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○ 民法964条(包括遺贈及び特定遺贈)(平成30年改正法)
遺言者は、包括又は特定の名義で、その財産の全部又は一部を処分することができる。
改正前民法964条(包括遺贈及び特定遺贈)
遺言者は、包括又は特定の名義で、その財産の全部又は一部を処分することができる。
ただし、遺留分に関する規定に違反することができない。
平成30年改正法は、遺留分について物権的効力を否定し金銭債権化したため、包括遺贈及び特定遺贈が遺留分に関する規定に違反することはなくなった。
このため、ただし書きを削除した。
第1 遺贈とは
民法964条は、「遺言者は、包括又は特定の名義で、その財産の全部又は一部を処分することができる。だたし、遺留分に関する規定に違反することができない。」と定める。
遺贈(いぞう)とは、遺言によって受遺者に対し財産を無償で譲渡することをいう。
法的性質は、遺言者の意思表示で、遺言者の死亡を期限とする単独行為である。
包括名義での遺贈を「包括遺贈」、特定名義での遺贈を「特定遺贈」という。
第2 包括遺贈
1 種類
(1)全部包括遺贈
受遺者1名に対し、相続財産の全部を遺贈するもの。
【遺言例】
遺言者は、遺産目録記載の預貯金及び不動産並びに遺言者が相続開始時に有する一切の財産を、遺言者の姉Aに包括して遺贈する。
(2)割合的包括遺贈
受遺者に対し、割合で示した一部を遺贈するもの。
相続人に対する割合的包括遺贈は、相続分の指定と同じ機能を営む。(文献①)
【遺言例】
遺言者は、遺言者が相続開始時に有する一切の財産を次の者に次の割合で包括して遺贈する。
遺言者の弟A 2分の1
遺言者の妹B 2分の1
2 対象となる財産は、積極財産・消極財産双方を含む。
3 包括受遺者は相続人と同一の権利義務を有する(民法990条)。
4 遺言は遺言者の死亡時に効力が生じ(民法985条1項)、遺言者の死亡時、当然に、遺贈の目的物の権利が移転する(物権的効力という)。
5 包括受遺者・相続人相互間、包括受遺者相互間
遺産共有の状態(民法898条・899条)
→ 遺産分割が必要となる。
6 遺贈の承認、放棄
相続に関する民法915条~民法940条が適用される。
→ 放棄するのであれば、自己のために包括遺贈があったことを知った時から3か月以内に手続をする必要がある。その期間内に手続をしないと、単純承認したものとみなされる。
第3 特定遺贈
1 特定物のみならず、不特定物も対象となる。相続財産に含まれない権利(民法996条ただし書)も含まれる。
2 遺言は遺言者の死亡時に効力が生じ(民法985条1項)、特定物を対象とした特定遺贈では、遺言者の死亡時、当然に、遺贈の目的物の権利が移転する(物権的効力いう)。
3 特定承継であり、受遺者は第三者に対する関係で対抗要件を備える必要がある。不動産の場合、受遺者が登記権利者、遺贈義務者が登記義務者として共同申請により遺贈を原因とする所有権移転登記手続をする。
4 遺贈の放棄
(1)受遺者は、遺言者の死亡後、いつでも、遺贈の放棄をすることができる(民法986条1項)。
(2)遺贈義務者その他の利害関係人は、受遺者に対し、相当の期間を定めて、その期間内に遺贈の承認又は放棄をすべき旨の催告をすることができる。
→ 催告期間内に、受遺者が意思表示しない場合
→ 遺贈を承認したとみなされる。
民法987条
第4 様々な遺贈
(1)補充遺贈
例えば、Aを甲に遺贈するが、Aが遺言者より先に死亡する又は遺贈を放棄したときは、乙に遺贈する。
甲も乙も受遺者となる。乙については、甲の死亡(民法994条)又は放棄(民法995条)を停止条件とする遺贈として、有効である。
(2)後継ぎ遺贈
例えば、次のような遺言である。Aを、甲に遺贈する。甲が死亡した後は、乙に遺贈する。
補充遺贈と後継ぎ遺贈との違い
補充:甲への遺贈は効力が生じない。
後継ぎ:甲への遺贈が効力を生じた後、条件成就又は期限到来によって、目的物が甲から乙へ移転する。
民法典には、後継ぎ遺贈を有効と認めた規定はなく、また、判例(最判昭和58年3月18日)も有効無効いずれとも判断していない。
個々の遺言の解釈の問題に委ねられるが、
① 甲に対し、乙に対する目的物の所有権移転義務を負わせた負担付き遺贈
② 甲死亡時に甲が目的物の所有権を有しているときは、その時点で目的物の所有権が乙に移転する趣旨の遺贈
③ 甲は目的物の使用収益権を付与されたに過ぎず、甲の死亡を不確定期限とする乙への遺贈
上記最判は、①②③の可能性があることを指摘した上、原審に差し戻した。
文例等について、満田忠彦・小圷眞史編 遺言モデル文例と実務解説(2015年、青林書院)p100~を参照して下さい。
(3)負担付き遺贈
民法典は、受遺者に一定の行為をさせる負担付き遺贈が有効であることを前提とし、それに関する条項を整備している。
→ 民法1027条
〇 民法986条(遺贈の放棄)
1項 受遺者は、遺言者の死亡後、いつでも、遺贈の放棄をすることができる。
2項 遺贈の放棄は、遺言者の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。
〇 民法990条(包括受遺者の権利義務)
包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有する。
〇 第922条(受遺者による果実の取得)
受遺者は、遺贈の履行を請求することができる時から果実を取得する。
ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
1 1項の場合 相続と異なり、代襲相続はない。
1 本条の趣旨
遺贈が無効である場合又は放棄によって効力を失った場合に、遺贈の目的物は相続人に帰属する旨規定したものである。
2 適用範囲
包括遺贈と特定遺贈双方に適用される。
3 争点
(1)包括受遺者1人が放棄した場合、目的物は相続人に帰属する。
(2)複数の包括受遺者のうち、その一部の者が放棄した場合、目的物は残りの受遺者に帰属するか、それとも、相続人に帰属するのか。「相続人」に包括受遺者が含まれるか。
最(二)判令和5年5月19日(法学教室516号110頁[栗田昌裕解説])
「相続人」に包括受遺者は含まれない。
① 包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有する(民法990条)ものの、相続人ではない。
② 民法995条本文は、放棄した包括受遺者が受けるべきであったものが、「相続人」と「その包括受遺者以外の包括受遺者」とのいずれに帰属するか問題となる場面において、「相続人」に帰属する旨定めた規定である。
〇 民法977条
1項 相続財産に属しない権利を目的とする遺贈が前条ただし書の規定により有効であるときは、遺贈義務者は、その権利を取得して受遺者に移転する義務を負う。
2項 前項の場合において、同項に規定する権利を取得することができないとき、又はこれを取得するについて過分の費用を要するときは、遺贈義務者は、その価額を弁償しなければならない。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
旧998条1項(不特定物の遺贈義務者の担保責任)
1項 不特定物を遺贈の目的した場合において、受遺者がこれにつき第三者から追奪を受けたときは、遺贈義務者は、これに対して、売主と同じく、担保の責任を負う。
2項 不特定物を遺贈の目的した場合において、物に瑕疵があったときは、遺贈義務者は、瑕疵のない物をもってこれに代えなければならない。
〇 民法999条(遺贈の物上代位)
1項 遺言者が、遺贈の目的物の滅失若しくは変造又はその占有の喪失によって第三者に対して償金を請求する権利を有するときは、その権利を遺贈の目的としたものと推定する。
2項 遺贈の目的物が、他の物と付合し、又は混和した場合において、遺言者が第二百四十三条から第二百四十五条までの規定により合成物又は混和物の単独所有者又は共有者となったときは、その全部の所有権又は持分を遺贈の目的としたものと推定する。
〇 民法1000条
(第三者の権利の目的である財産の遺贈)
【削除】
旧1000条(第三者の権利の目的である財産の遺贈)
遺贈の目的である物又は権利が遺言者の死亡の時において第三者の権利の目的であるときは、受遺者は、遺贈義務者に対しその権利を消滅させるべき旨を請求することができない。
ただし、遺言者がその遺言に反対の意思を表示したときは、この限りでない。
〇 民法1002条(負担付遺贈)
1項 負担付遺贈を受けた者は、遺贈の目的の価額を超えない度においてのみ、負担した義務を履行する責任を負う。
2項 受遺者が遺贈の放棄をしたときは、負担の利益を受けるべき者は、自ら受遺者となることができる。
ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
〇 民法1003条(負担付遺贈の受遺者の免責)
負担付遺贈の目的の価額が相続の限定承認又は遺留分回復の訴えによって減少したときは、受遺者は、その減少の割合に応じて、その負担した義務を免れる。
ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
【参考・参照文献】
① 窪田充見・家族法(第4版)(2019年、有斐閣)478頁
② 松原正明 全訂 判例先例相続法(日本加除出版)
Ⅳ巻(平成22年)p375~
Ⅴ巻(平成24年)p1~