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民事再生法 第10章 住宅資金貸付債権に関する特則
1 住宅ローンが付いている自宅土地建物(マンションを含む)は、債務者が破産手続を選択すれば、破産管財人による任意売却又は担保不動産競売により、債務者は自宅を失ってしまう。
個人再生手続であっても、再生計画案が裁判所より認可され、この点においては成功に終わっても、住宅ローンも債権カットされてしまうと、住宅ローンに係る債権者は住宅に設定されている担保権(抵当権、根抵当権)を実行するため、債務者・所有者は結局、自宅を失ってしまう。
民事再生法は、主に、個人再生手続を想定して、住宅ローンを他の債権とは特別扱いして、(従前どおり)支払い自宅を維持しながら、民事再生手続を遂行する方法を認めた。
1 住宅資金特別条項を定める要件(文献①94頁)
① 住宅(本条1号)
ⅰ 住宅資金貸付債権を担保する目的となっている建物が「住宅」に当たること。
工場用建物 ×
収益物件(賃貸アパート) ×
ⅱ 店舗兼住宅等
床面積の1/2以上が専ら自己の住居の用に供されるもの
ⅲ
ⅳ 現実に自己の居住用に供していることまでは要件ではなく、供する建物であれば足りる。
② 住宅の敷地(本条2号)
所有権又は地上権
③ 住宅資金貸付債権(本条3号)に当たること。
ⅰ 住宅の建設若しくは購入に必要な資金(住宅の用に供する土地又は借地権の取得に必要な資金を含む。)又は住宅の改良に必要な資金の貸付けに係る分割払の定めのある再生債権
であって、
④ 下記に該当しないこと(文献①94頁)
ⅰ 再生債権が住宅資金貸付債権を有する者に法定代位した再生債権者(保証会社を除く。)が当該代位により取得したものである場合 198条1項本文かっこ書
(理由)この場合、住宅資金貸付債権について住宅資金特別条項により弁済期限の繰延べを認めると、保証人等の利益を不当に害するおそれがあるため。
ⅱ 住宅に、住宅資金貸付債権を担保するための抵当権(根抵当権も含まれるが、被担保債権に住宅資金貸付債権以外の債権が含まれていない場合に限られる。)以外に53条1項に規定する担保権が存するとき 198条1項ただし書
(理由)当該担保権は、別除権として再生手続外で実行することができ(53条2項)、この場合、債務者は、住宅を失ってしまい、住宅資金特別条項を定める意味がないため。
ⅲ 住宅以外の不動産にも住宅資金貸付債権を担保するための抵当権が設定されている場合において、当該不動産に後順位の法53条1項に規定する担保権が存する場合 198条1項ただし書
(理由)当該後順位担保権者の利益(392条2項)を保護するため。
2 金融機関との事前協議
文献①103頁、188頁
〇 民事再生法198条(住宅資金特別条項を定めることができる場合等)
1項 住宅資金貸付債権(民法第四百九十九条の規定により住宅資金貸付債権を有する者に代位した再生債権者(弁済をするについて正当な利益を有していた者に限る。)が当該代位により有するものを除く。)については、再生計画において、住宅資金特別条項を定めることができる。
ただし、住宅の上に第五十三条第一項に規定する担保権(第百九十六条第三号に規定する抵当権を除く。)が存するとき、又は住宅以外の不動産にも同号に規定する抵当権が設定されている場合において当該不動産の上に同項に規定する担保権で当該抵当権に後れるものが存するときは、この限りでない。
2項 保証会社が住宅資金貸付債権に係る保証債務を履行した場合において、当該保証債務の全部を履行した日から六月を経過する日までの間に再生手続開始の申立てがされたときは、第二百四条第一項本文の規定により住宅資金貸付債権を有することとなる者の権利について、住宅資金特別条項を定めることができる。この場合においては、前項ただし書の規定を準用する。
3項 第一項に規定する住宅資金貸付債権を有する再生債権者又は第二百四条第一項本文の規定により住宅資金貸付債権を有することとなる者が数人あるときは、その全員を対象として住宅資金特別条項を定めなければならない。
3項 (例)住宅金融支援機構(旧住宅金融公庫)と銀行が住宅資金貸付債権を有する場合
〇 民事再生法199条(住宅資金特別条項の内容)
1項 住宅資金特別条項においては、次項又は第三項に規定する場合を除き、次の各号に掲げる債権について、それぞれ当該各号に定める内容を定める。
一 再生計画認可の決定の確定時までに弁済期が到来する住宅資金貸付債権の元本(再生債務者が期限の利益を喪失しなかったとすれば弁済期が到来しないものを除く。)及びこれに対する再生計画認可の決定の確定後の住宅約定利息(住宅資金貸付契約において定められた約定利率による利息をいう。以下この条において同じ。)並びに再生計画認可の決定の確定時までに生ずる住宅資金貸付債権の利息及び不履行による損害賠償 その全額を、再生計画(住宅資金特別条項を除く。)で定める弁済期間(当該期間が五年を超える場合にあっては、再生計画認可の決定の確定から五年。第三項において「一般弁済期間」という。)内に支払うこと。
二 再生計画認可の決定の確定時までに弁済期が到来しない住宅資金貸付債権の元本(再生債務者が期限の利益を喪失しなかったとすれば弁済期が到来しないものを含む。)及びこれに対する再生計画認可の決定の確定後の住宅約定利息 住宅資金貸付契約における債務の不履行がない場合についての弁済の時期及び額に関する約定に従って支払うこと。
2項 前項の規定による住宅資金特別条項を定めた再生計画の認可の見込みがない場合には、住宅資金特別条項において、住宅資金貸付債権に係る債務の弁済期を住宅資金貸付契約において定められた最終の弁済期(以下この項及び第四項において「約定最終弁済期」という。)から後の日に定めることができる。この場合における権利の変更の内容は、次に掲げる要件のすべてを具備するものでなければならない。
一 次に掲げる債権について、その全額を支払うものであること。
イ 住宅資金貸付債権の元本及びこれに対する再生計画認可の決定の確定後の住宅約定利息
ロ 再生計画認可の決定の確定時までに生ずる住宅資金貸付債権の利息及び不履行による損害賠償
二 住宅資金特別条項による変更後の最終の弁済期が約定最終弁済期から十年を超えず、かつ、住宅資金特別条項による変更後の最終の弁済期における再生債務者の年齢が七十歳を超えないものであること。
三 第一号イに掲げる債権については、一定の基準により住宅資金貸付契約における弁済期と弁済期との間隔及び各弁済期における弁済額が定められている場合には、当該基準におおむね沿うものであること。
3項 前項の規定による住宅資金特別条項を定めた再生計画の認可の見込みがない場合には、一般弁済期間の範囲内で定める期間(以下この項において「元本猶予期間」という。)中は、住宅資金貸付債権の元本の一部及び住宅資金貸付債権の元本に対する元本猶予期間中の住宅約定利息のみを支払うものとすることができる。この場合における権利の変更の内容は、次に掲げる要件のすべてを具備するものでなければならない。
一 前項第一号及び第二号に掲げる要件があること。
二 前項第一号イに掲げる債権についての元本猶予期間を経過した後の弁済期及び弁済額の定めについては、一定の基準により住宅資金貸付契約における弁済期と弁済期との間隔及び各弁済期における弁済額が定められている場合には、当該基準におおむね沿うものであること。
4項 住宅資金特別条項によって権利の変更を受ける者の同意がある場合には、前三項の規定にかかわらず、約定最終弁済期から十年を超えて住宅資金貸付債権に係る債務の期限を猶予することその他前三項に規定する変更以外の変更をすることを内容とする住宅資金特別条項を定めることができる。
5項 住宅資金特別条項によって権利の変更を受ける者と他の再生債権者との間については第百五十五条第一項の規定を、住宅資金特別条項については同条第三項の規定を、住宅資金特別条項によって権利の変更を受ける者については第百六十条及び第百六十五条第二項の規定を適用しない。
1 住宅資金特別条項の内容(文献①98頁)
① 期限の利益喪失型 199条1項
従前の約定どおり支払う型であり、これが原則型である。そのまま型、正常型ともいわれる。
現実の申立てでは、住宅ローンについては遅滞なく支払っている例が多い(文献①103頁)。
② 弁済期間延長(リスケジュール)型 199条2項
期限の利益喪失型では対応できない場合、
期限の利益の回復 + 弁済期間の延長 ※
※ 約定最終弁済期から10年以内で、変更後最終弁済期における債務者の年齢が70歳を超えない。
③ 元本猶予期間併用型 199条3項
弁済期間延長型で対応できない場合場合
期限の利益の回復 + 弁済期間の延長 ※
+ 弁済期間のうち一部(元本猶予期間)
元本の一部及び利息のみを支払う。
元本猶予期間後
残元本、利息・損害金を支払う。
※ ②と同じ要件
④ 同意型
①②③には当てはまらない。
債権者の同意を得られれば、元本・利息の減免、
民事再生法所定の要件を満たさない弁済猶予期間の設定等
2 住宅資金貸付債権者(住宅ローン債権者)との事前協議
申立て段階で、事前協議の経過及び予定している住宅資金特別条項の内容等を裁判所に報告する。
3 手続開始決定後、住宅ローンにつき期限の利益を喪失しないようにするため、裁判所の許可(民事再生法197条3項)を得たうえ住宅ローンの支払いを継続することとなる。
4 裁判所に提出する疎明資料(文献①188頁)
① 住宅ローンの金銭消費貸借契約書
② 住宅ローンの償還表
③ 住宅の不動産登記事項証明書
1
1 認可要件
【A】住宅資金特別条項を定めた再生計画案
再生計画が遂行可能であると認めることができること(積極的要件)民事再生法202条2項2号(小)、241条2項1号(給)
【B】住宅資金特別条項の定めがない再生計画案
「再生計画が遂行される見込みがないとき」に当たらないこと(消極的要件)民事再生法174条2項2号(小)、241条2項1号(給)
【A】が【B】よりも、認可の基準が厳しいといえる。
この点に関して、住宅資金貸付債権者が裁判所に対し履行可能性について否定的な意見を提出した場合は、裁判所が不認可決定をする場合もあり得る。
1 再生計画は別除権に影響を与えない(民事再生法177条2項)の例外に当たる。
2
○ 民事再生法204条(保証会社が保証債務を履行した場合の取扱い)
1項 住宅資金特別条項を定めた再生計画の認可の決定が確定した場合において、保証会社が住宅資金貸付債権に係る保証債務を履行していたときは、当該保証債務の履行は、なかったものとみなす。
ただし、保証会社が当該保証債務を履行したことにより取得した権利に基づき再生債権者としてした行為に影響を及ぼさない。
2項 前項本文の場合において、当該認可の決定の確定前に再生債務者が保証会社に対して同項の保証債務に係る求償権についての弁済をしていたときは、再生債務者は、同項本文の規定により住宅資金貸付債権を有することとなった者に対して、当該弁済をした額につき当該住宅資金貸付債権についての弁済をすることを要しない。
この場合において、保証会社は、当該弁済を受けた額を同項本文の規定により住宅資金貸付債権を有することとなった者に対して交付しなければならない。
1 保証会社の代位弁済後の巻戻しについて規定したものである。
2 保証会社の代位弁済がされた時から6か月以内に個人再生の申立てがされないと、住宅資金特別条項を定めた再生計画案を提出することはできない(民事再生法198条2項)。
【参考・参照文献】
下記文献を参考・参照して作成しました。
① 大阪地方裁判所・大阪弁護士会個人再生手続運用研究会 改正法対応 事例解説 個人再生 ~大阪再生物語~ (平成18年、新日本法規)
② 川畑正文ほか編 はい6民です お答えします 倒産実務Q&A p574~ (2018年、大阪弁護士会協同組合)