【注力分野】相続(相続調査、相続放棄)、遺産分割(協議、調停・審判)、債務整理、自己破産、個人再生、法律相談
大阪府寝屋川市にある相続と借金の問題に力を入れている法律事務所です。
受付時間 | 10:00~18:00 |
---|
休業日 | 土曜日、日曜日、祝日 |
---|
民事執行法
第二章 強制執行
第三節 金銭の支払を目的としない請求権についての強制執行
(168条~179条)
不動産引渡しの強制執行の意義と手続
1 意義
民事執行法第二章強制執行、第三節金銭の支払いを目的としない請求権についての強制執行 において定められている不不動産の引渡しの強制執行(168条~168条の2)は、執行官による、不動産の占有移転を執行方法とする手続である。
2 手続の流れ
強制執行の申立て
→ 事前準備
→ 催告手続
→ 断行,目的外動産の処理
3 用語
(1)引渡し
目的物の直接支配を債権者に移転させること。
(2)明渡し
引渡しの一態様であり、目的物が不動産であり債務者が居住し物品を置いて占有しているときは、中の物品を取り除き、居住者を退去させて、債務者に完全な支配を移転すること。
申立て、事前準備、明渡しの催告
第1 事前準備
1 執行官の債権者に対する協力要請
執行官は、不動産等の引渡し又は明渡しの強制執行の申立てをした債権者に対し、明けしの催告の実施又は強制執行の開始の前後を問わず、債務者の占有の状況、引渡し又は明渡しの実現に見込み等についての情報の提供その他の手続の円滑な進行のために必要な協力を求めることができる。民事執行規則154条の2・5項
2 警察官に対する援助申請
執行官は、職務の執行に際し抵抗を受けるときは、その抵抗を排除するために、威力を用い、又は警察上の援助を求めることができる。・・・ 民事執行法6条本文
3 官公庁に対する援助申請
民事執行のため必要がある場合には、執行裁判所又は執行官は、官庁又は公署に対し、援助を求めることができる。民事執行法18条1項
(例)債務者が高齢者で身寄りがない場合に市役所等に対して福祉の対応を要請する。
第2 明渡しの催告
1 民事執行法168条の2
2 催告の要否と実情
催告は、強制執行開始の要件ではないが、強制執行は債務者に与える影響が大きいこと、催告が債務者に与える心理的効果により任意の明渡しがなされる可能性があること等から、原則として、催告はなされている。
3 引渡し期限(2項)
明渡しの催告に基づき承継執行文の付与を要することなく、期限内に債務者から不動産等の占有の移転を受けた占有者(特定承継の場合)に対して不動産の引渡し等の強制執行をすることができる期限、明渡しの催告の効果として当事者恒定力が働く期限をいう。
目的外動産の処理
第1 目的外動産の債務者等に対する引渡し
1 法文
〇 民事執行法168条5項前段
執行官は、第1項の強制執行においては、その目的物でない動産を取り除いて、
債務者、その代理人又は同居の親族若しくは使用人その他の従業員で相当のわきまえにあるものに引き渡さなければならない。
2 執行官による保管の基準(文献①p418)
① 客観的に換価価値が認められる動産
② 債務者やその家族にとって価値のある動産
(例)アルバム
③ 法律や規則により保存期間や廃棄方法等が定められている動産 (例)商業帳簿、遺骨
3 目的外動産の廃棄(文献①p418)
執行官は、
① 執行官が保管を選択しなかった動産
② 断行時に在宅していた債務者が廃棄を選択した動産
を廃棄処分する。
第2 目的外動産の処理
1 法文
〇 民事執行法168条
5項後段 ・・・この場合において、その動産をこれらの者に引き渡すことができないときは、執行官は、最高裁判所規則で定めるところにより、これを売却することができる。
6項 執行官は、前項の動産のうちに同項の規定による引渡し又は売却をしなかったものがあるときは、これを保管しなければならない。
この場合においては、前項後段の規定を準用する。
7項 前項の規定による保管の費用は、執行費用とする。
8項 第5項(第6項後段において準用する場合を含む。)の規定により動産を売却したときは、執行官は、その売得金から売却及び保管に要した費用を控除し、その残余を供託しなければならない。
〇 民事執行規則第154条の2(強制執行の目的物でない動産の売却の手続等)
3 明渡しの催告を実施したうえ断行実施予定日の売却【即時売却】
(文献①p334、422、文献⑤p704)
(1)法文
民事執行規則154条の2第2項
断行日に残置された目的外動産を、一定期間の保管を要しないで即時に売却することができれば、不動産の引渡し等の強制執行の迅速な処理を図ることができる。
執行官が、目的外動産の引取りを促し、明渡しの催告について公示するので(民執法168条の2第3項)、断行実施予定日に即時に目的外動産を売却したとしても、債務者等の利益を害することにはならない。文献⑤p704
(2)執行官が、明渡しの催告を実施したとき、目的外動産が断行実施予定日に売却できるか否かを判断し、売却できると認めた場合(動産類の数が限られている等)に、
断行実施予定日に売却する旨の決定をして、断行日に売却する方法である。
(3)公告等
催告後、断行実施予定日までに、債務者等が目的外動産を引き取る可能性がある。→催告日には、売却すべき動産を特定できない。
① 動産執行の如き、売却すべき動産を表示(民事執行規則115条)する必要はない。
② 催告日に、断行日に引渡しのできない動産を売却する旨を公告する。
4 目的外動産を保管しても債務者等に引き渡すことができる見込みがない場合の売却【即日売却/近接時売却】(文献①p334、442、文献⑤p705)
(1)法文
民事執行規則154条の2第3項
(2)即日売却
断行日に売却
公告不要
(理由)目的外動産の売却は、不動産の引渡し等の強制執行に付随する事後処理に過ぎないから、可及的に高価で売却する要請が動産執行ほど高くはない。また、公告後1,2時間で売却する場合に公告をしても、公告の機能を果たすとはいえない。文献⑤p706
(3)近接日売却
断行日から1週間未満の日に売却
競り売りの公告が必要
(2)(3)ともに、明渡しの催告時にあった大量の動産の多くが断行日までに搬出した場合に実施されている。
(2)は、買受希望者が断行の実施場所におり、目的外動産を直ちに搬出される場合に実施されている。(3)は、目的外動産を一定期間保管する必要まで認められないが、買受申出人が断行の実施場所にいない場合に実施されている。
また、高額な動産には適用されない(民事執行規則154条の2第4項)。
5 動産執行の例による売却(文献①p335、427)
民事執行規則154条の2・1項、114条
3・4の方法により売却ができない場合
目的外動産がほとんど残っている場合に実施されている。6 目的外動産の売却手続は、債務者の所有である動産が対象となるのは当然であるが、第三者の所有である動産も対象となる。(文献④765頁)
東京地決昭和37年3月2日(判例タイムズ128号136頁、旧法に関する裁判例)を引用する。
第3 補足
1 和解条項中に、明け渡すべき建物内の動産について、その所有権を債権者に移転する旨の条項(合意)がある場合における執行官の対応(文献④759頁)
① 債権者から当該動産の引渡執行の申立てがある場合
債権者に引き渡す。
② ①の申立てがない場合
たとえ条項に当該記載があっても債務者に引き渡す。
2 裁判上の和解又は調停において、債務者が建物明渡しの場合に、「その目的建物内にある動産の所有権を放棄する」旨を合意した条項かある場合における執行官の対応(文献④761頁)
① 債務者に対し、債務者の生活に必要な家財道具、衣類等は引き渡す。
② ①以外の動産は、債権者にその処理を委ねる。
【参考・参照文献】
このページは、下記文献を参考・参照して作成しました。
① 大阪地裁執行実務研究会(代表小佐田潔)編、不動産明渡・引渡事件の実務(平成21年、新日本法規)
② 執行官実務研究会(代表古島正彦)編・執行官実務の手引(平成17年、民事法研究会)
③ 近藤崇晴・大橋寛明・上田正俊編 民事執行の基礎と
応用(補訂増補版)(平成12年、青林書院)p83~目的外動産の処理
④ 深沢利一著園部補訂 民事執行の実務(下)(平成17年、新日本法規)724頁
⑤ 最高裁判所事務総局編 条解民事執行規則(第4版)下(令和2年、法曹会)