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657条~666条
経過措置
施行日前に締結された寄託契約は、その契約及び契約に付随する特約については、従前の例による(改正前の法が適用される)。附則34条1項
〇 民法657条(寄託)(平成29年改正)
寄託は、当事者の一方(寄託者)がある物を保管することを相手方(受寄者)に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。
旧657条(寄託)
寄託は、当事者の一方(受寄者)が相手方(寄託者)のために保管をすることを約してある物を受け取ることによって、その効力を生ずる。
1 諾成契約化
改正前民法 寄託契約=要物契約 ← ローマ法以来の沿革
BUT
① 要物契約とする合理的理由なし
② 実務では、諾成的寄託契約が広く利用されている。
③ 契約自由の原則
→ 諾成契約とした。
2 寄託契約の範囲
物の保管を超えて、仕事や事務が観念される場合は、寄託というより、請負や準委任に当たる(文献③)。
〇 民法657条の2(寄託物受取り前の寄託者による寄託の解除等)(平成29年改正により新設)
1項 寄託者は、受寄者が寄託物を受け取るまで、契約の解除をすることができる。
この場合において、受寄者は、その契約の解除によって損害を受けたときは、寄託者に対し、その賠償を請求することができる。
2項 無報酬の受寄者は、寄託物を受け取るまで、契約の解除をすることができる。
ただし、書面による寄託については、この限りでない。
3項 受寄者(無報酬で寄託を受けた場合にあっては、書面による寄託の受寄者に限る。)は、寄託物を受け取るべき期間を経過したにもかかわらず、寄託者が寄託物を引き渡さない場合において、相当の期間を定めてその引渡しの催告をし、その期間内に引渡しがないときは、契約の解除をすることができる。
1 1項前段
諾成契約であるとしても、寄託者は受寄者に対し寄託物の引渡義務を負うわけではない。
→ 寄託者が契約締結後、寄託を望まなくなった場合には、契約を解消するほかない。
但し、寄託者の受寄者に対する損害賠償義務(1項後段)
「損害」に、保管期間を前提とした履行利益の賠償まで含まれるか争いが残る。
2 2項
無償寄託=好意的契約
→ 契約の拘束力 有償寄託>無償寄託
解除は無条件で行うことができ、たとえ解除が寄託者に不利な時期に行われた場合であっても、受託者は寄託者に損害賠義務を負わない。文献③
3 3項
(1)対象
有償寄託 + 書面による無償寄託
(2)シーン
引渡(受取)時期を経過したが、寄託者が受寄者に対し、①
寄託物を引き渡さず、② 1項の解除権を行使しない。
しかるに、
受寄者は、2項の解除権を有しない。
→ 受寄者がいつまでも契約に拘束される。
→ 受寄者に催告をした上での解除権を認めた。
〇 民法658条(寄託物の使用及び第三者による保管)(平成29年改正により新設)
1項 受寄者は、寄託者の承諾を得なければ、寄託物を使用することができない。
2項 受寄者は、寄託者の承諾を得たとき、又はやむを得ない事由があるときでなければ、寄託物を第三者に保管させることができない。
3項 再受寄者は、寄託者に対して、その権限の範囲内において、受寄者と同一の権利を有し、義務を負う。
旧658条(寄託物の使用及び第三者による保管)
1項 受寄者は、寄託者の承諾を得なければ、寄託物を使用し、又は第三者にこれを保管させることができない。
2項 第105条及び第107条2項の規定は、受寄者が第三者に寄託物を保管させることができる場合について準用する。
1 再寄託
受任者による自己執務義務の例外が認められる。
改正前
① 寄託者の承諾 のみ
BUT
・ 再寄託の必要性及び実務
・ 委任契約における復委任との整合性整合性
改正法
① 寄託者の承諾 のほか
② やむを得ない事由
2 適法に再寄託された場合における受寄者の責任
改正前
旧105条準用
→ 再受寄者の選任・監督についての責任
改正法
再寄託が認められる場面が増加した。
→ 受寄者の責任を限定しない方向
→ ① 旧105条準用を削除
② 再受寄者=受寄者と同一の権利義務
〇 民法659条(受任者の報告)
無報酬の受寄者は、自己の財産に対するのと同一の注意をもって、寄託物を保管する義務を負う。
〇 民法660条(受寄者の通知義務等)(平成29年改正)
1項 寄託物について権利を主張する第三者が受寄者に対して訴えを提起し、又は差押え、仮差押え若しくは仮処分をしたときは、受寄者は、遅滞なくその事実を寄託者に通知しなければならない。
ただし、寄託者が既にこれを知っているときは、この限りでない。
2項 第三者が寄託物について権利を主張する場合であっても、受寄者は、寄託者の指図がない限り、寄託者に対しその寄託物を返還しなければならない。
ただし、受寄者が前項の通知をした場合又は同項ただし書の規定によりその通知を要しない場合において、その寄託物をその第三者に引き渡すべき旨を命ずる確定判決(確定判決と同一の効力を有するものを含む。)があったときであって、その第三者にその寄託物を引き渡したときは、この限りでない。
3項 受寄者は、前項の規定により寄託者に対して寄託物を返還しなければならない場合には、寄託者にその寄託物を引き渡したことによって第三者に損害が生じたときであっても、その賠償の責任を負わない。
旧660条(受寄者の通知義務)
寄託物について権利を主張する第三者が受寄者に対して訴えを提起し、又は差押え、仮差押え若しくは仮処分をしたときは、受寄者は、遅滞なくその事実を寄託者に通知しなければならない。
ただし、寄託者が既にこれを知っているときは、この限りでない。
1 本条の趣旨は、寄託物について受寄者に権利主張する第三者が現れた場合において、寄託者に防御の機会を与えるため、受寄者をして、寄託者を第三者に引き渡してはならないことを前提として、寄託者に対する通知義務を課すものである。この点において、改正前後で変化はない。改正法は、次のとおり規定を整備した。
2 受寄者の寄託者に対する通知義務の免除 1項ただし書
3 受寄者の寄託者に対する寄託物の返還義務及びその例外 2項
4 受寄者の第三者に対する免責 3項
〇 民法661条(寄託者による損害賠償)
寄託者は、寄託物の性質又は瑕疵によって生じた損害を受寄者に賠償しなければならない。
ただし、寄託者が過失なくその性質若しくは瑕疵を知らなかったとき、又は受寄者がこれを知っていたときは、この限りでない。
〇 民法662条(寄託者による返還請求等)(平成29年改正)
1項 当事者が寄託物の返還の時期を定めたときであっても、寄託者は、いつでもその返還を請求することができる。
2項 前項に規定する場合において、受寄者は、寄託者がその時期の前に返還を請求したことによって損害を受けたときは、寄託者に対し、その賠償を請求することができる。
旧662条(寄託者による返還請求)
当事者が寄託物の返還の時期を定めたときであっても、寄託者は、いつでもその返還を請求することができる。
1 1項
改正法は、寄託者はたとえ返還時期を定めときであっても、受寄者に対する寄託物の返還請求を認める旧法を維持するものである。
2 2項(新設)
改正法は、寄託者は、期限前の寄託物返還により発生する受寄者の損害を賠償する義務を負うものとした。
〇 民法663条(寄託物の返還の時期)
1項 当事者が寄託物の返還の時期を定めなかったときは、受寄者は、いつでもその返還をすることができる。
2項 返還の時期の定めがあるときは、受寄者は、やむを得ない事由がなければ、その期限前に返還をすることができない。
〇 民法664条(寄託物の返還の場所)
寄託物の返還は、その保管をすべき場所でしなければならない。
ただし、受寄者が正当な事由によってその物を保管する場所を変更したときは、その現在の場所で返還することができる。
〇 民法664条の2(損害賠償及び費用の償還の請求権についての期間の制限)(平成29年改正により新設)
1項 寄託物の一部滅失又は損傷によって生じた損害の賠償及び受任者が支出した費用の償還は、寄託者が返還を受けた時から1年以内に請求しなければならない。
2項 前項の損害賠償の請求権については、寄託者が返還を受けた時から1年を経過するまでの間は、時効は、完成しない。
1 短期の期間制限
① 寄託者 → 受寄者 損害賠償請求権(一部滅失・損傷)
② 受寄者 → 寄託者 費用償還請求権
使用貸借・賃貸借における損害賠償請求権・費用償還請求権
(旧600条・621条)と同様に早期処理が望ましい。
旧法は、この点に関して規定を設けていなかったが、改正法は、上記使用貸借・賃貸借における規律と同様の規定を新設した。
全部滅失の場合、そもそも返還が不能となっており、早期処理の要請が当てはまらないことから除外された。
2 寄託者 → 受寄者 損害賠償請求権(一部滅失・損傷)
について消滅時効の完成猶予
寄託期間中に10年間の消滅時効が完成してしまう可能性があることを考慮して、一部滅失・損傷の発生を知らない寄託者の損害賠償請求権を保護する。
〇 民法665条(委任の規定の準用)(平成29年改正)
第646条から第648条まで(受任者の委任者に対する権利義務)、第649条(受任者の委任者に対する費用前払請求権)並びに第650条第1項及び第2項の規定(受任者の委任者に対する)は、寄託について準用する。
旧665条(委任の規定の準用)
第646条から第650条まで(同条第3項を除く。)の規定は、寄託について準用する。
〇 民法665条の2(混合寄託)(平成29年改正により新設)
1項 複数の者が寄託した物の種類及び品質が同一である場合には、受任者は、各寄託者の承諾を得たときに限り、これらを混合して保管することができる。
2項 前項の規定に基づき受寄者が複数の寄託者からの寄託物を混合して保管したときは、寄託者は、その寄託した物と同じ数量の物の返還を請求することができる。
3項 前項に規定する場合において、寄託物の一部が滅失したときは、寄託者は、混合して保管されている総寄託物に対するその寄託した物の割合に応じた数量の物の返還を請求することができる。
この場合においては、損害賠償の請求を妨げない。
1 改正法は、倉庫営業等で実務で利用されている混合(蔵)寄託に関する規定を新設した。
① 通常の寄託との違い
受寄者は寄託者に対し、寄託物と同一の物を返還する義務を負わない。
② 消費寄託との違い
受寄者が寄託物の処分権を有しない。
2 混合寄託物の一部滅失における寄託者の受寄者に対する返還請求権(3項)
(例)寄託者甲が数量70、寄託者乙が数量30、総量100
総量30が滅失し、残総量70
甲→受寄者 70×70/100=49
乙→受寄者 70×21/100=21
〇 民法666条(消費寄託)(平成29年改正)
1項 受寄者が契約により寄託物を消費することができる場合には、受寄者は、寄託された物と種類、品質及び数量の同じ物をもって返還しなければならない。
2項 第590条(消費貸借-貸主の引渡義務等)及び第592条(消費貸借-返還不能時における価格の償還)の規定は、前項に規定する場合について準用する。
3項 第591条第2項(消費貸借-返還の時期の定めの有無にかかわらず、借主はいつでも返還可)及び第3項(消費貸借-期限前返還の場合における、貸主の借主に対する損害賠償請求権)の規定は、預金又は貯金に係る契約により金銭を寄託した場合について準用する。
旧666条(消費寄託)
1項 第5節(消費貸借)の規定は、受寄者が契約により寄託物を消費することができる場合について準用する。
2項 前項において準用する第591条第1項の規定にかかわらず、前項の契約に返還の時期を定めなかったときは、寄託者はいつでも返還を請求することができる。
1 消費寄託について、旧法は、原則として、消費貸借の規定を準用していた。しかし、消費貸借(借主が利用する意味で借主に利益がある契約)と消費寄託(寄託者が保管のリスクを回避するという意味で寄託者に利益がある契約)の性質の違いから、準用はふさわしいとはいえなった。
そこで、改正法は、原則として、消費寄託には寄託の規定を適用することにした。
2 例外的に、消費貸借の規定を準用する場合 本条2項
消費寄託は、消費貸借と、寄託物・目的物の処分権が移転する点で共通することが前提にある。
3 返還時期の定めがある消費寄託(定期預金契約等)
旧法:受寄者は期限の利益を放棄していつでも返還可
新法:期限前返還には「やむを得ない事由」(663条2項)
上記改正にもかかわらず、預貯金契約において銀行が満期前の定期預貯金債務を受働債権とする相殺について従前どおり可能であることにするため、受寄者は返還時期の定めの有無にかかわらず、いつでも寄託物を寄託者に返還できるものとした(3項)。
【参考・参照文献】
このページは、下記文献を参考・参照して作成しました。
① 第一東京弁護士会司法制度調査委員会編・新旧対照でわかる改正債権法の逐条解説(平成29年、新日本法規)347頁
② 日本弁護士連合会編・実務解説改正債権法(第2版)(2020年、弘文堂)506頁
③ 吉永一行・ケースで考える債権法改正第21回寄託ー諾成契約化と寄託物引渡し前の解除権、混合寄託 法学教室483号87頁