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破産免責について

破産法 第12章 免責手続及び復権
第1章 免責

○ 破産法248条(免責許可の申立て)

1項 個人である債務者(破産手続開始の決定後にあっては、破産者。第四項を除き、以下この節において同じ。)は、破産手続開始の申立てがあった日から破産手続開始の決定が確定した日以後一月を経過する日までの間に、破産裁判所に対し、免責許可の申立てをすることができる。

2項 前項の債務者(以下この節において「債務者」という。)は、その責めに帰することができない事由により同項に規定する期間内に免責許可の申立てをすることができなかった場合には、その事由が消滅した後一月以内に限り、当該申立てをすることができる。

3項 免責許可の申立てをするには、最高裁判所規則で定める事項を記載した債権者名簿を提出しなければならない。ただし、当該申立てと同時に債権者名簿を提出することができないときは、当該申立ての後遅滞なくこれを提出すれば足りる。

4項 債務者が破産手続開始の申立てをした場合には、当該申立てと同時に免責許可の申立てをしたものとみなす。ただし、当該債務者が破産手続開始の申立ての際に反対の意思を表示しているときは、この限りでない。

5項 前項本文の規定により免責許可の申立てをしたものとみなされたときは、第二十条第二項の債権者一覧表を第三項本文の債権者名簿とみなす。

6項 債務者は、免責許可の申立てをしたときは、第二百十八条第一項の申立て又は再生手続開始の申立てをすることができない。

7項 債務者は、次の各号に掲げる申立てをしたときは、第一項及び第二項の規定にかかわらず、当該各号に定める決定が確定した後でなければ、免責許可の申立てをすることができない。

一 第二百十八条第一項の申立て 当該申立ての棄却の決定

二 再生手続開始の申立て 当該申立ての棄却、再生手続廃止又は再生計画不認可の決定

○ 破産法249条(強制執行の禁止等)

1項 免責許可の申立てがあり、かつ、第二百十六条第一項の規定による破産手続廃止の決定、第二百十七条第一項の規定による破産手続廃止の決定の確定又は第二百二十条第一項の規定による破産手続終結の決定があったときは、当該申立てについての裁判が確定するまでの間は、破産者の財産に対する破産債権に基づく強制執行、仮差押え、仮処分若しくは外国租税滞納処分若しくは破産債権を被担保債権とする一般の先取特権の実行若しくは留置権(商法又は会社法の規定によるものを除く。)による競売(以下この条において「破産債権に基づく強制執行等」という。)、破産債権に基づく財産開示手続若しくは第三者からの情報取得手続の申立て又は破産者の財産に対する破産債権に基づく国税滞納処分(外国租税滞納処分を除く。)はすることができず、破産債権に基づく強制執行等の手続又は処分で破産者の財産に対して既にされているもの並びに破産者について既にされている破産債権に基づく財産開示手続及び第三者からの情報取得手続は中止する。

2項 免責許可の決定が確定したときは、前項の規定により中止した破産債権に基づく強制執行等の手続又は処分並びに破産債権に基づく財産開示手続及び第三者からの情報取得手続は、その効力を失う。

3項 第一項の場合において、次の各号に掲げる破産債権については、それぞれ当該各号に定める決定が確定した日の翌日から二月を経過する日までの間は、時効は、完成しない。

一 第二百五十三条第一項各号に掲げる請求権 免責許可の申立てについての決定

二 前号に掲げる請求権以外の破産債権 免責許可の申立てを却下した決定又は免責不許可の決定

○ 破産法250条(免責についての調査及び報告)

1項 裁判所は、破産管財人に、第二百五十二条第一項各号に掲げる事由の有無又は同条第二項の規定による免責許可の決定をするかどうかの判断に当たって考慮すべき事情についての調査をさせ、その結果を書面で報告させることができる。

2項 破産者は、前項に規定する事項について裁判所が行う調査又は同項の規定により破産管財人が行う調査に協力しなければならない。

○ 破産法251条(免責についての意見申述)

1項 裁判所は、免責許可の申立てがあったときは、破産手続開始の決定があった時以後、破産者につき免責許可の決定をすることの当否について、破産管財人及び破産債権者(第二百五十三条第一項各号に掲げる請求権を有する者を除く。次項、次条第三項及び第二百五十四条において同じ。)が裁判所に対し意見を述べることができる期間を定めなければならない。

2項 裁判所は、前項の期間を定める決定をしたときは、その期間を公告し、かつ、破産管財人及び知れている破産債権者にその期間を通知しなければならない。

3項 第一項の期間は、前項の規定による公告が効力を生じた日から起算して一月以上でなければならない。

○ 破産法252条(免責許可の決定の要件等)

1項 裁判所は、破産者について、次の各号に掲げる事由のいずれにも該当しない場合には、免責許可の決定をする。

一 債権者を害する目的で、破産財団に属し、又は属すべき財産の隠匿、損壊、債権者に不利益な処分その他の破産財団の価値を不当に減少させる行為をしたこと。

二 破産手続の開始を遅延させる目的で、著しく不利益な条件で債務を負担し、又は信用取引により商品を買い入れてこれを著しく不利益な条件で処分したこと。

三 特定の債権者に対する債務について、当該債権者に特別の利益を与える目的又は他の債権者を害する目的で、担保の供与又は債務の消滅に関する行為であって、債務者の義務に属せず、又はその方法若しくは時期が債務者の義務に属しないものをしたこと。

四 浪費又は賭と博その他の射幸行為をしたことによって著しく財産を減少させ、又は過大な債務を負担したこと。

五 破産手続開始の申立てがあった日の一年前の日から破産手続開始の決定があった日までの間に、破産手続開始の原因となる事実があることを知りながら、当該事実がないと信じさせるため、詐術を用いて信用取引により財産を取得したこと。

六 業務及び財産の状況に関する帳簿、書類その他の物件を隠滅し、偽造し、又は変造したこと。

七 虚偽の債権者名簿(第二百四十八条第五項の規定により債権者名簿とみなされる債権者一覧表を含む。次条第一項第六号において同じ。)を提出したこと。

八 破産手続において裁判所が行う調査において、説明を拒み、又は虚偽の説明をしたこと。

九 不正の手段により、破産管財人、保全管理人、破産管財人代理又は保全管理人代理の職務を妨害したこと。

十 次のイからハまでに掲げる事由のいずれかがある場合において、それぞれイからハまでに定める日から七年以内に免責許可の申立てがあったこと。

イ 免責許可の決定が確定したこと 当該免責許可の決定の確定の日

ロ 民事再生法(平成十一年法律第二百二十五号)第二百三十九条第一項に規定する給与所得者等再生における再生計画が遂行されたこと 当該再生計画認可の決定の確定の日

ハ 民事再生法第二百三十五条第一項(同法第二百四十四条において準用する場合を含む。)に規定する免責の決定が確定したこと 当該免責の決定に係る再生計画認可の決定の確定の日

十一 第四十条第一項第一号、第四十一条又は第二百五十条第二項に規定する義務その他この法律に定める義務に違反したこと。

2項 前項の規定にかかわらず、同項各号に掲げる事由のいずれかに該当する場合であっても、裁判所は、破産手続開始の決定に至った経緯その他一切の事情を考慮して免責を許可することが相当であると認めるときは、免責許可の決定をすることができる。

3項 裁判所は、免責許可の決定をしたときは、直ちに、その裁判書を破産者及び破産管財人に、その決定の主文を記載した書面を破産債権者に、それぞれ送達しなければならない。この場合において、裁判書の送達については、第十条第三項本文の規定は、適用しない。

4項 裁判所は、免責不許可の決定をしたときは、直ちに、その裁判書を破産者に送達しなければならない。この場合においては、第十条第三項本文の規定は、適用しない。

5項 免責許可の申立てについての裁判に対しては、即時抗告をすることができる。

6項 前項の即時抗告についての裁判があった場合には、その裁判書を当事者に送達しなければならない。この場合においては、第十条第三項本文の規定は、適用しない。

7項 免責許可の決定は、確定しなければその効力を生じない。

○ 破産法253条(免責許可の決定の効力等)

1項 免責許可の決定が確定したときは、破産者は、破産手続による配当を除き、破産債権について、その責任を免れる。ただし、次に掲げる請求権については、この限りでない。

一 租税等の請求権(共助対象外国租税の請求権を除く。)

二 破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権

三 破産者が故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権(前号に掲げる請求権を除く。)

四 次に掲げる義務に係る請求権

イ 民法第七百五十二条の規定による夫婦間の協力及び扶助の義務

ロ 民法第七百六十条の規定による婚姻から生ずる費用の分担の義務

ハ 民法第七百六十六条(同法第七百四十九条、第七百七十一条及び第七百八十八条において準用する場合を含む。)の規定による子の監護に関する義務

ニ 民法第八百七十七条から第八百八十条までの規定による扶養の義務

ホ イからニまでに掲げる義務に類する義務であって、契約に基づくもの

五 雇用関係に基づいて生じた使用人の請求権及び使用人の預り金の返還請求権

六 破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権(当該破産者について破産手続開始の決定があったことを知っていた者の有する請求権を除く。)

七 罰金等の請求権

2項 免責許可の決定は、破産債権者が破産者の保証人その他破産者と共に債務を負担する者に対して有する権利及び破産者以外の者が破産債権者のために供した担保に影響を及ぼさない。

3項 免責許可の決定が確定した場合において、破産債権者表があるときは、裁判所書記官は、これに免責許可の決定が確定した旨を記載しなければならない。

4項 第一項の規定にかかわらず、共助対象外国租税の請求権についての同項の規定による免責の効力は、租税条約等実施特例法第十一条第一項の規定による共助との関係においてのみ主張することができる。

○ 破産法254条(免責取消しの決定)

1項 第二百六十五条の罪について破産者に対する有罪の判決が確定したときは、裁判所は、破産債権者の申立てにより又は職権で、免責取消しの決定をすることができる。破産者の不正の方法によって免責許可の決定がされた場合において、破産債権者が当該免責許可の決定があった後一年以内に免責取消しの申立てをしたときも、同様とする。

2項 裁判所は、免責取消しの決定をしたときは、直ちに、その裁判書を破産者及び申立人に、その決定の主文を記載した書面を破産債権者に、それぞれ送達しなければならない。この場合において、裁判書の送達については、第十条第三項本文の規定は、適用しない。

3項 第一項の申立てについての裁判及び職権による免責取消しの決定に対しては、即時抗告をすることができる。

4項 前項の即時抗告についての裁判があった場合には、その裁判書を当事者に送達しなければならない。この場合においては、第十条第三項本文の規定は、適用しない。

5項 免責取消しの決定が確定したときは、免責許可の決定は、その効力を失う。

6項 免責取消しの決定が確定した場合において、免責許可の決定の確定後免責取消しの決定が確定するまでの間に生じた原因に基づいて破産者に対する債権を有するに至った者があるときは、その者は、新たな破産手続において、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。

7項 前条第三項の規定は、免責取消しの決定が確定した場合について準用する。

免責手続

1   免責とは、破産手続において、債務について、破産者の支払義務を免除する裁判所の決定です(破産法252条)。誠実な破産者に経済的再生のチャンスを付与するものです。

2 債務者は、破産手続開始の申立てをした場合、反対の意思がない限り、破産申立て同時に、免責の申立てをしたのと取り扱われます(破産法252条4項)。

 免責不許可事由(後記)がない限り、破産者は免責されます。

4 破産者に免責不許可事由があっても、裁判所は、破産に至った経緯その他一切の事情を考慮して免責を認めることができます(裁量免責:破産法252条2項)。

 考慮要素は次のとおりです。

① 破産者側の事情

  免責不許可事由に該当する行為の内容・程度

  破産者の行為時の主観的状況

  支払不能になった原因・経過等

  支払不能後の破産者の状況

  破産者の反省の有無・程度等

② 債権者側の事情

  債権者の属性

  債権の内容

  実損の有無・程度

  債権者がどの程度破産者の経済的信用について調査

  したか。

  免責についての意見等

③ 社会政策的観点や公共的観点から考慮すべき事情

  破産者の免責以外の救済措置の有無・内容

  債権者に対する経済的支援策の有無・内容等 

 

5 裁判所は、破産管財人(破産管財事件の場合)及び債権者が免責について意見を申述する期間を定めます(破産法251条)。

免責不許可事由

 

免責不許可事由は、破産法252条1項が定める次の事由であある。

【1号】 

 財産の隠匿、損壊、廉価売却又は贈与等の不利益処分に限らず、債権者を害する目的をもって行う破産財団の価値を不当に減少させる行為全般が対象となる。

 文献⑤に掲載された、結論免責不許可となった実例

・ 数百万円の預金を破産手続開始決定直前に引き出して費消したり、開始決定後に宝石の一部を売却し、いずれも、回収不能になったが、出金した預金の使途を説明しなかったり、宝石の一部売却についても説明しなかった。(文献⑤ⅰp13番号1)

 

【2号】 

【3号】 

 破産者が、担保を提供する特約がないにもかかわらず担保を供与したり、弁済期前に弁済を行ったりする場合等がこれに当たる。

【4号】

  文献⑤に掲載された、結論免責不許可となった実例

・ 破産申立て前9年間に、勤務先からお金を横領し(そのこ後解雇され、詐欺罪で実刑判決を受けた。)、ギャンブル、高級時計の購入等で少なくとも5300万円を費消(文献⑤ⅰp15番号20)

・ 風俗店を連日利用し、1億円以上の負債をつくる。(文献⑤ⅰp15番号21) 

【5号】 

① 破産者がお金を借り入れる際、債権者に対し、負債金額や収入金額等について虚偽の事実を申告した場合は、5号の事由に当たる。

② 破産者がお金を借り入れる際、債権者に対し、支払不能状態であることを秘して借り入れたような消極的な態度によって、債権者を誤信させた場合が5号の事由に当たるか。

 裁判例は肯定例もあり否定例もある。

③ 会社代表者が会社の借入れについて保証人となる際、代表者自身の負債金額や収入金額について虚偽の事実を申告した場合は、5号の事由に当たらない。

← 代表者自身が財産を取得しないため。

④ 5号の事由に当たる行為がある場合でも、詐術の程度が軽微であったり、債権者において十分な信用調査を怠った等債権者側に重大な過失がある場合には、裁量免責の余地はある。

 

 文献⑤に掲載された、結論免責不許可となった実例

・ 支払不能後、融資を受ける等によって返済が可能である等と架空の話をし、2271万円を借り入れた(当該借入れは総負債の1/3に当たる)。文献⑤ⅰp19番号48

 

【6号】 

【7号】

文献⑤に掲載された、結論免責不許可となった実例

・ インターネットを通じて受注した商品の引渡義務を負う債権者100名以上を債権者一覧表から除外した(破産者は、当該負債については、破産手続とは別の解決を図るつもりであったという。)(文献⑤ⅰp20番号52) 

【8号】 

【9号】 

【10号】 

【11号】破産法第40条第1項第1号(説明義務)、第41条(重要財産開示義務)又は第250条第2項に規定する義務(免責に関する裁判所・破産管財人の調査への協力する義務)その他この法律(破産法)に定める義務に違反したこと。

文献⑤に掲載された、結論免責不許可となった実例

・ 正当な理由がないにもかかわらず、債権者集会に欠席した。(文献⑤ⅰp20~21番号54等)

 

 平成16年成立の破産法(現行破産法)では、それまでの、期日における免責審尋(必要的)・正当理由なく同期日に出頭しなかったときの免責申立ての却下(旧破産法366条の4第1項、366の10第1項)を廃止し、期日における免責審尋を任意的とし、また、免責申立ての却下を廃止した。

 現行破産法においても、裁判所が免責審尋期日を定めた場合(8条2項)、破産者は、期日に出頭して説明する義務を負い(250条2項、271条)、期日に正当な理由なしに欠席した場合は11号の免責不許可事由が認められる。文献⑤ⅰp9

 

・ 管財人の面談及び管財人に対する説明を拒絶し、また、無断で居所を移転し、無断で複数回海外旅行をした。(文献⑤ⅰp23番号87等)

非免責債権

 非免責債権とし、破産法253条1項に定められている、免責の対象外の債権である。この債権については、債務者について免責決定が確定しても、それによっては債務者の支払義務は消滅しません。非免責債権は次のとおりです。

① 租税等の請求権(1号)

② 破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権(2号)

③ 破産者が故意又は重過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権(②を除く)(3号)

④ 次の義務に係る請求権(4号) 

 イ 民法752条による夫婦間の協力及び扶助の義務

 ロ 民法760条による婚姻から生じる費用の分担の義務

 ハ 民法766条(同749条・771条・788条により準用する場合を含む)による    子の監護に関する義務

 二 民法877条から880条までの規定による扶養の義務

 ホ イからニまでの義務であって、契約に基づくもの(5号)

⑤ 雇用契約に基づいて生じた使用人の請求権及び使用人の預り金の返還請求権(5号)

⑥ 破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権(当該破産者について破産手続

  開始決定があったことを知っていた者の有する請求権を除く)(6号)

⑦ 罰金等の請求権(7号)

 

不貞行為の損害賠償請求権が破産法253条1項2号の非免責債権に当たらないとされた例

標記について、東京地方裁判所平成28年3月11日判決(判例タイムズ1429号234頁)を紹介します。

【事案】

平成21年8月 X(女)はA(男)と結婚した。

平成25年4月頃から、 AはY(女)と、連絡先を交換し食事に出かける等して親しくなった。

平成25年12月末当時 XA夫婦間には、2人の未成熟子がおり、また、Xは、3人目となるAの子を妊娠していた。

平成25年12月中旬 YとAは、箱根で肉体関係を持ち不貞行為を有するに至る。

その後  YとAとの不定関係は継続るす。その間、Yは、XA間の子と会ったこともあったが、Xが妊娠していることは知らなかった。

平成26年8月  Xは、YA間の不貞行為に気づき、Yに対し、手紙を送りたいので、住所を教えて欲しいと連絡したか、Yは、これを拒絶し、誠実に対応となかった。

その後 YXY間で示談が成立したが、YはXに対しごく一部の支払いしかできなかった。結局、Yは、ほかの債務とあわせて、自己破産を申し立てた。

平成27年7月7日午後5時 Yは、破産同時廃止決定を受けた。

平成27年9月16日 Yは免責許可決定を受けて、その後、同決定は確定した。

その後 XはYに対し550万円(慰謝料500万円、弁護士費用50万円)及び損害金の支払いを求めて提訴し、YはAとの不貞行為は争わなかったが、免責決定により支払義務が消滅したと主張し、Xは本件損害賠償請求は、破産法253条1項2号の非免責債権に当たると反論した。

【裁判所の判断】

結論:本件損害賠償請求権は、上記の非免責債権に当たらないし判断し、Yの免責を認める。

理由

 破産法253条1項2号は、「破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権」は非免責債権である旨規定するところ、同項3号が「破産者が故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権(前号に掲げる請求権を除く。)と規定していることや破産法が非免責債権を設けた趣旨及び目的に照らすと、そこでいう「悪意」とは故意を超えた積極的な害意をいうものと解するのが相当である。

 YのAとの不貞行為の態様及び不貞行為発覚後直後のXに対する対応など、本件に顕れた一切の事情に鑑みると、Yの不法行為はその違法性の程度が低いとは到底いえない。しかし、Aの行為をも考慮すると、Yが一方的にAを籠絡してXの家庭の平穏を侵害する意図があったとまで認定できず、Xに対する積極的な害意があったということはできない。

【コメント】

① 破産法253条1項2号の「悪意」の解釈については、旧破産法解釈の通説を採用したものといえ、実務でもこの見解が一般的である。

 旧破産法の解釈としては「故意によるもの」も含むとする解釈が有力であったが、新たな非免責債権の類型として3号を設けたことからも、2号については積極的害意を意味すると解すべき(伊藤眞「破産法・民事再生法」544頁(有斐閣・2007年))。

② 不貞行為による損害賠償請求権が非免責債権に当たらないとされたことは、事案に即して考えるべきであり、一般化はできない。

交通事故の損害賠償請求権が、加害者に故意又は重過失が認められず、破産法253条1項3号の非免責債権に当たらないとされた例

【事案】

 Yは、平成17年12月2日、丙が運転する普通自動二輪車(任意保険・共済は付けられていない)に同乗していたが、丙は、無免許かつ飲酒運転の上、交差点で赤信号を無視して進入し、甲運転の普通自動二輪車に衝突した。その結果、甲は、高次脳機能障害等の後遺障害が残存し、自賠責保険の後遺障害認定手続で併合8級の認定を受けた。

 事故前、甲はXとの間で、無共済車傷害条項付のマイカー共済契約を締結していた。平成20年5月30日、甲・X・Y間で、X・Yが甲に対し損害賠償金として6250万円を連帯して支払う旨の訴訟上の和解が成立し、同年6月、Xは甲に対し上記金額相当の共済金を支払った。

平成23年5月18日 Yは東京地方裁判所に破産手続開始・免責許可を申し立てた。その後、同裁判所は、Yについて、破産手続を開始した。

平成23年7月27日 Yは、免責許可決定を受け、その後、免責決定は確定した。

平成23年春 Xは保険代位により甲のYに対する損害賠償請求権(民法709条、自動車損害賠償保障法3条)を取得したと主張し、Yに対し、支払い済みの6250万円及び損害金の支払いを求めて東京地方裁判所に提訴した。同訴訟において、加害者Yに対する損害賠償請求権が破産法253条1項3号の「破産者が故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権(前号に掲げる請求権を除く。)」の非免責債権に当たるか否かが争われた。

【東京地方裁判所平成24年5月23日判決(D1-Law.com判例ID28212100)の判断】

結論:非免責債権に当たらない。Xの請求を棄却した。

理由

① 本件事故の原因は信号無視であり、飲酒運転及び無免許運転は(直接の~原因ではない。

② Yは、丙が運転するのが危険なほど酒に酔っていると認識していたと認めるのは困難であり、また、丙に運転免許がないと認識していたと認めることもできない。

③ 丙が信号無視等をし、パトカーに追跡されて停止を求められたことから、Yは丙に対し、停止するよう繰り返し求め、丙による危険な運転を制止するよう努めた。

以上より、Yに、本件事故の発生に関する不法行為上の故意又は重過失を認めることはできず、破産法253条1項2号の非免責債権に該当しない。

破産手続終了後における、非免責債権に基づく強制執行

【問題点】

 破産債権が破産債権者表に記載され(破産法115条1項・124条2項)、破産債権者は、確定した破産債権について、破産者に対し、破産債権者表の記載により強制執行することができる(破産法221条)。破産者が個人であり免責許可の申立てがされている場合、免責許可についての裁判が確定するまでの間は破産債権に基づく強制執行はできず(破産法249条1項)、その後、免責決定が確定すると、非免責債権を除き免責される。それでは、非免責債権について、破産債権者は、破産債権者表に基づき強制執行できるか、そのために執行文付与の訴えを提起できるのであろうか。

 この点について、最高裁判所(第一小法廷)平成26年4月24日判決は、執行文付与の訴えについては否定的に解したが、強制執行の余地は認めている。

【裁判所の見解】

① 執行文付与の訴え(民事執行法33条1項)は、規定の文言に照らすと、…(中略)… 破産債権者表に記載された確定した破産債権が非免責債権に該当するか否かを審理することを予定していないものと解される。

② 破産事件の記録の存する裁判所書記官は、破産債権者表に免責許可の決定が確定した旨の記載(破産法253条3項)がされている場合であっても、破産債権が破産債権者表の記載内容等から非免責債権に該当すると認められるときには、単純執行文を付与することができるので(民事執行法26条)、当該債権者に殊更支障が生じることはない。

【コメント】

① 裁判所書記官が執行文付与を拒絶した場合、不服ある債権者は、執行文付与拒絶に対する異議申立て(民事執行法32条1項)をすることができる。

② 執行文の付与を受けることができない場合、債権者は、別途、訴訟(例えば、損害賠償請求訴訟)を提起して、その訴訟の中で、本件債権が非免責債権であることを主張立証することになる。

【参考・参照・引用文献】

ジュリスト最高裁時の判例(元最高裁判所調査官成田晋司、1482号75頁)、判例タイムズ1402号61頁

破産免責の実例

 【参考・参照文献】

 下記文献を参考・参照して作成しました。

① 森純子ほか編・はい6民です お答えします(倒産実務Q&A)(2015年 大阪弁護士協同組合)368頁

② 川畑正文ほか編「はい6民です お答えします 倒産実務Q&A」(2018年、大阪弁護士協同組合)p424

③ 川畑正文ほか編・(第3版)破産管財手続の運用と書式(2020年、新日本法規)338頁

④ 全国倒産処理弁護士ネットワーク編・破産実務Q&A220問(2019年、金融財政事情研究会)464頁

⑤  下記判例タイムズに掲載された免責に関する実例の紹介等

ⅰ 原雅基・東京地裁破産再生部における近事の免責に関する判断の実情 判例タイムズ1324号4頁 

 ⅱ  平井直也・東京地裁破産再生部における近時の免責に関する判断の実情(続)・判例タイムズ1403号5頁

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