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意思能力による保護

意思能力制度

1 意思能力の意義

(1)意思能力とは、自己の行為の結果を判断するに足りるだけの精神的能力をいい、これが欠けば、たとえ、契約書等に署名捺印しても、その契約は無効になります。幼児、認知症、知的障害者(※)のような上記精神能力を欠く人(意思無能力者)を保護するためです。ですので、意思無能力者は対象となる契約等の無効を主張できますが、その相手方からは契約等の無効を主張することはできません。

(2)意思能力の考え方は、これまで民法上明記されていませんでしたが、当然の法理とされており、裁判所もそれを前提としていました。平成29年改正民法(未施行)は「法律行為の当事者が意思表示をした時は意思能力を有しなかったときは、その法律行為は無効とする」と規定し(3条の2、この法理を明記しました。

(3)行為能力制度との関係

 民法は、第1編総則第2章人第2節行為能力(4条~21条)において、保護者を付け一契約等の取消権を認めて未成年者や成年被後見人・被保佐人・被補助人を保護しています(行為無能力制度)が、この行為能力制度との関係は次のとおりです。

 意思能力があるかないかは、対象となる行為をした時にその能力があるかないかで決められ、係争になった後、事後的に判断されます。そして、意思能力がないとして争う者が意思能力がないことを証明しなければならず、この証明は難しいといわれています。そうすると、行為の結果を判断する精神能力を欠く者を十分に保護できないおそれもあります。

 そこで、そのような精神能力を欠くと類型的に認められる者を行為無能力者とし、行為能力を欠く者を画一的に判断できるようにしたのです。

 例えば、7歳の幼児が対象となっている行為の時に意思能力が備わっているか否かは事の性質上個別的に判断せざるを得ません。しかも、係争になった後の事後判断となり予測可能性が低いといえます。未成年者(民法4条:年齢20歳をもって成年とする。)ですので、「7歳 → 行為無能力者」と画一的に判断でき、しかも行為の当時に明確に判断できます。

 また、軽度の認知症の方が対象となっている行為の時に意思能力が備わっているか否かは事の性質上個別的に判断せざるを得ません。しかも、係争になった後の事後判断となり予測可能性が低いといえます。しかし、この方が成年被後見人であるとの家庭裁判所の確定審判があれば、行為無能力者であることが行為の当時明確に判断できます。

2 高齢者に関する問題において意思能力を検討する意味

 それでは、意思能力制度による保護はどのような場面で機能するのでしょうか。例えば、中程度の認知症の方であれば、恐らく、成年被後見人の要件である「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者」(民法7条)を満たすと思います。

 しかし、だからといって、当然に、この方が成年被後見人となり成年後見制度による保護を受けるわけではありません。このためには、家庭裁判所が、一定の申立権者による申立てを受け、成年後見開始の審判をし、その審判が確定する必要があります。

 そうすると、本来であれば成年後見制度による保護を受けるべき中程度の認知症の方について確定した成年後見開始審判がなければ、その方は成年後見制度による保護を受けることができません。

 そこで、この方が対象となった行為の時行為の結果を判断する能力(意思能力)を欠いていたならば、この行為を無効とすることにより保護する意義が意思能力制度に求められています。

3 高齢者が意思能力を欠いているとされる基準とは

 標記について、澤井知子「意思能力の欠缺をめぐる裁判例と問題点」(滝澤孝臣編・判例展望民事法Ⅰ(2005年・判例タイムズ社)1頁)は、裁判例を分析した上、おおむね、次のとおり指摘しています。

① 認知症、統合失調症等の精神的障害の存否・内容・程度を認定した上で個別に判断することになるが、その際、医学上の評価はもとより、行為者の年齢、行為前後の言動・状況、行為の動機・理由、行為に至る経緯、行為の内容・難易度、行為の効果の軽重、行為の意味についての理解の程度、行為時の状況等が子細に検討され、判断材料として考慮されている。

② 係争対象の行為の理由が合理的に説明可能であり、対価の均衡等がとれていること等行為が客観的にみて理性的であるかどうかも判断材料となる。

③ 高齢者等本の保護の観点も考慮要素となり、係争対象の行為を有効にすると本人に不利になると思われる事案では、意思無能力による無効を認め本人保護を図る傾向にある。

意思能力がないことを理由に株式贈与契約が無効であるとされた例

東京地方裁判所平成28年8月30日(D1-Law.com判例ID29019810)

【事案】

(1)家族構成等

 X(大正11年生)=本件贈与契約当時87歳、昭和42年に株式会社Xプレス工業所(本件会社)を設立し、同社代表取締役に就任した。昭和27年にBと結婚し、昭和28年から昭和35年にかけて、Bとの間で子4人(C、Y、D、E)をもうけた。

(2)本件会社の株主構成等

① 全部で1万株あり、株主構成は、X4,200株、Y3,100株、D2,900株であった。

② Xが代表取締役であり、C・Y・Dが取締役を務めていた。

③ Yが本社工場を、Dが中央工場を担当していた。

④ 本件会社では、親族の従業員を解雇する問題を巡って、YとDが対立していた。

(3)時系列

平成25年12月19日 

XがYに対し、本件会社の株式2,000株を贈与する贈与契約を締結する。これにより、Yは、本件会社の株式5,100株(過半数)を有することになった。数日前にXの実印が変更されたが、契約書に捺印されたのは改印前の旧実印であった。

平成25年12月20日

J医院(Xのかかりつけ医院)の診療録に、次のとおり記載された。「株売買の能力について」、「今は」評価できかねるた為、必要なら専門家受診」

平成26年2月14日

J医院から紹介を受けて受診したKクリニックで頭部MRI検査を受けた。その診療報告書には、Xについて、日時の見当識障害、短期記憶障害が著しいと記載され、アルツハイマー型老年認知症と診断された。

平成26年2月28日

J医院医師は、裁判所提出用診断書で、Xについて「自己の財産を管理、処分するには、常に援助が必要である」と記載した。また、認知症について次のとおり記載されていた。平成23年10月頃より見当識障害が著明、徐々に症状は進行し、平成25年10月、アリセプトを増量したが車の運転の仕方が分からなくなる等の見当識障害が進行している状態である。

平成26年4月30日頃

Bが、Xについて、保佐開始の審判を家庭裁判所に申し立てた。

平成26年7月14日

J医院医師は、Xがアルツハイマー型認知症を発症しており、自己の財産を管理処分することができない旨の鑑定書を家庭裁判所に提出した。

平成26年8月4日

家庭裁判所は、Xについて、後見開始決定をした。同決定はその後確定した。

その後

Xの成年後見人がYに対し本件株式贈与契約がXの意思能力を欠くことを理由に無効を主張し、XY間で裁判上の係争となった。

【裁判所の判断】

(1)結論

 本件株式贈与契約当時、Xは意思能力を欠くことを理由に、本件株式贈与契約は無効である。

(2)理由

Xは、生活自体は自立し、日常生活の疎通性も保たれてはいたが、

本件株式譲渡は無償であってXにとって類型的に不利益である。また、譲渡の結果、Yが本件会社の株式を過半数取得することになり、YD間で本件会社の経営に対立がある状況下で、本件株式贈与契約は本件会社に重要な意味をもつ。それにもかかわらず、Xは、このような財産処分の結果を検討しうる能力はなく、自己の行為の結果を弁識する能力はなかったものと認められる。

(3)備考

 訴訟において、Xが、本件株式贈与契約書に、実印ではなく、改印前の旧実印を使用した理由について全く言及していない。また、本件株式の贈与がもつ本件会社経営に対する影響についてXから語られた跡は見当たらない。

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