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就業規則のページ(その2)

就業規則による労働契約の不利益変更

 

1  秋北バス事件最高裁判決以降の判例の展開

 秋北バス事件最高裁判決以後、最高裁判所は、就業規則の変更が反対する労働者を拘束するか否かが争点となった事件において、その判断基準を精緻化した。

<第四銀行事件最高裁判所第二小法廷平成9年2月28日判決(有斐閣平成9年重要判例解説220頁)>

 本判例は、就業規則の不利益変更による労働条件の変更(切下げ)についての判例法理の到達点といわれる(菅野・労働法第11版補正版195頁)。

[事案]

 就業規則により定年が延長されたが([旧]55歳+3年延長有り→[新]60歳)、賃金が減額された事例(本件事件の原告Xの場合、55歳以降に得た年間賃金は、54歳時の63%~67%となった。また、Xが新制度で55歳から58歳までに得た賃金額は、旧制度で期待された額より額934万円少なくなった。)

[判旨]

① 新たな就業規則の作成又は変更によって労働者の既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として許されないが、

② 労働条件の集合的処理、特にその統一的かつ画一的な決定を建前とする就業規則の性質からいって、当該就業規則が合理的なものである限り、個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を拒むことは許されない。

③ 当該規則条項が合理的なものであるとは、

ⅰ 当該規則条項の作成又は変更が、その必要性及び内容の両面からみて、それによって労働者が被ることになる不利益の程度を考慮しても、なお当該労使関係における当該条項の法的規範性を是認できるだけの合理性を有することをいい、

ⅱ 特に、賃金、退職金など労働者にとって重要な権利、労働条件に関し実質的に不利益を及ぼす就業規則の作成又は変更については、当該条項が、そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容できるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において、その効力を生じる。

ⅲ その合理性の有無は、具体的には、就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度使用者側の変更の必要性の内容・程度変更後の就業規則の内容自体の相当性代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況労働組合等との交渉の経緯他の労働組合又は他の従業員の対応同種事項に関する我が国社会における一般的状況等を綜合考慮して判断すべきである。

④ 本件就業規則の変更は、勤務に耐える健康状態にある男子行員にとっては、賃金の減額という点からすると退職時期が延びること及びそれに伴う利益はほとんど意味を持たず、相当の不利益となる。

 しかし、定年延長問題は、被告銀行においても、労働大臣・新潟県知事から60歳定年制の早期実現を求められていたことからすると、定年延長の高度の必要性があったことは十分に肯定できる。従前の定年である55歳以降の賃金水準等を見直し、これを変更する必要性も高度なものであったといえる。従前の55歳以降の労働条件は既得の権利とまではいえない。

 変更後の就業規則に基づく55歳以降の労働条件の内容は、55歳定年を60歳に延長した多くの地方銀行の例とほぼ同様の態様であって、その賃金水準も、他行の賃金水準や社会一般の賃金水準と比較して、かなり高いものである。女子行員や健康上支障のある男子行員にとっては明らかな労働条件の改善であり、健康上支障のない男子行員にとっても、定年延長によって60歳まで安定した雇用が確保される利益は決して小さくない。福利厚生制度の改善は、年間賃金の減額に対する直接的な代償措置とはいえないが、本件定年制導入に関連するものであり、これによる不利益を緩和するといえる。本件変更は、行員の90%で組織されている組合との交渉、合意を経て労働協約を締結した上で行われたものであるから、変更後の就業規則の内容は労使間の利益調整がされた結果としての合理的なものであると一応推測できる。また、その内容が統一的かつ画一的に処理すべき労働条件に係るものであることを考え合わせると、被告銀行において就業規則による一体的な変更を図ることの必要性及び相当性を肯定できる。

→ 55歳まで1年半に迫っていたXにとって、いささか酷な事態を生じさせたことは想像するに難くないが、

そのような不利益を法的に受忍せさることもやむを得ない程度の高度の必要性に基づいた合理的な内容のものであり、本件就業規則の変更はXに対しても効力を生ずる。

[評釈等]

① 本判決は、就業規則の不利益変更による労働条件の変更(切下げ)に関する判例法理の到達点である(菅野・労働法第11版補正版(2017年・弘文堂)195頁)。

② 総合判断の結果、判断要素が並列的となり、各要素の軽重や位置づけが不明確なった(土田道夫・法学教室204号138~139頁)。

③ 代償措置と経過措置が不十分であった事例であり(この点について河合裁判官の反対意見が付されている)、ぎりぎりのところで合理性を肯定する判断を示した(土田道夫・同上)。

④ かつては、労働組合との交渉経過は、専ら合理性の手続的側面で考慮されていたに過ぎなかったが、変更内容の合理性を左右する実体的要素としての位置を得た(土田道夫・同上)。

 

2 労働契約法

 就業規則の不利益変更による労働条件の変更(切下げ)に関する判例法理を踏まえて、労働契約法10条が制定された。

  <労働契約法10条と判断要素5つと、第四銀行事件最高裁判決の7要素との対応関係>

 諸説あるが、菅野説は次のとおりである。

 

判断要素の対応関係
労働契約法10条

第四銀行最高裁判決

【1】 労働者の受ける不利益の程度   ① 就業規則の変更によって被る労働者の不利益の程度

【2】労働条件変更の必要性

② 使用者側の変更の必要性の内容・程度
【3】変更後の就業規則の内容の相当性  ③ 変更後の就業規則の内容の相当性
  ④ 代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況
【4】労働組合等との交渉の状況 ⑤ 労働組合等との交渉の経緯
  ⑥ 他の労働組合又は他の従業員の対応
【5】その他就業規則の変更に係る事情 ⑦ 同種事項に関する我が国社会における一般的状況等

 土田説は、⑦同種事項に関する我が国社会における一般的状況を【3】変更後の就業規則の内容の相当性と対応させる。

 

 就業規則変更の合理性判断は、「変更の必要性」と「変更の内容(変更による不利益の程度、変更後の労働条件の相当性)」の比較衡量を基本とし、これに労働組合や従業員集団との交渉の経緯や変更の社会的相当性を加味して総合判断するものといえるが、労働契約法により法定された以上は、今後は規定された要素に即して判断が行われることとなる(菅野・労働法第11版補正版(2017年・弘文堂)206頁)。

 労働者の不利益をカバー又は緩和する要素として「代償措置その他関連労働条件の改善状況」の審査が重要となり、同種業界・同一地域の労働条件水準等を基準とする「変更後の就業規則の内容自体の相当性」(社会的相当性)の審査が付加される。また、就業規則の変更は、集団的労使交渉を経由して行われるのが実際であるため、労働組合との交渉の経緯が手続的要素として付加される。(土田道夫・労働契約法(2016年・有斐閣)557頁)

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