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1 逸失利益についての基本的な考え方
逸失利益とは、症状固定後、後遺障害があり、労働能力が減少し、将来得べかりし収入が減少に対する損害賠償をいいます。この点に関して、基本的な考え方として、差額説と労働能力喪失説の違いがあります。
差額説:「事故に遭わなければ被害者が得られたであろう収入」-「事故後現実に得られる収入」、この差額=逸失利益とする考え方
労働能力喪失説:労働能力の喪失自体を損害と捉える考え方
差額説と労働能力喪失説は観念的な対立に過ぎず、両説を止揚された考え方が一般的でありますが、どちらかというと、労働能力喪失説を出発点とし、個々の事案において具体的妥当性を追求しているのが現実と思います。
例えば、交通部に所属した裁判官執筆に係る文献では、「判例は、現実に生じた具体的な収入額の差異を離れてある程度抽象的に逸失利益の発生を捉えることを認め、後遺障害による労働能力の喪失による損害を、被害者の後遺障害の部位・程度、被害者の年齢・性別・現に従事している職種等との関連で、差額説的な考慮をしながら評価していると理解することが可能である。・・・(中略)・・・事故によって現実に労働能力が低下し、被害者に減収が生じていない理由が被害者の不断の努力や使用者の温情等によるもので、長期間その状況が継続できるのか定かでないこと等が立証された場合には、被害者の労働能力の喪失を一定程度の割合で認定し、後遺障害による逸失利益の発生を認めることができるものと考えられる。」とされている(佐久間邦夫・八木一洋編「交通損害関係訴訟」151頁(青林書院・2009年))
2 労働能力喪失割合
労災で使用される基準(下記)を参考にして、後遺障害の部位及び程度、被害者の仕事及び仕事への影響、事故前後の就労状況及び収入の状況を総合考慮して決められる。
等級 | 割合 | 等級 | 割合 | 等級 | 割合q |
第1級 | 100% | 第6級 | 67% | 第11級 | 20% |
第2級 | 100% | 第7級 | 56% | 第12級 | 14% |
第4級 | 92% | 第9級 | 35% | 第14級 | 5% |
第5級 | 79% | 第10級 | 27% |
3 労働能力期間
(1)症状固定時を始期とし、67歳までを終期とするのが原則である。
(2)むちうち症では、等級12級程度で「5年~10年」、等級14級程度で「2年~5年」が一応の目安とされる。
標記論点について、考え方としては、死亡時までに限定する見解(「切断説」という。)と死亡を考慮しないで就労可能期間を考慮する見解(「継続説」という。)がありますところ、
最高裁判所平成8年4月25日判決(貝採り事件[昭和63年1月10日事故、平成元年6月28日症状固定、同年7月4日海中で貝を採っている時に心臓麻痺で死亡]判決。民集50巻5号1221頁)は、本件交通事故の時点で、その死亡の原因となる具体的事由(※1)が存在し、近い将来における死亡が客観的に予見されていた等の特段の事情がない限り、死亡の事実は就労可能期間の認定上考慮すべきものではないと解するのが相当であると、継続説を明言しました。その理由は次のとおりです。※2~3
① 逸失利益の損害は、交通事故時に一定の内容のものとして発生しているのであるから、その後の生じた事由によってその内容に消長を来すものではない。逸失利益の額は、交通事故当時における被害者の年齢、職業、健康状態等の個別要素と平均稼働年数、平均余命等に関する統計資料から導かれる就労可能期間に基づき算定すべきものであって、交通事故後に被害者が死亡したことは、前記特段の事情がない限り、就労可能期間の認定に当たって考慮すべきものといえない。
② 交通事故の被害者がたまたま別の原因で死亡したことにより、賠償義務を負う者がその義務の全部又は一部を免れ、他方被害者ないしその遺族が事故により生じた損害のてん補を受けることができなくなるのは、衡平の理念に反することとなる。
※1 例として、被害者が交通事故当時末期癌に罹患していたことが死亡後に明らかになった場合を想定している。
※2 最高裁判所平成8年5月31日(民集50巻6号1323頁)は、継続説について、被害者の死亡が病気、事故、自殺、天災等のいかなる事由に基づくものか、死亡につき不法行為等に基づく責任を負担すべき第三者が存在するかどうか、交通事故と死亡との間に相当因果関係ないし条件関係が存在するかどうかといった事情によって異なるものではないと補足した。なお、同判決は、交通事故の被害者が事故後に死亡した場合、逸失利益の算定において、事故と被害者との死亡との間に相当因果関係がある場合に限り、死亡後の生活費を控除することができるとした。
※3 最高裁判所平成11年12月20日判決(判例タイムズ1021号123頁)は、後遺障害により後遺障害が残存した被害者が、その後別の原因により死亡した場合、死亡後の介護費用は損害賠償として請求できないとし、これについては切断説を採用した。