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損害賠償請求権の消滅時効

民法第3編 債権
第5章 不法行為

○ 民法724条(不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)(平成29年改正)

 不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。

一 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないとき。【主観的起算点】

二 不法行為の時から20年間行使しないとき。【客観的起算点】

 ○ 旧724条(不法行為による損害賠償請求権の期間の制限)

 不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないときは、時効によって消滅する。

 不法行為の時から20年を経過したときも、同様とする。

○ 民法724条の2(人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)(平成29年改正)

 人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第一号の規定の適用については、同号中「3年間」とあるのは、「5年間」とする。 

1 総論

 短期消滅時効が設けられた趣旨

 判例(最判昭和49年12月17日)

 不法行為に基づく法律関係が、通常、未知の当事者間に、予期しない偶然の事故に基づいて発生するものであるため、加害者は、損害賠償の請求を受けるかどうか、いかなる範囲まで賠償義務を負うか等が不明である結果、極めて不安定な立場におかれる。

→ 被害者において損害及び加害者を知りながら相当の期間内に権利行使に出ないときには、損害賠償請求権が時効にかかるものとして加害者を保護する。

判例(最判平成14年1月29日)

2 「損害及び加害者を知った時」

判例(最判平成14年1月29日、大判大正9年3月10日)

① 被害者において、加害者に対する賠償請求が事実上可能な状況のもとに、その可能な程度にこれらを知った時を意味する。

② 損害を知ったというためには、損害の発生を現実に認識しなければならないが、その程度又は数額を知ることは必要ない。

※ 最高裁昭和48年11月16日判決

(事案)

第二次世界大戦中、スパイ容疑で警察官から拷問を受けたXが、戦後、その警察官の住所氏名を調査のうえ確定し、慰謝料の支払いを訴求したが、訴え提起時には拷問から20年近く経っていた。

(裁判所の判断)

① 「加害者を知った時」(起算点)とは、加害者に対する賠償請求が事実上可能な状況のもとに、その可能な程度にこれを知った時を意味する。

② 被害者が不法行為の当時加害者の住所氏名を的確に知らず、しかも当時の状況においてこれに対する賠償請求権を行使することが事実上不可能な場合においては、その状況が止み、被害者が加害者の住所氏名を確認したとき、初めて、「加害者を知りたる時」に当たる。

→ 時効完成を否定

(評価等)

・ リーディングケースである。

・ 判決の事案は特殊であり一般化することはできない。一般的には、被害者が加害者の住所氏名まで知らない場合でも、調査すれば容易に知ることができた時を起算点とする考える見解が多い。(前田118頁)

 

(2)直接の加害者以外の者が賠償責任を負う監督義務者の責任(民法714条)・使用者責任(民法715条)

 加害者を知る=賠償義務者を知る(平野487頁)

→ 使用者責任では、・ 使用者 ・ 使用者と不法行為者との間の使用関係 ・ 一般人が当該不法行為が使用者の事業の執行につきなされたものであると判断するに足りる事実をも認識することを要する(最高裁昭和44年11月27日判決)。

 

各 論

 

(1)継続的不法行為

 例えば、不法占拠では、不法占拠開始時に全損害が発生するのではなく、日々損害が発生すると考える(個別進行説、漸次進行説、逐次進行説等と呼称される)。

→ 被害者が事実を知った時から3年以上前の損害は消滅時効にかかることになる。

 損害の発生が定量的でない継続的不法行為は、日々損害が発生すると考えるよりも、個別に検討し、例えば、累積的に発生し蓄積した損害を一体として評価し、不法行為終了時から起算する考え方もある。

① 不法占拠の事案

 大審院昭和15年12月14日判決

 最初の不法行為から起算する考え方(全部進行説・一体的起算説、旧判例)は、最初の不法行為から3年を経過した後も継続し損害が発生している場合、損害発生が継続しているにもかかわらず消滅時効により請求できないとの結論は容認し得ないとし、個別進行説に変更した。

② 妻の、夫との同棲を継続した女性に対する損害賠償請求の事案

 最高裁平成6年1月20日判決

 原審は、同棲関係(不法行為)が終了した時から消滅時効が進行するとしたのに対し、個別進行説をとることを明言した。理由は、同棲関係から被る妻の精神的苦痛は、同棲行為の始めから終わりまでを一体のものとして把握する必然性はないこと、妻は同棲関係を知った時から慰謝料の支払いを請求できることである。

 なお、文献②486頁は、最終的に婚姻を破綻させたことに対する慰謝料は、不貞行為に対する慰謝料と別に請求できるので、3年より以前の分の慰謝料請求権が消滅時効にかかると考えても、慰謝料の額は大きく変わらないとする。

(2)交通事故

① 最高裁和48年4月5日判決

 同一の交通事故により生じた同一の身体障害を理由とする

a 財産上の損害(治療費等)

b 精神上の損害(慰謝料)

 aとbは、原因事実及び被侵害利益を共通にする。

→ 賠償請求権は1個

② 最高裁令和3年11月2日判決

(船所寛生・ジュリスト1575号123頁[最高裁時の判例])

c 人的損害の賠償請求権

d 物的損害の賠償請求権

 cとdは、被侵害利益を異にする。

→ cの請求権とdの請求権は異なる請求権

→ 請求権の短期消滅時効の起算点も、請求権毎に各別に判断されるべき。

→ 被害者に、同一の交通事故により、身体傷害を理由とする損害が生じた場合であっても、車両損傷については、被害者が、加害者に加え、車両損傷を理由とする損害を知った時から進行する。

 

 原審は被害者の症状固定時を起算日としたが、これは誤りであるとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(3)最高裁昭和48年11月16日判決

(事案)

第二次世界大戦中、スパイ容疑で警察官から拷問を受けたXが、戦後、その警察官の住所氏名を調査のうえ確定し、慰謝料の支払いを訴求したが、訴え提起時には拷問から20年近く経っていた。

(裁判所の判断)

① 「加害者を知った時」(起算点)とは、加害者に対する賠償請求が事実上可能な状況のもとに、その可能な程度にこれを知った時を意味する。

② 被害者が不法行為の当時加害者の住所氏名を的確に知らず、しかも当時の状況においてこれに対する賠償請求権を行使することが事実上不可能な場合においては、その状況が止み、被害者が加害者の住所氏名を確認したとき、初めて、「加害者を知りたる時」に当たる。

→ 時効完成を否定

(評価等)

・ リーディングケースである。

・ 判決の事案は特殊であり一般化することはできない。一般的には、被害者が加害者の住所氏名まで知らない場合でも、調査すれば容易に知ることができた時を起算点とする考える見解が多い。(前田118頁)

 

(4)直接の加害者以外の者が賠償責任を負う監督義務者の責任(民法714条)・使用者責任(民法715条)

 加害者を知る=賠償義務者を知る(平野487頁)

→ 使用者責任では、・ 使用者 ・ 使用者と不法行為者との間の使用関係 ・ 一般人が当該不法行為が使用者の事業の執行につきなされたものであると判断するに足りる事実をも認識することを要する(最高裁昭和44年11月27日判決)。

 

 

 

民法724条後段の解釈

(1)判例(最高裁平成元年12月21日判決[不発焼夷弾の処理の際、焼夷弾が爆発し、油脂を顔面を含む身体に浴びて負傷した者が、事故日から約29年経過後に、国家賠償法1条に基づき損害賠償請求訴訟を提起した事案])は、時効ではなく、被害者の認識の如何を問わず、一定の時の経過によって法律関係を確定させるため請求権の存続期間を画一的に定める趣旨とし、除斥期間であると解した。

(2)「不法行為の時」の意義について、加害行為時とする見解もあるが、公害等加害行為から損害発生までに長時間が経過する事案もあるので、不法行為の成立要件を満たした時或いは損害が発生した時と解すべきである。

2 平成29年改正民法724条2号

(1)除斥期間ではなく、時効である旨明記した。

(2)被害者の加害者に対する権利行使が困難である事情がある場合においても、不法行為時から20年を経過してしまうと権利行使できないとの結論をとると、著しく正義・公平に反する場合があり、このような場合、最高裁も個別的に例外を認める(※1、※2)が、時効とすることより、被害者救済と加害者の免責への期待とのバランスを図った。※3

 

※1 予防接種禍事件

 集団予防接種後、後遺症を負った被害者が22年後に訴え提起した事案

 最高裁平成10年6月12日判決は、平成元年最高裁判決を前提としつつも、本件について、20年経過により被害者が救済されないのは、著しく正義・公平の理念に反するとし、不法行為の被害者が不法行為の時から20年を経過する前6箇月内において同不法行為を原因として心神喪失の常況にあるのに法定代理人を有しなかった場合において、その後当該被害者が禁治産宣告を受け、後見人に就職した者がその時から6箇月内に同損害賠償請求権を行使した等の特段の事情があるときは、民法158条の法意に照らし、同法724条後段の効果は生じない。

※2 床下事件

 被害者を殺害したうえ遺体を自宅の床下に隠していた加害者が26年後の自首して事件が発覚した。その後、遺族が加害者に対し損害賠償請求訴訟を提起した事案。

 最高裁平成21年4月28日判決は、平成元年最高裁判決を前提としつつも、被害者を殺害した加害者が、被害者の相続人において被害者の死亡の事実を知り得ない状況を殊更に作出し、そのために相続人はその事実を知ることができず、相続人が確定しないまま除斥期間が経過した場合にも、相続人は一切の権利行使をすることが許されず、相続人が確定しないことの原因を作った加害者は損害賠償義務を免れるということは、著しく正義・公平の理念に反するとし、相続人が確定した時から6か月内に相続人が殺害に係る不法行為に基づく損害賠償請求権を行使した等特段の事情があるときは、民法160条の法意に照らし、同法724条後段の効果は生じない。

※3 判例が除斥期間の効果を制限しているのは、極めて限定された二つの場合(※1,※2)だけである(前田陽一・債権各論Ⅱ不法行為法(第2版)121(平成22年・弘文堂)。

 そこで、事案により信義則により民法724条後段の効果発生を制限するか、時効説へ転換する(平成元年最高裁判決は、時効説に変更される運命であろう(平野裕之・不法行為法(第3版)(2013年・信山社))か、いずれかであったが、平成29年改正法は、後者を選択した。

【参考・参照文献】

 下記文献を参考・参照して、作成しました。

① 平野裕之 民法総合6不法行為法(第3版)(2013年、信山社)475頁

② 平野裕之 債権各論Ⅱ事務管理・不当利得・不法行為(2019年、日本評論社)451頁

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