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安全配慮義務

〇 労働契約法5条

 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。 

第1 安全配慮義務とは

 

1 安全配慮義務の意義

 安全配慮義務とは、ある法律関係に基づいて特別な社会的接触関係に入った当事者間において当事者の一方又は双方がその相手方に対し生命・身体等を侵害しないよう保護する信義則上の義務をいいます。

 戦後、労働安全環境の整備が課題となっていましたが、その中で使用者が労働者に対し安全配慮義務を負うことがドイツ法を参考にして提唱され、裁判所において、昭和40年半ばから、使用者の安全配慮義務違反の損害賠償責任を債務不履行構成が認める下級審裁判例が現れ、最高裁判所が昭和50年2月25日にこれを認め、その後の判例で確立されました。

2 最高裁判所昭和50年2月25日(自衛隊八戸車輌整備工場事件)判決

【事案】

自衛隊員甲が車輌整備工場で車両を整備中、他の自衛隊員が運転する車両に轢かれて死亡した事件である。甲の遺族は、災害補償金80万円を受領したが、国に対する損害賠償請求は可能と思っていなかったため事故から3年以内に訴え提起しなかった。このため、不法行為の損害賠償請求権については時効期間が経過した。事故から4年経過後に訴え提起した。

【判旨】

① 国と公務員との間の主要な義務としては、公務員が国に対し職務に専念かる義務並びに法令・上司の命令に従う義務、国が公務員に対し給与支払義務を負う。この給与支払義務にとどまらず、国は、公務員に対し、国が公務遂行のために設置すべき場所、施設もしくは器具等の設置管理又は公務員が国もしくは上司の指示のもとに遂行する公務の管理にあたって、公務員の生命又は健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務(安全配慮義務)を負っているものと解すべきである。

② 安全配慮義務は、ある法律関係に基づいて特別な社会的接触関係に入った当事者間において、当該法律関係の付随義務として信義則上一般的に認められるべきものである。

 

 その後、最高裁判所は、従業員が宿直勤務中に盗賊に殺害された事故について、民間企業についても、使用者が労働者に対し安全配慮義務を負うことを認めました(昭和59年4月10日判決[川義事件])。

  

3 安全配慮義務の内容

(1)適用範囲

① 最高裁50年判例の根拠②より、労働(雇用)契約関係や公務員関係を中心に、在学関係においても安全配慮義務が認められています。

 裁判例の流れ(内田155頁)

  時効障害の問題があった、自衛隊関連の事案

→ 労働災害・公務災害

→ 更に、学校、施設(介護施設等)

 

② 労働契約関係ですが、直接の契約関係にない者同士間でも一定の要件を満たせば、安全配慮義務が認められています。

 最高裁判所第一小法廷平成3年4月11日判決は、元請企業が下請企業の労働者(元請企業と直接の雇用契約にない)に対し安全配慮義務を負うことを認めました。・下請企業の労働者が元請企業の管理する設備・器具を使用していること、・事実上、元請会社の指揮監督を受けて稼働していること、・ 作業内容も元請企業の労働者と同じであること、という実態より、下請企業の労働者と元請企業との間に労働契約に準じた関係を見出し、両者間に安全配慮義務を認めました。

 高松地方裁判所平成20年2月14日判決(判例タイムズ1276号195頁)は、造船工場において作業中の労働者(事故当時17歳)が圧死した事故について、未熟練若年労働者に対し作業安全マニュアルに従った安全配教育を施さなかったこと、単独で危険な大組立作業を行わないよう明確に注意しなかったことを理由に、被災労働者の雇用会社と元請会社の双方に安全配慮義務違反による損害賠償責任を認めました。

(2)安全配慮義務の内容

 抽象的にいえば、労働契約の労務提供に予測される危険から防止するために物的・人的環境を整備する義務といえます。 

 労働契約における安全配慮義務の具体的内容は次のとおり分類されています(國井和郎による分類)。

① 労務提供の場所に保安施設・安全施設を設置する義務

② 労務提供の道具・手段として、安全な物を選択する義務

③ 機械等に安全装置を設置する義務

④ 労務提供者に保安上必要な装備をさせる義務

⑤ 労務提供の場所に安全監視員等の人員を配置する義務

⑥ 安全教育を徹底する義務

⑦ 事故・職業病・疾病後に適切に救済措置を講じ、配置替えをし、治療を受けさせる義務

⑧ 事故原因となり得る道具・手段について、適任の人員を配置する義務

 

 安全配慮義務は、上記物的・人的環境を整備する義務に尽きると考えられています。例えば、自衛隊車両の事故で、国が適任者を選任し、安全運転教育をしていたのであれば、たとえ、その者が不注意により交通事故を起こしたとしても、国に安全配慮義務違反があったとはいえないと解されています(最高裁昭和58年5月27日判決)。一般不法行為に属する道路交通法上の責任を安全配慮義務から除外した(内田153頁)。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                               

 

 この昭和58年判例の事案(※2)と昭和50年判例の事案(※1)を比較すると、理論的には、安全配慮義務違反といえる場合と、単に加害者の過失であり安全配慮義務違反ではない場合とは、相対的な区別であると思われます。

※1 昭和50年判例の事案

   加害者が大型自動車で後退中、その後輪で被害者の頭部を轢いた。

※2 昭和58年判例の事案

 加害者がジープを運転中、路面が雨で濡れ、アスファルトが付着して極めて滑走し易い状況下で急加速したため、ジープが反対車線に飛び出し、対向車と衝突し、ジープに同乗の被害者が死亡した。

 

(3)労働契約法5条

  これまでの展開を踏まえて、労働契約法(平成20年3月1日施行)5条において、次のとおり定められました。

 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。

第2 安全配慮義務に関する理論的な問題

1 不法行為による損害賠償請求権との比較

① 立証責任

ⅰ 安全配慮義務違反による損害賠償請求権

 労働者が、安全配慮義務の内容を特定し、義務違反に

当たる事実を主張立証する責任を負う。

ⅱ 不法行為による損害賠償請求権

  労働者が、使用者に過失があることの立証責任を負う。

② 遅延損害金の起算日

ⅰ 安全配慮義務違反

  期限の定めのない債務 → 請求時(最判昭和55年12月18日)

ⅱ 不法行為

  不法行為時

③ 遺族固有の慰謝料請求権 

ⅰ 安全配慮義務違反

  否定(最判昭和55年12月18日)

ⅱ 不法行為

  認められる。死亡の場合(民法711条)、死亡の場合にも比肩し得べき精神上の苦痛を受けた場合(判例)

④ 弁護士費用

ⅰ 安全配慮義務違反

  認められる。(最判平成24年2月24日)

ⅱ 不法行為

  認められる。

⑤ 消滅時効

ⅰ 安全配慮義務違反

  主観的起算点から5年(平成29年改正166条)

ⅱ 不法行為

a 被害者or法定代理人が損害&加害者を知った時から3年間 724条1号

b 人の生命・身体を害する不法行為では、aの期間が5年間 724条の2

 

 内田教授の評価

 

2 安全配慮義務は、被用者の生命・身体等の完全性利益が保護法益となる。

3 安全配慮義務違反は、給付義務違反か保護義務違反か

 契約類型による問題であり、雇用・労働契約等では、安全配慮義務は、契約の中心的義務すなち給付義務に当たると考えられる。近江110頁

 

 

第3 安全配慮義務の具体化

1 安全配慮義務は、第1のとおり、判例法において生成し展開された後、労働契約法に規定されたが、それだけでは抽象的であることは否めない。

2 土田教授による見解

 裁判例を総合すると、安全配慮義務の具体的内容は、①~④の各義務である。

① 労働時間・業務状況の把握

② 健康診断や日常の観察に基づく心身の健康状態の把握

③ 適正な労働条件(労働時間・労働環境)の確保

④ 労働時間・業務軽減措置

【参考・参照文献】

下記文献を参考・参照して作成しました。

① 高橋譲「安全配慮義務」(伊藤滋雄編・民法要件事実講座第3巻・(2005年・青林書院)16頁)

② 土田道夫・労働契約法第2版(2016年・有斐閣)517頁

③ 土田道夫・労働法概説(第4版)(2019年、弘文堂)218頁

 近江幸治 民法講義Ⅳ債権総論(第4版)(2020年、成文堂)108頁

 内田貴 民法Ⅲ 債権総論・担保物権第4版(2020年、東京大学出版会)151頁

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