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1 遺言による遺産分割方法の指定
① 遺産分割の方式を指定する(本来的)
法定相続分はそのまま + 相続財産をどのように配分するかについての方法(現物分割、換価分割、代償分割)を指定
潮見【CASE353】
② 遺産に属する特定の財産の処分先となる相続人を指定したもの
潮見【CASE354】
令和3年改正法は、②について「特定財産承継遺言」の略称を使用した。
③ 遺産分割方法の指定があっても、共同相続人の協議によって指定と異なる分割することはできる。
潮見【CASE355】
2 相続させる遺言
従来より、遺言者が財産を相続人に承継させる場合、遺贈ではなく、相続させる遺言が用いられてきた。これは、登録免許税の負担を軽減する趣旨からである。
例えば、土地甲を相続人○に相続させるが如きである。公正証書の実務では、このように、【A】特定の財産を特定の相続人に相続させる旨の遺言だけではなく、【B】全ての財産又は財産の一定割合を特定の相続人に相続させる旨の遺言も作成されるようになった。
潮見355頁~360頁、潮見【CASE356】
1 視点
「遺産分割方法の指定」VS「特定遺贈」
「遺産分割の方法」
① 財産の承継 相続(包括承継)
② 登記手続
登記権利者(相続人)による単独申請
「特定遺贈」
① 財産の承継 意思表示による物権変動
② 登記手続
ⅰ 令和3年民法・不動産登記法改正前
登記権利者(受遺者)と登記義務者(遺贈義務者)の共同申請
ⅱ 令和3年民法・不動産登記法改正
相続人に対する所有権の遺贈 「遺贈」を原因とする所有権移転登記は、登記権利者(相続人)による単独申請で行うことができる。不登法63条
2 遺産分割方法の指定
【A】の遺言の法的意味について、最高裁判所は、最判平成3年4月19日(香川判決)において、次のとおり判示した。https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=52445
① 遺言書の記載から、その趣旨が遺贈であることが明らかであるか又は遺贈と解すべき特段の事情がない限り、遺贈と解すべきではなく、遺産分割の方法を定めた遺言であると解する。
② 遺産分割手続を要することなく、当然に、特定の遺産についての所有権が特定の相続人に移転する。
3 遺産分割方法の指定+相続分の指定
最高裁判所は、【B】の遺言について、最判平成21年3月24日において、全部包括遺贈ではなく、遺産分割方法の指定であり、相続分の指定が含まれているとした。https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=37455
潮見【CASE357】
特定財産(1014条2項)の価格が遺産総額に対する当該相続人の法定相続分を超える場合、相続分の指定を含む遺産分割方法の指定を解する(最判平成14年6月10日)。
① 当該相続人について遺言により相続分の指定がされ
② 遺言に示された特定承継財産で当該指定相続分を満たすよう分割方法の指定がされている
と解する。
最(二小)判平成14年6月1日
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/433/062433_hanrei.pdf
① 相続させる趣旨の遺言による権利移転は、法定相続分又は指定相続分の相続と異ならない。 ② 法定相続分又は指定相続分の相続による不動産の権利の取得は、登記なしに第三者に対抗できる。
問題点:この結論では、相続させる趣旨の遺言により権利を取得した相続人において対抗要件を具備するインセンティブを持つことができない。→ 「実体的な権利」と「公示」の不一致が増える。 → 不動産登記制度等に対する信頼が害される。
改正前の判例が対抗要件主義を採用していた「遺産分割」により取得した「法定相続分を超える部分」以外に、
「相続を原因とする権利変動(特定財産承継遺言、相続分の指定を含む。)」により取得した「法定相続分を超える部分」について、対抗要件を具備しなければ、その取得を第三者に主張することができないとした。→ 民法899条の2
(共同相続における権利の承継の対抗要件)
○ 第899条の2 1項 相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第九百一条の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。
2項 前項の権利が債権である場合において、次条及び第九百一条の規定により算定した相続分を超えて当該債権を承継した共同相続人が当該債権に係る遺言の内容(遺産の分割により当該債権を承継した場合にあっては、当該債権に係る遺産の分割の内容)を明らかにして債務者にその承継の通知をしたときは、共同相続人の全員が債務者に通知をしたものとみなして、同項の規定を適用する。
<個別検討>
(1)特定財産承継遺言と第三者対抗問題
① 第三者=他の共同相続人に対する差押え債権者
片岡・管野①195頁 【設例11-1】
② 第三者=他の共同相続人から持分を買い受けた者
<時系列>
ⅰ 被相続人A(相続人:妻W、子B、子C)の遺言「甲地をWに相続させる」
ⅱ 相続開始
ⅲ B 法定相続分による相続を原因とする共有登記
ⅳ B 1/2の持分をDに譲渡
→ Wは、①の遺言によるA→Wの所有権移転を所有権移転登記なしにDに対抗できるか?
片岡・管野①196頁 【設例11-3】 受益相続人が第三者に対し「法定相続分を超える」権利の取得を対抗するためには、取得した権利の全体について登記等の対抗要件を備える必要がある。
① 趣旨
特定財産承継遺言により「法定相続分を超える」債権の承継がされた場合における対抗要件具備の方法
ⅰ 民法467条の方法
a or b
a 譲渡人に相当する共同相続人全員の債務者に対する通知
b 債務者の承諾
ⅱ 当該債権を承継する相続人(受益相続人)の債務者に対する通知(民法899条の2・2項)(文献①設例11-4)
ⅰaの方法は、現実的に困難であるため、ⅱの方法による対抗要件具備が認められた。
② 「遺言の内容を明らかにした」と認められる場合
ⅰ 債務者に遺言書の原本を提示する。
ⅱ 遺言書の写しを提出する場合
公正証書遺言書の正本・謄本
自筆証書遺言書(原本)の写し
検認調書の謄本に添付された遺言書の写し
など
【参考・参照文献】
このページは、以下の文献を参考・参照して作成しました。
□ 片岡武・管野眞一著 改正相続法と家庭裁判所の実務(2019年、日本加除出版 )189頁 略称:片岡・管野①
□ 東京家庭裁判所家事第5部編著・東京家庭裁判所家事第5部(遺産分割部)における相続法改正を踏まえた新たな実務運用(2019年、日本加除出版)頁
□ 潮見佳男 詳解相続法第2版(2022年、弘文堂)354頁 略称:潮見