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相続 単純承認

民法5編 相続
第4章 相続の承認及び放棄
第2節 相続の承認
第1款 単純承認

〇 民法920条(単純承認の効力)

 相続人は、単純承認をしたときは、無限に被相続人の権利義務を承継する。

 

1 相続の形態のうち「無限に」被相続人の権利義務を承継するのが単純承認である。限定承認及び相続放棄と異なり、方式は不要である。逆に、一定の行為をすると、法は、単純承認したとみなす(民法921条の法定単純承認)。

2 単純承認を意思表示の効果と考えるか、法定効果(法律が定めた効果)と考えるか理論的な対立があるが、前者が判例・多数説とされている。

① 単純承認するという積極的な意思表示があるケースはそれ程多くないが相続するという抽象的な意思表示は観念できる。② 法定単純承認とされる場合を余りに広げすぎない配慮が現実に必要でありそのために意思表示を基礎に据えた方がよいことから、意思表示の効果と考える見解に与したい。

3 「無限に」とは、相続によって得た積極財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済する限定承認とは異なり、無条件に、積極財産(預金・不動産・株式・自動車等のプラスの財産)も消極財産(借金・クレジット等のマイナスの財産)も承継するという意味である。よって、積極財産が100万円あったものの消極財産が200万円ある債務超過の事案では、債務超過の▲100万円を、相続人は自分の固有の財産の中から返済しなければならない。相続は、(相続放棄をしないで、それを選択したならば)資産承継というよいイメージがあるが、相続した以上被相続人の債務は自分の責任で支払わなければならないという苛酷な面もあることを忘れてはならない。

4 単純承認の意思表示に瑕疵があった場合には、無効・取消しの対象となる。

〇 民法921条(法定単純承認)

 次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。

一 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。

 ただし、保存行為及び第602条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。

二 相続人が第915条第1項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。

三 相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。

 ただし、その相続人が相続の放棄したことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りではない。

 

1 趣旨

 本条は、記載の行為があれば、単純承認の意思表示がなくても、単純承認と擬制するものである。

 単純承認をしたと評価するにふさわしい実質的価値を有する行為を定型化し、同条各号に該当する行為に対して、法が単純承認をしたのと同じ効果を与えたものである。(潮見102頁)

 「行為者の行為態様」と「第三者の信頼保護」の両面から、相続の効果を当該行為者に帰属させることの当否を判断すべき(921条の目的論的縮減)(潮見103頁)

 上記第三者の信頼保護とは、相続人のそのような行為があれば相続されるであろうとの信頼をいうものと思われる。

2 処分(1号)

 本来、かかる行為は相続人が単純承認をしない限りしてはならないところであるから、これにより黙示の単純承認があるものと推認しうるのみならず、第三者から見ても単純承認があったと信ずるのが当然であると認められることにある。(最判昭和42年4月27日)

 

(1)「処分」の意義・時期

① 処分とは、相続財産の売却等の法律行為のほか、相続財産の毀損等の事実行為を含む。

潮見【CASE87】債権取立・受領

潮見【CASE88】毀損

潮見【CASE89】相殺

② 処分の時期は、限定承認又は相続放棄前である(大審院判例)。

  相続人が限定承認・相続放棄をした場合には、その時点で限定承認・相続放棄が確定するので、その後の処分について単純承認をしたものと擬製する余地がないからである(潮見106頁)。

③ 被相続人の死亡により相続が開始された事実を知らないで相続財産を処分しても「処分」には当たらず、単純承認は擬制されない。

「処分」は、単純承認があったと擬制するにふさわしいものでなければならない(潮見105頁)。

 潮見【CASE92】【CASE93】【CASE94】

<最高裁昭和41年12月22日>

[事案]

昭和34年7月30日

被相続人(左官業を営んでいた)が家出をし、以後行方不明となる。

昭和34年8月17日

被相続人の子(Y)は、左官業を目的とする会社を設立し、同社が被相続人の道具等を無償で使用することを許可する。

昭和34年12月7日

被相続人が山中で白骨死体で発見される。この時、被相続人の子(Y)は、初めて、被相続人が死亡したことを知った。被相続人は同年7月30日頃死亡したと推定された。

昭和35年2月

上記被相続人の子(Y)その他の相続人が家庭裁判所に相続放棄の申述をする。

昭和35年3月10日

家庭裁判所が相続放棄の申述を受理する。

その後

 上記被相続人の子(Y)の行為について、

 被相続人の債権者(X)は客観的にみて処分があればよく、よって、相続人において被相続人が死亡し自己のために相続が開始されたことを知って処分したことは必要ないと主張し、これに対し、

 被相続人の子(Y)は、「処分」といえるためには、相続人において被相続人が死亡し自己のために相続が開始されたことを知って処分したことが必要であると主張した。

[裁判所の判断]

[1]「処分」(民法921条1号本文)を法定単純承認事由とした趣旨

 本来、かかる行為は相続人が単純承認をしない限りしてはならないところであるから、これより黙示の単純承認があるものと推認しうるのみならず、第三者から見ても単純承認があったと信ずるのが当然であると認められることにある。

[2]解釈部分

 たとえ相続人が相続財産を処分したとしても、いまだ相続開始の事実を知らなかったときは、相続人に単純承認の意思があったものと認めるに由ないから、「処分」に当たるとして単純承認を擬制することは許されない。「処分」に当たるとして単純承認が擬制されるためには、相続人が自己のために相続が開始した事実を知りながら相続財産を処分したか、または、少なくとも相続人が被相続人の死亡した事実を確実に予想しながらあえてその処分をしたことを要するものと解しなければならない。

[3]事案への適用

 被相続人が昭和34年12月7日に死体となって発見される時より前に、Yが被相続人の死亡を確実に予期していたものと認められない。

 被相続人の行方不明中、被相続人の所有財産の一部である判示動産を処分したとしても、「処分」に当たり単純承認が擬制されないとした原審の見解は正当である。

(2)葬儀費用

 葬儀費用は、相続財産の中から支出した場合、形式的には、「処分」に当たるといわざるを得ないことは否定できない。

 しかし、葬儀の果たす意義から、相続財産から支出した費用が社会的にみて不相当に高額でない限り、「処分」に当たらないとする傾向にある。

<大阪高裁平成14年7月3日決定>

[事案]

平成10年4月27日

被相続人Aが死亡した。Xら(抗告人)は、葬儀を執り行った。また、香典144万円を受領した。

平成10年5月27日

Xらは、A名義の郵便貯金302万円余りを解約した。Xらは、解約により払戻しを受けた金員から葬儀費用等約237万円を支出した。

平成10年6月頃

Xらは、Aの仏壇を約93万円で購入し、墓石を約127万円で購入した。これらの費用は、香典及び郵便貯金解約により払戻しを受けた金員をもって充て、不足する分約46万円はXらが負担した。

平成13年10月

Y(信用保証協会)は、Aが原債権者である信用金庫に対し負っていた保証債務を代位弁済により取得した上、A宛てに支払請求する旨通知した。

平成13年11月27日

Xらは、京都家庭裁判所に対し相続放棄を申述した。

平成14年3月

京都家庭裁判所は、相続財産から葬儀費用を支出したことは「処分」に当たらないが、葬儀後に相続財産から高額な墓石を購入することは「処分」に当たると判断した上、上記相続申述を却下した。

[裁判所の判断]

1 葬儀費用

 葬儀は、人生最後の儀式として執り行われるものであり、社会的儀式として必要性が高いものである。そして、その時期を想定することは困難であり、葬儀を執り行うためには、必ず相当額の支出を伴うのである。これらの点からすれば、被相続人に相続財産があるときは、それをもって被相続人の葬儀費用に充当しても社会的見地から不当なものとはいえない

 また、相続財産があるにもかかわらず、これを使用することが許されず、相続人らに資力がないため被相続人の葬儀を執り行うことができないとすれば、むしろ非常識な結果といわざるを得ないものである。

 したがって、相続財産から葬儀費用を支出する行為は、「処分」(民法921条1号)に当たらない。

2 仏壇・墓石

 葬儀の後に仏壇や墓石を購入することは、葬儀費用を支出することは、葬儀費用の支出とはやや趣を異にする面があるが、一家の中心である夫ないし父親が死亡した場合に、その家に仏壇がなければこれを購入して死者をまつり、墓地があっても墓石がない場合にこれを建立して死者を弔うことはも我が国の通常の慣例であり、預貯金等の被相続人の財産が残された場合で、相続債務があることが分からない場合に、遺族がこれを利用することも自然な行動である。そして、抗告人らが購入した仏壇及び墓石は、いずれも社会的にみて不相当に高額のものとも断定できない上、抗告人らが香典及び本件貯金からこれらの購入費用を支出したが不足したため、一部は自己負担したものである。

 これらの事実に、葬儀費用に関して述べたところと併せ考えると、抗告人らが本件貯金を解約し、その一部を仏壇及び墓石の購入の一部に充てた行為が、明白に「処分」に当たるとは断定できない

[評釈等]

本決定は、京都家庭裁判所の相続放棄申述受理却下審判に対する抗告審としての判断であり、相続財産をもってする本件仏壇及び墓石の購入が「処分」に当たらないとまで認定していない。相続放棄の効力が民事訴訟において争われた場合(=Aの債権者が争った場合)、不相当に高額で「処分」に当たると認定される可能性もある。相続放棄申述受理の審判において明白に要件を欠くと断定できない限り受理すべきとの方針を確認した意義を有する。(雨宮ほか161頁)。

(3)財産価値のないもの

 「処分」に当たるか否かは、対象の相続財産の価値も考慮される。この点について、相続人が使用人に対し、被相続人の着古した衣類を付与した場合、「処分」に該当しないとした裁判例がある。形見分けであるという理由だけで「処分」に該当しないというわけではないので、注意が必要である。

<東京高決昭和37年7月19日>

[事案]

ボロの上着1着とズボン1着を元使用人に与えた行為が、法定単純承認事由の「処分」に当たるか否かが争われた。

[裁判所の判断]

 対象物は、既に交換価値を失う程度に着古したものであり、経済的価値は皆無といえないとして、いわゆる一般的経済価値あるものの処分とはいえない。単純承認とみなされるという効果を与えるに足りない

→ 法定単純承認事由の「処分」に当たらない。

<山口地裁徳山支部昭和40年5月13日判決>

[事案]

 不動産、商品、衣類等が相当多額にあった被相続人の内より、僅かに形見の趣旨で背広上下、冬オーバー及びスプリングコートを持ち帰り、時計及び椅子2脚(1脚は足がおれているもの)を受領したことが、法定単純承認事由の「処分」に当たるか否かが争われた。

[裁判所の判断]

 対象物が相続財産のうち僅かであること等を考慮して、法定単純承認事由の「処分」に当たらないとした。

[コメント]

 上記「僅かに」の意味は、対象物が全相続財産のうちに占める割合を指すが、対象物件は交換価値はあると思われるので、一般化することはできず、慎重な対応が望まれる。

(4)権利行使と法定単純承認

 相続財産が、相続財産である債権の債務者に対し、支払いを請求することは、時効中断の意味を有することから相続財産の管理に当たるといえるので、その行為だけでは、法定単純承認事由の「処分」に該当しないと思われる。

 しかし、相続財産に当たる債権を取り立てたり回収することは、もはや管理行為を超え、法定単純承認事由の「処分」に該当する。

<最高裁昭和37年6月21日判決>

[事案]

 被相続人は呉服商の行商をしていたが、借財のあることが知られると、家出をし、その後自殺した(昭和32年7月~8月)。

 相続人は、被相続人が有していた売掛金を回収し、その後、相続放棄をした。

 家庭裁判所は上記相続放棄申述を受理したが、後ほど、相続放棄が有効か否かが争われた。

[裁判所の判断]

 本件相続人の行為は、民法921条1号の相続財産の一部を処分した場合に該当する。

 

(5)保存行為・短期賃貸借の例外

潮見【CASE96】保存行為

3 相続人が、熟慮期間内に限定承認も相続放棄もしなかったこと(2号)

4 選択後の背信行為(3号)

(1)相続財産の全部若しくは一部を隠匿

「隠匿」の意義(中川・泉397頁)

 容易にその財産の存在を他人が認識しえないようにする行為

故意(債権者の追及を免れるため)に基づく行為であることを要する。単なる遺亡はこれに当たらない。

潮見【CASE97】

(2)私にこれを消費し

「私に」の意義(中川・泉397頁)

 隠避という意味ではなく、ほしいままに又は濫りにという意味

 処分=消費+□□、消費は常に処分に当たる。

(3)適用関係

① 問題となる行為の時期

ⅰ 限定承認又は相続放棄前

  921条1号該当性の問題

ⅱ 限定承認又は相続放棄

  921条3号該当性の問題

② 相続放棄後、相続財産をやむを得ず処分した場合

ⅰ 売買価格が正当であり、相続財産の組み入れられた場合

  相続放棄は無効とならない。

ⅱ 投げ売り、代金をごまかして領得

  私に消費、隠匿に当たり得る。

(3)悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかった

  

【参考・参照文献】

 下記文献を参考・参照して作成しました。

□① 松原正明・全訂判例先例相続法Ⅲ(平成20年、日本加除出版) 略称:松原

□② 雨宮則夫・石田敏明・近藤ルミ子編・相続における承認・放棄の実務Q&Aと事例(平成25年、新日本法規出版)

略称:雨宮ほか

□③ 前田陽一・本山敦・浦野由紀子・民法Ⅳ親族・相続(第5版)(2019年、有斐閣)259頁 略称:前田ほか

□④ 中川善之助・泉久雄・相続法(第4版)(法律学全集)(平成12年、有斐閣)381頁 略称:中川・泉

□ 潮見佳男詳解相続法第2版(令和4年)102頁 略称:潮見

 

 

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