄
同一の債務者に対する他の債権者(一般債権者)の利益のために、優先弁済権を主張しないで、対等な地位に置くこと。
3 合意当事者以外には、配当額等において影響を及ぼさない。
4 物上保証の場合
「同一の債務者」を「同一の抵当権設定者」と読み替える。
【抵当権の順位の譲渡・放棄】
抵当権の放棄・譲渡: 受益者=一般債権者
抵当権の順位の譲渡・放棄:受益者=後順位抵当権者
〇 民法377条(抵当権の処分の対抗要件)
1項 前条の場合には、第四百六十七条の規定に従い、主たる債務者に抵当権の処分を通知し、又は主たる債務者がこれを承諾しなければ、これをもって主たる債務者、保証人、抵当権設定者及びこれらの者の承継人に対抗することができない。
2項 主たる債務者が前項の規定により通知を受け、又は承諾をしたときは、抵当権の処分の利益を受ける者の承諾を得ないでした弁済は、その受益者に対抗することができない。
〇 民法378条(代価弁済)
抵当不動産について所有権又は地上権を買い受けた第三者が、抵当権者の請求に応じてその抵当権者にその代価を弁済したときは、抵当権は、その第三者のために消滅する。
【第三取得者と抵当権の消滅】
1 はじめに
抵当権が設定された不動産(抵当不動産)が売買により譲渡された場合等、第三取得者が現れた場合において、抵当権を消滅させる方法について検討する。
2 方法
① 当事者・関係者の合意に基づくもの(第三者弁済)
(限界)被担保債権額>不動産の価格
抵当不動産の買受人は、被担保債権全額を第三者弁済しないと、抵当権は消滅しない(抵当権の不可分性)。
→ 合意に基づくものは、現実には利用できない。
② 民法の規定によるもの
ⅰ 代価弁済 民法378条
抵当権者がイニシャティブ
ⅱ 抵当権消滅請求 民法379条~386条
第三取得者がイニシャティブ
【代価弁済】
安永374頁
1 趣旨
① 抵当権者が自らの請求により代価を取得する場合、抵当権者はこれをもって満足したものと考える。
② 抵当権者と第三取得者との便宜のために、抵当権者が、債務者=所有者と第三取得者との間の売買契約に介入することを法が認めた。→ 第三取得者は、被担保債権を代位弁済したのではなく、自らの債務を弁済した。したがって、求償権は発生しない。
髙橋眞 担保物権法(2007年、成文堂)199~200頁
2 代価弁済の手続
① 抵当権者が代価の支払を請求したこと
② 代価は、所有権又は地上権の代価である。
3 代価弁済の効果
① 抵当権が、抵当権者・第三取得者間で消滅する。
抵当権者・債権者=A
売主・債務者・抵当権設定者=甲
買主・第三取得者=乙
② 地上権を取得した第三者が代価弁済した場合
甲との関係:抵当権は消滅しない。
乙との関係:抵当権は消滅する。→地上権は抵当権に対抗できる。
〇 民法379条(抵当権消滅請求)
抵当不動産の第三取得者は、第三百八十三条の定めるところにより、抵当権消滅請求をすることができる。
【抵当権消滅請求】
1 抵当権消滅制度
平成15年(2003年)法改正により導入された。
2 第三取得者のイニシャティブにより抵当権を消滅させる制度である点は、旧法下の滌除(てきじょ)と同じである。滌除では、第三取得者が著しく低額での申出をし、増加競売による買受けリスクや保証金の納付の負担のため、抵当権者がその低額の申出を受諾せざる得ない現実があった。
3 他方、被担保債権額が目的物件の時価を上回る場合に、被担保債権全額を弁済せずに(時価を支払うことにより)抵当権を消滅させる実益はなお認められる。このため、抵当権消滅制度を導入した。
主たる債務者=被担保債権の債務者、保証人及びこれらの者の承継人は、債務全部の支払義務を負っているため、抵当権消滅請求は認められない。
旧法下、譲渡担保権者は、確定的に所有権を取得していないため、滌除は認められなかった。この考え方と同じである。
1 抵当権消滅請求の時期
抵当権実行としての競売による差押えの効力が発生するまで。
2 滌除(旧法)
抵当権実行予告通知(※)から1か月以内
※ 通知は、執行妨害を招いていたことから、平成15年(2003年)改正により、廃止された。
〇 民法383条(抵当権消滅請求の手続)
抵当不動産の第三取得者は、抵当権消滅請求をするときは、登記をした各債権者に対し、次に掲げる書面を送付しなければならない。
一 取得の原因及び年月日、譲渡人及び取得者の氏名及び住所並びに抵当不動産の性質、所在及び代価その他取得者の負担を記載した書面
二 抵当不動産に関する登記事項証明書(現に効力を有する登記事項のすべてを証明したものに限る。)
三 債権者が二箇月以内に抵当権を実行して競売の申立てをしないときは、抵当不動産の第三取得者が第一号に規定する代価又は特に指定した金額を債権の順位に従って弁済し又は供託すべき旨を記載した書面
1 債権者に対する書面の送付
抵当権者、不動産先取特権者(民法341条[抵当権の規定の準用])、不動産質権者(民法361条[抵当権の規定の準用])
2 抵当権消滅請求の申出額は、代価にかかわらず、第三取得者が自由に決めることができる。
1一号 債権者の対抗手段としての抵当権実行である。被担保債権の不履行は要件ではない。
債務者等に対する通知について、民法385条。
2四号( )内の場合は、いずれも、抵当権者に帰責性がない場合であり、この場合において、みなし承諾は発生しない。
〇 民法387条(抵当権者の同意の登記がある場合の賃貸借の対抗力)
1項 登記をした賃貸借は、その登記前に登記をした抵当権を有するすべての者が同意をし、かつ、その同意の登記があるときは、その同意をした抵当権者に対抗することができる。
2項 抵当権者が前項の同意をするには、その抵当権を目的とする権利を有する者その他抵当権者の同意によって不利益を受けるべき者の承諾を得なければならない。
共同抵当
1 共同抵当の意義
債権者が同一の債権の担保として数個の不動産につき抵当権を有する場合
複数の物件に抵当権を設定することにより、物件の滅失や価格低下に備えて担保を万全にする機能、土地と建物双方につき抵当権の設定を受け、抵当権の実行を容易にする機能がある。
抵当権実行において後順位抵当権者及び一般債権者との調整が必要となる。
2 登記による公示
不動産登記法83条1項4号・2項(共同担保目録)
3 同時配当と異時配当
同時配当:複数の不動産が同時に、競売され代価が配当される場合
異時配当:ある不動産だけが、競売され代価が配当される場合
4 目的物の所有者が全て債務者所有の場合
【同時配当の場合】本条1項
(事例)抵当権者・債権者A → 抵当権設定者・債務者S
900万円
甲不動産(価格800万円)
A 1番抵当、2番抵当B(債権額500万円)
乙不動産(価格400万円)
A 1番抵当、2番抵当C(債権額300万円)
Aの債権額を、甲不動産の価格・乙不動産の価格に按分して(甲2:乙1)割り付ける。→甲600万円、乙300万円
甲不動産 配当 Aに600万円、Bに200万円 ※1
※1 Bの500万円のうち残300万円は無担保債権
乙不動産 配当 Aに300万円 Cに100万円 ※
※2 Cの300万円のうち残200万円は無担保債権
【異時配当の場合】本条2項
4(事例)で、甲不動産の競売が先、乙不動産の競売が後である場合。
甲不動産 配当 Aに800万円、B0円 ※1
乙不動産 配当 Aに100万円
Bに200万円 ※2
Cに100万円 ※3
※1 割付けは行わない。Aの利益優先
※2 同時配当が実施されていたならばAに配当された300万円からAに配当された100万円を控除した200万円を、BがAに代位する。後順位抵当権者Bの保護
Bの500万円のうち残300万円は無担保債権
※2 Cの300万円のうち残200万円は無担保債権
共同抵当権者のどの物件について抵当権を実行するかについて選択権を認めつつ、その選択という偶然により、後順位抵当権者及び一般債権者が不利益を被らないようにするため、異時配当においても、同時配当と同じ利益を後順位抵当権者及び一般債権者に付与する。
5 目的物の一部が債務者所有であり、一部が第三者所有(物上保証人)である場合
(事例)抵当権者・債権者A → 債務者S
900万円
甲不動産(価格800万円)=S所有
A 1番抵当、2番抵当B(債権額500万円)
乙不動産(価格400万円)=第三者Z(物上保証人)所有
A 1番抵当、2番抵当C(債権額300万円)
(視点)
①ZのSに対する求償権の保護>Bの保護
②Bは、そもそも、物上保証人所有の不動産に代位することはできない(最判昭和44年7月3日)。
→割付けはしない。
【同時配当】
Aは甲から800万円、乙から100万円配当を受ける。
【異時配当】
(一)甲の抵当権の実行が先行した場合
Aは甲から800万円の、後に乙の抵当権が実行された場合、100万円の配当を受ける。
(二)乙の抵当権の実行が先行した場合
Aは乙から400万円の、後に甲の抵当権が実行された場合、500万円の配当を受ける。
ZはAに代位して(求償権の取得について372条・351条、弁済者代位について501条)、300万円の配当を受けるようにみえる。しかし、Cの抵当権を設定した者がZであることを考えると、Cの保護>Zの保護となる。そうすると、Cはあたかも物上代位をするのと同様に、Zより優先する(最判昭和53年7月4日)。結果、Cが300万円の配当を受ける。
6 目的物の全てが第三者所有(物上保証人)である場合
(事例)抵当権者・債権者A → 債務者S
900万円
甲不動産(価格800万円)=第三者Z1(物上保証人)所有
A 1番抵当、2番抵当B(債権額500万円)
乙不動産(価格400万円)=第三者Z2(物上保証人)所有
A 1番抵当、2番抵当C(債権額300万円)
(視点)
① 弁済による代位
② 物上保証人間 各不動産の価格に応じて、債権者に代位する(民法501条3項4号ただし書)。
【同時配当】
1 平成15年(2003年)改正
抵当権設定後に設定を受けた対抗要件を具備した賃借権について、一定期間(山林:10年、その他の土地:5年、建物:3年)抵当権者・買受人に対抗できる制度である「短期賃貸借」は、所有者の権能と抵当権・買受人の権能とを調整し、賃借人保護する制度であり、理念としては正しいものがあった。
しかし、現実は、執行妨害目的で短期賃貸借がなされることが横行し抵当権の機能を害し、賃借人保護も十分機能しているとはいえなかった。
このため、標記改正により廃止された。
そして、標記改正により、短期賃貸借に代わり、競売において対抗要件主義により劣後し消滅る建物賃借権のうち所定の要件を満たすものについて、買受人による買受けの時から6箇月を経過するまで、その建物を買受人に引き渡すことを要しないことを旨とする「抵当建物使用者の引渡しの猶予」制度を導入した。
2 保護される要件
①+②、又は、①+③
① 抵当権者に対抗できない賃貸借により抵当権の目的物件である建物
② ①の建物を競売手続開始前から使用又は収益をする者
③ ①の建物を強制管理又は担保不動産収益執行の管理人が競売手続開始後にした賃貸借により使用又は収益をする者
3 もと所有者・賃借人間の賃貸借は終了し、もと賃借人の買受人に対する建物明け渡しが猶予されているだけである。もと賃借人は建物を占有する権原を有しないため、賃料相当額を不当利得として買受人に支払う。
抵当権侵害
第1 従来議論されていた抵当権侵害
第2 占有による抵当権侵害
1 抵当不動産に第三者が不法占拠しているため、競売手続において買受人が現れず、競売手続が機能しない場合がある。この場合、抵当権者が第三者に対し抵当不動産を抵当権者に明け渡すよう請求することができるか。
法律構成:抵当権に基づく妨害排除請求、被担保債権保全のためにする所有者の第三者に対する物件の返還請求権の代位行使
2 判例の変遷
(1)最判平成3年3月22日
(短期賃貸借が解除された事案)
(結論)否定
(理由)
① 抵当権は、抵当不動産を占有する権原を包含するものではなく、抵当権不動産の占有関係について干渉し得る余地はない。第三者が抵当権不動産を権原により占有し又は不法に占有しているというだけでは、抵当権が侵害されるわけではない。
② 賃借人等の占有それ自体が抵当不動産の担保価値を減少させるものでない。
(2)最大判平成11年11月24日
(結論)平成3年判例を変更し、肯定する。
(理由)
① 抵当権の性質
抵当権は、
ⅰ 競売手続において実現される抵当権不動産の交換価値から他の債権者に優先して被担保債権の弁済を受けることを内容とする物権である。
ⅱ 不動産の占有を抵当権者に移すことなく設定され、抵当権者は、原則として、抵当不動産の所有者が行う抵当不動産の使用又は収益について干渉することはできない。
② 抵当権侵害とは
第三者が抵当不動産を不法占有することにより、競売手続の進行が害され適正な価格よりも売却価格が下落するおそれがある等、抵当不動産の交換価値の実現が妨げられ、抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるとき。
③ 抵当不動産の所有者の義務
抵当不動産の所有者は、
ⅰ 抵当権侵害が生じないよう抵当不動産を適切に維持管理することが予定されている。
ⅱ 抵当権侵害の場合、抵当権者は抵当不動産の所有者に対し、侵害状態を是正し抵当不動産を適切に維持又は保存するよう求める請求権を有する。
④ 抵当権者の権利行使
ⅰ ③ⅱの請求権を保全するため、抵当権者は、抵当不動産所有者の第三者に対する妨害排除請求権を代位行使することができる。
ⅱ 抵当権に基づく妨害排除請求として、抵当権者が抵当権侵害の状態の排除を求めることも許される。
ⅲ 競売手続の進行が害されることによって抵当権者の優先弁済権の行使が困難になっている。→抵当権者は抵当不動産所有者のために抵当不動産を管理することを目的として、不法占有者に対し直接抵当権者に抵当不動産を明け渡すことを請求できる。
(3)最判平成17年3月10日
抵当不動産から賃借権の設定を受けている第三者、したがって、抵当不動産が第三者に対する妨害排除請求権が認められない事案において、抵当権に基づく妨害排除請求を認めた。
① 抵当不動産所有者から受けた占有権原の設定に抵当権の実行としての競売手続を妨害する目的が認められ、その占有により抵当権不動産の交換価値の実現が妨げられて抵当権の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるとき。→
抵当権者は、その占有者に対し、抵当権に基づく妨害排除請求として、その状態の排除を求めることができる。
② 抵当不動産所有者が抵当不動産を適切に維持管理することができない場合 → 抵当権者は、占有者に対し、直接自己への抵当不動産の明渡しを求めることができる。
【参考・参照文献】
以下の文献を参考・参照して、このページを作成しました。
□ 鎌田薫・松岡久和・松尾弘編、新基本法コンメンタール物権(令和元年、日本評論社)
□ 安永正昭 講義物権・担保物権法(第4版)(2021年、有斐閣)385頁
□ 近江幸治 民法講義Ⅲ担保物権(第3版)(2020年、成文堂)頁
□ 石田穣 担保物権法(2010年、信山社)431頁
□ 内田貴 民法Ⅲ 債権総論・担保物権第4版(2020年、東京大学出版会)546頁