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恵庭事件

恵庭事件

【事案】

 北海道恵庭町にある自衛隊演習場(島松演習場 ※1)付近において、自衛隊の演習騒音に被害を受けたA兄弟(※2)が、自衛隊基地内の演習用電信線をペンチで切断した行為(昭和37年12月)について、自衛隊法121条の「自衛隊の所有し、又は使用する武器、弾薬、航空機その他防衛の用に供する物を損壊し、又は傷害した者は、5年以下の懲役又は5年以下の罰金に処する」(防衛用器物損壊罪)違反で起訴された刑事事件である。裁判において、自衛隊が合憲であるか違憲であるかが正面から争われた事件である。A兄弟は、自衛隊法121条を含む自衛隊法全体又は自衛隊の存在そのものが違憲であることを理由に無罪を主張した。

※1 島松演習場は、面積35.7平方キロメートルの広大な演習場であり、戦時中は陸軍が使用し、戦後は米軍が接収して使用していたが、昭和34年4月に日本に全面返還された。

※2 A兄弟は、演習場の境界に接して牧場を経営し、自衛隊の演習により生じる爆音のため飼っている牛が流産したり、乳量が減少する等の被害を受けていた。A兄弟と自衛隊との折衝により、事件前、射撃演習について事前に連絡する紳士協定が成立していた。しかるに、昭和37年12月11日、自衛隊は、A兄弟に事前連絡しないで、砲撃の演習が開始された。A兄弟は、現場に行き抗議するも、演習は継続されたので、A兄弟は、着弾地点等との連絡のため使用する電話線をペンチで切断した。

【裁判所の判断】

<札幌地方裁判所昭和42年3月29日判決(確定)>

無罪判決

1 自衛隊法121条の「その他防衛の用に供する物」とは、例示物件でる「武器、弾薬、航空機」と、法的に、ほとんどこれと同列に評価し得る程度の密接かつ高度な類似性を要する。本件通信線は「防衛の用に供する物」ではない。

2 弁護人は、自衛隊法121条を含む自衛隊法全般ないし自衛隊等の違憲性を主張している。およそ、裁判所が一定の立法なりその他の国家行為について違憲審査権を行使しうるのは、具体的な法律上の争訟の裁判においてのみであるとともに、具体的争訟の裁判に必要な限度にかぎられることはいうまでもない。このことを、本件のごとき刑事事件にそくしていうならば、当該事件の裁判の主文に直接かつ絶対必要なばあいにだけ、立法その他の国家行為の憲法適否に関する審査決定をなすべきことを意味する。

 したがって、被告人両名の行為について、自衛隊法121条の構成要件に該当しないとの結論に達した以上、もはや、弁護人指摘の憲法問題に関し、なんらの判断をおこなう必要がないのもならず、これをおこなうべきでもない。

【事件の背景】

1 裁判所の有する違憲審査権(憲法81条)は、具体的事件に付随して行使される付随的違憲審査制と解されており、これに対置される抽象的違憲審査制を前提として警察予備隊(自衛隊の前々身に当たり、昭和25年月に設置された)についての警察予備隊違憲訴訟において、最高裁判所(大法廷)は、付随的違憲審査制を前提として、訴えを却下した(昭和27年10月8日)。本件は具体的な事件において自衛隊の合憲性が争点となった日本で初めての訴訟であった。

2 刑事公判は40回に及び、裁判開始当初の角谷裁判長の発言からは裁判所が自衛隊の合憲性について判断するのではないかと一部にそのような予測もなされたが、徐々にそのような雰囲気でなくなり、判決言渡し2日前の北海道新聞では、「憲法判断は回避か(恵庭事件の判決公判) 通信線の解釈が問題 A兄弟の無罪は確実」の見出しで予測記事が掲載された。裁判所が憲法判断を回避したことで、「肩すかし判決」と評されることもある。なお、検察は控訴しなかったため、確定した。

【評釈等】

① 自衛隊法121条の解釈にやや無理がある(佐藤幸治・日本国憲法論649頁)

② 憲法判断回避の準則について、国民の重要な基本的人権にかかわり、類似の事件が多発するおそれがあり、しかも憲法上の争点が明確であるというような事情が存する場合には、裁判所が憲法判断をすることが是認される(佐藤幸治・日本国憲法論650頁、長谷部恭男・憲法第6版422頁も同旨)。

③ 朝日訴訟における最高裁判所の判断(原告の死亡により訴訟は終了したとしながら、「なお、念のため」憲法判断した。最高裁判所大法廷昭和42年5月24日判決)からすると、判決のいう「主文の判断に直接かつ絶対必要な」場合に限定する厳格な必要性の存在が憲法判断の前提であるとの立場はとられていない(長谷部恭男・憲法第6版422頁)。

【参考・参照文献】

田中二郎・佐藤功・野村二郎編「戦後政治裁判史録3」409頁(昭和55年、 第一法規)(和田英夫)

 

 

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