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〇 民法533条(同時履行の抗弁)(平成29年改正)
双務契約の当事者の一方(A)は、相手方(B)がその債務の履行(債務の履行に代わる損害賠償の債務の履行を含む。)を提供するまでは、自己(A)の債務の履行を拒むことができる。ただし、相手方(B)の債務が弁済期にないときは、この限りでない。
※ 平成29年改正で、( )内を追加された。
経過規定(附則30条2項)
施行日前に締結された契約に関する同時履行の抗弁については、旧法が適用される。
1 意義
(1)双務契約の牽連性
① 成立上の牽連性
② 履行上の牽連性
③ 存続上の牽連性
同時履行の抗弁権は、②にかかわる。双務契約において、相互に対価的関係にある債務は、同時に履行されるべきという公平の観念に基礎を置くものである(文献③43~44頁)。抗弁権として機能する。
(2)留置権(民法295条)との異同
(3)同時履行の抗弁権の要件
① 双方当事者(A、B)間に、双務契約から発生した対価的債務が存在すること
② 双方の債務が弁済期にあること
③ 相手方(B)が自己(B)の債務の履行を提供しないで(Aに)履行請求したこと
(4)同時履行の抗弁権の拡大(準用、類推適用)
① 解除における原状回復義務
民法546条、終身定期金契約(民法692条)
② 契約の無効・取消しにより発生する原状回復義務(民法121条の2・1項)
<論点>詐欺・強迫による取消しの場合、詐欺・強迫をした者は同時履行の抗弁権を有するか?
③ 負担付贈与における負担義務と贈与物の移転義務
民法553条
④ 弁済と受取証書の交付 民法486条
⑤ 弁済と担保物件(動産)の返還
⑥ 仮登記担保法における「債権者の清算金支払義務」と「債務者の不動産所有権移転登記・引渡義務」(仮登記担保法3条2項)。
⑦ 建物買取請求権(借地借家法13条)行使における、地主の代金支払債務と借地人の敷地明渡債務(判例)
⑧ 造作買取請求権(借地借家法23条)行使における、
「借家人の造作引渡債務」と「家主の造作代金支払債務」○
「借家人の家屋引渡債務」と「家主の造作代金支払債務」×
危険負担総論
1 危険負担の意義(文献③56頁)
双務契約(例:売主A・買主B間の特定物売買契約)において、一方当事者Aの債務(目的物の所有権・占有権移転債務)がAの帰責事由なしに履行不能となった場合、他方当事者Bの債務(売買代金支払債務、反対債務)の取扱いに関する問題である。
ここでいう「危険」とは、Aの債務がAの帰責事由によらずに(帰責事由がある場合→2)履行不能となり、Bが履行を請求できなくなることをいう。
2 債務不履行との関係
Aの債務の履行不能がAの帰責事由による場合は、Aの債務不履行となる。この場合、Bの債務の効力に影響を及ぼさない。
3 危険負担についての二つの考え方
① 債務者主義
危険を債務者Aが負担するので、「債務者主義」という。
双方債務の対価的牽連性を重視し、存続上の牽連関係を認める立場 → 反対債務Bの債務も消滅する。
② 債権者主義
危険を債権者Bが負担するので、「債権者主義」という。
「利益の帰するところ損失も帰する」の考え → 反対債務Bの債務は消滅しない。
1項 当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者(甲、(例1)買主、(例2)使用者)は、反対給付((例1)代金支払義務、(例2)賃金支払義務)の履行を拒むことができる。
2項 債権者(甲、(例1)買主、(例2)使用者)の責めに帰すべき事由によって債務((例1)目的物引渡し義務、(例2)労働義務)を履行することができなくなったときは、債権者(甲、(例1)買主、(例2)使用者)は、反対給付((例1)代金支払義務、(例2)賃金支払義務)の履行を拒むことはできない。
この場合において、債務者(甲、(例1)売主、(例2)労働者)は、自己の債務((例1)目的物引渡し義務、(例2)労働義務)を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者(甲、(例1)買主、(例2)使用者)に償還しなければならない。
(注1)改正前民法534条・535条は削除される。
(注2)分かり易さの便宜のため、次のとおり法文を補った。
債権者=甲、債務者=乙
(例1)売買契約
売主の買主に対する目的物を引き渡す義務が履行不能となった場合
債権者:買主、債務者:売主
反対給付:買主の売主に対する代金支払義務
(例2)労働契約
労働者の使用者に対する労働義務が履行不能となった場合
債権者:使用者、債務者:労働者
反対給付:使用者の労働者に対する賃金支払義務
旧534条(債権者の危険負担)
1項 特定物に関する物権の設定又は移転を双務契約の目的とした場合において、その物が債務者の責めに帰することができない事由によって滅失し、又は損傷したときは、その滅失又は損傷は、債権者の負担に帰する。
2項 不特定物に関する契約については、第401条第2項の規定によりその物が確定した時から、前項の規定を適用する。
平成29年改正により削除/新567条
旧535条(停止条件付双務契約における危険負担)
1項 前条の規定は、停止条件付双務契約の目的物が条件の成否が未定である場合に滅失した場合には、適用しない。
2項 停止条件付双務契約の目的物が債務者の責めに帰することができない事由によって損傷したときは、その損傷は債権者の負担に帰する。
3項 停止条件付双務契約の目的物が債務者の責めに帰すべき事由によって損傷した場合において、条件が成就したときは、債権者は、その選択に従い、契約の履行の請求又は解除権の行使することができる。
この場合においては、損害賠償の請求を妨げない。
旧536条(債務者の危険負担等)
1項 前二条に規定する場合を除き、当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を有しない。
2項 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を失わない。
この場合において、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。
1 改正前(旧法)
(1)534条 特定物に関する物権の設定・移転を目的とする双務契約において目的物が滅失・損傷した場合に関する危険負担=債権者主義
← 当事者間の公平に反するとの批判が強かった。
(2)535条 停止条件付き双務契約において条件成就が未定である時点で目的物が、
滅失した場合に関する危険負担=債務者主義(1項)
損傷した場合に関する危険負担=債権者主義(2項)
← 滅失と損傷とを区別する合理性に乏しい。
(3)536条1項
① 当事者双方の帰責事由によらず債務の履行不能に関する危険負担=債務者主義
② 債権者の反対給付債務((例1)買主の代金支払債務)は当然消滅する。
2 改正法
(1)改正前534条・535条は削除
(2)改正前536条1項
改正法によって、当事者双方の帰責事由によらずに履行不能となった場合であっても、債権者は契約を解除できるようになった(改正法541条等)。
→ 解除制度と危険負担制度との重複を調整する必要が生じた。反対給付債務が当然消滅するのであれば、解除の意味がない。逆も然り。
→ 危険負担制度の廃止も考えられたが(解除一元化案)、解除には、解除の意思表示を債務者に到達させる必要があること等の事情から、危険負担の仕組みを債務者に反対給付債務の履行拒絶権の付与と構成し直すことにより、危険負担制度と解除制度を併存させた。※
※ 内田貴 改正民法のはなし(令和2年、一般財団法人民事法務協会)74頁~81頁
解除一元化案は、実務界から強い反対を受け、実現されなかった。
危険負担を残す意義としては、① 債務者(売主)が行方不明になって債権者(買主)が解除できない場合、② 債権者(買主)が複数いるが、全員の意思が一致しないため、解除権が行使できない場合(民法544条)→この場合で、債務者(売主)が代金支払請求に及んだ場合、危険負担制度(債務者主義)がないと、債権者(買主)は代金支払義務を免れることができないという不都合がある。
3 経過規定(附則30条1項)
施行日前に締結された契約に関する危険負担については、旧法が適用される。
【参考・参照文献】
① 第一東京弁護士会司法制度調査委員会編・新旧対照でわかる改正債権法の逐条解説(平成29年、新日本法規)
② 日本弁護士連合会編・実務解説改正債権法(第2版)(2020年、弘文堂)141頁
〇 民法537条(第三者のためにする契約)(平成29年改正)
1項 契約により当事者の一方が第三者に対してある給付をすることを約したときは、その第三者は、債務者に対して直接にその給付を請求する権利を有する。
2項 前項の契約は、その成立の時に第三者が現に存しない場合又は第三者が特定していない場合であっても、そのためにその効力を妨げられない。
3項 第一項の場合において、第三者の権利は、その第三者が債務者に対して同項の契約の利益を享受する意思を表示した時に発生する。
〇 旧537条(第三者のためにする契約)
1項 契約により当事者の一方が第三者に対してある給付をすることを約したときは、その第三者は、債務者に対して直接にその給付を請求する権利を有する。
2項 前項の場合において、第三者の権利は、その第三者が債務者に対して同項の契約の利益を享受する意思を表示した時に発生する。
1 第三者のためにする契約について、契約締結時、① 受益者が現存している必要はないこと、② 受益者が特定している必要はないこと、という判例の見解を明文化した(2項新設)。
2 経過規定(附則30条2項)
施行日前に締結された第三者のためにする契約については、旧法が適用される。
〇 民法538条(第三者の権利の確定)
1項 前条の規定により第三者の権利が発生した後は、当事者は、これを変更し、又は消滅させることができない。
2 前条の規定により第三者の権利が発生した後に、債務者がその第三者に対する債務を履行しない場合には、同条第一項の契約の相手方は、その第三者の承諾を得なければ、契約を解除することができない。
旧538条(第三者の権利の確定)
前条の規定により第三者の権利が発生した後は、当事者は、これを変更し、又は消滅させることができない。
1 平成29年改正
売主(A)=債務者=諾約者、買主(B)=要約者
受益者(C)=第三者(受益の意思表示) → 売主
目的物引渡請求権
諾約者Aが債務不履行した場合(Aが目的物をCに引き渡さない)、要約者Bが契約を解除するには、受益者Cの承諾を要する。
受益者の権利を保護するため、契約解除について受益者の承諾を必要とした。
〇 民法539条(債務者の抗弁)
債務者は、第五百三十七条第一項の契約に基づく抗弁をもって、その契約の利益を受ける第三者に対抗することができる。
〇 民法539条の2
契約の当事者の一方が第三者との間で契約上の地位を譲渡する旨の合意をした場合において、その契約の相手方がその譲渡を承諾したときは、契約上の地位は、その第三者に移転する。
〇 民法540条(解除権の行使)
1項 契約又は法律の規定により当事者の一方が解除権を有するときは、その解除は、相手方に対する意思表示によってする。
2項 前項の意思表示は、撤回することができない。
〇 民法541条(催告による解除)
当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。
ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。
旧541条(催告による解除)
当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。
1 新法は、ただし書を追加し、軽微な不履行の場合解除権が発生しないと定めが、これは、旧法下の判例法理を踏まえたものである。
軽微な場合とは、例えば、不履行の部分が数量的に僅かである場合や付随的な債務の不履行の場合である。その不履行により、契約目的の達成が不可能といえない場合であっても、契約目的の達成に重大な影響を与える場合は、軽微とはいえない。
2 債務者の帰責事由の要否
(1)旧法
履行不能解除 債務者の帰責事由要 旧543条ただし書
履行遅滞解除 債務者の帰責事由要 解釈
(2)新法
① 契約解除制度は、当事者を契約に拘束させることが不当な場合、契約の拘束力から離脱させることを目的とする。
② 債務者の帰責事由を必要とすることは、契約解除制度を債務者に対する制裁と考える見解であり、①の見解からはとりえない。
③ 旧法下の裁判実務では、債務者の帰責事由は解除の成否の判断に重要な機能を果たしていないという認識
→ 無催告解除、催告解除いずれの場合も、債務者の帰責事由 不要
3 経過措置
施行日前に締結された契約の解除については、旧法が適用される。(附則32条)
旧542条(定期行為の履行遅滞による解除権)
契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、当事者の一方が履行をしないでその時期を経過したときは、相手方は、前条の催告をすることなく、直ちにその契約をすることができる。
旧543条(定期行為の履行遅滞による解除権)
履行の全部又は一部が不能となったときは、債権者は、契約の解除をすることができる。
ただし、その債務の不履行が債権者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
1 旧法
催告が無意味な下記2つの場合に、無催告解除を定めていた。
① 定期行為の履行遅滞 旧542条
② 履行不能 旧543条
2 新法
(1)1①②を一つの条文にまとめ、更に、無催告解除となる場合を定めた。
【本条1項】
1号 履行全部不能
2号 債務全部の履行を拒絶する意思を明確に表示
3号 履行一部不能 → 契約全部解除
履行一部拒絶意思明確表示 → 契約全部解除
4号 定期行為 履行遅滞
5号 1号~4号のほか、催告しても契約目的達成に足りる
履行される見込みがないことが明白
【本条2項】
1号 履行一部不能 → 契約一部解除
2号 履行一部拒絶意思明確表示 → 契約一部解除
(2)債務者の帰責事由は不要である。
(3)本条1項3号には、担保責任による解除も含まれる。売買目的物の契約内容不適合で修補不能で契約目的達成できない場合における契約全部の無催告解除ができる。
〇 民法543条
(債権者の責めに帰すべき事由による場合)
債務の不履行が債権者の責めに帰すべき事由によるものであるときは、債権者は、前二条の規定による契約の解除をすることができない。
〇 民法544条(解除権の不可分性)
1項 当事者の一方が数人ある場合には、契約の解除は、その全員から又はその全員に対してのみ、することができる。
2項 前項の場合において、解除権が当事者のうちの一人について消滅したときは、他の者についても消滅する。
〇 民法547条(催告による解除権の消滅)
解除権の行使について期間の定めがないときは、相手方は、解除権を有する者に対し、相当の期間を定めて、その期間内に解除をするかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。この場合において、その期間内に解除の通知を受けないときは、解除権は、消滅する。
【参考・参照文献】
このページは、下記文献を参考・参照して作成しました。
① 第一東京弁護士会司法制度調査委員会編・新旧対照でわかる改正債権法の逐条解説(平成29年、新日本法規)242頁
② 日本弁護士連合会編・実務解説改正債権法(第2版)(2020年、弘文堂)契約の解除:125頁~
③ 近江幸治 民法講義Ⅴ契約法(第4版)(2022年、成文堂)42頁