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責任無能力者の監督義務者の責任

第3編 債権
第5章 不法行為

〇 民法712条(責任能力)

 未成年者は、他人に損害を加えた場合において、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは、その行為について賠償の責任を負わない。

1 責任能力の意義(文献①106頁)

 法の禁止・命令を理解し得ない人間を、損害賠償責任から解放することによって保護するとの政策的価値判断

→ 自己の行為の是非を判断できる知能

2 責任能力の位置付け(文献①105頁)

 損害賠償請求権の発生を妨げる権利障害規定であり、抗弁として機能する。加害者が、行為の当時、自己に責任能力がなかったことについて主張立証責任を負う。

 

〇 民法713条

 精神上の障害により自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態にある間に他人に損害を加えた者は、その賠償の責任を負わない。

 ただし、故意又は過失によって一時的にその状態を招いたときは、この限りでない。

監督義務者

〇 民法714条

1項 前二条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。

 ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。

2項 監督義務者に代わって責任無能力者を監督する者も、前項の責任を負う。

未成年者が不法行為をした場合、親権者は責任を負うか。

1 責任能力

 未成年者は、他人に損害を加えた場合において、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能(これを「責任能力」という。)を備えていなかった場合、当該行為について不法行為の損害賠償責任を負わない(民法712条)。

 それでは、未成年者のうち責任能力が認められるのは何歳位でしょうか。最終的には性質上個別的な事案毎の判断となりますが、古い判例には、11歳11か月の少年(自転車を乗っていた時に他人を負傷させた事案)で責任能力を認めた判例がある一方で、12歳7か月の少年(空気銃で射撃し誤って他人を失明させた事案)で責任能力を否定した判例があります。13歳以上であれば、責任能力者と一応は考えてよいでしょう。

2 監督義務の責任

(1)法文

民法714条1項:前二条の規定によって責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害を生ずべきであったときは、この限りでない。

同条2項:監督義務者に代わって責任無能力者を監督する者も前項の責任を負う。

(2)制度趣旨

 未成年者の不法行為について当該未成年者に責任能力がないため被害者が損害賠償請求できない場合において、監督義務者(親権者(民法820条)が代表的であす)が、① 監督義務を怠らなかったことを証明できない場合、② 監督義務を怠らなかったとしても損害が生じていたこと(=監督義務違反と損害との間の因果関係が存在しないこと)を証明できない場合に、被害者に対する損害賠償責任を負わせることによって、被害者を救済する意義があります。

(3)監督義務を尽くしたとはどのような場合でしょうか。

 監督義務には、危険発生の予見可能性がある状況下で権利侵害の結果を回避するために必要とされる行為をなすべき義務に限定されず、責任無能力者の生活全般についてその身上を監護教育すべき包括的な義務を含みます。

 このような包括的義務を前提とすると、監督義務を尽くしたとの免責の証明は極めて困難であるといわれています。これを初めて認めたのが、後記サッカーボール事件についての最高裁判例です

3 不法行為をした未成年者に責任能力が備わっている場合、監督義務者は不法行為責任を負うか。

 この場合、民法714条が適用される場面ではありません。しかし、監督義務者の義務違反と生じた結果との間に相当因果関係が認められれば、監督義務者に民法709条の不法行為責任は成立します。

 責任能力が備わっているとはいえ通常の場合未成年者には資力がないことから、被害者が未成年者に損害賠償請求をしても実効的でありません。資力のある監督義務者の不法行為責任を認めることにより、被害者を救済するという実践的な意義があります。

 ただし、ここにい監督義務の義務違反とは、民法714条の場合のように、未成年者の身上を監護教育すべき包括的な義務を前提とする監督義務ではなく、危険発生の予見可能性がある状況下で権利侵害の結果を回避するために必要とされる行為をなすべき義務を前提とする監督義務です。そうすると、「民法709条適用の監督義務」(狭い)<「民法714条適用の監督義務」(広い)という関係となります。

【参考、参照文献】

基本法コンメンタール(第4版)債権各論Ⅱ(日本評論社・1996年)68頁(潮見佳男)

サッカーボール事件

最高裁判所第一小法廷平成27年4月9日判決(判例タイムズ1415号69頁、論究ジュリスト16・8頁(窪田充見)

【事案】

 未成年者A(当時11歳11か月)が、通学していた小学校の校庭において、放課後、サッカーゴールに向けてフリーキックの練習をしていた時、Aが蹴ったサッカーボールがサッカーゴールの後方約10mの位置にある南門(左右にはネットフェンスが設置され、これらの高さは約1.2~1.3mであった。)の門扉の上を越えて、道路(南門と道路との間には幅約1.8mの側溝があり、南門と道路は橋が架けられていた。)上に転がり出た。その時丁度自動二輪車を運転して本件道路を走行してきたB(当時85歳)は、ボールを避けようとして転倒して負傷し、その後、Bは誤嚥性肺炎により死亡した。

 Bの遺族は、A及びAの父母に対し、不法行為の損害賠償責任を追及して提訴した。

【最高裁判所の判断】

 下記(1)ないし(3)の事情ほ考慮すると、Aの親権者である父母は、民法714条1項の監督義務者としての義務を怠らなかったというべきである。

(1)Aは、放課後、児童らのために開放されていた小学校の校庭において、使用可能な状態で設置されていたサッカーゴールに向けてフリーキックの練習をしていたのであり、殊更に道路に向けてボールを蹴ったなどの事情もうかがわれない。

(2)本件サッカーゴールに向けてボールを蹴ったとしても、ボールが道路上に出ることが常態であったものとはみられない。

(3)Aの親権者である父母は、危険な行為に及ばないよう日頃から通常のしつけをしており、Aの本件における行為について具体的に予見が可能であったなどの特別の事情があったこともうかがわれない。

【備考】

① Bは、本件事故による負傷について事故から約半年後に症状固定の診断を受け、それ自体は重篤なものではなかったが、事故から約1年半後、入院中に、誤嚥性肺炎により死亡した。

② 第一審の大阪地裁は、Aの責任能力を否定し、Aに対する請求を棄却した。Bの遺族もこの点については控訴しなかった。

③ 本件では、Bの遺族は、道路を背にサッカーゴールを設置し、背後のフェンスの高さも不十分である状況で、校庭を放課後児童に開放していた小学校の責任(国家賠償法1条又は2条)を訴求していなかった。

④ 最高裁判所調査官として本件事件を担当した菊池絵里氏が、次のとおり指摘する(ジュリスト1515号83頁)。

・ 監督義務の内容及び履行については、事案毎に具体的に検討すべき。

・ (a)一般的な監督義務

  責任無能力者の生活全般について身上監護・教育すべき

  (b)具体的な監督義務

 当該事故の態様・性質等に即したものとして、危険発生の予見可能性のある状況下で権利侵害の結果を回避するために必要とされる行為をすべき義務

(a)(b)双方の観点から検討するのが相当である。

責任無能力者(認知症)の遺族の鉄道会社に対する損害賠償責任が否定された例

【事案】

Aさん(当時82歳)は、2000年頃から認知症の症状が生じました。但し、成年後見の被後見人とはなっておりませんでした。長男(横浜市に居住し、本件事件まで20年以上もAと同居しておらず、本件事故直前の時期、1か月に3回程週末にA宅を訪問していた。)の妻が横浜から転居し、Aの妻と共にAを介護するようになりました。Aは2005年頃から徘徊するようになり、2度(2005年、2006年)行方不明になり保護され、2007年2月に要介護4の認定を受けるも、特別養護老人ホームに入居のため自宅待機をしている状態であった。2007年12月7日午後5時頃、Aは徘徊対策のため設けられていたセンサーが切られていた出入口から外に出て東海道線のある駅から線路内に立ち入り、列車に衝突して死亡した。事故発生当時、Aは91歳、Aの妻は85歳(要介護1)であった。JR東海は、遺族に対し、約720万円の損害賠償請求訴訟を提起した。

【最高裁判所第三小法廷平成28年3月1日判決】

① 平成11年に、精神保健福祉法の保護者の自傷他害防止監督義務を廃止し、民法の禁治産者に対する後見人の療養監護義務を成年後見人に対する身上配慮義務に改めたが、この身上配慮義務は「法律行為を行う際に成年被後見人の身上について配慮すべきことを求めるものであって、事実行為として成年被後見人の現実の介護を行うことや成年被後見人の行動を監督する」義務ではない。民法752条の定める配偶者の同居協力扶助義務は相手方に対して負う義務である。以上によると、Aの妻は、Aの法定監督義務者ではない。

② 法定監督義務者でなくても、責任無能力者(本件のA)との身分関係や日常生活における接触状況に照らし、第三者に対する加害行為の防止に向けてその者が当該無能力者の監督を現に行いその態様が単なる事実上の監督を超えているなどその監督義務を引き受けたとみるべき特段の事情が認められる場合には、衡平の見地から法定の監督義務を負う者と同視してその者に対し民法714条に基づく損害賠償責任を問うことができるとするのが相当であり、このような者については、法定の監督義務者に準ずべき者として、同条1項が類推適用されると解すべきである。

③ 法定の監督義務者に準ずべき者に当たるか否判断判断

ⅰ その者自身の生活状況や心身の状況等、ⅱ 精神障害者との親族関係の有無・濃淡、ⅲ 同居の有無その他の日常的な接触の程度等、ⅳ 精神障害者の財産管理への関与の状況などその者と精神障害者との関わりの実情、ⅴ 精神障害者の心身の状況や日常生活における問題行動の有無・内容、ⅵ これらに対応して行われている監護や介護の実体等

諸般の事情を総合考慮して、

 監督することが可能かつ容易であるなど衡平の見地から

 その者に対し、精神障害者の行為に係る責任を問うのが相当といえる客観的状況が認められるか否かという観点から判断すべき。

④ 結論Aの妻と長男は、このような法定の監督義務者に準ずべき者には当たらず、JR東海に対し損害賠償責任を負わない。

【コメント】

責任無能力者については監督義務者(その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者)が責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う(民法714条1項)。同条項但し書きは、監督義務者が監督義務を尽くしたこと等を立証できれば免責される旨定める。

 未成年者については真剣者を法定監督義務者となるが、本件で問題となる認知症の場合、法定監督義務者は見当たらない。これを前提として、本判例は、損害を与えた認知症の配偶者や家族だからという理由だけでは法定監督義務者に準ずるものとして責任を負わせるのには不十分であるとした。認知症患者の増大や家族の負担が叫ばれる中、認知症の問題を社会全体の問題と考えて対策をとることが肝要である。

【参考・参照文献】

 下記文献を参考にして作成しました。

① 平成28年度ジュリスト重要判例解説p83(解説者瀬川信久)

② 新・判例解説Watch2016年10月号p63(解説者青野博之)

③ 加藤新太郎・谷口園恵編集 裁判官が説く民事裁判実務の重要論点<交通損害賠償編>(野々山優子) (2021年、第一法規)128頁

【参照・参考文献】このページは、次の文献を参照・参考西手、作成しました。

潮見佳男 基本講義債権各論Ⅱ不法行為法第4版(2021年、新世社)105頁

② 潮見佳男 民法(全)第3版(2022年、有斐閣)521頁

③ 近江幸治 民法講義Ⅵ 事務管理・不当利得・不法行為(第3版)(2018年、成文堂)221頁

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